ポストゲノム時代の生命科学 第9回講義
左右非対称性の起源
第9回は、遺伝システム革新学分野の雨宮先生が担当されました。 寄せられたレポートの中から面白い視点のもの4つを以下に載せておきます。
巻き貝や線虫など、螺旋卵割をする旧口動物が卵割の向きによって全体の左右非対称性の方向が変わることは、聞いたことがあり、講義を聴くまでは、この話で終わるだろうと思っていたので、脊椎動物の場合、繊毛の向きが左右非対称性の向きに影響を及ぼすのではないか、というくだりに驚いた。特に広川仮説は目からうろこであった。日本の美は左右非対称性にある、といわれる。それは、オペラ劇場の客席、舞台の対称性(円形であったりする)に比べ、能の舞台の非対称性を考えればわかる。花道の配置ははわざわざ対称性を破壊するような試みを感じる。非対称性の美を伝統に持つ日本人が、生物の非対称性に関する画期的な仮説を立てたことが、妙に嬉しかった。
今まで左右対称性について真剣に考えたことはなかった。面白いだろうが「それが何の役に立つのか」と考えていたからだ。だからこのことから人間の起源にまで議論が広がっていくということには驚いた。Dexiothetismはユニークな考えであるがそこから脊索動物の起源を決定付けるにはまだまだ研究する必要があると思う。
体の対称性についてこんなにも考えたことはなかったので、今回の講義はとても興味深かった。特に繊毛や鞭毛と対称性の関係が、意外で面白かった。繊毛や鞭毛と「対称」という現象が結びつきにくく、しっくりこない。繊毛の異常による不妊の男性の約半数が、心臓を右に持っているというのはかなり驚いた。繊毛なんてちっぽけな存在のように思ってしまっていたが、(実際はとても重要)こんな大変な現象にかかわっていたとは。今も半信半疑の不思議な気分だ。生物は何となくみんな対称のような気がしていたが、なるほどよく考えればそうではない。生物の体にはいろいろ謎があるのだなと思った。
高校で生物選択ではなかった私は、生物の進化の樹形図(のようなもの)を見るのは初めてで、相称性にも進化があるということにも、「なるほど」と思わされました。ウニ、ヒトデは幼生のときには左右対称なのに、成長すると放射相称になる、という説明でしたが、これは成長しても左右対称性を失わないウニと、成長すると放射相称になるウニとがいて、なんらかの原因で前者が絶滅してしまった、ということなんでしょうか?