ミトコンドリア・ミステリー
林純一著、講談社ブルーバックス、2002年、297頁、1,040円
パラサイト・イブ以降、この書評欄にも書いた黒岩先生の本も含めて一般向けのミトコンドリアの本は何冊か書かれていますが、この本もなかなかの力作です。導入の部分はややもたついた印象を与えますが、第4章以降、海外の研究グループなどと競争しながら研究を進めていく様子は、臨場感にあふれていて引き込まれます。また、研究を進めるにあたって、人間を研究対象とした場合の倫理的な面などについてもきちんと触れられている点もいいですね。研究の現場の様子を描いた本としては一級だと思いますが、ミトコンドリア自体の魅力はまだ描ききれていないような気もします。後書きによると、これは著者の最初の一般向けの本として学位取得後の研究を総括する「学位論文」として書かれたとのことです。学位論文としては十分合格でしょう。あとは、最初の3章のミトコンドリアの紹介の部分を、いわば「投稿論文」として、ミトコンドリア自体の魅力を語る本にして欲しいと思います。