電子と生命 新しいバイオエナジェティックスの展開
垣谷俊昭・三室守編、共立出版、2000年、180頁、3,600円
バイオエナジェティックス、特に光合成は、量子力学などの物理的なものの見方が大きな意味を持つ数少ない生物学の分野であろう。本書はそのような分野の最先端の展開を、生物を研究対象にしている物理の研究者と、生命現象の物理的な側面に興味を持った生物の研究者が、共同して紹介する形になっている。光合成のアンテナ系に関する第1章、電子伝達に関する第2章、光合成および呼吸系における電子移動とプロトン移動の共役に関する第3章は、いずれも簡潔な文章で要点を押さえている。本書の理解に当たっては最低限、入門程度の生物物理の知識を持っていることが必要かも知れないが、これは致し方ないのであろう。いくつかの言葉に関しては用語解説がなされているが、これがもっと充実していればと惜しまれる。せっかく第一線の物理と生物の研究者が執筆しているのだから、むしろ、励起エネルギー移動なら励起エネルギー移動という同じテーマについて、その理論的な紹介を物理の研究者が行ない、その理論の生物学的な意味づけを生物の研究者が(物理の用語を用いずに)行なったら、面白かったのではないかと思う。 第4章は一転してバイオテクノロジーへの応用例があげられているが、これは本書の全体の流れからするとおまけといったところであろうか。個人的には第1章の中の、光合成細菌のアンテナ系の研究がForsterの理論に代わる新しい物理理論の構築につながった経緯を興味深く読んだ。