植物科学I 第7回講義
シアノバクテリアを用いたポストゲノムの研究
第7回は、ポストゲノムの研究例として、シアノバクテリアを用いたDNAマイクロアレイを用いた解析や、プロテオーム解析、クロロフィル蛍光の2次元画像解析を用いた表現型の網羅的解析などについて紹介しました。また、シアノバクテリアの研究材料としての特色や、特別に分化した細胞であるヘテロシストによって行う窒素固定についても触れました。他に、講義の最初に、わかりにくかった前回の講義の補足を行いました。
Q:なんだかゲノムが解析されたら全てが分かってしまうような感じを抱かせるが,それを使ってどういう風に生物をみて行くかと言う事が重要だと言う事が改めて感じられました。
クロロフィル蛍光が大きいとそれだけ光合成の効率が悪いと言う事植物としてはマイナス要因であるのに、そういうミュータントが逆に利用され遺伝子機能が解析されるというのはなんだが不思議な感じが、なぜなら人間の手によらなければ滅んでしまうはずのミュータントが人間の役に立っているとは。価値のなさそうなものにこそ実は価値があるということでしょうか。
トランスポゾンの挿入部位に関わらず、同一の蛍光挙動を示すという事は、そこの遺伝子はある程度の塩基の配列によって一つの表現型を示しているようですが、一個塩基が変わっただけでも、表現型が大きく変わる場合もあるのに、クロロフィル蛍光ではPSIIの複数のサブユニットが関係している現象だから、トランスポゾンの挿入部位にはあまり影響が無いのでしょうか?
シアノバクテリアが葉緑体の祖先生物だという事は、シアノバクテリアがなにかしら進化したから植物体として共生していけるようになったという事は、シアノバクテリアのミュータントとかはなにか他の生物と共生できるような機構を持つ事が可能なのでしょうか?
A:トランスポゾンの挿入に関しては、トランスポゾンがある遺伝子上に入れば、どこに入ろうともその遺伝子の機能は失われてしまう、ということです。塩基の置換の場合は、ある意味で影響が小さいので、起こる場所によって差が出ますが、トランスポゾンの挿入の場合は、そこで遺伝子が分断されてしまうので、確実に機能が失われるわけです。
シアノバクテリアの中には、変異株に限らず、現在も他の生物と共生しているものがあります。中には、強制している相手から取り出すと生きていけないものもありますから、そのようなものでは、葉緑体への進化の途中段階のようなものだと考えることができます。
Q:今回はまず、前回の植物の低温感受性について、あやふやだった疑問—なぜin
vitroでは25℃でもPSIの光阻害が起こるのか?—について明確になったことがよかったです。in
vitroでは説明できないこと(つまり今回の実験例では、光阻害からPSIを守る機構が低温感受性に関与しているのではないかということ)が、実際にin
vivoで起きているのではないか。このことを聞いて、生理学をやる上では、常にミクロ的な研究だけでなく、マクロの視点に立ち返ることも必要なのだなあ、と思わされました。
シアノバクテリアの研究では、無機的環境条件によって遺伝子の発現が左右されることがわかりやすく示されていて興味深かったです。遺伝子の分野は、一種ブームのようになっていますが、「どのような遺伝子があるのか。」ではなく、「実際その遺伝子がどのようなfunctionを担うのか。」が、これからバイオテクノロジーが医療、農業の分野で産業化されるにあたって大事になってくるのだとおもいます。その点で、ゲノム情報が公開され、だれでも知ることができるということは、研究を活性化するのにとてもいい方法だと感じました。
今回は、遺伝子の機能解析の例として、蛍光挙動を利用していました。手法としてかなり興味のある分野だったのですが、なかなか難しかったです。トランスポソンについての知識も少なく、最終的に、おなじ蛍光挙動を示すものは、同一の遺伝子の働きが失われていることを示していた、ということがかろうじてわかった程度でした。(もう一度、生物工学の授業を復習しなければ。)しかし、光合成に関与していない遺伝子の欠損も、光合成の色素の蛍光でとらえることができるというのはどうも不思議でした。
