光−光合成曲線はあるのに水−光合成曲線がないのはなぜか?
水は確かに光合成の基質なのですが、横軸に水、縦軸に光合成速度をとったグラフというのは存在しません。これには2つ理由があります。一つは、水は、光合成の基質としてだけでなく、細胞内の化学反応の溶媒としても働いているため、「水の濃度」というものを規定することが難しい、という点があります。例えば、二酸化炭素濃度を半分にした時の光合成速度、というのはよいのですが、水の濃度を半分にするというのはナンセンスです。では、濃度では難しくても、光合成によって水が分解されて「量」が減るのを見ればよいのではないか、と思ったとします。しかし、それでも問題があります。光合成をする時には、気孔を開いて二酸化炭素を取り込みますが、この際に水が水蒸気となって失われます。この際の、基質として分解される水の量と、蒸散によって失われる水の量を比べると、後者の方が200倍も大きいのです。つまり、根から吸い上げる水のうち、光合成の基質として分解される水の量は、ほとんど無視できる量でしかない、ということです。というわけで、光合成の基質としての水が、光合成速度に与える影響を調べることはほとんど不可能である、ということになります。
一方で、植物が乾燥状態におかれると、蒸散を抑えるために気孔を閉鎖します。気孔が閉じれば、当然二酸化炭素を取り込めずに光合成速度は低下します。このため降雨後の日数が経つに連れて、つまり土壌が乾燥するに連れて、真昼の光合成速度が低下する現象(昼寝現象)が見られます。これは、まさに土壌中の水が減った状態では、特に相対湿度の低下する真昼に気孔が閉鎖して、結果的に光合成速度が下がることを示しており、そのような意味での「水が光合成に与える影響」は観察可能です。