代謝生物学 第1回講義
地球と生命の歴史
初回は一種のイントロダクションとして地球と生命の歴史について概説しました。参考資料は丸山・磯崎著の「地球と生命の歴史」(岩波新書)です。今回の講義に寄せられた意見と、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。
Q: 地球の変化が生命の生存を可能にし、そうして出現した生命がまた地球の環境を変えていく。次々と起こる地球の変化が更なる変化の原因となり、滑らかに説明がつくようになる。地上に残る微細な証拠から、太古の地球で何があったのか、研究によって次第に明らかにしていく快感は言葉では表せないだろう。
授業中はストロマトライトや硫化水素を利用するバクテリアに強いときめきを感じた。ストロマトライトは今まで地上になかった酸素を作り、地球の姿をまるっきり変えてしまったものだし、普通に酸素を吸っている僕には到底生きられそうにないような生態系で生きるバクテリアがいる。恐らく、そんな無理やりさ、生命の持つ力のようなものに僕は引かれているんじゃないかと思う。
A:地球史のような分野は、まだ、新しい事実が明らかになれば、今まで定説であったことが、全く否定される可能性もなくはないと思います。それを考えると、快感にひたっているばかりはいられないかも知れませんね。酸素は実は毒でもあります。最初に酸素がたまってきたときは生物は大変だったでしょう。その辺も今後の講義で触れる予定です。
Q:興味を引かれた点は、硫化水素という化学物質で生命を維持している生き物がいるということだった。熱水噴出孔に生命の起源があると聞いてはいたが、まさか化学物質を糧にしているとは思わなかった。ほかに、ある岩の中の同位対比が変化していることがなにがしかの生命がいたことの手がかりになるかもしれないというのに驚いた。ひとつ疑問に思ったことは、なぜ地磁気が形成されたのかということだった。細胞の大きさが生物にとってかなり致命的な問題であるということも面白かった。後、授業について言えば、要所要所の図式を黒板を使って示してほしかった。
A:どうも、僕は黒板の使い方が下手ですみません。なるべく努力はするつもりですが。地磁気の形成は、地球の核(鉄が主成分)の対流もしくは回転によるものと思われます。ただ、具体的なメカニズムは僕も良く知りません。
Q:”地球が成立したのは微惑星の衝突のエネルギーによって発生した熱や気体による”という講義を聴いて、他の惑星もきっと同様に微惑星の衝突によって成立したはずなのに生命が誕生しなかったのは、地球とどういった条件の違いによるものなのか、ただ温度条件の違いによるだけなのかという点にも興味を持ちました。さらに、”マントルへの海水逆流の結果、海水の塩分濃度が上昇するが、それによる直接的な影響はない”とおっしゃっていましたが、私は海水の濃度変化によって海中の生物が死亡し、それが酸素の増加にも影響を及ぼしているのではないかと考えたのですが、この考えはどの点で間違っているのでしょうか。
A:外惑星と内惑星では、その材料となる微惑星の成分がだいぶ違うと思います。内惑星では、岩石の成分がかなりを占めるでしょうけれども、外惑星の場合は、氷が主でしょう。まず、その差があると思います。もちろん温度は大きな要因であることは間違いがないでしょう。結局、海が出来るかどうかが勝負というところでしょうか。海水の塩分濃度変化がどの程度の速度で進んだのかは良く知りませんが、おそらくかなりゆっくりしたものだったでしょう。ですから、その変化に追いつけずに絶滅した生物種がいたとしても、多くの生物にとっては適応可能であったとしても不思議ではありません。塩分濃度変化の場合は、いわゆる大量絶滅のように地球上の生物の現存量が劇的に減ることはなかったのではないかと考えているのですけど。
Q:僕にとって今回の講議は、前から興味があり、聞きかじっていた事の総括のような話でした。最初の生命が陸上に出るまでの出来事を地球との共進化の視点で捉え直し、時には物理/化学的な視点を通して構造的な説明を試みていたのが、とても興味深かったです。ただ、進化学は解釈学の要素が強いと思うので、比較のために、(少し古くても良いから)別の学説も軽く紹介して欲しかったです。 先生の、代謝から進化がわかるという話を聞いて、ただの物質の羅列に見える代謝も実は重要かもしれない、と思いました。特にここを強調してこれからの授業を進めて欲しいです。
