セロハンで光の色を変えて植物にあてれば、光合成が利用できる光を突き止めることができますか?
原理的にはできます。そして、模範解答として、赤と青の光はクロロフィルによく吸収されるので光合成をするが、緑の光は吸収されにくいので、光合成をあまりしない、などと説明されている場合もあります。ただし、実際にやろうと思うと案外大変です。次のようなさまざまな問題点について考える必要があります。
1.光の色によって影響を受けるのは光合成だけではありません。赤や青の光の量によって草丈や植物体の形などが大きく左右されることが分かっています(その一番極端な例が「もやし」です)。したがって、デンプンの合成や酸素の発生、あるいはBTB溶液の色の変化によって光合成を直接観察している場合はよいのですが、植物の背の高さなどで判断しようとすると、それが本当に光合成への影響によるものなのかどうかがわかりません。
2.陸上植物の場合、葉の構造(細胞の配置)をうまく使ってクロロフィルが吸収しにくい緑色の光も80%以上は吸収します。赤と青の光の吸収は90%程度ですから、その10%の差を見分けるのは通常至難の業です。
3.藻類や水草などの、水の中の光合成生物の場合は、緑色の光の透過率は陸上植物より高いので、光の色を変えた時の差は比べやすいと思います。しかし、光合成が飽和するような強い光、つまり光の吸収ではなく、例えば二酸化炭素の吸収速度が全体の光合成の速度を決めているような場合には、その光の色が赤だろうが緑だろうが差は出なくなってしまいます。実験をするためには、光の量によって光合成の速度が変わるような、弱い光を使う必要があります。
4.光の量によって光合成の速度が変わるような条件では、当然のことながら、光の量をそろえて実験をする必要があります。しかし、緑色のセロハンを通して得られた緑色の光の量と、赤いセロハンを通して得られた赤い光の量が同じである保証はありません。何らかの形で光の量を測定して同じにする必要がありますが、一般家庭では光量計は手に入りづらいのではないかと思います。
5.以上のような条件をすべてクリアしたとしても、結果をどのように定量化するか、という問題が残ります。光合成をする条件としない条件で比較をする場合、ヨウ素デンプン反応であれば、濃く染まるか、ほとんど染まらないかでしょうから、充分に見分けがつきます。しかし、光合成が3割ほど低くなったとして、その色の変化をきちんと示すことができるか、難しいかもしれません。BTBの色の変化の場合は色調の変化ですから、それを定量的に比較するのはもっと大変でしょう。高校などで分光器を持っていれば、それで吸収スペクトルを測定して定量化することはできますけれども。その意味で、オオカナダモから出る酸素の泡の数を数える場合には、比較的簡便にデータの定量化ができるでしょう。ただし、この場合、別のオオカナダモを使うと、泡の出方が違いますから、複数のオオカナダモを使って同時並行で実験をすることができません。同じオオカナダモを使って、次々色を変える必要があります。その間、オオカナダモの状態と、光の状態を一定に保つ必要がありますから、これもそれほど簡単なことではありません。
結論としては、実際にやろうとすると、光の色が光合成に与える影響を調べるのはかなり高度な実験になります。しかし、周到な準備と、ある程度の設備、そして充分な考察をすれば不可能ではないので、自由研究としては挑戦しがいのあるテーマとも言えるかもしれません。