DNA(上・下)
J.D. ワトソン、A. ベリー著、青木薫訳、講談社ブルーバックス、2005年、計693頁、計2,340円
言わずと知れたノーベル賞学者が、サイエンスライターと組んで、二重らせん構造の解明の経緯から、ゲノム計画を中心人物として推進する経緯、遺伝病や遺伝子組換え作物などについて一人称で書いた本です。取材はサイエンスライターが行なったのでしょうか、主な登場人物についてはアメリカ以外の人の場合も、その生い立ちなどを紹介しながら話が進むので、物語に厚みがでます。もちろん、二重らせん構造の解明の歴史については、臨場感あふれる記述が続きます。構造解明からの50年間の歩みをつづる前には遺伝学の出発点としてメンデルなどの歴史的実験が紹介されます。そして、遺伝学の汚点「優生学」の歴史や、DNAが特許になり始めて生じた様々な弊害など、科学の負の側面にもきちんと目を向けていることに感心します。もっとも、特許になるならないは科学ではなくて社会の問題でしょうけれども。分子生物学の黎明期に、クリックなどの物理学者がシュレーディンガーの「生命とは何か」を読んで生命の神秘の研究に引き込まれていく様子も描かれていますが、今の生物学において他の分野の人を引き込む魅力を持った分野は何か、と思わず考えさせられました。