役に立つ植物の話
石井龍一著、岩波ジュニア新書、2000年、180頁、700円
この本は、著者の石井先生から退官前に頂いて、ぱらぱらめくってそのままになっていたのですが、それをようやくきちんと読んでみました。野生植物がどのように栽培植物になっていったかを平易に解説したもので、主な想定読者は高校生でしょうか。著者の専門であるイネに一番の重点が置かれてはいますが、コムギ、トウモロコシ、ラッカセイなど合計10種の植物が、その特長を前面に押し出して丁寧に描かれています。綿と奴隷制度の関わりや、ジャガイモの病気がアメリカのアイルランド人社会の形成のきっかけになったことなど、様々なエピソードを交えて書かれているので、興味を持って読み進むことができました。日本でもトウモロコシがよく栽培されているのを見るのに、統計上トウモロコシ生産が0だというのも初めて知りました。トウモロコシの生産高は、完熟子実についてのみ取られているのが原因だそうです。日本ではトウモロコシというのは野菜ですが、世界的には家畜の飼料である、というギャップが生み出した統計上のマジックということでしょう。最後の方に、お茶とかゴムとか、一般にあまり作物としては認識されていない栽培植物の章がありますが、 やや急ぎ足で、もう少し蘊蓄が傾けられていたらと惜しまれます。まあ、腹八分目で、もう少し欲しいな、と思ったところでやめるのがおいしい料理のこつかも知れません。