植物生化学 第4回講義
炭酸固定と光呼吸
第4回は炭酸固定と光呼吸について解説しました。C3光合成とC4光合成、光呼吸については説明できましたが、CAMについては積み残しとなりました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:葉緑体内の膜構造において、光化学系IIはグラナスタックに、光化学系Iとシトクロムb6/fはストロマチラコイドにより多く存在しているという。ここから、光リン酸化における膜での電子伝達は2つの光化学系やシトクロムが膜状において離れていても機能するということが分かるが、その局在について考えてみることにする。まず局在の仕組みについてであるが、脂質の種類や量の比などによる膜構造の違いが、存在するタンパク質の局在にも関わっているのではないかと思われる。グラナスタックとストロマチラコイドでは、その形態から膜構造の違いが予想されるので、それに伴い膜の組成も異なっていると思われる。そのためには、膜構造の違いを確かめる必要があると思われ、方法としては分光学的な手法の利用やリン脂質の種類特異的な標識などが挙げられる。さらに組成の解析から膜構造に変化があるような個体を得ることができれば、そこから遺伝子レベルでの制御に関しても調べることができると思われる。局在の理由に関しては、光化学系IIにおける反応や電子伝達との関係が考えられる。グラナスタックの構造により光を減衰させ、過剰量の光の照射に伴い発生する有害光反応物、特にスーパーオキシドや一重項酸素など酸素の発生量を減らしているのではないかと考えられる。これを調べるためには、グラナスタックの形成の阻害を行う方法や、グラナスタックとストロマチラコイドの構造による光条件の違いなどを比較する方法が考えられ、チラコイド膜の構造について詳細に調べる必要があると思われる。
参考文献:テイツ・ザイガー「植物生理学 第3版」培風館、「京都大学 梅田研究室ホームページ」http://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~umelab/index.htm
A:膜構造とタンパク質の局在を考える場合、どちらが原因で、どちらが結果かというのは必ずしも自明ではありません。チラコイド膜構造の場合は、系IIのアンテナとして働くLHCIIがない変異株ではグラナスタックが見られないことから、LHCII同士が引き合う力が膜の積み重なりを生み出していると考えられます。C4植物(NADP-ME型)の維管束鞘細胞ではグラナスタックがない(この話まで行き着きませんでしたが)ことは、系IIがないことと関連づけて理解することができます。
Q:何故グラナスタックに光化学系IIが、ストロマチラコイドに光化学系Iが富んでいるのかを考察する。顕微鏡観察では、グラナスタックは濃い緑に、ストロマチラコイドは薄い緑に見える。これはグラナスタックがチラコイド膜の何層もの重なりになっているからであろう。そのため色素も多く集まっていると考えられる。濃色と淡色では濃色のほうがより光を吸収するとかんがえられる。光合成の明反応は光化学系IIによる水分解が先に起こるため、より光を吸収できると考えられるグラナスタックが光化学系IIに適していると考えられる。また、グラナスタックには光化学系IIでの水分解反応に関与するマンガンイオン(2価)が多く存在するのかもしれない。ストロマチラコイドはストロマと接しているため、光化学系Iやシトクロムb6/fでの反応産物が比較的ストロマに移行しやすいと考えられる。そのため、光化学系Iやシトクロムb6/fが多く存在していると考えられる。
A:「濃色と淡色では濃色のほうがより光を吸収する」というのは嘘ではないですが、実際に比べるべきなのは、同じ色素の量で、その色素がどこかにかたまっている場合と、全体に均一に存在する場合の差でしょう。そのような場合は、全体に均一に色素が分布している方が吸収は大きくなります。一カ所にかたまると吸収が小さくなるのを篩効果といいますが、これから考えると、グラナスタックの存在は不経済に見えることになります。
Q:C4植物には3つのサブタイプがあり、どれも単系統ではなく、またC4植物が複数の種にまたがって存在していることも考えると、C3植物からC4植物への進化に必要な遺伝子はそれほど多くはないのではないだろうか。もしそうであれば人為的な突然変異の誘発でC3植物からC4植物が得られる可能性がそれなりにありそうだ。が、実際にそういうことが起こった事例はないので、C3植物の中でもC4化しやすいDNAを持った植物種が存在し、それらは農作物や実験植物にはなっていないのかもしれない。別な可能性としては過去にC4植物が特に有利になる環境になったためにさまざまな種からC4植物が発生したのかもしれない。C4植物とそれに近縁なC3植物を系統解析し、C4植物が発生した頃の地球環境を調べると何かわかるのではないだろうか。
A:今回最後まで話せませんでしたが、C3植物でも、C4回路に必要な多くの酵素を持ってはいます。そして、C3とC4を行き来する植物もありますし、C3植物であるイネをC4植物に変換することを目指す研究も行なわれています。