ミトコンドリアはどこからきたか

黒岩常祥著、NHKブックス、2000年、301頁、1,200円

すぐ前に石井先生の本を読んで、黒岩先生からも著書を頂いていて、きちんと全部読んでいなかったのを思いだしました。そこで改めて手に取ったのですが、NHKブックスということで、こちらも一般向けかと思って読み始めたらとんでもない。黒岩先生の半生が語られているといっても過言ではない、重厚な内容でした。分子進化から始まって、原核生物から真核生物へ、そして細胞内共生説と、生命の歴史が詳しく解説されています。教科書的な内容と、著者自身の研究の紹介が適度に組み合わさって、専門的ながら理系の大学生なら読めるでしょう。お忙しい中、よくこれだけのものを書く時間があったものだと感心しました。ただ、残念なのは、編集・校正作業がきちんとしていないようで、単純なミスがたくさんあり、また、用語が不統一な点(水素伝達系と電子伝達系など)、専門用語が説明なしに使われる点、図の説明が不十分な点などが見受けられます。これらは著者の責任というよりは、編集者の責任かも知れません。「水素伝達系」なる日本の高校教育界でのみ一時的に使われた用語が一部で使われていることからすると、 もしかすると当初は高校レベルまでの読者を想定していたのかも知れませんが、現在の形では大学生でも文系だと無理でしょうね。せっかくNHKブックスだったら、もう少し、一般向けに記述できれば一般の読者に生物学の面白さをアピールできたのでは、と惜しまれます。

書き下ろし 2003年3月