植物は何を見ているか

古谷雅樹著、岩波ジュニア新書、2002年、207頁、780円

フィトクロームの研究に携わってきた著者が、自分の研究室や、その他の国内外の研究室で行なわれてきた研究の流れを紹介した本である。文章自体は平易であるが、内容はかなり高度で専門用語が注釈なしで用いられるため、ジュニア新書の本来の想定読者である中高生にはなかなか難しいかと思われる。対象は大学生か、むしろ大学院生レベルかも知れない。著者の研究にかける情熱が各所に現れている上に、フィトクロームの研究が完結したものではなく、これからさらに研究を進めるべきポイントが数多く残っていると強調していることもあり、フィトクローム研究に関する極めて優れた啓蒙書であるといえる。初期の研究の紹介の中で、今やなつかしい様々な分光測定技術が紹介されているが、このような測定機器の改良や作製によって研究を進めることができる人材が生物学の分野からは消えようとしていることが、あらためて寂しく感じられた。その他、そこここに研究に関係した人物の写真が載っていて、フィトクローム研究の人脈がうかがわれるのも個人的には興味をひいた。

書き下ろし 2003年8月