フィコビリン系色素を加熱するなぜ退色するのか?(海苔を焼くと色が変わる理由)

生の海苔はほとんど黒に近い色をしていますが、あぶると緑色っぽくなります。これは海苔の持つ光合成色素に理由があります。海苔は紅藻という藻類の仲間で、普通の植物の持つクロロフィルの他にフィコビリンという色素を持ちます。クロロフィルはもちろん緑色をしていますが、フィコビリンは見た目が青から紫色で、緑色の光を吸収します。クロロフィルが吸収できない緑色の光も、フィコビリンが吸収してしまうため、焼く前の海苔は、ほとんど黒く見えるわけです。軽くあぶったぐらいではクロロフィルはそのまま緑色を保てるのですが、フィコビリンは熱によって色を失ってしまいます。そうすると海苔は、残ったクロロフィルの色、つまり緑色になるのです。

では、なぜフィコビリンだけが退色するのかを少し専門的になりますが見てみましょう。クロロフィルは細胞の中ではタンパク質に結合しています。この結合は配位結合というもので、条件によってクロロフィルは簡単にタンパク質から解離します。そして解離してもやはり緑色のままです。一方、フィコビリンは、フィコシアノビリンなどという発色団がフィコビリタンパク質というタンパク質に結合したものです。しかもこのフィコビリタンパク質との結合は共有結合で、この結合が色素としての性質に重要なのです。色素を結合したタンパク質は加熱すると通常のタンパク質と同様に変性が起こります。クロロフィルはタンパク質が変性した時にはタンパク質から解離しますが、フィコビリンの場合は加熱によりタンパク質自体が変性してしまうと、色素としての性質を維持できずに退色してしまうのです。

なお、ワカメの場合については「フィコビリンを持たないワカメでも湯通しすると色が変わる理由は?」をご覧下さい。