代謝生物学 第8回講義

光合成の測定

最終回は測定方法について、分光学の基礎から説明を行ないました。酸素電極の測定にも触れ、最後にパルス変調蛍光測定法についても述べましたが、そこは時間がなくて不十分になってしまいました。


Q:差スペクトルやsinカーブによるスペクトルの近似は、知ってしまえば単純なことだが、意外に気づきにくい方法だと思った。少しの工夫によって、抽出しにくいデータを扱いやすくできることがわかった。また、透過率の対数をとることで、吸収と濃度を比例関係にできるという話があった。実際に実験を行った場合、光合成色素以外の色素でも、濃度が高くなると吸収と濃度の関係が直線性を持たなくなると思うのだが、その原因は自己吸収によるものだと考えてよいのだろうか。

A:普通の分光器では吸収が3を超えるあたりから直線性がなくなります。これは、試料を透過する光が0に近づくことによります。吸収が2から3になる、というと1違うだけ、と思いがちですが、透過率で考えると1%が0.1%になるわけです。測定誤差を考えると0.1%以下の光をきちんと測定できる方が不思議と言えるかも知れません。


Q:酸素電極の陰極は、水素イオン以外の陽イオンが反応しないようにテフロン膜で覆ってあるということですが、酸素は透過させるがイオンは透過させないという膜の特性は、テフロン樹脂の膜の性質なのですか?例えば、テフロン加工のフライパンの場合、膜の鉄板側と料理側とでは、酸素は行き来しているのですか?塩をふっても鉄板側には透過しないのでしょうか?

A:そうです。テフロンの性質によっています。例えば、セロハンだったらイオンを通してしまいます。フライパンに塩をふっても鉄板側に透過はしませんが、厚みがあると酸素もそうそうは通り抜けられないでしょうね。


Q:昨年の生態学野外実習でPAMを実際に使用した.しかし,そのときのPAMはほとんど原理はわからなかった.今回の授業でも最後にPAMの説明が少しあったけれども,簡潔すぎて,少しわかった気になっただけであり,インパクトはあまり大きくなかった.しかし,光合成活性をこうして持ち運びできるかたちで測定できるPAMという器具は今後の光合成の研究で明らかに必要である.だから,次回からは実物を見せながら一時間ぐらいPAMの説明にあてるのがいいのではないだろうか.

A:最後駆け足になってしまいましたからねえ。2単位分の講義だったら色々やれるのですが、1単位8回に納めようとするとなかなか難しいですね。確かに実物を見せながら、というのは良いとは思いますが。


Q:光合成などの測定に使われる測定器について色々説明してくれましたが、今までこういった授業は受けていなかったので新鮮でした。物理的な話も面白いですね。去年の実習前に聞けたら、もう少し実習の理解も深まったと思います。半年間ありがとうございました。

A:分光器で吸収スペクトルを測定するだけでも、きちんと測定するためには原理の理解が必要です。たまにはこのような授業もいいでしょう。


Q:今回の講義は今まさに行いつつあった実験の内容だったので、随分と参考になりました。分光器の仕組みの話や微分スペクトルの話など、いつもとは違って、技術的なこと,機械的なことを講義していただいたので僕にとってはとても面白かったです。生物学をするにもきちんとした実験をするにはバックグラウンドとしてこういったこともかなり必要になってきそうですね。
 最後の授業でしたが、最後までしつこく質問させていただきます。パルス変調の導入というスライドで、測定光として、ある周波数を持ったパルス光を用いると同じ周波数成分の蛍光を測定できるという話でしたが、どうもこの現象の原理的なところが理解できませんでした。弦楽器と同じように(?)、同じ周波数だと共鳴?して信号が増幅されるという理解でよいのでしょうか?
 毎回レポートを書くために週末に半ば強制的に復習することになったので、まとめて最後にテストというよりは、こういう方式のほうが僕にとっては内容の理解が進んだのではないかと思っています。ありがとうございました。

A:イメージとしては弦楽器の共鳴で良いと思います。実際にそれを実現する方法には、いくつかあります。僕の持っている装置では、短いパルス光をあてて、そのパルス光が当たり始めて一定時間後に蛍光が最大になった時点で蛍光によるシグナルを検出し、次にそこからさらに時間がたって、蛍光が小さくなった時点でまたシグナルを検出して、その2つの時間のシグナルの差を取り出す、というものです。あてるパルスと同期して差をとるので、なだらかな変化やあてるパルスと周波数が違う変化は差がなくて0になるという仕組みです。


Q:以前実習で測定をしたときにはパルス変調とは何かがよくわからなかったのですが、それについてはなんとなく理解することができました。が、PAMの原理はやはり難しかったです。また、葉内二酸化炭素濃度も気孔コンダクタンスも葉の内外の水蒸気密度、二酸化炭素と水蒸気の拡散抵抗の比などから計算されるということが意外にもわかりやすく、二酸化炭素吸収による光合成速度の測定で、得られたパラメータの値の求め方を調べたことがなかったのを反省しました。葉の温度が葉内の水蒸気密度を求めるのに関わってくることもわかり、PAMでも測定前に暗黒下に置くことが必要であるように、光合成に限らず測定を行うときに原理を知っておくのは正確な値を得るためにも必要だと思いました。別々の光合成の測定法から得られた光合成速度はどの程度の差が生じるものなのでしょうか?