A:いろいろな学説を紹介できればそれにこしたことはないでしょうけれど、何しろ、僕も、地球化学は聞きかじりのようなものですから。授業では、代謝のメカニズムの説明だけでなく、その意味合いを十分に説明していくつもりです。
Q:今日の講義内容は、非常に専門と近く、分かりやすかったです。しかし、生命発祥が深海の熱水生態系である、とか、地磁気形成後に浅海で光合成を行う生物が現れたなどの点は、私の勉強不足ゆえか、初耳で新鮮でした。また講義を聴いていて、生物化石の判別の難しさをあらためて感じました。化石であると言い切る決め手があれば、ニセストロマトライトの問題も解決するし、35億年前の最古の生命化石が本当に化石なのかという議論も決着がついてすっきりします。しかし、同位体比により、さらに古い生物の存在が確認されているのなら、この最古の化石がどうであっても本質的な問題ではないのかもしれせん。今後はもっと専門的な植物の話になりそうで、理解出来るのか不安ですがよろしくおねがいします。
A:解決したといっても、現時点での話なので、また新しい化石が1つ見つかれば、がらりと変わる可能性も皆無ではないでしょう。今後の講義でも、知識を持っていることを前提に話すことはしませんので、なるべくついてきてください。
Q:生物と地球の共進化については、同名の本も読んだくらいに関心があります。生物進化の大きな部分、例えば酸素発生型光合成の開始、真核生物出現、カンブリア紀の爆発などに地球環境変化が影響したのはそうかもしれませんが、まだ細部で怪しいところが多いようにも思えます。例えば、シアノバクテリアに先行して存在したであろう酸素非発生型光合成細菌などは宇宙線をどうやり過ごしていたのでしょうか。
A:細部が怪しいのはむしろ当然でしょうね。地球の年齢が45.5億年前なのに40億年近く前の化石が残っていること自体不思議なくらいだと思います。基本的に水は充分な厚みがあれば、光や宇宙線のシールドとして役立ちます。基本的に最初は生物は深海にいたのではないかという説明の、もう一つの根拠はそこにあります。
Q:地球や生命の歴史と関連付けて光合成を考えることは初めてではなかったが、因果関係がかなり簡潔に整理されていてわかりやすく、論理展開がうまくいくようなある一側面を見せられているのでは、と疑ってしまうほどだった。生命が深海で誕生したとする説など、雷などの刺激が必要であるという説に信憑性を感じているものとしては、そのまま受け入れられるものではないが、刺激的に感じた。今後も今回のように、定説だけでなくさまざまなものを、一面的にならない程度に簡潔な論理のもとで教えていただけたらと思います。
A:「雷などの刺激」というのは、還元的空気の中での放電によりアミノ酸が合成されるとの実験から推定されていた説だと思いますが、最近はアミノ酸の起源に関しても地球外起源説が出るなど、この分野はなかなかフォローするのが大変ですね。どの説にしても、「論理展開がうまくいくようなある一側面」を見せている所はあると思います。
Q:前回の講義は地球の誕生から現在までの歴史についての話でしたが、恐竜の絶滅の理由について、私はこれまで「まだわかっていない」ということを信じてきていたので、講義で絶滅の理由について現在ではだいぶ明らかになってきているということを知り、驚きました。カンブリア紀の大量絶滅の原因についても、私の中では「何一つわかっていない」という昔の知識のままなのですが、現在ではどれくらいのことが分かっているのでしょうか。
A:「わかっている」と「わかっていない」をどの程度で切るかが問題でしょうね。中生代/新生代境界の大量絶滅に巨大隕石が関与していた状況証拠はかなりあるようですが、「証明されている」という言い方は出来ないと思います。基本的に何回も繰り返された大量絶滅は、巨大隕石の衝突か、プルームという考え方で説明できる周期的な地殻変動(火山活動の活発化など)によって説明できるようです。
Q:昔なにかの本で読んで以来,最初の生命が浅い海で誕生するというイメージ図が頭の中にしっかりと焼き付いていたので,深海で誕生したという話は衝撃的でした。それにしても,深海のどのような点が生命が誕生するのに有利だったのでしょうか(浅い海ではなく)?(それとも有利な点などなく,まったくの偶然だったのでしょうか?)地球上での生命の誕生,歴史(進化)には大変興味があります。この分野を研究している研究室にはどのようなところがありますか?
