呼吸の反応のどこで水分子が付加され、それには何の意味があるのか?
呼吸の反応式は一般に
C6H12O6 + 6H2O + 6O2 → 6CO2 + 12H2O
となっています。両辺に水分子が出てくるのは、電子伝達の最後、酸素に電子が渡るときに酸素1分子あたり2分子の水が生じる一方、それまでの代謝系において水を付加して還元力を取り出す反応により、水分子が消費されることを示しています。同時に生じた酸化力は、有機物を酸化して二酸化炭素にする働きを担うことになります。一般に、水分子の消費はクエン酸回路で起こると記述されていますが、実際にはかなり複雑です。
まず、解糖系ではGAPから1,3-BPGへの反応の際にATPを使わずにリン酸化するのに水が出ないので、実質的に水を取り込んだことになります(グルコース1分子あたり2分子の水を取り込む)。また、2-PGからPEPへの反応に際して、素直に水が取れます(グルコース1分子あたり2分子の水を放出)。ですから反応に直接関与する水分子だけを見ると解糖系では水を放出していることになりますが、リン酸化の際の実質的に水の出入りを計算に入れた場合は、差し引き0で、解糖系全体では水分子の出入りがなくなります。
次にクエン酸回路ではアセチルCoAからクエン酸への反応にさいして素直に水が付加します(グルコース1分子あたり2分子の水を取り込む)。またスクシニルCoAからコハク酸への反応に際して無機リン酸から水が供給される形になります(グルコース1分子あたり2分子の水を取り込む)。さらにフマル酸からリンゴ酸への反応に際して素直に水が付加します(グルコース1分子あたり2分子の水を取り込む)。したがって反応式の表面に水が現れるのはグルコース1分子あたり4分子の水になりますが、無機リン酸から供給される水を含めると(解糖系の部分も含め)グルコース1分子あたり-2+2+2+2+2=6分子の水が付加することになるわけです。光合成のカルビン回路における水の動きを考える時もそうですが、反応式の表面に出る水分子だけではなく、リン酸化などの際の実質的な水分子の動きも考慮する必要があります。