A:二酸化炭素の吸収と、蛍光測定から、別々に電子伝達の速度を求めることができますが、厳密に実験条件を決めた場合は、かなりよく一致します。ただ、環境によっては、二酸化炭素の固定に還元力が使われず、酸素の還元に使われてしまうこともあります。そのような場合は、二酸化炭素の吸収で見た光合成速度が、蛍光測定により見積もった光合成速度を下回ることになります。これを逆に利用して、どの程度酸素に電子が流れたのかを調べる、などといった研究がなされています。


Q:パルス変調でクロロフィルの蛍光スペクトルを測定する際に、飽和パルスによってQAが完全に還元されてから、QAの酸化還元状態による蛍光レベルへの影響を除去することができ、それから励起光をあてて測定すると、そのときは熱の放出だけが励起光照射による蛍光の収率変動の原因になりますが。QAの酸化還元状態はどうやって確認しますか?また、飽和パルス光をあてても、最初は吸収された分が熱として放出されないのはなぜなんですか?

A:飽和パルス光によってQAが完全に還元されたかどうかの証明は、厳密に言うとなされていません。ただ、飽和パルス光の強度を上げていってもそれ以上蛍光強度が上がらいで飽和していれば(だから飽和パルスというわけですが)QAが完全に還元されたのだろう、と推測するわけです。熱放散には、チラコイド膜内腔のプロトン濃度の上昇などが関わっているため、短いパルス光の時間内では熱放散を増大させる仕組みは働きません。ですから熱になる収率の変化が起こらず、蛍光の収率変化も起こらないわけです。ただ、飽和パルス光のエネルギーが熱にならない、というわけではありませんけど。変調しているので飽和パルスによる蛍光自体は測定に引っかからないわけです。


Q:水蒸気の補正のところで、「水を取り除いて残りのガスを測定する」とは具体的にはどのようにすることをいうのでしょうか。脱水剤を使うという話もありましたがあまりイメージがわきませんでした。光合成系の蛍光スペクトルを液体窒素温度で測定するのだとすると、本来の温度での光合成系の動向とどのように関連づけるのでしょうか。そもそもそんなことは考えなくてもよいのでしょうか。このことについてもよくわかりませんでした。分光器の原理は先々使っていくためにもきちんと理解しておかなければいけないと思いました。残念ながら園池先生の実習には参加できませんでしたが実際に光合成に関する生データを扱ってみたいです。8回の講義は終わってみるとあっという間でした。講義で配られたプリントはこれから先参考にします。ありがとうございました。

A:水を除くには、気体を単にシリカゲルのような脱水剤を詰めた管に通せば良いわけです。実際には、水を吸収して二酸化炭素は吸収しない脱水剤を選ぶことになります。液体窒素温度での蛍光測定は、通常光化学系の量の見積に使われます。活性となると、温度が違うと何を見ているのかわからなくなりますが、量だったら、冷やす間に変わってしまうことはないでしょうから、意味がある測定ができることになります。


Q:今回の講義では、生物科学実習Iで扱った内容と関連が深く、実験内容を思い出しながらお話を聞くことができたので分かりやすかったです。特に、蛍光スペクトルの測定で試料を低温処理する理由や、酸素電極の原理など実験中には理解しきれなかった部分もご説明いただき、嬉しかったです。蛍光スペクトルに関してですが、今回の実習では青色光照射による680,740nm付近の蛍光発光を検出しましたが、以前紫外線照射下での顕微鏡観察の際に葉緑体の自家蛍光を見たことがあります。この自家蛍光もやはり680、740nm付近の波長を持つのでしょうか。照射する光が青色光と紫外線とではエネルギーに違いがあるように思いますが、蛍光には違いが出ないのでしょうか。

A:室温ではクロロフィル蛍光は680 nm付近だけに出ますが、これは、紫外線で励起しても青色光で励起しても同じです。紫外線の方がエネルギーが高いので、色素はより高いエネルギー状態にまで励起されますが、実際には、余計なエネルギーを熱に変えてすぐに最低の励起状態まで落ちてしまいます。蛍光は、つねにその最低の励起状態から基底状態に落ちるときに出るので、励起光の波長によらずに、同じ波長に蛍光を発光することになります。


Q:今回の授業で説明していただいた酸素電極による測定や液体窒素温度での蛍光スペクトルの測定を実習でちょうどやっていたので、実習をするにあたり大変参考になりました。特に酸素電極はなぜいろいろな物質を加えると酸素発生量が変わるのかが分かっていなかったので、説明を聞いてだいぶ理解することが出来ました。授業全体を通じて毎回楽しい話を聞けたのはよかったのですが、毎回話題がすごく変わるので付いていくのがちょっと大変でした。

A:そうですね。代謝生物学といっても、「代謝に関係のある生物学」という感じの講義でしたから。本郷では2年に一度しか講義をしないので、どうしても詰め込んでしまいがちです。


Q:最終回にして、機械出身の私には、測定原理そのものに着目している範囲では、一番分かりやすい授業でした(笑)。酸素電極の原理やパルス変調なども、ばっちり分かりました。光合成の測定というと、なにを測定するのかと思いましたが、光合成速度と光合成活性の測定のことを指し、前者は、光合成において二酸化炭素や酸素の濃度変化を測定すること、後者は電子伝達系の活性変化を捉えるために分光学的な測定が必要であることが分かりました。光エネルギーは光合成・蛍光・熱という3形態で消費されるので、熱拡散と蛍光強度から光合成活性を求めることは、複雑だと感じましたが、生きた葉っぱを傷つけることなく、野外のフィールドでそのまま測定できることが、植物学という学問のイメージにピッタリあうような気がして、素晴らしいことだと思いました。

A:生物学の分野における測定は数年前から「非破壊測定」に重点が移っています。顕微鏡で見るのも、昔は固定していたのを、GFPを目的のタンパク質にくっつけて生きたまま見よう、といった具合です。やはり、知りたいのは生きている状態ですから。