植物生化学 第11回講義

ゲノムワイドな遺伝子機能の解析

第11回は、原核光合成生物であるシアノバクテリアを材料として、ゲノム丸ごと遺伝子の機能を解析しよう、という野心的なプロジェクトの話をしました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:生物は、個体間の差が大きく、特徴を定量化することは非常に困難である。その中で、クロロフィルの蛍光を見るという考え方に感銘を覚えた。ついつい、個体単位でものごとの特徴を見てしまおうとするが、そうではなく、特徴を形作るものを量子化していく必要がある。そのためには物理学の考え方や知識が重要であることを実感した。植物の光合成に関係のない特徴や、動物の特徴もこういった点からアプローチして解析できるかもしれない。特徴が現れる過程で、どのような機能や作用が働いているのかを分解して考えていき、1つ1つを計測できる値にすれば、特徴を数値化することができる。感想になってしまったが、専門以外の勉強や、違う専門家と話をすることの重要性を考えることができました。

A:光合成の分野ですと、もともと、物理の人や化学の人が研究しているので、生物以外との専門家とさえ、話すチャンスは多いのですが、一般的な生物学の場合は、どうしても生物学の中に閉じこもりがちです。逆に、これから研究を始めるのであれば、そのあたりが目の付け所かも知れません。


Q:異なる形態をもつものの解析の中でどのようなパラメータを用いれば異なる形態を示すものを比較することができるであろうか。たしかに、ショウジョウバエの羽と酵母の形態を比較することは困難である。しかし、ハエの中だけや、酵母の中だけの分類群が近いものの中で比較が困難な場合、このような方法はどうであろうか。それぞれの野生型個体の表現型の平均と、それぞれの変異型の平均を割合(比)であらわすことである。たとえば、成長(生育)度合いであったり、器官の縦横比などである。目視や顕微鏡などで一見観察しただけではわからない形態の差を数値としてあらわすことによって、異種間でも、器官の比較ができるのではないかと思う。また、巨視的な形態変化でなく微視的な形態変化では、より形態の比較解析が容易なのではないかと思う。ホモログな遺伝子の働きによって引き起こされる器官の変化や細胞内小器官の変化も数値として表すことで、客観的に比較ができるのではないだろうか。しかし、この客観的な評価に関しては解決すべき問題がある。それは、その客観的な評価の境界をどこに定めるか、ということである。これに関しては、多くの個体(以下2行ほど文字化け)

A:割合(比)で表すことによって比較するというのはよいアイデアだと思います。統計的な手法の一つに、直接比較できないパラメータを順位に変換して比較する、という手法があります。これと似たような考え方でしょう。ただ、もちろん順位に換算するためには、非常に多くの観察例をもとにする必要はありますね。


Q:授業ではクロロフィル蛍光の一次元時系列データから、シアノバクテリアの代謝について解析する方法が紹介された。この手法の高等植物や動物への利用については問題点とされたが、これについて考えてみる。蛍光の検出や吸光度の測定など分光学的な手法は、既に広く利用されているが、基本的に非破壊的であるという点で短い時間間隔での細胞内の変化の観測には非常に優れていると思われる。分子の振動など別のスペクトルを検出することで、代謝の指標として違った分子を利用できる可能性もあるのではないかと思われる。また蛍光の面からはクロロフィル以外にもフラビンモノヌクレオチドなどは利用できないだろうか。多細胞生物での分光分析は、単純に細胞の重なりやシアノバクテリアのような原核生物との代謝系の違いも考えられ、難しいことが予想されるが、細胞間の相互作用などについて考えるのには必要であるようにも思われる。そこで、まずボルボックス目などの比較的単純な体制を持つ生物について行い、そこからヒメツリガネゴケなど複雑な体制を持つ生物を目標にしていくことはできないだろうか。また、単細胞生物としてクラミドモナスなどで同様のことを行うことも、原核生物と真核生物の体制や代謝系の違いを考える助けになるのではないかと考える。

A:NAD(P)Hは生体内の還元剤として非常に重要ですが、これは蛍光を発し、しかも酸化還元によって蛍光強度が変化します。これだとミトコンドリアの情報も得られる可能性がありますね。ただ、一番問題なのは、定常状態をモニターしても情報量が少ない、という点です。もし、蛍光が一定なら、得られる情報は単に1つの数字です。クロロフィル蛍光挙動の解析においては、そこで、暗所に細胞をしばらくおいて、そこへ光を照射し、その際の「変化」を時系列でモニターすることによって細胞内の多くの情報を得ています。この部分をどうするかがポイントかも知れません。