代謝生物学 第2回講義
好気呼吸と嫌気呼吸
第2回は呼吸について説明をしました。好気呼吸におけるエネルギー獲得、ATP合成、そして発酵が主な内容です。最後に癌における嫌気的な代謝についてお話ししましたが、この部分は国立がんセンター柏支所の江角先生の研究成果が中心です。代謝経路の図などは、主に「Essential 細胞生物学」(南江堂)から取りました。
Q:今日の授業で最も興味深かったのは腫瘍マーカーとたんぱく質についてです。胎児期の嫌気呼吸を利用し、膵臓ガンなどのがんが育つ、というのは怖いと思いました。そもそも低酸素下で行われる嫌気呼吸が、人間の体内でも行われていることに驚きました。ガン組織が、体内でどのようにエネルギーを得て成長していくか、ということが、エネルギー代謝の観点から知ることができて、面白かったです。また、嫌気的解糖を利用しているアルコール発酵 、乳酸発酵、 酢酸発酵を利用してヒトが感じるうまみ成分のコハク酸を蓄積させる、という技術を大昔に、まだ代謝生物学などが無い時代から、行っていた古代の人々を改めてスゴイ、と実感しました。
A:最後の嫌気的解糖のところに誤解があるような。いわゆる発酵でコハク酸を蓄積するのではありません。発酵では、NADP+を再生するために、ピルビン酸をアルコールや乳酸などに変えるわけですが、コハク酸もそれと同じで、フマル酸を還元してNADP+を再生しています。つまり、コハク酸を作る反応において、アルコール発酵と似たしくみでエネルギーを得ているのは確かですが、アルコール発酵ではアルコールを作るだけでコハク酸は作りません。コハク酸を作る反応は、普通フマル酸呼吸と呼び、アルコール発酵や乳酸発酵とは別物です。
Q:電子伝達により生じるプロトン濃度勾配について。膜を隔ててイオンの濃度差がある場合、単純に考えれば、イオンの濃度差のほかに膜電位も生じるはずである。確かに、いずれも電気化学ポテンシャルという意味では同じかもしれないが、膜の性質が異なる場合は、ATP合成エネルギーに対する両者の寄与の程度が異なってくるのではないか。
Jagendorfの実験は、葉緑体におけるATP合成にはプロトン濃度勾配の電気化学ポテンシャルが用いられていることは証明した。しかしながら、pH差によるエネルギーを利用しているのか膜電位を利用しているのか、その両方なのかについてはこの実験からでは判断できないように思う。
両者を区別する必要はないのかもしれないが、葉緑体とミトコンドリアではATP合成に対する両者の寄与が異なっているように思える。ミトコンドリアの場合は外膜がプロトンを透過させるためにpH差は生じないと言われていることから、主として膜電位をATP合成に利用していると考えられる。葉緑体の場合はチラコイド内腔とストロマとの間にpH差があることが知られているが、膜電位はあまり利用していないと考えてよいのだろうか。膜電位が生じる条件(膜が他のイオンを透過しにくい場合)では、膜電位が高くなりすぎるために10^3オーダーのプロトン濃度差は実現できないように思う。
A:おや、こんな専門的なレポートが返ってくるとは思いませんでした。確かに、電気化学的ポテンシャルのうち、ミトコンドリアでは膜電位の項が主に効き、葉緑体ではプロトン濃度の項が主に効くという実験結果が得られています。メカニズムとしては確かにそうなのでしょうけれども、なぜ、そのようにミトコンドリアと葉緑体で違うシステムを使う必要があるのか、についてはよくわかりませんね。
Q:講義の後半はより身近な話で面白かったです。がんは酸素欠乏状態でも増え続けられるのは、嫌気呼吸回路へ代謝系のスイッチが切り替わったからという考え があるとおっしゃいました。たしかに、発生の過程において、細胞が短期間で極めて高い効率で増殖するという点では、がんに似ていますね。もし、発生の終わり頃で体細胞分裂を抑制する制御因子が見つかれば、がんは治せるのではないでしょうか。授業の最後で、胎児期にはある種の腫瘍マーカータンパク質が検出されたという話がありましたが、代謝とは関係ないんですけれど、その腫瘍マーカータンパク質はがんの成長においてどういう機能を持っているのでしょうか?
