基礎と実習 バイオインフォマティクス
郷通子・高橋健一編、共立出版、2004年、220頁、3,900円
本書は、バイオインフォマティクスの入門書であるが、バイオインフォマティクスという学問分野の問題点がそのまま現れているというのが率直な印象である。以下、若干長くなるが、その具体的な印象を述べる。
[教え手の問題]:バイオインフォマティクスは文字通りバイオとインフォマティクスの融合分野であるが、現状ではその教え手、教科書の書き手はインフォマティクスの専門家が中心で、生物の理解が不十分な場合がままある。本書でも、「リボソームがDNAに結合するためのプロモーター領域」「転写が終了してリボソームがDNAから解離する」などという記述があり、著者はリボソームによって転写が起こると信じているらしい。
[対象読者の問題]:境界領域の学問の教科書は、どのような読者を想定するかが難しい。本書の全体の内容からすると最低限の生物の知識が前提となっているが、一方で電磁気学のポアソン方程式の知識を前提としている章もあり、一体どのような読者を想定しているのか理解に苦しむ。
[手段と目的の問題]:バイオインフォマティクスは今や生物学研究の一つの「手段」として、ほとんど全ての生物学者にとってレベルは別として必須の知識であるが、一方で、バイオインフォマティクスの研究自体を「目的」とする研究者も当然存在する。自分の研究成果をデータベースとして公開するなどという行為は、その中間に入るだろう。本書では、どこまで達成することが目標なのかが中途半端である。「手段」だけが目的ならば、多くのプログラムが今やウェブベースで提供されており、ウェブのアドレスリストと、それらのサービスの比較、原理の解説、必要に応じてパラメータの設定の仕方などがわかれば充分であろう。本書では、perlでのプログラミングやMySQLでのデータベース操作まで紹介されており、大量のデータ解析と公開までを目標として頭に置いているようだが、限られたスペースの中での短い記述では、とても達成できる目標ではない。
[計算機環境の問題]:本書ではUnix環境の構築が前提となっており、Windowsパソコンしか持たない評者は、書評を引き受けたからにはと本書の指示に従ってCygwinという一種のUnixのエミュレーターを導入して実習部分を行なった。ところが、実習の中で紹介されるソフトウェアは、調べてみるとその多くでWindows対応のバイナリファイルを入手可能で、ほとんどの作業はperlやMySQLも含めて、Windows上か、その中のコマンドプロンプトで行なうことができた。たとえその学問分野の中ではUnixが幅をきかしているにしても、Unixが使えないとバイオインフォマティクスができないような印象を与えることは、その分野に対する敷居を高くすることになり、決して分野の発展にプラスにはならないと思うのだが。