A:地磁気が強くなる前は、宇宙線の強さなどもかなり強かったでしょうから、それらがシールドされる深海でないと生物が生きていけないということがあったかも知れません。基本的に、この分野を地球の側から研究しているのは、地球化学の分野の研究室で、それでしたら、理学系研究科にも、新領域にもあります。また、古生物学的な研究をしている研究室ももちろん数多くあるでしょう。ただ、もし、生命の誕生・進化を実験的に研究している場所を探しているのでしたら、それを見つけるのは難しいと思います。進化を実験で証明するのはまだまだ難しいので、ある実験事実を後から進化的に説明することはあっても、進化自体を研究目的とするのは非常に勇気がいります。
Q:地球環境の変化って壮大な感じがします。こういうのを聞くと僕は生物も所詮自然のひとつなんだなと思ってしまいます。海や大地、大気の存在は大きいと思いました。例えば非常に大きく海水の性質が変化する時というのはダイナミックな変化がどこかしらで起きたときだし、逆にその変化が他に大きな変化を起こします。その変化によって生物は生まれ、そして変化をあたえています。人類もストロマトライトのようになるのでしょうか。
A:ある意味でストロマトライトは自分が酸素を作り出すことにより、効率的な酸素呼吸をする動物を生み出し、それにより、自らの生息域を狭めたと言ってもよいかも知れません。人類にしろ他の生物にしろ、結局、自分の生み出した物事の責任は、とらなくてはならなくなるでしょう。
Q:これまで生物がいかにしてほ乳類まで進化したかということを説明した資料は何度か見たことがありましたが、前回の講義の内容のように生き物のエネルギーの獲得方法に論点を絞った説明は初めてだったので新鮮でした。気になった点としては、深海の生物は海の中を降ってくる上の方の生物の排泄物や講義に出てきたような死骸を栄養源にしていると聞いたことがあったので、非光合成依存の生態系が深海でどのくらいの割合を占めているのかということです。
A:深海での生物相は最近やっと研究が進んできたので、まだ、定量的なことを言える段階ではないのではないでしょうか。ただ、非光合成依存の生態系はバイオマスとしてはかなり少ないことは確かでしょう。
Q:生命の誕生は奇跡的であったことは間違いない。しかし実際のところ生物が誕生したのは地球が成立してわずか10億年以内のことであり、しかもそこでの環境は極めて悪かった。そう考えると環境のよい現代においても、確率は低いが、生命が誕生していてもおかしくないのではないか。もちろん生物がすべてDNAやRNAで構成されており、現在の生物がひとつの生命から進化した証拠と捕らえることもできるが、そのように生命の誕生を見つけるようなアプローチもあってもよいのではないだろうか。
A:現在調べられている地球の生命は、基本的に一つの生命から進化していると考えて良いと思います。初期の生命は非常に効率が悪いでしょうから、他の生命がその地歩を固めてから別の生命が誕生したとしても、すぐ競争に負けたのではないでしょうか。
Q:講義について:説明が丁寧でわかりやすかった。少し早口だった気がする。メモがついていけず焦った。
内容について:地球の歴史についてまで今まで知らなかったので、おもしろく聴いた。全く知識がないので変な質問になるかもしれないが、1地球の地域による環境・気候の多様性はいつ頃からあったのか、2生物が深海から浅い海、そして陸上へと進出していったのは一カ所でだけ起きたのか、それとも環境の変化が起きた際いろいろな場所や生物種でそれが同時的におきたのか、3(レポート締め切りについての質問)三日以内とは講義の日を含めて三日か、次の日から数えての三日か、きになった。
A:次回からは、少し話すスピードを落としてみます。環境・気候の多様性はかなり初期からあったのではないでしょうか。質問の意図とは違うかも知れませんが、深海と浅海、そして地上は、それぞれ全く異なる環境であるわけですし。生物の進出が一カ所か同時的かはわからないと思います。陸上への進出などは複数回起こったのではないかとは思っていますけど。レポートの締切は、もともと、厳密に考えたものではありません。土曜日が使えた方がいいでしょうから、次の日から数えて三日にしましょうか。
