代謝生物学 第6回講義

植物の低温感受性

第6回は、キュウリやトマトなどの低温に弱い植物が低温にさらされたときに、どのような障害がもたらされるのか、そしてその原因は何か、という問題に関する研究を、そのステップごとに解説しました。何度も繰り返し話したことのある話なので、どうしてもペースが速くなってしまいました。わかりづらかったことをお詫びします。


Q:ホウレンソウはin vitroで光をあてると25度では始めに急激に減っていますが低温ではなだらかに減少しているのは何故ですか?

A:室温では化学反応が進みやすいので、光阻害が進行する速度も速くなります。一方、室温では、光化学系IIが徐々に傷むので、光化学系IIからの還元力が必要な光化学系Iの光阻害は処理の後半で抑えられます。従って、最初は室温で速く進む系Iの光阻害が処理の後半は低温でより進むことになります。


Q:研究のための戦略を細かく聴けたことは大変有意義でした。特に、基礎研究に応用を見据えた視野を持ち込んで実験条件を絞るというのは興味深かったです。また、研究をしたことのない自分にとって、戦略をたてるためには、まず、実験で何を明らかにする技術なら自分は持っているのか、ということをしっかりと把握する必要があると感じました。

A:応用を見据えた、ということは、別の言い方をすれば、実際に起こりうる現象を研究する、ということです。実験室の中でだけ起こることを研究してもつまらないですよね。


Q:実験を行なう上での考え方や方向性の立て方がなんとなく分かりました。ただ、講義の進み方がとても速かったので一つのグラフを理解しきらないまま次のグラフの説明になってしまい、内容はいまいち把握できませんでした。そのグラフからどうしてそのような結論が出るのか考えてる間に次に進んでしまったので、もっと考える時間が欲しかったです。in vitroの状態で実験したとき、低温耐性のホウレンソウにおいても5℃でも25℃でも弱い光で阻害されたことから、in vivoではPS I を保護するメカニズムがあるという結論を出していましたが、その考えは非常に安易に思え、これでいいのかなぁと考えてしまいました。むしろ逆に、in vitroという条件が、いかなる温度での光合成をも阻害しているという考え方もできるのではないかと考えました。いい考え方が思いつきませんが、例えば、剥き出しのチラコイドではin vivoと違ったメカニズムが働いているとか。これは経験的に誤りだと分かっているから考えないのでしょうか。

A:別に、in vitroとin vivoの実験の差については、何が原因か結論が出たわけではありません。別の原因である可能性もあります。ただ、いろいろ考えた末、話したストーリーが一番無理がないと結論しました。in vivoとin vitroでは、酸素の要求性、阻害の部位、など非常に良く似ていますので、全然別の現象を見ている、という可能性は少ないと思います。


Q:今回の内容は最後までよく理解して聞くことができませんでした。わかったことは、当然のことながら、研究をするには関連する知識を頭にしっかり入れておくことが重要だということです。データがとれても適切な考察ができないし、次にどんな実験をすればその考察の裏づけや、もっと詳しい現象の解明ができるかもわからないでしょう。いままでの講義の内容が未消化になっていたので今回の講義が理解できなかったんだと思います。勉強します。

A:他の人からの感想を見ても、講義のわかりにくさは、僕の方に原因があるようです。すみません。


Q:実験を行うにあたってまずやらねばならないことが、過去の論文の検索だということを聞いて、今更ながら英語の勉強をしようと思った。例え理学部における実験でも、農業上の効果など、実社会への影響を考えるという姿勢はかっこいいと思う。実験の結果から安直に結論を出すことなく、機構を推測し、それを示せるような実験をさらに行うなど、あくまで論理的に考えていかなければならないことを知った。

