代謝生物学 第2回講義
生物のエネルギー獲得戦略
第2回は呼吸と光合成を中心とした生物のエネルギー獲得戦略について解説しました。今回の講義に寄せられた意見と、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。
Q:自由エネルギーのグラフを描くことで、代謝反応や光化学系の意義がとてもわかりやすかった。このような効率の良い反応系が偶然の積み重ねである進化から生まれたことが不思議である。Jagendorfの実験は大変単純に見え、実験は考えることが重要であると再確認したと同時に、この実験の図を見せられても具体的な実験方法が思い浮かばず、単純(そう)な実験ほど、きっと実行するのが難しいのだろうと感じた。最後に質問ですが、偽ストロマトライトは非生物起源でよいのでしょうか?
A:Jagendorfの実験は、僕もちゃんと論文にあたっていないのですが、単に遠心で落とした葉緑体をpHを変えたバッファーに入れた直後にホタルのルシフェリン・ルシフェラーゼの系の発行でATPの合成を確認したのだと思います。実験自体は、極めて単純なので、Mitchelの話を聞いて、ぱっと思いつくセンスを持っていたかどうか、ということでしょう。偽ストロマトライトは非生物起源で、熱水の噴出などによって塩類が層状に沈着したものだと考えられています。
Q:ATP合成酵素についてよく判らないことがあったので少し調べてみた。まず、F1とF0の区切り。F1はα、β、γ、δ、εサブユニットより、F0はa、b、cサブユニットより構成されている。ATPの合成・分解を行うのはβサブユニットである。γサブユニットがプロトンの輸送に重要な役割を持っている。回転するのはγサブユニットで、cサブユニットの回転と連動しているらしい。γサブユニットを回しているのはβサブユニットですか、cサブユニットですか?ATP合成のときはcサブユニットが、ATP分解のときはβサブユニットがγサブユニットを回しているということでいいのでしょうか?レジュメ3ページの「ATP合成酵素の回転を証明するには?」の図では、α、β、γサブユニットのみで実験をしているのですか?葉緑体のATP合成酵素も、ミトコンドリアのATP合成酵素と同じような構造をしているのですか?生物によってATP合成酵素の構造が変わることはありますか?
A:cサブユニットの部分をプロトンが通るので、γサブユニットを回しているのはcサブユニットと言うべきでしょうかねえ。プロトンなりATPなりがどのサブユニットと相互作用するか、ということと、どのサブユニットが「回している」か、ということが直接結びつくかどうかは問題だと思いますが。葉緑体とミトコンドリアのATP合成酵素は極めてよく似ています。ただ、制御メカニズムには若干違いがあって、葉緑体のATP合成酵素の場合は、光(還元力)による調節を受けますが、ミトコンドリアの酵素ではそれは見られません。
Q:今回の講義もとても面白かったです。特に、クエン酸回路など、今までは、ただ、反応の羅列のようにしか見ていなかったため、生物がエネルギー獲得のために行っている複雑な経路に対する意味というものが、非常に有益だということに対して、深く感心しました。その中で、ふと疑問に思ったことがあります。それは、呼吸鎖の酸化還元電位に関してなのですが、ユビキノンなどプロトンの出入りがない反応を含めて、電子伝達系には、5つの反応の場があったと思うのですが、その中でも、最後の反応において、電位の下がり具合が非常に大きかったのが気になりました。反応を複雑化させたことに大きな意味があるのなら、この電位の変遷が最後の反応だけ大きかったということにも何か意味があるのでしょうか。
また、真核生物の膜形成に関しては、進化において、シアノバクテリアなどと共生関係を結んだとき、器官を分画化するためばかりと思っていました。しかし、体積の大きな生物ほど、表面を囲う膜がなくては、エネルギー獲得に対して不十分であるというためであるということを知り、生物の賢さに気づきました。ただ、生物が大きくなればなるほど、エネルギーはより多く必要になるように思うのですが、いわゆる高等と呼ばれている生物の細胞ほど、膜が複雑ということはあるのでしょうか?しかし、膜ばかり複雑とも思えません。そのような生物は組織を作ることや、もしくは細胞数の多さということで、エネルギー獲得に対して、工夫をしているのでしょうか。これからは、普段何気なく思っているような現象に対しても、きっと何か意味があると様々な側面から見ていこうと思います。次回の講義もまた楽しみです。