Q:始めに地球の歴史について話すと聞いて少しがっかりしかけたのですがきいてみるとなかなか面白かったです。磁場の発生と生物の進出が関わっていることなど特に面白かったです。ただ、なんで突然磁場が現れたのかという疑問は残ります。地磁気はその向きが何度かひっくり返っていると聞いたことがありますが(その原因もわかっていないはずですが)、突然地磁気が消えたりすることもあり得るのでしょうか?もしそうなったら生物界にどれほどの影響が出るのでしょうか。講義への要望なのですが、光合成研究からCO2の問題といった環境問題に取り組むということは、実際なされているのか、されているとすれば実際どんなアプローチが可能なのかというのに興味があります。光合成による炭素の固定は一時的なものという認識はありますが(化石燃料のような形になれば別なのでしょうが)、光合成の研究から、環境問題に取り組んでいたりはしないのでしょうか?昔からの疑問だったので。実は環境庁のページなども眺めたのですが、CO2を液化して深海に沈めてしまうとか光合成に関係ない分野での方法は触れられていたのですが、光合成関係からのアプローチがあまり載っていなかったこともあり、興味が有ります。もう一つは、C3、C4、CAMについては、生態学の授業で少し習い少し調べたのですが、いくつもの系統で別々に生じて来た物と考えられているのに、どうして3つの種類に分けられるのか、C4植物の中にもかなりの多様性があるのではないのだろうか、という疑問があります。光合成については、植物課程の学生ならある程度知ってなきゃまずいだろと思っていたので、授業に結構期待しています。かなり長くなってしまいましたが、こんな所です。
A:地磁気は地球の液体金属核の運動に由来するとのことなので、その動き方が変わると変わるのでしょうね。地磁気がなくなるときっと日本でもオーロラが見えるようになるでしょう。生物への影響も無視できないと思いますが、どの程度かはよくわかりません。現在でも、国際線、特に極周りのルートのパイロットは通常の人の何倍もの宇宙線を浴びるとして、その健康への影響が問題となっています。
炭酸ガス濃度の上昇に対する光合成的アプローチは、研究はいろいろされていますが、その主なものは、上昇によって植物がどうなるか、という視点からのものです。光合成によって二酸化炭素の吸収を増やそうという研究も、あることはありますが、めどが立っているとは言い難い状況です。C3、C4、CAMなどは授業で取り上げる予定なので、期待していてください。
Q:大まかに見て大気中二酸化炭素濃度は一定であり、その濃度に見合う生態系が現在の地球であるとする。人間活動により二酸化炭素濃度が大きくなったとしても新たにそれに見合う生態系が構築されるかもしれない。現在では寒冷によって生物活動が抑えられている地域は多いが、灼熱(乾燥は除いて)による抑制はないと思われる(赤道直下でも生存)。よって二酸化炭素濃度増大によって生物の成育範囲は広くなるかもしれない。このことからすると、二酸化炭素濃度が大きいこと自体は問題ではなく、現在と比べての環境の変化が人間にとって問題になるだけのように思われる。
A:二酸化炭素濃度の上昇は、生物に対してだけでなく、地球に対しても影響を与えます。気温が上がって南極の氷が溶けると海面が上昇して、島国の一部は完全に水没するところも出てくるでしょう。また、極の氷が溶けると、地球の反射率が低下しますから、さらに気温上昇が加速されるという悪循環に陥る可能性もあります。ただ、地球全体を見たときには、確かにこれらは、大きな問題ではなく、過去も経験してきた気候変動の範囲を超えるものではないと言えるかも知れません。
Q:始めて上陸した生物はなんだったのでしょうか?植物で発現する耐乾燥性の遺伝子が線虫でも見つかったという話を聞きました。生物が上陸するためには、耐乾燥性の遺伝子が必要不可欠なものだったと思われます。その遺伝子を水中で生息する線虫がもっているという事実は理解に苦しみます。でも、使わない遺伝子ももっていると考えられれば、乾燥だけでなく、低酸素濃度の大気、強い紫外線などの“生きづらい環境”のもとでも生きていける生物が海の中にいたとも考えられます。そうなると、生物の上陸が、酸素濃度の上昇・オゾン層の形成という条件により促進される可能性はあっても、始めて上陸した生物がこの条件を必要としたとは限りません。生物の上陸に必要だった条件は酸素濃度の上昇・オゾン層の形成・巨大大陸の誕生・海水の塩分濃度の上昇以外にもあるだろうし、結局何が必要条件だったのでしょう?特に酸素濃度の上昇をもたらしたものはストロマトライトだけだったのでしょうか?
