植物の葉焼けを防ぐには?

「葉焼け」と一口にいっても、人によって赤い色素がたまって葉が赤くなることをイメージする場合と、葉が白くなったり緑が薄くなる、そして最終的には茶色く枯れることをイメージする場合があるようです。前者は、ストレスを受けた時にアントシアンの仲間の赤い色素を葉に貯めることによって起こります。冬場をロゼット(地面に張り付いた葉)で過ごすような植物の場合、真冬に葉が赤くなっているのをよく目にします。また、後者のクロロフィルが分解していくような葉焼けも、基本的には環境条件が悪い場合に起こると考えられます。人の場合は紫外線で肌が焼けますが、植物の場合は、紫外線によって促進される面もあるとは言え、一般的には強すぎる可視光によって起こると考えた方が良いかと思います。ですから、サングラスをかけるように紫外線をカットするフィルム等で救うのは難しいでしょう。

暗めの場所に置いておいた植物は徐々に慣らさないと葉焼けするとよく言われます。植物は葉焼けや、強すぎる光で光合成素が阻害される光阻害を起こさないような防御機構を持っています。強い光の下ではそのような機構を働かせているのです。しかし、弱い光の下ではそのような機構を休めていますので、急に強い光が当たると葉焼けが起こってしまいます。徐々に光を強くしておくと、いわば植物が準備をして、防御機構を働かせるようになるので、葉焼けが起こらなくなるのです。それならば、もともと野外で通常に生育している植物は普段直射日光を浴びているわけですから、暗いところに育てた鉢を外に持ち出すのと違って葉焼けを起こさない気がしますよね。しかし、実際にはそれでも葉焼けが見られる場合もあります。これは、実は「強すぎる光」というところがポイントなのです。「強すぎる」というのは、使える以上の光が来る、という意味ですから、同じ強さの光でも、使える量が減った場合は、強すぎる場合があるのです。例えば、乾燥ストレス、塩ストレス、低温ストレス、高温ストレスなどがかかっている場合は、光合成も含めて植物の機能が低下しますから、使える光エネルギーが減ってしまいます。そうすると、入ってくる光は同じでも、余る分が増えますから、「強すぎる」ことになるのです。

僕は低温ストレスについて研究をしていましたが、普通の条件で低温にさらすと数時間で光合成がダメになってしまうような低温に弱い植物でも、真っ暗なところで同じ低温にした場合は、びくともしないことを経験しています。多くの「ストレス」は、植物の場合、実際には光ストレスとの複合的なストレスであることが多いのです。強すぎる光による阻害を専門用語では光阻害と言います。過剰な光エネルギーが普段は起こらないような化学反応を起こして葉緑体の機能が失われるのが原因です。ですから、夏場よりも光の弱い冬にも起こります。むしろ温度が低くて活発に光合成を行えない時は、光合成に使うエネルギーが少なくなってエネルギーが余りやすくなります。光阻害には、見た目は変わらない、働きだけの阻害も含まれますから、光阻害の一種として葉焼けがあると考えてよいでしょう。従って、他のストレスを緩和できるのであれば、それがもっともよい葉焼けの防止策ですし、それができない場合、光の強さを弱めるのがよいでしょう。ただし、この場合、そのように弱い光に慣れた状態から急に光が強くなると、植物にとっては危険であるのは上に書いたとおりです。

では、いったん葉焼けを起こした場合、復帰させることは可能でしょうか?いわゆるアントシアンを蓄積するタイプの赤くなる葉焼けの場合は、環境条件がよくなると元の緑に戻る場合があります。しかし、一般的には、目で見える阻害が起こる前に葉のタンパク質や酵素などはかなり傷みます。いろいろな不都合が起こったあと、最後にクロロフィルまでなくなってしまう、というイメージです。ですから、葉焼けをしてクロロフィルがなくなってしまった葉では、他のいろいろなところも傷んでいるはずなので、元に戻すのは極めて難しいでしょう。