殿様生物学の系譜
『科学朝日』編、朝日新聞社、1991年、292頁、1,100円
儲け話に直結するような応用的な学問分野は別として、基礎科学の研究は「職業」としては成り立ちにくいものがあります。ヨーロッパでも、科学は貴族や金持ちの趣味として出発しました。現代日本でも、大学や一部の研究所以外の場所で基礎科学を研究することは簡単ではありませんし、研究に高額の機器を必要とする場合が多くなってきた現状では、むしろ以前よりいわゆる「アマチュア」の参入は難しくなってきているかもしれません。そして、生物学の研究、特に分類や生態の分野は、いわば儲からない学問の典型でした。そんな中にあって、幼少時から学問をする機会を与えられ、研究に使う物品や標本の購入、あるいは調査地への旅行といったものに必要な費用を支出可能な階級の人が、生物学の担い手として存在感を持っていた時代があったのは当然でしょう。平成に入ってすぐに出版された本書は、諸侯(殿様)と公家を中心に、様々な人の生物学(江戸時代については博物学という言葉の方がしっくりくるかもしれません)への貢献を、いわば紀伝体で語ります。中には、鳥類学における黒田家のように、同じ家から複数の人が紹介されている例もありますが、他の多くの例と考え合わせると、遺伝的要因よりは環境要因の方が大きいかもしれません。研究にお金をつぎ込み過ぎて破産という例も紹介されていますから、単に華族というだけではなく、かなりの資産も必要だったのでしょう。紹介された事例の中に収集癖がある人が多いのは納得できるのですが、それだけでなく、スケッチや絵がうまい人が多いのがちょっと面白いですね。もしかしたら、これは観察眼がスケッチにも研究にも必要であることを反映しているのかもしれません。