A:非常によい点に2つも気がつきましたね。最初のポイントに答えるためには、おそらく反応の平衡状態を考える必要があります。ほとんどの化学反応は、酸化還元反応も含めて可逆反応であり平衡状態で反応が進みます。講義の中で酸化還元電位と酸化型・還元型の物質の量の関係の式を紹介しましたが、これを見ても、酸化型と還元型の量が非常に偏っていれば、酸化還元電位の高いものから低い物へ電子が渡る可能性があることがわかります。複数の反応が直列に(場合によっては回路状に)つながっている時に、あるステップの反応が遅くしか進行しないと、その反応の前の物質がたまります。そうすると、前の物質が増えたことによって平衡が傾き、そのステップの反応も進むようになるのです。つまり、複数の反応が連続して起きる場合は、進みやすい反応(酸化還元電位の差が大きい反応)と進みにくい反応(差が小さい反応)があっても、その間を結ぶ物質の濃度(酸化還元反応の場合、正確には酸化型と還元型の比)が変化することによって、各ステップが均等に進行するようになるのです。 代謝系に回路型の経路が多いのは、このような一種の「自動制御システム」をフルに活用するためだと考えることもできます。
細胞の大きさについては、確かにエネルギーも重要になってきます。細胞が大きくなると、小さい時には拡散ですんでいた物質の輸送も、エネルギーを使って能動的に輸送する必要が出てきます。真核生物が出現したのは、おそらく地球上の酸素濃度がある程度上がり初めてからであり、発酵などに比べて極めて効率的にATPを合成できる酸素呼吸が可能になったことが真核生物の出現のきっかけになったのではないかと思います。
Q:光化学系が二つ必要だという話の際に、紫外線は光の波長が短くエネルギーが大きいからDNAを傷つけなければ光化学系を二つにしなくても、水を分解することもNADPHを還元することもできたかもしれない、とおっしゃっていましたが、波長が680nmである赤い光よりも波長が短くエネルギーの大きい青い光もクロロフィルは吸収できるのにも関わらず、結局は青い光と赤い光のエネルギーのギャップ分は熱として放出されてしまい、P680に吸収されるのは赤い光と同じだけのエネルギーなのだから、たとえ紫外線がDNAにダメージを与える程はエネルギーがなかったとしてもあまり意味はないと思うのですが、違うのでしょうか。紫外線まで行かなくても、P680やP700と同じように青い光のエネルギーをそのまま使えるP430みたいな反応中心があれば、光化学系は一つで十分なエネルギーを得て、なおかつDNAの傷つかないくらいの丁度いい感じではなかったでしょうか?これから進化で出てくることを期待したいです。生物の進化はまるで意識的に作ったと思うくらいにぴったりと最適な物が表われる反面、どうしてここは効率が良くないのだろうというような物が混在していると思います。本当に運悪く効率が悪いのか、それともまだ私達が解明できてない部分で何らかのファクターがあって一見最適に見えていないのか。進化の方向も、シンプルで少ない物で多くの機能を有する方向に向かっているのか、それとも多少コストはかかってもそれぞれの機能が最大限に発揮できるような方向に向かっているのか、一元的に答えがでないという欠点が生物学の魅力でもあるのは分かってるのですが、どうも釈然としない所があります。
A:これも、面白い点に気がつきましたね。実は、光合成に使える光の一番長波長側が赤色まで来ている、ということには大きな意味があるのです。つまり、光子1個のエネルギーではなく、吸収できる光子の数に注目した場合、もし、青い光を吸収するP430が反応中心だと、それより長波長の光は全て吸収できずに無駄になります。たとえ、別に長波長の光を吸収できるアンテナを作ったとしても、アンテナの方がエネルギー的に低くなりますから(波長の長い光はエネルギーが低いので)反応中心に吸収したエネルギーを渡すことができません。つまり、地球上に降り注ぐ可視光領域の多くの光を使おうと思った時には、反応中心は赤い光を吸収できるぐらいエネルギーが低い色素であった方が有利であることになるのです。
Q:解糖系・クエン酸回路を経たATP合成、及び呼吸方式は数多くの複雑な反応をたどり、一見無駄が多いように思われるが、これは生物が長い年月をかけて有機物からエネルギーを取り出すのに最適な方法を試行錯誤を繰り返しながら探索してきた成果と言えるのではないだろうか。恐らく、これまで地球上に生息してきた生物は現在の生物には見られない呼吸方式を行うものが存在してきたはずである。その中でもより適した生物が生き残り、また、環境の変化への適応・突然変異を少しずつ繰り返しながら現在の生物の呼吸方式にたどり着いたということだろう。光合成にも同じことが言える。ところで、呼吸と光合成の起源的な関連はどうなのだろうか。最終的な化学反応は全く逆の両者ではあるが、起源的には呼吸の電子伝達鎖の方が古いということ、そして呼吸系電子伝達と光合成電子伝達の類似性を考えると何らかの関連がありそうであるが・・。
