昔から人にどう見られているかに関しては無頓着な性格でしたから、髪の形などに気を配ったことなど絶えてありません。寝ぐせは今でも日常茶飯事ですし、高校のころは、自分で髪を切っていました。新聞紙を広げてその上に立ち、上体を2つ折りにするように頭を下げてハサミでバサバサ切ります。最後に起き上がって髪先の長さをそろえるだけで、案外まとまります。流行のヘアスタイルというわけにはいきませんが、床屋代をケチっていると一目でわかる、というほどではない仕上がりだったと思います。
それだけに当時不思議だったのは、きちんと床屋に行っていそうな中高年の男性の中に、なぜかべったり頭蓋骨に張り付くような髪型をした人や、無味乾燥な五分刈りの人が多くいることです。特に前者の髪型は、下手なかつらをかぶっているようでどうにも理解できませんでした。ところが、最近自分が年をとってきてその謎に解明の光があたりました。僕の場合、髪の毛の本数については、それほど衰退の兆しがないのですが、ここ数年で髪の毛の太さは格段に細くなりました。結果として何が起きたかというと、何かを変えたわけではないのに、べったり型の髪型に近づきつつあるのです。
そこで思いついたのは、よく見られるべったり型の髪型は、なにも好き好んでやっているのではなく、髪の毛が細くなったことの必然的な帰結ではないか、という仮説です。円柱の曲げ応力の公式を調べてみると、半径の3乗に比例します。単位長さ当たりの重さは半径の2乗に比例しますから、円柱が細くなると、自分の重さによる曲がり具合は半径に反比例して大きくなるでしょう。これが、べったり型の髪型の原因なのではないでしょうか。
この髪形を避けることができないかと考えてみると、一つ手段があります。曲げのモーメントは支点から力点までの長さに比例しますから、長さを短くすれば問題は解決することになります。円柱の直径が半分になっても、円柱の長さを半分にすればべったりとならないでしょう。ここに、もう一つの五分刈りスタイルの秘密があると考えると全てにつじつまが合います。
ちなみに、うちの妻は若い時には髪が太くて常に怒髪天をついていましたが、最近細くなって人並みになりました。年と共に髪の毛が細くなるのに男女差はないのかもしれません。
2013.05.20(文:園池公毅/イラスト:立川有佳)