最後に授業についてですが、OHPスクリーンでは細かい文字が見えないことがあったので、できれば特に意味のない表の数値でも、プリントでわかるようにしていただけるとうれしいです。
A:光合成に関与しない遺伝子の欠損を、光合成の色素の蛍光で見るというアイデアは、ユニークだと自画自賛しております。プリントに関しては気をつけましょう。
Q:授業で紹介された京都大学のDNAデーターベースを見てみました。例えばヒトのエネルギー代謝のうちATP合成にどのような遺伝子がかかわるのかを調べ、そこから個々の遺伝子がどこに位置し、どのような塩基配列になっているのかというようなことまで誰でも無料で調べられるということに驚きました。遺伝子というと特許をとって情報を一人占めするというようなイメージがありましたがこんなにも情報は公開されているのですね。
クロロフィルの蛍光を解析し、その蛍光挙動から遺伝子の発現を調べるという方法は興味深かったです。直接光合成について解析するのではなく光合成とかかわりを持つ周辺の変化から遺伝子の働きを読むこともできるのですね。どのDNAがどれだけ転写されているかを調べる方法として紹介されたマイクロアレイについて質問なのですが、DNA断片をスライドグラスにスポットして何をスライドグラスにかけて何を色素で染めているのかがよくわかりませんでした。
A:スライドグラスには場合によってゲノムDNAの断片、ORFの一部をPCRによって増幅したもの、mRNAから逆転写によってcDNAにしたもの、などがスポットされています。さまざまな状態の細胞から発現しているmRNAを単離し、それを逆転写によりcDNAにするときに色素をくっつけます。できたcDNAをスライドグラスに振りかけることになります。発現量を見るという点ではNorthern Blotと同じですが、結合はSouthern Blotと同じようにDNAとDNAの相互作用によっていることになります。発現したmRNAの量によって蛍光色素の量が変化するのを見積もることになります。
Q:シアノバクテリアのチラコイドは年輪のようになっていますが、これは袋状のものが重なっている高等植物のものとはまったく違うもののように見えるのですが、シアノバクテリアが光合成色素としてクロロフィルではなくてフィコビリゾームを使っているのと関係ありますか?また、遺伝子の水平移動という言葉が出てきましたが、ある遺伝子が系統を超えて出現するということは、その遺伝子がそれだけ種の生き残り戦略に有利に働くということですよね?実験のテーマにクロロフィル蛍光を使った利点がはっきりとわかりませんでした。ゲノムを使うといろいろと高度なことが可能になるというのはなんとなくわかるのですが、データをやたらこねくり回している印象があって、どうしても、やってて楽しいのかな?と思ってしまいます。
この授業も終わりに近づいてきましたね。そこで話は二学期以降のことに移りますが、今後、園池先生が担当される、または推薦される授業はありますか?植物科学IIは先生が違うし、この授業を取った勢いで‥というものでもない気がするので。
A:チラコイド膜の形状の違いに関しては推測の通りです。シアノバクテリアではフィコビリゾームをアンテナとして使いますが、実は、高等植物のチラコイド膜の積み重なり(スタック)を作る原因はLHCIIというアンテナで、これはシアノバクテリアにはありません。高等植物でもクロロフィルbのない変異株ではLHCIIが存在しないので、スタックが見られません。遺伝子の伝播については、もちろん、生存に有利なものでなければ広がらないでしょう。ゲノムだけを見ていると、生命現象が見えなくなる危険性はありますね。たぶん自分の意識の持ち方の問題だと思います。授業に関しては、すみません、このあとICUで講義をする予定はありません。それに、他の先生方がどのような講義をなさるかもよく知りませんので...