A:呼吸鎖電子伝達系を構成する複合体II, III, IV、フェレドキシンやATP合成酵素は古細菌と真正細菌の両方に分布しており、おそらく両者が分岐する以前に発達したと考えられます。一方で、葉緑体の祖先のシアノバクテリアも、そのまた祖先と考えられる光合成細菌も真正細菌であって、光合成が獲得されたのは真正細菌と古細菌が分岐してからだと考えられます。そこで、光合成よりも呼吸鎖電子伝達系が古い、という結論が導かれるわけです。もちろん、光合成のメカニズムを作るにあたっては、呼吸鎖電子伝達系のいろいろな部品を流用したと考えられます。
Q:今回の授業では、解糖系、活性化エネルギー、酸化還元反応、最古の生命化石、などが取り上げられ、生物について考える上で生物学的なことだけではなく、化学、地球科学などといった他の分野を知ることはとても重要であると感じた。生物のエネルギー獲得において、化学的プロセスがとても重要であるとわかった。
A:講義のアンケートならこのぐらいでも構いませんが、短いながらもレポートなので、もう一声・・・。
Q:前回の授業では、地球上の生物の活動エネルギーは太陽から来るとのことでしたが、今回の最後で扱った化学合成細菌・チューブワームなどは例外なのでしょうか?地球内部から吹き出てくる硫化水素を使うということは。チューブワームにならい地球のエネルギーを使う方法はないか少し考えてみたいと思います。地球の地形・・山、川、海・・。海水を蒸発させ雲をつくるのは太陽エネルギー。それを降らせるのは地球の重力。ダムにためた水の位置エネルギーを取り出す水力発電。地球の重力を利用?地球の重力を利用してるが、やはり太陽エネルギーである。海・・海水に溶けている物質、その流れ、潮からエネルギーは取り出せないだろうか。河口付近で、海と川の塩分濃度の差からエネルギーを取り出すことは、流れが一方向だから不可能だろうか。地球内部。チューブワームに素直にならい、マグマからエネルギーを取り出す。マグマの熱から取り出すのは高温で器具自体溶けてしまうか。マグマの動き・・・地震。いつどこで起きるかわからない。地震直後、免震構造の家の土台の揺れからエネルギーを取り出す。いつどこで起きるかわからないといえば、雷。避雷針に落ちた雷の電流を発電所に逆流。考えてみたがどれもいまいちピンと来なかった。やはり太陽電池、原子力、火力発電が効率がいいのだろうか。節電についても考える必要がありそうだ。
A:そうですね。きちんと言いませんでしたが、化学合成細菌が作る生態系は、エネルギー的に太陽に依存しない唯一の生態系です。論理的には海水と淡水の浸透圧の差を利用してエネルギーを取り出すことは可能だと思います。ただ、位置エネルギーの方が大きいと思いますので、やはり普通に水力発電所を作った方が楽でしょうね。
Q:チューブワームについてはなにかと話題になることが多く、NHKでもドキュメンタリーを見たことがあります。大学に入る前から、光の届かない高温の海に住む動物、ということでなんとなく興味を持っており、今回授業で扱ったのでさらに興味を持ちました。前から「なぜチューブワームは赤いのか?」ということについて疑問を持ってきました。光の届かない深海の生物は白いことが多く、またわざわざ色素を合成するにはエネルギーがいるので、光の届かない場所では退色していることが合理的であると思えるからです。今回の授業で、シロウリガイの赤はヘモグロビンの赤で、酸素の不足している環境ではこのような体色を持つ傾向があると習いました。おそらくチューブワームもヘモグロビンにより赤い体色なのだと思いました。ですが今度は「なぜそのように酸素不足の状態で、シロウリガイやチューブワームは白い殻に入っているのか」という疑問が湧きました。自分の分のみならず取り込んだ酸素などを共生している化学合成細菌に渡しているのですから多くの酸素が必要になるはずです。チューブワームを好んで食べるカニなどもいるようですし、天敵や水圧から身を守る意味もあって殻構造があるのでしょうが、あれで鰓呼吸が成立しているのが不思議です。
A:まあ、殻は外敵から身を守るためでしょうね。物質の取り込みという点では、チューブワームの根っこのように見える部分から積極的に硫化水素を取り込んでいる、という論文もあります。このあたりは、何しろ深海底ですので、なかなか、ぱっと調べに行くと言うことができないのが、もどかしいところです。
Q:我々が糖や脂肪などを分解してエネルギーを得るためにいままでどうして回りくどくクエン酸回路等複雑な手法を取っているのかと疑問に思っていたのですが今回の授業で少し納得がいった気がします。またミトコンドリアの電子伝達系と光合成のそれの類似性については進化という観点から考えてもほとんど変わることなく現在に至っています。ということは現在の環境下ではエネルギーを生み出す上で最も効率的な方法だと言えるかもしれないと思いました。プリントには呼吸の電子伝達の方が光合成のものより起源的に古いと書いてあったのですがその理由がよくわかりません。好気性細菌が酸素のあるなんらかの特異的な環境で先に誕生していた可能性もあるということでしょうか?
