生命 最初の30億年 地球に刻まれた進化の足跡

アンドルー・H・ノール著、紀伊國屋書店、2005年、390頁、2,800円

本書では、生命の起源からカンブリア紀における動物の急速な進化までが、著者の経験を交えながら解説される。対象読者は大学以降ぐらいであろうか。基礎的な代謝や分子生物学の知識が前提となっている。地球上の生命の起源と進化を考えるにあたっては、古生物学、現在の(?)生物学、地球化学の3つの分野の知識が必要であり、これが生命の起源に関する本をバランスの悪いものにしがちである。しかし、本書では、著名な古生物学者である著者が、生物学、地球化学の分野についても極めて丁寧かつ正確に解説をしており、その幅広い知識には敬服させられた。議論が分かれる点に関しては、著者の評価がはっきりしているところでも断定的な表現は避けられ、これが若干曖昧な印象を与える一方で、記述を信頼性のあるものにしている。この信頼感が、バランスの取れた語り口と共に本書を第一級の解説書にしている。各章は、著者のフィールドワークの様子から説き起こされ、研究の発展に生き生きとした臨場感を与えている。一つ一つの地球に刻まれた証拠から、生命の進化の様子を解読していく様子は、科学の醍醐味を伝えてくれる。最後の章は、 著者がNASAのプロジェクトに関与していることもあって、火星を中心とした宇宙生物学の展望にあてられ、本書全体に夢を与えている。索引、参考文献もきちんとしており、生命の起源と進化に興味がある読者には是非お薦めの一冊である。

生物科学ニュース 2005年12月号(No. 408) p.6