光合成とは?

このサイトの光合成質問箱には、時々、「光合成とは何ですか?」という質問が寄せられます。これは、答えるのが簡単そうで、実は、非常に難しい質問なのです。なぜ難しいかというと、どのような視点から見るかによって、光合成とは何かの答えが違ってきてしまうからです。ここで、様々な視点から見た光合成の定義を考えてみましょう。

小中学校レベル

今の子どもが最初に光合成に出会うのは、もしかしたらゲームの世界でのことかも知れません。ポケモンの世界では、くさタイプのポケモンは「こうごうせい」という技を使って体力を回復することができます。小学校の理科では、必ずしも光合成という言葉を習うとは限らないようですが、植物の葉が太陽の光を受けてデンプンなどの養分を作ることは習います。そして、その働きを光合成というのだということは中学の理科ではっきりと習います。ですから、小中学校のレベルでの答えであれば、光合成とは「植物が光によってデンプンなどを作る働き」であることになります。

高校レベル

中学の教科書では、なぜなのかという理由は述べられていないのですが、水と二酸化炭素が光合成に必要で、酸素が発生することがさらっと触れられます。そして、高校になると、光合成により水が分解されて酸素が発生し、二酸化炭素が固定されてデンプンなどの有機物になる、というメカニズムが説明されます。つまり、高校のレベルになると、光合成とは「植物が光によって水を分解して酸素を発生し、二酸化炭素を有機物に固定する反応」ということになります。

大学レベル

ところが、大学になると、光合成細菌というものが出てきます。光合成細菌は、小学校のレベルの光合成の定義である「光によってデンプンなどを作る働き」は持っているので、名前にも「光合成」がついているのですが、実は、水を分解して酸素を出す、という部分を行ないません。つまり、高校のレベルの光合成はしないのです。草や木が水H2Oを分解して酸素O2を発生する代わりに、光合成細菌は、例えば硫化水素H2Sを分解して硫黄Sを作ります。この場合、酸素や硫黄は光合成をする生物にとっては不要なものなので、細胞の外に捨てます。重要なのは残った水素H(正確に言うと他の物質を還元する力)なので、それを得ることができれば、残りが酸素であろうと硫黄であろうと構わないのです。つまり、大学のレベルでは、光合成とは「光によって環境中の物質から還元力を取り出し、その還元力とエネルギーによって二酸化炭素を有機物に固定する反応」ということになります。

大学院(?)レベル

大学院で何を教えるかは大学によってバラバラですから、大学院レベルという言い方がよいかどうかは別として、さらに専門的になると光合成とは何かもまた変わります。世の中には独立栄養化学合成細菌という生物がいます。この生物は、無機物の酸化還元のエネルギーを利用して生育することができ、有機物もなければ光もない条件で生きていけるという生物です。光を使わないわけですから、もちろん光合成はしないのですが、有機物を作る反応には光合成と同じように二酸化炭素を使います。さらに言えば、カルビン回路という光合成の二酸化炭素固定経路と全く同じ回路を二酸化炭素の固定に使っている種類もあるのです。つまり、先ほどの光合成の定義のうち「二酸化炭素を有機物に固定する反応」という部分は、別に光合成にだけあるものではなく、化学合成にも共通の反応なのです。

では、なぜ、有機物の固定反応が光合成の一部とされてきたのでしょうか。それは、光合成生物が光のエネルギーを利用して作り出す還元力とエネルギーが二酸化炭素の固定に使われるからです。ところが、生物の体の中で、光合成によって得た還元力とエネルギーを使うのは、二酸化炭素固定だけではありません。例えば、窒素同化、硫黄同化といった代謝系も、みな光合成の還元力とエネルギーを使っているのです。とすれば、二酸化炭素固定だけを光合成として、残りの代謝系を光合成からはずす理由はないことになります。つまり、光合成の最後の定義は、「光合成とは、光のエネルギーによって環境中から還元力を取り出し、その還元力とエネルギーを用いて行なう代謝系を全て含む反応」ということになります。このように定義した場合、事実上、光合成生物の細胞の中のほとんどの反応は、窒素代謝であれ、硫黄代謝であれ、すべて光合成と考えるべきであるということになります。光合成というのは、光合成生物にとって、いわば「生き方」なのだと思います。光合成生物が「光のエネルギーを使って生きる」という選択をした時に、細胞内のほとんどの反応は、光合成として位置づけられることになったのでしょう。

光合成とは「植物の生き方」なのです。