A:呼吸と光合成の起源の古さに関しては上に書いておきました。好気性細菌がどのようにして生まれたかについては推測の域を出ませんが、最初は酸素の毒性から身を守る防御システムとして発達したのではないか、ということを言う人もいます。つまり、最初にいわば「耐」気性細菌ができて、それが好気性細菌に進化したのではないか、という仮説ですね。
Q:今回はさまざまな生体内での反応がなぜ回路反応なのか、なぜ多段階反応なのかがわかってよかったです。また、化学合成や脂肪の代謝まで物質が循環していることは初めて知りました。また、進化の講義で少し聞いたことがある生物の起源についても以前とは違ったアプローチで面白いと思いました。ただし、いろいろな反応が次々と出てきてあまり深く理解できなかったです。あとプリントも文字が小さいところとかがあったり…。少なくとも呼吸と光合成についてはもう少し細かく勉強したいと思いました。
A:プリントについては時々要望が寄せられるのですが、あくまで、聴いた講義を思い出す「よすが」ぐらいに考えて下さい。大きく印刷しようと思うとかなりの量になるので・・・。定年になったら、きちんとまとめて教科書でも書こうと思っていますが。
Q:代謝は煩雑で何度勉強しても忘れてしまう、というイメージが強いのだが、今回の講義で煩雑な理由が聞けて嬉しかった。各反応の活性化エネルギーを下げて、低温でも反応が進行するようにするため、化学反応に利用できる形でエネルギーを取り出すため、の二点から、必然的に必要なのだとのことだった。しかし、膜を挟んだプロトン勾配を利用したATP合成系ならば、大きなエネルギー変化を大量のATP合成に変換できないのだろうか。二点目の説明について、よく理解できなかった。
また、光合成電子伝達系の進化についての説明が興味深かった。生物の進化上、独立栄養生物が先に生じたのは確かなので、無意識のうちに光合成生物が好気性生物よりも起源が古いものと思っていた。光合成の電子伝達系は呼吸から進化したものだというのは意外だった。確かにシステムは呼吸の方が単純だが…。シアノバクテリアが二つの光化学系を獲得したというイベントは、きっとたった一匹のバクテリアで起こった小さなイベントだが、その後の地球環境にとって計り知れないインパクトを持つ大事件だなあ、と思った。
A:大きなプロトンの濃度勾配を作ろうと思っても、その際に必要なことは、1個ずつプロトンを運ぶことになるわけです。実際には、1分子のグルコースの分解で、100以上のプロトンが膜を隔てて運ばれるわけですから、いわばグルコースのエネルギーを何とかして1/100以下に小分けにしなくてはならないのです。そのエネルギーを小分けにするために仕組みとして複雑な代謝系があるのです。
Q:今回の授業で一番興味を持った、熱水噴出口付近の生態系について調べてみました。熱水噴出口付近には、太陽の光が届かないので、光合成をする生物は生存できません。そこで、物質を酸化するときに生じるエネルギーを用いて有機物を生産する化学合成細菌が、生態系において独立栄養生物の役割を果たしていることがわかりました。熱水噴出口付近では硫化水素が多く発生するため、それを利用できる化学合成細菌が多く存在します。そして、授業にもでてきましたが、チューブワーム、シロウリガイなどの動物は、化学合成細菌と共生することで、深海という通常の動物は存在できない環境で生存することができます。細菌は、共生しているそれらの動物のえらから取り入れられた二酸化炭素、酸素、硫化水素などをうけとります。逆に動物は、細菌が合成した有機物を受け取ることができるので、相利共生となります。しかし、一般的に、動物が酸素を運搬するのに用いる色素であるヘモグロビンは、硫化水素と結合すると酸素を運搬する能力がなくなります。つまり、ヘモグロビン内の酸素結合部位と硫化水素結合部位が同じ場所にあるため、通常の動物にとって硫化水素は猛毒です。ところが先にあげた動物群は、硫化水素濃度がとても濃い場所で生存することができます。これは、酸素結合部位と硫化水素結合部位が異なる、ヘモグロビンを持っているからです。このように、地上の生態系を構成する生物とは全く性質の異なる生物によって、熱水噴出口付近の生態系は構成されています。なかなか不思議で楽しい世界だと思いました。