Q:初回の授業の「適応戦略」で、進化の実験的な裏付けは難しかったが少なくとも微生物では実験的に進化を再現できるようになったという話が強く印象に残ったことを、今回の講義で思い出しました。インターネットでシアノバクテリアを調べてみたら予想以上にたくさんの多様なサイトがあり、それだけ、シアノバクテリアが研究材料として優れ、系統樹が示すとおり様々な環境に適応した種が存在するのだということを実感しました。同時に、どんな分野領域においても、生物の研究にはゲノム解析は欠かせない手段なのだと思いました。遺伝学は講義で理論を浅く学んだきりで、これから自分とは縁の遠くなる存在だと思っていましたが、どの分野を勉強していくにしても、その分野と同じくらいの勉強が必要なのだと反省しました…。
A:いわゆる分子生物学の発展に伴い、生物学の共通語はDNAになりつつあります。その意味で、ワトソンやクリックがやっていた時代と違って、分子生物学は、学問分野というよりは、基礎的な技術になりつつある、という気がします。
Q:今回の授業ではポストゲノムの研究ということで、ゲノムの解析という僕にとっては思索の域を出ない範囲の研究内容に直接触れることのできたいい機会でした。実を言いますと、ゲノムという言葉に対してなかなか親しみが持てず、頭の中でとりあえず知識として認識できたとしても、不可視の世界だけに十分な理解というか、納得ができないままのところが多くありました。そこで今回の内容はクロロフィル蛍光という具体的なひとつの方法による遺伝子機能の解析を行うという流れが頭のもやもやを吹き飛ばしてくれた気分でした。ファンクションを網羅的に機能の似ている遺伝子群をまとめることによって解析していくというやり方はどこかしら、ジグソーパズルの組み立てに似てる気がします。端のピースで一まとめにして組み合わせていったり、部分的な絵柄をまずは組み立てていき、その部分同士をつなぐピースを埋めていきながら最終的な全体像を構築していくのです。全塩基配列が決定した時点でパズルの全ピースの形がわかったわけで、このシアノバクテリアという何万ピース(何十万、それ以上ですかね?)というパズルを機能ごとに解析していき、最後は全ゲノムがひとつのパズルの完成品となって見える日がくるのでしょう。DataBaseは共有してあり、そこから何を見つけていくか、が今後の生物の遺伝子研究の方向だと言っていましたが、いかなる方法で早く正確にパズルをはめていけるか、なかなか面白そうな挑戦ですね。完成したパズルをどこに飾るかもそのうち問題になって来るんでしょうかね。
A:ジグソーパズルは面白い比喩ですね。今度機会があったら、講義で使ってみましょう。パズルが完成すると、特に人のゲノムの場合などは、倫理的な問題も出てくるかも知れませんね。
Q:今日のテーマにはDNAの話が多く出てきました。最近ではある細菌やバクテリアなどのDNAの塩基配列が全部決まっても大きな発見にはならない、というのになるほどなと思いました。たしかにそれだけじゃ何にもならないのなと思いました。各々のDNAがでは実際にどのような酵素を生成してそれがどのような働きをするのかがわからなければなぜその生物がなぜそのような塩基配列をもつのか、その理由やそれを持つに至った経緯もわからないでしょう。昔、それが大騒ぎされたのはその「手法」が新しい発見なのであって方法が決まったことから始まってまた新しい研究領域へと入っていくんですね。なんだか歴史の流れを見ているようでおもしろいと思いました。DNAの情報によってつくられた酵素とそのDNAの塩基配列とを連関させる研究というのはやってみたいです。パズルみたいでおもしろそう。実際私が理系にしたのも解けないパズルみたいだとおもったからですし。こんがらかったものをひとつづつ解いていけば答えが出る。それが好きです。言葉だとどうにでも言えるし、なんだか人それぞれ過ぎて。
酵素の同定は何万個も何十万個もあるので大変だなーと話を聞きながら思っていたんですが、それをマクロに全体的に同定しようという電気泳動の方法にはかなり驚きました。実際それだけの数の酵素をいちいちやっていたら時間もお金もいくらあっても足りないからだというのはわかりますが、実際よくそんなの方法を発見して実用化レベルまで引き上げたなと思いました。
A:タンパク質を同定する二次元電気泳動の手法は、実はかなり古くからあります。ただ、昔は、タンパク質のスポットがたくさん得られても、それが何であるかがわかりませんでした。微量のタンパク質のシークエンスが簡単に決められるようになって、しかも一部を決めればゲノム情報から全体がわかるようになって、初めて発展した手法です。面白い方法でも、条件がそろわないと使えない、ということですね。
Q:今回の講義は正直に言って、手法等の面でわからないことが多かったので大変でした。マイクロアレイ、ハイブリダイゼーションの原理や方法が講義中は「そっか。」と思ったはずなんですが、すっかり忘れてしまいました。このレポート提出の段階まで忘れてしまっていて、しかも調べきれていないのが残念です。すみません、自分で調べ直します。それにしても、この手法等がわからないというのは復習をしようとしたとき、図・表が何を表しているのかノートが無かったら無理ということもわかりました。
シアノバクテリアの研究材料としての利点のところで、①葉緑体の祖先生物である→酸素発生型光合成研究のモデル系②細胞分化を行う種がある。③さまざまな環境に適応している種がある。と、いうように、その他に扱い易いという面からも、ポストゲノムの研究に用いられていることがよくわかりました。酸素発生型光合成のモデル系としてシアノバクテリアが?というのが本音でしたが、祖先で細胞共生説ともなれば、ゲノムの研究段階、ポストゲノムの段階では適切なんでしょうね。やはり遺伝子、環境、相互に影響し合っているわけだし、扱いやすくて種類が豊富(さまざまな環境に適応)という点も大事だろうし。
そこで、全ゲノムがわかってそこからどうするか、情報は共有してみんなが持っていることが前提となり、次に何をするか、というところからが勝負で、ファンクションは網羅的に知ることはできない、という先生のコメントから、つまりそこからはひたすら表現型からゲノムに照らし合わせていくという作業なのかな?」という印象を受けました。トランスポゾンランダム変異導入もそうですが、ターゲットをある程度絞って、少し運任せ、根気勝負な雰囲気がある気がします。どうなんでしょう?