A:がんを治そうと思った場合、一番問題となるのはがんだけに作用して他の正常細胞には作用しないような物質、もしくは方策を考えなくてはならない点だと思います。体細胞分裂を抑制することは可能だと思いますが、正常な体の分裂まで止まってしまっては元も子もありませんから。あと、おそらく講義で紹介したような腫瘍マーカータンパク質は、嫌気条件下での細胞増殖に必要な因子なのでしょうね。
Q:Molecular Biology of the Cellの酸化的リン酸化の項を読んだとき、「多段階を経て糖を酸化させることで、熱エネルギーとして放出されてしまうことなくADPとPiをATPに変えていく」ということを無批判的に受け入れていた。ところが今回、活性化エネルギーが経路の中で分割されて酵素反応に対して適切な値の連続になる、という考え方が講義中にわかった。酵素反応の平衡定数の大きさをみても、またそれぞれの酵素はもっとプリミティヴな機構を進化的に継承しているはずと考えても、納得ができる。
癌の話については、発生する臓器によって癌細胞の酸素利用に大きな違いがあると知り驚いた。しかし確かに、肝臓には門脈と肝動脈の2流入があって、そもそも嫌気的代謝を行う必要がないぐらい酸素の供給がおこりうる。そして膵臓では、肝臓での状況と比べて苛烈な酸素競争があるものと考えれば、その細胞集団の中で分化的制御をうけない癌細胞が嫌気的代謝を開始したときの優位性は否定できない。では、転移しやすいこの膵臓癌に対しては、血管新生を止めるのではなく、逆に血管新生を促進してやれば道が開けるのではないか。旺盛な血管新生で血流が増加したことで、嫌気代謝系の発現が不必要になり、癌細胞は扱いやすくなるのではないだろうか。
A:確かに、膵臓の酸素分圧を上げた時に、その中のがんの増殖がどうなるか、ちょっと興味がありますね。ただ、酸素というのは、本質的には人間の正常細胞にとっても毒ですから、通常酸素分圧が低い細胞で酸素分圧を急に上げると、正常細胞での代謝も大きく阻害される可能性があります。活性酸素などによる生物活動の阻害については、今後の講義の中で触れる予定です。
Q:今回の授業を受けて、改めて感じたのは、生物というのは本当に良くできているということです。代謝反応を複雑にすることによって、エネルギーを小出しにして、エネルギー回収の効率を良くしたり、活性化反応を下げ、体温でも反応が起るようにしたり、嫌気的呼吸や好気的呼吸を使い分けたり、他の様々なことを、我々の肉眼では見えない小さな細胞が行っているということに何とも言えない気持ちになりました。何億年という単位で進化してきたということを考えれば、現在でも生き残っているシステムが洗練されているというのは当たり前なのかもしれませんが。先生の今回の授業の代謝反応の教え方は、今まで受けた代謝反応の授業よりも論理的であったので、面白かったです。
A:お褒めのお言葉恐縮です。「活性化反応を下げ」というのは「活性化エネルギーを下げ」ですね。生物の反応は、一見複雑に見えますが、その理由を考えると必然的な場合が多いものです。ですから、単なる代謝経路についても「なぜ」と考える習慣をつけておくと、より生命の理解が進むと思います。
Q:先学期試験の為もあって回路の構成要素等はある程度細かく覚えましたが、やはり重要事項を抽出することは大事ですよね。これからも示唆を含めて頂けると有り難いです。ATP合成酵素については知っている内容でしたが、嫌気的な代謝については知らないことばかりで、興味深かったです。最後に、しじみの話のような内容はより実学的でよいと思いました。生物学的視点から普段目にするものについて考察してみるのも勉強の一助になりそうですね。
A:そうですね。勉強のコツは「なるべく自分に引きつけて考える」ことだと思います。事実の羅列を覚えるだけでは、生物学はただの暗記科目に落ちぶれてしまいます。どんな場合でも、その「意味」を考えるようにしましょう。
