ポストゲノム時代の生命科学 第6回講義
遺伝子組換え植物の科学
第6回は、資源生物創成学分野の宇垣先生が担当されました。 寄せられたレポートの中から印象に残ったもの3つを以下に載せておきます。
最近スーパーなどで食品を購入する際、遺伝子組換え作物不使用という表示をよく見かける。遺伝子組換えを行った食品の安全性に対する不安からなのだろうが、一方、遺伝子組換えという技術については自分でも実のところはよく分かっていなかったので興味をもって受講できた。もともと作物の品種改良は、米やかんきつ類のように何代も交配を行う必要がある。しかし遺伝子の組換えならば短期間で行うことができるし、コピーしたい遺伝子のみを導入できる。さらに人口爆発による食料問題への対応としても遺伝子組み換え植物の必要性は大きい。だが人体や環境に対する安全性の確認が最も重要で、現在の組換え作物では外来遺伝子が可食部でも発現していることが最大の問題ということだった。安全でおいしいものを食べたいと願うのは当然のことだろう。今回取り上げられていた導入遺伝子は病気に強くする、除草剤に強くするといった生産面が主だったが、糖度を上げたり、苦みを少なくするといった味や栄養価の改良にも遺伝子組換えが使えるのではないかと考えた。
植物への遺伝子導入に土壌細菌アグロバクテリウムを用いるという説明は、「遺伝子組換えで人間は禁断の領域に足を踏み入れた」「人間が神を演じるな」という、通俗的な反感を否定するようで、おもしろい。既に自然界に遺伝子組換えが存在していたとは! ホタル—タバコのように動植物の枠組みを超えて遺伝子組換えができることには、それでも保守的な反感を感じた。しかし、植物—バクテリア間が可能ということは、特に「不自然」でもないのか、とも思う。環境への安全性確認として、組換え植物が子孫を残す能力などをきっちり検査しているところには感心したが、食品としての安全性には、この講義の知識を得た今なお不安を覚える。
良きにつけ悪しきにつけ議論の絶えない遺伝子組換え農作物ですが、自分にいかに中途半端な知識しかなかったかがよくわかりました。講義の最後の方の、特異的プロモーターを用いた外来遺伝子の組織・時期特異的発現に関するくだりなどは、聴いていて「バイオテクノロジー」のもつ無限の可能性を垣間見られるものでした。感想としては、前述のように、遺伝子組換え食物に対する「知識量」についてです。マスコミはいつものごとく、これでもかといわんばかりに組換え食品への不安を煽ります。しかし、その報道を吟味するだけの知識を、ほとんどの人は持っていません。報道を鵜呑みにするのはけっこうですが、組換え食品のもつメリットや可能性とデメリットや危険性を天秤にかけることも必要なことです。そういう意味では、研究者側にも矛盾があるといわざるをえません。人に役立つはずのものを作っておいても、不安をなくす努力をしないのであれば、広めて役立てようというのはどだい無理でしょう。「社会の中の知識量の偏り」、案外問題の本質はそんなところにあるのかもしれません。