A:本当は、表現型の解析でも、1回実験をすればゲノム全部についてわかるような方法があればいいのですが、今のところ、こつこつやるしかなさそうです。二次元の蛍光画像解析を用いた方法などが、今のところ一番スマートな方法だと思っています。全てがぱっとわかるような方法を見つければ、ノーベル賞も夢ではないかも知れませんよ。
Q:本によると、シアノバクテリアは原核生物で水中や海水に生活しておりいずれも光合成と同時に窒素固定をも行う、とある。授業で出てきた根粒菌は、ニトロゲナーゼという酵素によって空気中の窒素をアミノ酸に変換する、とあった。では、水中や海水に生活しているシアノバクテリアはどのように窒素固定を行っているのだろうか(水中は土壌と違って窒素固定をしにくい、というイメージがあるのだが)。また、シアノバクテリアがとる様々な体制(形、単細胞か群体か、など)は水圏での活動に適するように進化してきたものなのだろうか?ゲノムの研究に入る前にそのことが気になってしまった。
A:窒素分子は水にある程度溶けますから、特に水中だと窒素固定がしにくい、ということはないと思いますが。体制については、水圏での活動が前提となっていることは確かでしょうね。
Q:今回は、ポストゲノムの研究について講義を受けた。内容は、RNAやタンパク質のコードを読むことにより、その情報の意味を知る、というものだった。DNAの塩基配列自体はもうすでにかなりわかっていて、特にシアノバクテリアについては様々な種類が既知である。しかし、それが一体何のためになるのか、という疑問、タンパク質ができる、というまではわかるが、それがどのように身体を形成するのか、という謎解きはこれから、であるのは、本当の意味でのゲノム解析はまだ始まったばかりだということであろう。個人的に質問したことで、mRNAからタンパク質をつくるときに量を調整する機構がわかり、セントラルドグマは本当に大した機構だと思った。
A:タンパク質の量の制御のメカニズムには、転写の段階で調節する場合、mRNAの安定性が効く場合、翻訳の過程で調節する場合など色々あります。
Q:前半のゲノム解析の手法やシアノバクテリアに関する講義からは、これらがどのように実際のシアノバクテリアやその光合成の研究に用いられるのか疑問に感じたが、クロロフィルの蛍光とこれらの手法を組み合わせるというのは講義を聞くうちに非常に優れた発想であると感じた。この授業で紹介された研究ではみなそうであるが、基本的な学生実験とは異なり光化学系のサブユニットに重点的に着目し様々な実験を行なう事で目では確認できないような結果から法則性を導き出していて、用いている手法そのものは決して理解できないものではないにも関わらず研究がよく組み立てられている点でとても良い実験であると感じた。しかし評価に用いた変異株と野生株の蛍光の挙動の比較については、グラフの形状による比較であって多少信用に欠けるような気がした。実際に遺伝子の機能と蛍光挙動についての関連が見られた点は成功していると考えられるが、先生もおっしゃっていたようにグラフのタイプを分類する時点での工夫が必要であると感じた。
A:確かにグラフの形状を比較するというのは、定量化するのが難しいだけに、常に問題があります。将来的には、情報処理的な考え方も合わせて今はやりのバイオインフォーマティクスの方向に進む必要があるかも知れません。
Q:シアノバクテリアを材料とした、ポストゲノム的研究についての講義はとてもおもしろかったです。特定の時期に発現されるタンパク質のアミノ酸配列を(一部)解読し、sequenceを特定するという逆遺伝学の研究が進み、sequenceとそのsequenceがコードするタンパク質の機能の対応が明らかになれば、DNA sequenceを操作し、望み通りの働きをする酵素を生産させることもできるようになるのではないかと思いました。この分野に無限の可能性を感じました。しかし遺伝子発現のしくみは複雑なので、sequenceと機能を結びつける為には、転写制御のしくみの解析をより進めることが、必要とされるのではないかと思いました。実際このような実験をした事がないので、ハイブリダイゼーション、マイクロアレイなどの実験手法がいまいち理解できなかったです。また、二次元ゲル電気泳動で分離されたタンパク質のアミノ酸はどのようにして解明するのでしょうか?