Q:クエン酸回路の意味にとても納得いきました。これまで、経路の個々の反応にしか目を向けてこなかったので、複雑さには理由があるということがわかり非常におもしろかったです。また、低酸素下でも大丈夫ながんは胎児期用の代謝系を流用しているのではないかというところ、人間にも嫌気呼吸回路があるということを知り驚きました。発がんにより代謝系のスイッチが切り替わる場合があるということでしたが、胎児期用の代謝系に切り替わってしまった細胞→偶然がんになる、ではなく、がんになる→代謝系の切り替えの順なのでしょうか。(がん細胞の異常な増殖により部分的な低酸素状態になると代謝系の切り替えが起こる??)普通の体細胞を嫌気下で培養してもそういうことは起こらないのだろうか?と思いました。
A:基本的には、がんになると、その結果、代謝経路にいろいろな変化が引き起こされるのだと思います。代謝の変化によってがんになるのではないでしょう。擬人的な表現をすれば、がんが自分の都合のよいように細胞内の代謝を操作している、といったところでしょうか。(サイエンスとしては擬人的な理解は有害なことも多いのですが、その方が理解しやすい場合もありますので勘弁してもらいましょう)
Q: これまで人間は好気呼吸だけ行っていると思っていたので、今回の講義で人間にも嫌気呼吸回路があると知って新鮮でした。よくテレビの健康番組で運動には有酸素運動と無酸素運動があり、ダイエットには有酸素運動が良いと放送されていますが、無酸素運動しているときの人間は嫌気呼吸回路でエネルギーを得ているのでしょうか。激しい運動をすると乳酸が貯まって、疲労の原因になるといわれていますが、この乳酸は嫌気呼吸によって出来たものなのでしょうか。乳酸発酵ではエネルギーと一緒に乳酸が生産されますが、人間の嫌気呼吸の場合でも乳酸は生産されるのでしょうか。人間も胎児のときには低酸素状態で回虫と同じように有機酸呼吸でエネルギーを得ているということでしたが、この結果できるコハク酸は胎児にとって何かプラスになる作用を持っているのでしょうか。
A:まず、有酸素運動と無酸素運動という言葉は、どちらかというと概念的なもので、起こっている代謝反応と1対1に対応するものではないと思います。激しい運動では確かに一種の嫌気呼吸がおこり、結果として乳酸が生成されます。かつては、乳酸が筋肉痛の原因である、といわれていたこともありますが、現在では否定的な結果の方が多いようです。医学は僕の専門でないので、しかとは言えませんが、人間の胎児の場合は、直接的に低酸素代謝の存在が示されているわけではないと思います。また、嫌気呼吸をしていたとしても、その種類にはいくつかあり、コハク酸ができるフマル酸呼吸はそのうちの1つに過ぎません。
Q:第二回も丁寧なご説明ありがとうございました。今回の授業ではがんと代謝系の話題が特に興味深かったです。がんと血管新生との関わりに注目した抗がん剤開発の話は以前本で読んだことがあり、そのとき自分なりに考え納得してしまっていただけに、膵臓がんなどで血流量が増大していないというデータを見て少し残念に思いました。と同時に物事を多面的に考えることの重大性を痛感させられました。
今回の講義ではがんが胎児期用の代謝系を利用してエネルギーを獲得している可能性が挙げられていました。胎児期用代謝系の存在や、この代謝系とがんとのかかわりに関する明確なデータは示されていません。しかしもし今後これらのことが明らかになり、この代謝系が成体の正常細胞で機能していないことが示されたら、胎児期とがん化した細胞にのみ発現する、代謝系の酵素タンパク質自体がより鋭敏な腫瘍マーカーになりうるのでしょうか。
A:僕は専門家ではないのでよく知りませんが、腫瘍マーカーというのは、おそらく主に血液検査で調べるのだと思います。その場合、特異性ももちろんですが、そのタンパク質が血液中に放出されることも必要になりますよね。ですから、問題の代謝系の全ての酵素タンパク質が腫瘍マーカになりうるわけではないのだと思います。
Q:今回の呼吸の講義では教養4学期専門科目の生化Iで同じ内容を扱っていたので話もだいぶわかりやすかったです。シジミの美味しい召し上がり方などユーモアも利いていました。ところで質問なんですが好気呼吸のATP生成様式のところでATP合成酵素が出てきましたがあの柄にあたる部分にγ、ε、δの3つのサブユニットがありますよね。H+輸送によってγサブユニットが回転してαβサブユニットのコンフォメーションが切り替わるって習ったんですけどεとδの2つは回転しないんですか?回転しないならその2つがどんな機能を持っているんでしょうか?