A:英語は、研究者になるのだったら必須ですよ。論文を読むためだけではなく、成果の発表も、最終的には英語が必要になりますから。


Q:研究をするに際してのストラテジーを聞くのは面白いので(&あまり聞けないので)好きです。なるほど、といちいち感心しながら聞いていました。稲で四分子胞子形成に低温障害が起こるということでしたがそれは、PSIの阻害との繋がりはあるのでしょうか?また、低温障害は暖めた後に、障害が起きるとのことでしたが低温環境に長くおいた場合や、低温からゆっくりと暖めた場合などでは、どのように反応が変わるのでしょうか?あと、いつだか質問した気がするのですが(いつ書いたのかわからないので)、植物は、体内で積極的に熱を発生させる機構をもってはいないのでしょうか?植物内の温度は外気温と同じと考えてよいのでしょうか?クラミドモナスとかの細菌でも低温障害は起きるのでしょうか。質問攻めになってしまいましたが、御願いします。

A:イネの四分子形成と系Iの阻害は全く独立の話です。低温に非常に長くおけば室温に戻さなくともクロロフィルの退色が起こります。植物の発熱は、ザゼンソウやスイレンなどで見られます。その場合は植物の温度は外気温より高くなります。一般に、藻類やシアノバクテリアでは、低温感受性植物で見られるようなタイプの阻害は起こらないようです。ただし、低温にすれば、もちろん生育は遅くなります。


Q:キュウリでは、低温下でPSIが分解するため、葉が変色するとのことでしたが、通常の、低温に耐性のある植物ではどのような仕組みでPSIの(による)ダメージを防いでいるのでしょうか? キュウリではなぜ低温耐性を持たないのでしょうか?

A:低温耐性の仕組みについては、未だにまだ、わかっていません。


Q:実際の展開を追って考えながら見ていけて、楽しめました。低温で分解が進まない話を聞いたとき、低温なら当然ではないかと考えてしまいましたが、別の考え方にも触れられてたりしたあたりは、特に楽しめました。

A:生物を研究する上では、いろいろな考え方ができることが非常に重要だと思いますよ。


Q:今回の話はあまりよく理解できませんでした。とくに後半は自分にとっては進み方が速くてついていけませんでした。(光強度の違いが関係ないことからどうして二つの仮説のうちクロロフィルが積極的に分解されていくというほうなのではないかと考えられるのですか?)けれども論理の展開の仕方、研究の進め方というものが少しわっかたように思われました。

A:受動的な分解の場合は、メカニズムとして光エネルギーによる直接的な分解が考えられます。その場合は、光の強度(つまりエネルギー)を変化させれば、分解の速度も変わるはずだ、と考えたのです。実際には、変わらなかったので、温度の実験の結果も合わせて、積極的な分解であると結論しました。


Q:今回の範囲は、先生が言っていた通り、かなり現場的な内容だったので、ついていくので精一杯でした。ある実験からある実験への流れだけを追って行っただけなので考察とかもほとんど鵜呑み状態でした。先生はある実験の考察をするのにどのぐらいの時間かかっているのですか?また、その考察をして次の実験をするまでにはどのぐらいかかっているのですか?先生の話を聞いているとかなりスムーズにことが進んでいるような気がするんですけれども。

A:今回の話のメインな部分は2年間ぐらいの実験結果です。ただし、周辺領域も含めて、全体では10年近くかかりました。この話は、かなりスムーズに進んだと思うのですが、それでも、かなりの年月が背景にあります。


Q:今回の講義は植物の低温障害が光化学系Iの分解によるもので、ダメージを受けたクロロフィルが分解されて可視障害となって現れるということですが、光合成活性が回復するとともに可視障害がひどくなるというのはそれだけ色素の分解速度が遅いということでよいのでしょうか。
 またもうひとつ、以前は光化学系Iは安定であると思われてきていたということですが、それはつまりほかの環境ストレスに対しては光化学系IIより光化学系Iの方が安定であるということなのでしょうか。以上2点、気になりました。