A:よく調べましたね。ただ、レポートとしては100点満点ではありません。つまり、自分の意見が「不思議で楽しい」という部分だけなのが、きちんと調べられているだけに惜しまれます。できたら、その調べたことから、さらに自分なりの考察を繰り広げることができれば満点になります。
Q:生物が活動するに当たり必要とするエネルギーはATPとして蓄えられる。地球最初の生物は独立栄養化学合成細菌と考えられているが、この生物はどのようにしてエネルギーを蓄えていたのだろうか。ATPを合成するにはATP合成酵素を経なければならないが、これは膜間のプロトン濃度の差による電位差を利用してADPからATPを合成する。太古の生物は原核生物だったはずだから、この膜間は細胞膜をはさんだものである。またATP合成酵素の性質から細胞内のプロトン濃度は細胞外より低くしなくては細胞内での合成が行えない。嫌気酸化により発生する水素イオンを排出すれば一時的に周りのpHはさがるがそれで十分だったのだろうか。そう考えると、共生により外膜に包まれ効率よく周囲のプロトン濃度をあげることのできた、のちのミトコンドリアであるシアノバクテリアにとってその共生は有利だったのかもしれない。いまでこそ核情報の大半を細胞核に奪われているが、共生の始まりとしてはたしかに他の細胞内という安定した環境以上にシアノバクテリアにとって良い条件が提示されたのかもしれない。
A:原核生物は1重の細胞膜しか持たない、というのは確かですが、その外側に細胞壁を持ちます。つまり、細胞膜の外は直接外界になるのではなく、間に細胞壁との間に間隙があり、ここにプロトンを貯めることができるのです。その意味では原核生物でも2重の膜状の構造を持っている、ということが言えます。
Q:光化学系Iのエネルギー変化をみると光合成細菌と同じ様な範囲であり、光化学系 II が形成されたのは本当に水の分解のためにわざわざエネルギーの低い状態を作っていると感じます。いままでは単純にエネルギー差が大きいほどに多くのエネルギーが得られて良いものであると思っていたのですが、還元力を得るには酸化されるものが必要であってそのためには低いエネルギー状態をあえて作らなければいけないとは大変です。深海や火山といった過酷な環境において生態系が形成されていることは以前不思議でした。それほど多くの資源が得られるわけではないし、環境の変化の影響が非常に大きく生存に関わると考えていたからです。しかし、金属酸化物や硫化水素などの酸化還元電位を操作する素材がもともと存在していることは、比較的単純にエネルギーを得ることができ、むしろ地上よりも余程いい環境であるのかもしれないと思いました。
A:熱水噴出口における生物の「住みやすさ」には、もう一つ考えなくてはいけない点があります。1つの熱水噴出口には、いわば「寿命」があってある程度度年月がたつとつまって熱水が出なくなってしまいます。その時に地上ならば、近くの住める環境に移動すればよいのですが、深海底に飛び石のように点々とある熱水噴出口の場合は、別のところにどのように行くかが問題になります。代謝だけを考えれば比較的単純ですが、実際にどのように生態系が維持されるかを考えると、いろいろと考えなくてはいけない点があります。
Q:各種回路系、呼吸と光合成の類似性、さらにはATP合成酵素の「回転」など、生物はまるで精密に作られた機械のよう(あるいはそれ以上のもの?)であると感じました。また地球最初の生命について、地球ができて最初の頃に存在していた生物にとって毒であったはずの酸素を利用するようになって多様な生物が出現したことも思い出し生物の不思議さを改めて実感しました。酸素が毒、という点で活性酸素などはそのような生物にとってもいまだ毒にもなることもある点が進化を実感させるような気がしました。
A:その通りだと思います。ただ、科学的なレポートとしては、「感じた」ことだけでなく(もちろん感じることも重要ですけど)考えたこと、発展させた点が何か1つでも明確にできるとよいかと思います。