生物から見た世界

ユクスキュル著、岩波文庫、2005年、166頁、660円

本書は1933年に執筆されたもので70年以上前の著作であるが、生物の周りの環境というものを客観的に測定可能な「事実」としてではなく、生物の視点によって変化する主観的世界(環世界)として扱うことを提案しており、その概念自体は、考えてみれば当たり前のことながら、新しいものの見方を提供していると言えよう。もともと動物生理が専門の著者が、様々な動物の行動を例に取りながら環世界の存在を論証していく様子は、なかなか説得力がある。一方で、そのようなものの見方をした時に、今までのものの見方では出てこなかったどのような新しい概念、もしくは新しい推論・結論が得られるか、という点になると、はなはだ心許ない。ここで紹介される概念は、自然科学の方法論ではなく、哲学的な思索である、ということだろう。著者は科学者としては不遇であったようだが、そのような自然科学よりは哲学を志向する傾向がそのキャリアーに影響したのかも知れないと思う。新しい概念を提出しようという姿勢は「環世界」を含む様々な新しい言葉を定義することにつながる。一部の哲学書に見られるそのような点も、哲学的な雰囲気を強めている。 おそらく人によって好き嫌いが分かれる本ではないかと思う。

書き下ろし 2006年2月