新しい高校生物の教科書

栃内新、左巻健男編、講談社ブルーバックス、2006年、430頁、1,200円

いわゆる検定外教科書ですね。検定といえば歴史教科書が話題になることが多いのですが、実際には、検定意見が一番多くつくのは生物の教科書だそうです。生物の場合、高校レベルで基礎となるような事項でさえも研究の進展と共に変わっていってしまいます。そのような速い変化に検定制度というシステムがついて行けない、ということでしょう。そのような検定という枠にとらわれない場合に、どのような教科書を書くかは、著者の力量が問われるところでしょうが、この本の場合、部分的には成功している、というところでしょうか。14人の著者の分担執筆となっているせいか、章によってそのスタイルもだいぶ違います。従来の教科書のスタイルを踏襲した部分から、かなり読み物的な部分まで、様々です。動物の発生や植物の生殖の部分というのは、基本的には旧来の教科書的な記述になっていますが、これは、基本事項を押さえようと思うと、誰が書いてもつまらなくなる、ということかも知れません。全体としては、タンパク質や酵素に関する記述が少なく、一方で、ヒトや医療の記述が多い印象を受けます。ヒトに絡んだ話題の方が読者の興味をそそる、 ということかも知れませんが、やはり話題で興味をひくのではなく、語り口で面白みを伝える、という方向に努力をして欲しかったところです。

書き下ろし 2006年7月