A:活性の現象は処理中の数時間で起こるのに対して、色素の分解は3日ぐらいを要します。その意味では、確かに色素の分解は遅いと言えます。低温以外の環境ストレスでは、系Iの方が安定であるようです。


Q:今回の講議は、低温耐性についての、実際の研究についての説明だった。自分としては、途中からわけがわからなくなり、最後の結論だけは納得した感じだった。というのも、反応中心のchemicalな実験とphotochemicalな実験の違いの説明のところで、まず、反応中心の仕組みがわかっていなかった。そのため実験の意図がつかめず、そこからずるずるとわけがわからないまま講議が続いたからだ。
 当たり前の事だが、研究内容を理解するには、基礎知識をきっちり身に付けて、いつでも思い出せるようにしておかなければ、と強く思った。

A:申し訳ありません。もうちょっとゆっくり話すべきでしたね。


Q:低温感受性の研究を紹介する、という内容でしたが、やはり研究は思ったとおりに進められるものではないのだ、ということを再確認するとともに、ネガティブデータに対して積極的でなければならない、と感じました。予想と違う結果が出てもすぐに代案を出す姿勢が大事なのだろうな、と思います。

A:そうですね。ネガティブデータといっても、自分の予想と違う結果ということであれば、大切です。一方、再現性のない結果、というのは、たいてい役に立ちません。


Q:4℃に5時間→25℃に19時間という条件ではPSIの分解が起こり、ずっと4℃においたままだと分解が起こらないということでしたが、低温によって障害を受けたPSIがさらに被害を拡大することを防ぐためにPSIを能動的に分解しているのだとすると、ずっと低温の条件ではPSIを分解できないという機構は手落ちのような気がしてしまいます。講義の前半で言われたようにずっと低温の環境ではどうせ光合成をすることができないので、植物の方もPSIを分解する機構を働かせてまで生育しようとはしないということなのでしょうか。

A:もともと、生物が適応しているのは、その生育条件に大してです。キュウリは24時間4℃にさらされる、などというところには生えませんし、人間が栽培することもありません。経験するはずのない環境条件には適応できない、ということはむしろ自然ではないでしょうか。


Q:植物の低温における光合成阻害の原因は、PSIでは結局低温ではなく活性酸素であり、低温ではPSIを保護する機構が壊れるため阻害が起こるということでした。この保護する機構というのは以前の講義で出た活性酸素消去系ということで良いのでしょうか?とするとこれが低温で働かなくなるのは酵素があまり働かなくなるからということで理解できますが、ホウレンソウなどで阻害が起きないのはどうしてですか?

A:保護機構の1つの候補が活性酸素消去系であることは確かですが、まだ結論が出ていません。ホウレンソウでは阻害が起きない原因についても、未だ不明のままです。


Q:通常は鉄イオンセンターに電子はたまらず影響はないのに、低温処理すると何故たまってしまうのかがよく分からなかった。低温感受性というのはこの鉄イオンセンターによるものなのですか?また、低温処理をしたPSIで出てくる新しいバンドの元となるたんぱく質とそれが何をやっているのかが分からなかった。ほうれん草の低温耐性はなにによるものなのですか?結構in vitroとin vivoがごっちゃになりやすかった。クロロフィルを壊すというところで、じっさいPSIの活性が失われるとどのようにして壊すところまで至るのですか?最近の研究で何がわかっていないのかがよく分からなくなるときがあった。

A:低温感受性の本質はまだわかっていません。ただ、低温にすると、化学反応である炭酸固定反応の速度が落ちるのに対して、物理反応である光エネルギーの吸収の速度はあまり変化しませんから、どうしても、還元力はたまりやすくなります。活性が失われた系Iが、どのように認識されて壊されるのかについても、今だわかっていません。この辺の話は、最近の研究でも、まだわかっていないことだらけなのです。