A:δは回りません。δはいわばαβがγと一緒に回ってしまわないように固定する支持棒の役割を果たしていると考えられています。一方、εは、γサブユニットと結合したり、離れたりすることによってATP合成酵素の活性調節を担っていると考えられています。ということは、たぶん回らないんでしょうね。ただ、回るか回らないかについて実験的な証拠はまだないのではないかと思います。
Q: 好気呼吸と嫌気呼吸、特に嫌気呼吸で癌の話やシジミの話まであって面白かったです。クエン酸回路で2CのアセチルCoAからCO2の間の反応の数を増やして細かいステップに分けて体温で超えられるような活性化エネルギーにするためにアセチルCoAに4Cのオキサロ酢酸をつけて回路の多様性を増しているというのにはなるほどと思いました。ただ、代謝反応と燃焼を比較したときに、燃焼のエネルギーがすべて熱に変わってしまうのに、代謝反応のように細かくステップを分けるとどうしてエネルギー差がATP(と一部は熱)になってしまうのかよく納得できませんでした。ATPが作られるための酵素反応の活性化エネルギーと関係して多くのステップに分けているのでしょうか?だとしたら燃焼の活性エネルギーを超えられる酵素反応(?)があったとしたら、糖を燃焼させてATPを取り出せるのでしょうか?
癌の話とても興味深く聞きました。ヒトには低酸素で嫌気呼吸する癌と血流酸素で好気呼吸する癌とがあるようですが、マウスではVGFをとめると癌が減るということは、マウスには好気呼吸の癌しかなくて、嫌気呼吸の癌はヒトに特有なのでしょうか?また、ヒトの代謝系(酸化的リン酸化)と発酵を比べてみても嫌気呼吸はあまり効率がよくないように思えるし、NADHの酸化によって水以外のものが出てくるのも都合が悪そうに思えるのですが、そういう嫌気呼吸をするらしい癌のほうが転移しやすく悪性というのも不思議な感じがしました。また発癌で代謝系のスイッチが胎児期型に切り替わる仕組みについてももう少し知りたく思いました。
もう一つ興味を持ったのが今いる生物の多くが好気呼吸のシステムを持っているということです。というのは、原始の地球は酸素がなく嫌気状態だったので、当然、最初の生物は嫌気呼吸でエネルギーを獲得していただろうからです。ということは好気呼吸というシステムは光合成をするシアノバクテリアが酸素を作り始めてから進化の中で獲得したシステムということになって、そういうシステムが生まれてきたこと自体、僕には驚きでした。ただ、そのシステムが基質レベルのリン酸化のような化学物質の反応によるのが主ではなくて、酸化的リン酸化のような生物がそれまでに持っていた膜などの構造によるエネルギー獲得を主としているということは進化していく上では合理的なことだったかもしれないと思いました。
A:燃焼のようなワン・ステップの反応の場合、数多くのATPを一度の反応で作ることは、極めて難しいと思います。おそらく一回の反応で1分子のATPを作ることならできるのだと思いますが、その場合には、その1分子のATP以外のエネルギーは全て熱になるでしょうから、おそらく生体内の反応としては(温度が上がるため)成り立たないでしょう。「複数のステップに分けるとATPができる」のではなく、「複数のステップにしない限りATPはできない」ということです。
ガンの話の部分は、何しろ僕自身は専門家ではないので、なかなかかゆいところに手が届く説明というわけにはいきません。申し訳ありませんが我慢してください。
次回の講義で、さまざまなエネルギー獲得様式について説明する予定ですが、基本的には酸化還元電位の異なる2つの物質があれば、エネルギーを獲得することができます。酸素は、高い酸化還元電位を持つので、使いやすいのですが、酸素以外にもさまざまな物質が使われており、全体として眺めると、酸素もそれらの物質の1つ、という印象を持ちます。
Q:代謝系のスイッチがどのようにして切り替わるのかに興味がわきました。癌細胞でない普通の細胞でも低酸素状態になると同じように代謝の切り替えや血流の増殖が起こるのでしょうか?またもし癌自身が切り替えをおこしているのなら寄生動物のように癌もひとつの生き物なのかもしれないと驚きました。
A:上にも書きましたが、あえて擬人的な表現をとれば、がん自身が切り替えをしているということになります。「がんも一つの生き物」というより、そもそも、細胞自体が生き物ですからね。「がん」というのは細胞増殖の様式の1つという見方もできるのではないでしょうか。
Q:Jagendorfの実験では、プロトンについてチラコイド膜を隔てて形成された、チラコイド内腔とストロマとの間の化学浸透エネルギーが、ATP合成と共役していることを示したようですが、葉緑体を酸性の溶液につけている間にも電子伝達系が活性化されていたら、チラコイド内腔へのプロトンの貯蓄は起こってしまうのではないのでしょうか?もし酸性溶液中でもこのプロトン輸送が起こるとすれば、チラコイド内腔は激しく酸性になり、まあまあ酸性なストロマとの差によってやはりATPは合成されてしまうのではないでしょうか?それとも、ストロマ側が酸性になると、電子伝達系と共役するプロトン輸送は起こらなくなり、ATP合成が起こらなくなるのでしょうか?
