植物生化学 第7回講義
硫黄代謝、脂質代謝など
第7回は、硫黄代謝と脂質代謝について紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:生体膜は、脂質二重層とそこに存在する膜タンパク質やステロール等によってできており重要な生体反応の場となっているため、脂質の代謝は生物全体において最も重要な反応機構といえる。脂質の不飽和化酵素の変異には、シロイヌナズナにおけるfab2変異のように植物体での細胞の大きさに顕著な変化をもたらすものも存在する。ここで逆に脂質の構造を変化によって、細胞の大きさや器官の大きさを変化させることはできないのだろうか。脂肪酸の不飽和化酵素が温度に対して調節機構を持ち環境に応答するように、脂質は細胞において普遍的に存在しているため、脂肪酸の変化はそれだけで生物に大きな変化をもたらすことが予想される。よって細胞成長後の細胞の大きさや形の決定に、脂肪酸など膜の性質が関わる事も、可能性はあると思われる。しかし、植物細胞の大きさの変化には細胞壁の存在が大きく関わってくるとも考えられる。膜構造の変化により細胞膜や液胞膜の伸長ができないため細胞が大きくならないのか、それとも細胞壁の制御が阻害されていることによるのかの判断など、他の因子も含めた詳しい制御機構を調べる必要があり、脂肪酸の変化だけで全てを説明することはできないように思われる。しかし形態の変化が起こす変異体を、脂質などの構造変化の面から解析していくことは、生物のより深い理解において重要だと考える。
A:fab2 mutantが22度で矮化した表現型を示すのはわかりません。レポートにあるように、飽和脂肪酸しかつくられないときには、細胞壁の制御が阻害されているのかもしれません。一方、2重結合を2つもつ脂肪酸(ジエン脂肪酸,リノール酸など)を3つもつ脂肪酸(トリエン脂肪酸、リノレン酸など)をつかさどる不飽和化酵素の変異体は高温耐性を示すようです。
Q:グルタチオンは細胞内でシステインを貯蔵するのに使われていると聞いた。なぜグルタチオンという形に変換してまででシステインを貯蔵するのだろうか。システインはシステイン残基同士でジスルフィド結合を形成する。ジスルフィド結合はタンパク質の立体構造の保持に重要な役目を果たしており、タンパク質の柔軟性にも大きく寄与する。(ジスルフィド結合が多いほど柔軟性は小さくなる。)また、システインはメチオニンの原料にもなっている。このことから、メチオニンの合成量分もシステインを保持していないといけないだろう。そして、タンパク質がそれ本来の立体構造を形成し、その形を保持するためにもシステインは不可欠であろう。これらのことから、システインはグルタチオンという形に変換してまで保持する必要性があるのだろう。
A:グルタチオンは抗酸化物質、抱合体形成、フィトキレーチンの出発物質というように、細胞内恒常性のためにすみやかに働く必要があります。そのためにある程度蓄積しておく必要があるのでしょう。