A:乾燥耐性の遺伝子の場合がそうかどうかは知りませんが、生物は遺伝子を「使い回す」傾向があるようです。つまり、ある機能を果たしていたタンパク質を別の機能のために「改造」して使うことがあります。遺伝子の配列を見ただけでは機能はわかりませんから、そのような場合は注意をする必要があります。
酸素を発生したのがストロマトライトだけだとは思いませんが、一時期は地球上でストロマトライトがかなり優勢だった時があったことは確かなようですから、酸素濃度上昇に大きく寄与したことは確かでしょう。生物は、放射線や紫外線に対する防御機構を持っていますが、防御機構にも限度があります。基本的には、あまりに強い放射線や紫外線がある環境では生物は生存できないことは確かで、これが生物の成育場所の限定要因であったことは確かではないでしょうか。
Q:太陽や、熱水噴出口における硫化水素など、エネルギー源は異なれども、その起源を同じくするというところに生命の特殊性を感じました。代謝系を学ぶことでわかっていくのでしょうか、よくわかりませんが、エネルギーを取り出す、得る、貯めこむ、自らを複製するというような行為は熱力学などだけで説明できるものではない気がします。生物は特殊なシステムを内包するものであり、環境の変化に翻弄されながらも、形を変え続いていくのは、そのシステムに一定の方向性があるからこそ、なのかなと、なんとなく思いました。
A:基本的には生物といえども熱力学の法則には従います。ただ、熱力学の第2法則からは閉鎖系での秩序の減少は避けられないはずです。生物で、秩序が成り立っているのは、生物が閉鎖系ではなく、常にエントロピーを外へ排出しているからだ、と表現できます。同じように、地球自体も、太陽という高温の熱源と、宇宙空間という低温の熱源の間に置かれて、動的平衡にあるから、その中で生物が進化したと言えるかも知れません。1つの熱源だけに接している系はいずれ平衡に達して、エントロピーは極大になるはずです。
Q:地球の誕生と生物が出現,進化していく過程がとてもコンパクトにまとめられていて分かりやすかったです。38億年前に海洋が形成され,35億年前にはもう最初の生命がすでに誕生していた,とのことですが,現在でも新たな生命体は他の生命が殆ど存在しないような深海の底で、新規に(すでに存在する生物の進化によるものではなく)誕生しつづけているのでしょうか。それとも、もしそういう原子生命が誕生したとしても,すでに進化した現存の生物よりも競争能力が低いためにすぐに消えてしまっているだけなのでしょうか。
A:現在、生命が誕生し続けて「いない」証明はありません。ただ、確かに現存の生物よりも狂躁能力は低いでしょうから、たとえ誕生していても地球上に痕跡を残すまでには至らないでしょうね。
Q:最近、遺伝子やホルモンなど細かい話ばかり聞いていたので、「地球環境の変化と生命」といったのびやかなお話がきけて、非常に楽しかったです。特にクジラの背骨で深海に光合成依存の生態系が形成されるという話が最も印象的でした。「代謝生物学」なので、次回からどんどん細かいお話になると思いますが、環境との関わりや具体例などを多く扱ってほしいです。
A:代謝生物学といっても、単に代謝マップを覚えるだけではつまらないですから、なるべく「考える」講義にしたいと思っています。
Q:代謝を扱う講義はあまり数が多くないこともあってか、代謝についてはかなり漠然とした理解しか持っていないというのが現状なので、この機会に理解が深められればと思っています。今回の講義では生命誕生の流れを分かりやすく説明してくださったと思いますが、初期の生命が利用していた代謝系についてはもっと詳しく知りたいなと思いました。それについては今後の講義で扱ってくださるものと期待していますが、細かい話になると大きな流れの中での位置付けがどうなっているのかが分からなくなってしまったりするので、進化と結びつけて話してくださると嬉しいなと思います。
A:初期生命の考え得る代謝系については、今後の講義でちょっと触れる予定です。また、講義には、できるだけ、進化的な視点を入れるつもりです。
