植物生化学 第12回講義
光合成生物の環境応答
第12回は、原核光合成生物であるシアノバクテリアにおいて光環境応答に応じて光化学系の量比を調節するしくみと光エネルギーの分配を調節するしくみを紹介しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:シアノバクテリアのWS1株とWL3株を用いた色々な条件でのコロニーの様子を観察した。条件の変化によりコロニーの生育度合いが変化することについて考察する。まず、弱光条件下ではWS1株とWL3株ともに大きなコロニーを形成したが、強光条件下ではWS1株は小さなコロニーであったのに対しWL3株はおおきなコロニーである。WS1株は強光条件下では光合成活性が抑えられているのであろう。弱光条件かつ低温ではWS1株は小さなコロニーを形成し、WL3株は大きなコロニー(コロニー間の大きさには差がある)を形成した。このことから、WS1株は低温により、光合成活性が制限されているのであろう。またWL3株の中にも比較的小さなコロニーが出てきていることから、WL3株内でもコロニー間に光合成活性の差があると考えられる。グルコース存在かつ弱光条件下ではWS1株は大きいコロニーを形成し、WL3株は小さいコロニーを形成する。このことから、WS1株は外部のグルコースには成育が阻害されず、またただの弱光条件下よりもわずかながら生育がよくみえることから外部のグルコースを利用できるのかもしれない。しかしWL3株ではもとの弱光条件とは異なり小さなコロニーを形成するようになった。このことから、WL3株は外部のグルコースの影響を受けることが分かる。この影響は、外部の浸透圧によるシアノバクテリアの細胞の萎縮に原因があるのか。またはグルコースの存在によって光合成系が阻害されているのかは分からない。しかし、最後のDCMU添加のときにWS1株とWL3株ともに生育が悪くなることから、DCMUは光合成系の阻害剤であることより、WL3株は光合成系が阻害されていることが分かる。
A:説明し忘れたのですが、異なる条件では、生育日数が必ずしも同じではありません。ですから、同じ条件のWS株とWL株を比較することは可能なのですが、同じ株の別の条件のものを比較することはできません。最後のDCMUを添加したものはグルコースが入っていますので、確かに光合成は阻害されるのですが、生育自体は(少なくとも本来は)阻害されません。実際には、WL株については、DCMUが存在した時の方が生育はよくなります。
Q:授業では3種類のステート変異があることに触れたが、1つは強光下、1つは弱光下でのフィコビリン励起、1つは弱光下でのクロロフィル励起である。すなわち、緑色植物はフィコビリンを持たないため、RpaC依存ステート変異を行わない。一方、シアノバクテリアはフィコビリンもクロロフィルももつため両方行う。この弱光下での光合成色素励起時に働くステート遷移は、もしかしたら光合成色素の数だけ存在しているのかもしれない。
A:「光合成色素の数」というのはどういう意味でしょうかね?例えば、カロテノイドなどは、色素のところの講義で紹介したように様々な種類のものがありますから・・・。
Q:光合成を行う生物は光環境に応じて、様々な方法でそのエネルギー利用を調節している。また発芽や花成など様々な段階のシグナルとしても光を用いている。これら光に対する応答は、短期的なものから長期的なものまで様々であるが、現実に生物が存在する光環境は激しく変動するものと説明された。急激な光環境の変動に対する応答の例としては、フィトクロムによる光発芽などで、光応答を打ち消すことができることなどが挙げられる。これは短期的な光環境の変動に対して、生体内の反応をリセットする機能なのだと考えられる。では光合成系の光環境の変動に対する変化の時間スケールはどのように決定されているのだろうか。
光強度に対する反応自体は、酸化還元電位や一重項酸素などをシグナルとして制御する方法が予想されるが、光化学反応の過程は0.1
秒程度で(テイツ・ザイガー「植物生理学 第3版」p.114)終了するとされるので、指標となる電位や酸素の発生も同じような時間単位で変動し得ると思われる。よって光環境はこれらの状態によって認識され、これに加え自然の光環境における日周に合わせた生物時計のリズムの影響や、遺伝子の転写から翻訳・機能発現などの化学反応の時間などが、光環境の変動に応答する装置となって光合成系の時間スケールは制御されているのだと思われる。
A:遺伝子の転写制御については、光合成の電子伝達鎖の酸化還元状態をモニターする転写因子などが見つかっています。酸化還元というのは、システインの酸化還元などを通してタンパク質のコンフォメーションを変えることができますから、案外、使いやすいシグナルかも知れません。