植物オルガネラの分化と多様性

西村いくこ、中野明彦、佐藤直樹監修、秀潤社、2002年、236頁、3,800円

本書は、細胞工学の別冊として出ている植物細胞工学シリーズの一冊で、「細胞内の輸送系から高次機能へ」という副題がついている。本書の特徴はオルガネラを「細胞内外で一定の機能を果たしている構造体」と非常に幅広く定義し、第1章と第3章の空胞系(液胞など)と細胞壁に全体の半分以上の紙数を割いている点である。各章を読み終わって振り返ると、この点が「多様性」をより印象づけており、編集の方針として正解であったと思う。液胞や細胞壁といった、従来は静的なイメージで捉えられがちな構造が、ダイナミックに変動していることがよく伝わってくる。液胞がただのゴミ箱ではなく、細胞壁が一度作ったら動かない壁ではないことは強調されるべきことだろう。一方で、第2章の色素体やミトコンドリアといった狭義のオルガネラに関する記述は分量も少なく、ミトコンドリアにいたっては1項目のみでそれも半分ぐらいが植物以外の記述である。もう少しバランスがとれていてもよかったかも知れない。本書の冒頭には章立てが始まるより前に「図解:植物細胞の内膜系の多様性・ダイナミクス」がおかれているが、これも空胞系の話である。 広義のオルガネラの全体像を指し示すような序章があれば、各章の内容が整理されやすくなったのではないかと思う。各章の終わりにおかれた Short Topics は、各章の内容に関連していながら目先の変わった話題を提供していて楽しめた。

生物科学ニュース 2003年3月号(No. 375) p. 6