植物の膜輸送システム -ポンプ・トランスポーター・チャネル研究の新展開ー
加藤潔、島崎研一郎、前島正義、三村徹郎、秀潤社、2003年、計240頁、3,800円
生物はたとえ単細胞であっても外界との物質のやりとりは生存にとって必須であるし、ましてや高等植物であれば、細胞間、器官間でさまざまな物質を輸送しなければならない。本書はそのような膜輸送に関わるポンプなどを幅広く取り上げた総説集である。第1章で無機イオンのポンプやトランスポーターなどが8節に分けて個別に解説され、第2章で転流とABCトランスポーターなどが取り上げられる。第3章では主に水の動きと気孔開閉が取り上げられ、最後の第4章で、理論的側面、実験手法、機能構造相関が解説されている。通して読むと、基本的に植物でのトランスポーター研究は、酵母や動物細胞での知見にゲノム情報を組み合わせて進められていることがわかる。個々のトランスポーターなどの研究は、酵母や動物細胞で圧倒的に進んでいるらしい。このためか、ABCトランスポーターを取り上げた節で紹介されているようなトランスポーター自体から機能へ向けて展開する研究においては、なぜ植物を材料にして研究しなくてはならないのかという疑問が払拭できず、ややもどかしい思いが残った。それに対して、転流や気孔開閉、水の吸収と輸送を取り上げた節では、 著者が興味を持つ生理現象がまず出発点にあるため、自分の専門外であっても著者の興味に共感しながら読み進むことができた。全体として、極めて幅広い範囲を要点を押さえて解説されている上に、最後の付録には、阻害剤や蛍光プローブの一覧までついていて、お買い得感を高めている。専門外の人間でも植物を扱っている以上、研究室に1冊置いてもよいかな、と思わせる本である。