A:Jagendorfが葉緑体を使った一つの理由は、光合成の電子伝達系の場合、光によって簡単に反応のオン・オフができる点です。つまり、ミトコンドリアと違って、暗所で実験を行えば、電子伝達はそもそも全く起こらないわけです。葉緑体がATPを作るのは当たり前ですが、葉緑体が「暗いところで」ATPを作った、という点がミソなのです。
Q:C2+C4→C6→C5(+C1)→C4(+C1)と順々にCの数を変えていく必要性など考えたことはなかった。でも、授業で体温程度で活性エネルギーに達する為にはCの数を順々に変えていく必要があると聞いて驚かされた。確かにC6→C1に一気に反応させようとするときの活性エネルギーを得るためには、何か他からのエネルギー補給が必要で効率が悪い。また、反応で得られたエネルギーも貯蔵する事ができないとなればなおさらだ。しかし、「進化は偶然に起こる」のであれば、この複雑なクエン酸回路は偶然によって生じたのだろうか?クエン酸回路で生じた還元力を電子伝達系で使うというのも『偶然』なのか?『必然』性を感じざるを得ない……どうしてこんなにも複雑なのだろうか??
A:こんなにも複雑な生物が「偶然」できたはずはない、という議論は、自然選択説が唱えられて以来ほとんどいつもなされてきました。ラマルクの説などを扱った科学史の本などを読んでみると面白いと思いますよ。
Q: 糖の燃焼と呼吸による糖の分解は反応式の反応物と生成物だけをみれば全く同じだが、前者は反応が一気に起こりほとんどのエネルギーが熱として放出されるのに対し、後者は反応が多段階的に起こることにより一段階ごとにエネルギーが有効利用され、結果としてATPが多くつくられる。両者を比較してみると、いかに呼吸による糖の分解がエネルギーの無駄を少なくしているかわかるが、これは初期の生物からこういう反応経路が完成されていたのだろうか。
僕は、進化的にこの経路がじょじょに形成されたと考える。すなわち、初期の生物の呼吸経路は今ほど多段階的ではなく、それゆえいまほど多くのATPを産生できなかっただろう。そして、突然変異などの原因でより多段階の呼吸経路をもつより適応的な生物が生じ自然淘汰によりその生物が多数派になり、それを何回も繰り返して今の呼吸経路ができたのだろう。
さらに、現生生物の呼吸経路が考えうる経路のなかで最も適応的なものなのか考えるのはおもしろい。もし、最適経路でなければ、将来いまの呼吸経路は消滅するかかもしれないわけだから。
A:進化を考える上でもう一つ重要なのは、注目しているメカニズムがただ1つのチャンスを捉えて作られたのか、それとも繰り返し現れているか、という点でしょう。鳥の羽とコウモリの翼は独立に作られたわけですから、その形態的な類似性は、機能的な要請(もしくは制限)から来ているはずです。一方で、もし、現在の好気呼吸の代謝経路が単一起源であれば、全く新しい発想での代謝経路が存在する可能性は否定できませんね。呼吸には、いろいろなやり方がありますが、その中で保存されている部分と独自な部分を比較する、という考え方もあるかも知れません。