Q:生命を考え、研究し、或いは講義するにあたって、最初の1コマを地球と生命の歴史にさくことは視点の確保として重要だと改めて認識させられました。個人的にも深海生物学の本などを高校時代に読んでから久しいので、新鮮に聞くことができました。但し、紹介されたシナリオやその証拠は考えようで容易に変化・深化する流動的なものだと感じています。例えば、パイライト仮説などありますが、本当に熱水噴出孔で膜はできるのでしょうか。
A:現時点では、さまざまな説が流動的であるとの意見は、まさにその通りだと思います。「本当に」熱水噴出口で膜ができたのかどうかは証明できないと思いますが、「できる可能性がある」とまでは言えるのではないでしょうか。
Q:第1回の講義で1つ気になったのは偽ストロマトライトについてです。ストロマトライトと思われていたものが、生物によって作られた物ではなく深海で生成した偽物だとわかったことが、生命の起源が深海であるという証拠となるとのことでしたが、このことは単に生命が浅い海で発生したことを否定するだけではないですか?偽ストロマトライトに生物が関わっていたという別の証拠があるのでしょうか?
ところで(レポートの提出が)3日以内というのは土曜日までですよね?
A:偽ストロマトライトに生物が関わっていたかどうかはわかりません。ただ、初期生命の化石が、深海で形成されたと考えられる証拠をいくつか含む地層の中で発見された、ということから、生物誕生深海説が唱えられています。
Q:講義を聞いて、一番興味を持ったのは同位体効果についてであった。本来、自然に存在する同位体の比は一定であるはずが、その比が変化したことによって40億年前に生物が存在したと考えたことに非常に感心した。同位体効果は軽元素ほど著しくらしく、体内の水素を重水素で半分置き換えると水が関わり合う反応が影響を受けて死んでしまうそうだ。つまり、生物は、自ら同位体を判別して、その一方を好んで使っているのだ。工業化学では同位元素は化学的性質は同じとされているらしいが、生化学でははっきり区別して把握しなければならないところがとても面白かった。
A:そうですね。生物といえども科学法則に従うのですが、同位体効果などは、通常の化学では無視できることが、生物では無視できない数少ない例の一つでしょう。
Q:生命が誕生したのは浅い海とばかり思っていた。しかし、話を聞いてみて実はそうとは限らないらしいとわかった。深海で生命が誕生したことを積極的に肯定するわけではないが、その可能性も否定できないと思う。自分としては、それよりも最初の生命体が、光合成、化学合成のどちらによってエネルギーを得ていたかに興味がある。今現在、日光の届かない深海で化学物質によって独自の生態系を作っている生物もいるとのことだが、それは生命が深海で誕生したことの根拠にはならない。初期の生物が化学合成による代謝をしていたとしても、それが深海で誕生したとは限らない。光合成をしていたのであれば、浅い海で誕生したのであろうが。浅海での紫外線の影響などその他様々な要因を考慮しなければ答えを出せないと思う。最近は系統樹もわからなくなってきているようなので、答えは当分でないのでは?ちなみに自分も将来そういったことを研究するかもしれない。
A:遺伝子の系統樹も、その解釈はなかなか難しい点があります。今年度の生物科学セミナーでは、5月22日に神奈川大学の井上和仁さんが、光合成色素合成系の遺伝子から見た光合成生物の初期進化の話をなさる予定です。
Q:生命の進化が、地球環境の変遷に密着したものであることが示され、これは、個体以下の分子レベルの話題に終始して忘れがちであり、興味深かった。今後も環境との連関を踏まえた上での展開が交わることを期待したいです。
A:環境と生物の関わりは、僕の主要な研究テーマでもあるので、講義でも十分取り入れていきたいと思います。
25人分のレポートを見ると、いくら1つが短いといってもコメントを書くだけで1日仕事ですね。まあ、受講者が多いことは、講義をする側にとってはうれしいことですけど。