Oxygraphによる酸素発生の測定

酸素電極による光合成の測定システムは、いくつかの会社から出ていますが、ここではハンザテック社のOxygraphを用いた酸素発生活性のプロトコールを紹介します。酸素電極測定の原理については、酸素電極をご覧ください。

試薬:

飽和KCl溶液(酸素電極に消耗品として付属)、ジチオナイト(ハイドロサルファイトナトリウム、Na2S2O4

事前準備

ソフトウェア

Oxygraphはパソコンから操作し、パソコンへデータを取り込みます。最近のパソコンにはシリアルポートがないので、シリアルポートとUSBの変換ケーブルを使います。OSにもよりますが、ケーブルをつなげばドライバが自動的にインストールされます。次いでOxygraph Plusのソフトをインストールします。インストール時にデスクトップにショートカットを作ることを選択すると、設定ファイルがデスクトップにいちいちできてうるさいので、インストール時には作らないように設定し、必要であれば、あとから自分でショートカットを作るとよいでしょう。プログラムを立ち上げると、ポートを入力する画面になります。機器を接続したポート番号がわからなくても、片端から試せば問題ありません。機器を接続していない場合は、Viewを選択することにより、既存のファイルの操作を行うモードで立ち上げることができます。

温度の管理

恒温槽の温度を25℃に設定します。測定用バッファーの容器も恒温槽に入れ25℃に保っておきます。これは、酸素は低温になるほどより多く溶解するので、冷たいまま用いると暖まった時に気泡が発生してしまうためです。

テフロン膜のセット

以下の酸素電極のテフロン膜のセットは少なくとも前日にしておくと測定値が安定します。なお、テフロン膜をセットしたあと、酸素電極を使用しないときには試料室は蒸留水でみたしておきます。まず、飽和KCl溶液を電極部に数滴たらし、円形に切ったフィルターペーパー、フィルターペーパーより一回り小さく切ったテフロン膜の順に重ね、その上からアプリケーターを用いてOリングを電極部にセットします。切る大きさは、テフロン膜とフィルターペーパーがOリングの周囲に均一にはみ出す必要がある一方で、資料部のセットの邪魔にならない必要がるので、最初は試行錯誤が必要かもしれません。フィルターペーパーはしわが寄らないように張るのが案外難しいので、キムワイプを利用する場合もありますが、感度や応答はフィルターペーパーの方が良いようです。

次に、試料室を酸素電極の上に固定する。サンプルホルダーが密着する部分には真空グリースをごく薄く塗っておくとよいでしょう。テフロン膜のセットがうまくいっているかどうかを、下に示すキャリブレーションをしてみてチェックします。妙なドリフトはないか、ジチオナイトを入れた時の酸素濃度の減少速度は適当か(通常は数秒で減少するはず)などを見ます。きちんとはることができたテフロン膜は1週間以上、そのまま使用できます。

キャリブレーション

メニューのCalibrationからLiquid Phase Calibrationを選択し、温度と気圧を入力すると、キャリブレーションがスタートします。空気飽和した水を入れた状態でOKを押すと、安定するまで少し時間がかかったのち(通常条件で2000程度の値になる)、次のプロンプトが出ます。ジチオナイトをマイクロスパーテルで少量加え,また安定を待ってから(膜がちゃんと張れていれば20以下の値になる)OKを押し、キャリブレーションを終了します。これにより、測定値は、nmol/mlという形に自動換算されます。

設定

スターラー

スターラーのオン・オフと回転速度は、HardwareからStirrer Speedを選択して設定します。

ゲインとバッキング

光合成の電子伝達測定の場合、変化率が大きくないので、「酸素電極の仕組み」に述べたようにバッキングと信号増幅が必要です。HardwareからChannel Configrationを選ぶと、ゲインとバッキング(Back Off)を設定する画面になります。自動設定というのも可能ですが、個人的にはマニュアルで決めて入力したほうがよいように思います。

データ取得間隔

Hardware->Acquisition rateによりデータ取得間隔を設定できます。ただ、一番間隔の短い100 msおきの設定でも最大記録時間は100分あるので、最大レートでデータをとっておいて、必要に応じて、パソコン上でスムージング処理をするのがよいのではないかと思います。

測定

データ取り込み

ツールバーのGoアイコンを押すと測定が開始し×アイコンで測定が停止します。GraphからAuto Zoomを選択しておけば、記録データがすべて表示されるように軸が自動設定されます。測定中は、一部のメニューはグレイアウトして使えなくなります。

イベントマークの設定

レコーダの記録紙に記録している時のよい点は、その場で光のon/offや薬剤の添加のタイミングを書きこめるところです。これと同じことをTools->Add Event Markにより行うことができます。メニューから選んだ瞬間の時刻に、自由なコメントを貼り付けることができます。

酸素電極のメインテナンス

保存方法:

酸素電極の命は電極です。金属の電極と周囲のエポキシ樹脂の間に隙間ができたり、電極に酸化物が沈着したりすることは避けなければなりません。一般的には、KClの溶液を放置して乾上がったりするとKClの結晶が電極を傷めますから、数日までの時間範囲では、試料室を蒸留水で満たして、乾燥を避けることが重要です。一方で、より長期には微生物の繁殖などによりやはり電極とエポキシ樹脂の間が傷められる場合がありますので、しばらく使わないときは、電極を蒸留水で洗浄してから乾燥した場所に保存しておくことが必要です。

電極の清掃:

電極は、使用していれば、きちんとした使い方をしていても、銀の塩化物や酸化物が銀電極に沈着してきます。塩化銀はそれほど影響がないとされますが、酸化銀の沈着は電極の有効面積を減らすため、沈着を取り除く必要があります。昔は、綿棒に練り歯磨きをつけて擦ることにより電極の清掃を行っていましたが、現在では、電極を購入すると、専用の研磨剤が入っているようですから、それを使った方が安心でしょう。