大学院の修士課程の学生の頃だったでしょうか、植物の名前を覚えようと一念発起しました。ただ、野山に図鑑を持って行ったとしても、全くの素人が限られた時間で植物を見分けるのは案外大変です。一番よいのは、植物に詳しい人にその場で教えてもらうことでしょうけれども、一度や二度教わっただけで覚えられるものではありません。そうすると、何度もお願いしなくてはいけませんから、それはそれで気が引けます。そこで一計を案じて、最初は雑草に焦点を絞ることにしました。
雑草でしたら、引っこ抜いても誰も文句を言われません。大学のキャンパスに生えている雑草を一、二種類ずつ毎日片端から引き抜いてきては、研究室に持ってきて図鑑と見比べます。最初のうちは慣れていないので、一つの植物を同定するためだけに、図鑑を端から端まで探さなければならない時もありました。しかし、野外ではないのでじっくり時間を取ることができますし、必要であれば複数の大型の図鑑を見比べることもできます。そのうち慣れてくると、ぱっと見てだいたい何の仲間か予想できるようになって、短い時間で植物を同定できるようになります。そうなると、今度は野山に行って植物を見ても、大体の見当がつきます。その場で、もしくは家に帰ってから図鑑で名前を確かめることができるようになりました。
そのように、自信を深めていたある日、見たことのない植物がキャンパスに生えているのを見つけました。特徴のある大型の草ですから、すぐにわかると思って図鑑を調べたのですが、どうにも見つかりません。いろいろな図鑑を当たったあげく、帰化植物図鑑の中に見つけたその草は、トウゴマ(ヒマ)でした。ひまし油の原料であり、リシンという毒性を持つタンパク質を種子に溜める植物で、あとで聞いたらば、どうも二次代謝を研究されていた先生が栽培していたものが野生化したようでした。もともと東大の農学部があったためか、そのような帰化植物が数多く見られるところでした。
帰化植物の中で僕のお気に入りだったのは、セリバヒエンソウ(芹葉飛燕草)という中国原産のものです。30 cmぐらいの背丈の小さな草で、花の長い「距」がツバメの尾を連想させる青い可憐な花を咲かせます。自宅の庭でも生やそうと何度か種を持って帰ったのですが、ついに芽を出しませんでした。帰化植物なら繁殖力が強そうですが、特定の条件が必要なのでしょうか。もし、栽培方法をご存知の方がいらっしゃったら、ぜひ教えていただければと思います。
2013.06.10(文:園池公毅/イラスト:立川有佳)