A:確かに、今転写制御の研究は山ほど行われています。タンパク質のアミノ酸配列は、アミノ酸シークエンサーという機会で、N末端から読んでいくことができます。基本的には、N末端からアミノ酸を1つずつはずして、そのアミノ酸が何であるかを決める、ということの繰り返しです。
Q:最近話題になっていたヒトゲノム計画がほぼ終了し、ヒト以外の生物の塩基配列も数多く解明されてきた。その次にくるのがポストゲノムで解明された塩基配列の機能を明確にし、応用するということだ。これからもしばらくはゲノムが注目されるのだろう。ゲノムなどの遺伝学的な分野はかなり苦手な分野で遺伝学的な授業になると心苦しい限りです。やはり生物学に関わる限りは遺伝からは逃げられないのでしょうか。今回に授業はそこまで遺伝学的色合いは強くなかったのですが、少し複雑で難しい気がしました。特にコスミドとトランスポゾンのところが分かりにくかったです。遺伝学の解析に使われるというのは分かるのですが。
蛍光による遺伝子解析はとても興味深かったです。蛍光の状態変化で光合成の状態変化を見るという考え方は遺伝子解析では当たり前のことなのですか。それとも実験を進めていく中で先生が思いつかれたものなのですか。ある特定の分野の状態変化を別の分野の状態変化で見るというところが生物学の複雑で難しいところではないかと思います。
A:今回話した内容は、遺伝学的手法というより分子生物学的手法ですが、このような手法と無縁でいられる生物の分野はかなり少なくなりました。生態学の分野では、まださほど使われていませんが、それでも分子生物学的手法を取り入れた研究例も報告されています。
蛍光挙動でもって、遺伝子の機能に迫るという考え方は、光合成遺伝子では昔からやられていたことですが、光合成に直接関係のない遺伝子に応用したのは、僕が初めてだと思います。
Q:シアノバクテリアのゲノム解析について調べていたら「全ゲノムのシークエンスが完了し、トランスポゾンにより全ての遺伝子の破壊株も作られているのに表現型の解析が追いついていない」という表現を見つけました。表現型の解析というのはプロテオーム解析やメタボローム解析より高次(と表現してよいのかわかりませんが・・・)の解析なのでしょうか?クロロフィル蛍光による遺伝子機能解析というのは表現型の解析ではないのでしょうか?
何種類かの生物でゲノムシークエンスが終わっていて、これからはそれを使った研究ということになりますが、結局のところそのゲノムの発現や、発現経路を見てゲノムとの対応をさせる。そうすれば道具も機能もわかっているので治療薬などの物質生産が可能になるというのが具体的な「今後」なのでしょうか?また、ゲノムとその発現物質との対応から進化の道筋当も確認出来るのでしょうか?そうだとすれば、進化についても実験という事実を元に検証出来るということになります。それってめちゃくちゃロマンがあることだと思って興奮したんですけど実際のところどうなんでしょうか?
A:プロテオーム解析やメタボローム解析は「簡単」とは言いませんが、一定の手順を適用することにより進めることができます。これに比べて、表現型の解析というのは、その表現型が何かによって、まるで異なる解析手段が必要となり、網羅的な解析ができません。クロロフィル蛍光を使う方法は僕が2年前に考えついたもので、まだ一般的な方法にはなっていません。
1つの生物のゲノムだけでなく、異なる環境に生活するさまざまな種類の生物のゲノムがどんどん決まれば、進化の道筋についても議論できるようになるでしょうね。医療などの応用ももちろん期待できるかと思います。