ポストゲノム時代の生命科学 第11回講義
植物細胞の形づくり
第11回は、植物全能性制御システム解析学分野の馳沢先生が担当されました。 寄せられたレポートの中から目に付いたもの5つを以下に載せておきます。
今回の授業ではじめて微小管というものの存在を知りました。「そんな名前聞いたこともないし、どうせどうでもいいものなのだろう。」と思っていたら、全然そんなことないじゃありませんか。微小管によって細胞の伸びる方向が決まり、さらにはその(植物)個体の形態が決定されるとは驚きました。授業は話がちょっと難しくてよくわからなかったのですが、本当にあの小さな微小管が個体の形を決めることができるのですか。いまだに信じられません。それだけではなく気孔の開け閉めにも関係があるとか。微小管のようなミクロなものが一個体というマクロなものに影響を与えるなんて、生物ってすごいなと思いました。それから、名前は忘れてしまいましたが、クラゲからとれる緑色に光るタンパク質がこのゼミの中でもよくでてきてましたよね。あれはなんでクラゲなのでしょうか。ホタルとかからでも光るタンパク質って取れないのですか。クラゲだとちょうど良いのでしょうか。ちょっと疑問でした。
微小管は、セルロースの巻く方向を決めているだけなのに、不可逆的な細胞の「形態形成」と可逆的な「形態制御」の両方に重要な働きをしている影の支配者のような存在であることがわかった。特に後者の例として、気孔が開くのには浸透圧の変化だけでなく、微小管も関わっているという話が興味深かった。朝、微小管ネットワークができると気孔は開き、夕方になるとそのネットワークが壊され気孔が閉じる。しかも植物はせっかく作った微小管をチューブリンにばらし、さらにそのチューブリンまで壊してしまう、そしてまた次の朝作るということを毎日繰り返しているというのだ。生物の世界には、それの持つ意味がわからない一見無駄に見える過程が含まれることがよくあるが、これは生命の不思議の1つといえるだろう。最後に科学者というのは微小管のようにミクロな世界を突き詰めていくところが素晴らしいんだなと思った。
微小管は、高校では細胞の構造について習う際に出てきただけで、細胞分裂や形態形成に関わりがあるとは知らなかった。講義でも触れられていたように、気孔の開け閉めに際し、植物がいちいち微小管のネットワークを作っては壊し、作っては壊しするのはなぜなのか。なぜそのような場面にエネルギーを多く費やすのか。考えてみれば確かに不思議だが、当初、私が触発されたのはもっと原始的なレベルであった。生物はうまくできている、合理的に説明がつく、そういう信念の下、不可解と思われてきた事象が説明される、というのが自然な流れなのであろう。そのことに疎かった私には、かえって、生物の不合理性をある意味で許容しない、「なぜ?」を追求する研究者の厳しさ、という研究態度が、今回、この問いの立て方に立ち現れているのに気づいた、という点で印象的であった。
遂にこの授業も最後となってしまった。この授業を通してさまざまな生命科学の分野に触れることができた。その中で興味深い学習ができたことを、うれしく思う。さて、最後のテーマは植物の全能性と微小管についてだったと思う。高校ではあまり深くは触れない分野なのでほとんどが知らないことだった。微小管なんていうそれこそ極小のものを非常に深く研究していることに正直驚いてしまった。植物の全能性についても、初めて知った時は不思議でならなかった。(今でもだけど。)なぜたった1個の細胞から全て再生できるのだろう?なぜ人間にはそれができないのだろう?未だに疑問の多い領域だと思う。この授業を通して、さらに生命の奥深さを実感できた。
今回の講義で印象に残ったのは、植物の気孔の開閉に細胞骨格の微小管が深く関わっているという話であった。細胞「骨格」という名称から、細胞の固定された骨組みのような構造を想像してしまいがちであるが、実際には昼と夜とでその構造が大きく変化する、きわめて動的な構造であることを認識させられた。さまざまなタンパク質によって、チューブリンが合成され、分解され、再合成され、重合され・・・という構築と脱構築の繰り返しが絶え間なく行われているのだろう。また、昼と夜とで規則的に微小管構造が変化するということは、光エネルギーが微小管の形成に深く関わっているのだとも思った。暗室での実験や、明暗の周期を24時間周期からずらした実験をしてみても、興味深い結果が得られるのではないだろうか。
◎最後に講義全体に触れた感想を1つ載せておきます。
今回は植物の細胞形成の講義で、初回の光合成のときと同じく高校で生物を取っていなかった私が聴講して大丈夫なのだろうかという不安があったのですが、細胞分裂の周期等ちょうど4月から生命科学基礎の講義で学んだ内容もあり、今回も興味深く聴くことができました。この講義は全体を通じて非常にスライドが多く、(今回も科学雑誌の表紙の写真を始めとして沢山見せて下さました )視覚的にも理解を深めることができました。そして何よりも、「ポストゲノム」という言葉でまとめられる状況の中に、これだけ多様な分野が関わり、新たな可能性が見いだされていることに驚きを感じました。一学期間、この講義を受講することで現代の生命科学のHOTな話題に触れ、自分の将来の目標についても考える機会を持つことができよかったです。ありがとうございました。