Q:今、実習で葉の光合成量を調べるというのをやっていて、条件を好きなように設定して実験してみていいということだったので、みんなで聞いたばかりの低温障害をためしてみました。結果は下がっているといえば下がっているというかんじで、常温に置いておいた対照用のほうも下がっていたので・・・。一時間ごとに冷蔵庫から出してきて測定して、四時間冷やしたんですが、何時間くらい低温にすると効果があるんでしょうか?(授業で聞いた実験では五時間という設定が多かったと思いますが)
 還元型金属によって過酸化水素からHydooxyl radicalができ、鉄イオウセンターやサブユニットを壊してしまうというあたりは、だいぶ入り組んでいましたがわかりやすかったです。肝心の低温というのは、どこで察知されてまず何をおこすのかがよくわからなかったのですが・・・

A:キュウリなどでは、5時間ぐらいで失活が起こりますが、光の強さにもよります。完全暗黒下では、低温にしても、数時間ぐらいではびくともしません。冷蔵庫の場合は暗所ですかね?どうだとすると、あまり活性は落ちないでしょう。低温の感知システムは未だに不明です。


Q:研究戦略を学ぶ講義、とのことでしたが、次々に展開するモデルとその検証実験法でお腹いっぱいになりました。早い段階で余計なバンドが綺麗に一本でて、プロテアーゼの関与を予感させているのがすごいと思いました。ところで、5ページの3枚目のスライドでin vitro系にもかかわらず葉面積あたりの値が出ていますが、これはチラコイド膜を取り出す前の面積と言うことでしょうか?葉面積あたりのクロロフィル量のグラフを出さないのはなぜですか?

A:チラコイド膜を取り出す前の面積、といってもよいかと思います。ものの量がトータルに増えたか減ったかを絶対値で知りたいときは葉面積の方が便利なので、そのような値を使います。葉面積あたりのクロロフィル量のグラフは、そのすぐ下のグラフ(5ページの5枚目)になります。


Q:今回の内容は複雑で(私の中で)整理が必要でした。
 活性酸素の発生が光阻害の最終的な犯人であるようですが,その作用機構は様々な段階が考えられ,必ずしもPSI鉄-硫黄中心や反応中心の破壊のみとは限らないと思います。活性酸素は拡散律速であるがゆえに発生場所から離れて存在するPSIIには影響を及ぼさないのでしょうか?例えばクロロフィルの分解の一部を活性酸素が担っているとは考えられないでしょうか?
 光阻害がどのような種類の阻害機構を持つのかは、体系だって授業で扱っていないと思うのですが、PSIでは活性酸素の発生が、PSIIではプラストキノンプールの還元がその主な機構であると解釈してよいのでしょうか?また、PSIにはAPX等を介した活性酸素の消去系だけでなく、さらにintactの細胞状態では他に何らかの光阻害防御機構を持っているとすると,このような二重の防御機構があるにもかかわらず、反応中心の破壊によりクロロフィルの分解を行う活性が大きいのはなぜでしょうか?PSI複合体の方がPSII複合体よりもかなり複雑な構造をしていて、それだけ合成にコストがかかるため、と考えたのですが・・・。

A:「活性酸素は拡散律速であるがゆえに発生場所から離れて存在するPSIIには影響を及ぼさない」というのは、まさに僕が今考えていることです。今のところ、クロロフィルの分解も酵素的に起こっていると考えています。PSIの光阻害が活性酸素によるというのは確かです。PSIIではプラストキノンプールが還元された結果、電荷分離が起こっても、すぐに再結合し、その際、三重項のクロロフィルから一重項の酸素ができて光阻害につながると考えられています。ですからPSIIの場合も、活性酸素が阻害の原因であるといえます。PSIIの場合は、光阻害によってD1と呼ばれるサブユニットだけが破壊され、そこだけ取り替えられるようにして修復されることが知られています。おそらく、それに対して、PSIでは、全体を作り直さなくてはならないことが、クロロフィルの分解の原因なのではないでしょうか。