植物科学I 第6回講義

植物の低温感受性

第6回は、植物の低温感受性に対する研究例を紹介しました。今回の話は、僕自身の研究の成果の紹介でしたが、どうも、何度もした話だったのでどうしても展開が速くなり、配ったプリントが英語だったこともあって、充分に理解してもらうまでには至らなかったようです。申し訳ありません。


Q:今日のハンドアウトはタイトル以外すべて英語で、この講義でもついに…とおもったが、実際に学会で使ったものだそうで、そういうものをそのまま教室で聞けるなんてちょっとトクした気分だった。でも、先生の話が日本語だったからまだよかったが、資料が英語だとどうしても内容を理解するのに時間がかかるので、一人で考えている間にしばしばおいてけぼりを食ってしまった。次回からはできれば日本語のほうがいい。今から疑問を順番に列挙してみる。まず、P-700の実験のところで、光を当てた時にPSIが壊れ、酸化、還元剤を加えた時には壊れなかったとある。この結果からどうしてP-700が正常で、その電子受容体がおかしいと導けるのか。その結果でchemicalのグラフがほぼ50%に収束しているのはなぜか。PSIのphotoinhibitionのメカニズムについては大体理解できたが、その仕組みはキュウリとホウレンソウとで共通するものだとすれば、低温感受性植物と低温に強い植物の違いはどこから来るものなのか。記憶がとびとびなので、授業ですでにおっしゃったことも聞いてしまっているかもしれませんが、よろしくお願いします。

A:今回は、時間がなくて日本語化が間に合わなかったのですが、次回からはちゃんと日本語にします。酸化剤・還元剤によってP-700が酸化還元する以上、P-700があることには間違いありませんよね。光を当てた場合は、P-700の酸化には電子受容体の還元が伴います。しかし、この反応がうまくいかないとすると、P-700自体はちゃんとあるならば、阻害の原因は電子受容体にあるはずだ、という論理です。「50%に」というのは、photochemical のP-700と PSI の Yield だと思いますが、この50%というのは、この強さの処理では半分の系Iが壊れたということで、特別な意味はありません。
 講義の中で話忘れたのですが、photoinhibitionのメカニズムはホウレンソウとキュウリの間で共通だけれども、葉の中では系Iが壊れないように保護するメカニズムがあって(光が当たるたびに系Iが壊れていたんでは光合成で生きていけませんから)、その保護メカニズムが、キュウリでは低温に感受性である、と考えています。


Q:結局、低温感受性って何だったんですか?低温阻害のはずだったのが25℃でも起ると言う事から、光によりPSIが阻害されるという事は何と無く分かったつもりなんですが、低温による影響は? in vivoではin vitroと違う結果になった原因となるものがあるということでしょうか?酸素が存在していて、光があるという状態で無いと成長できない植物にとっては今回のようにPSIが傷つくという事は、ごく日常的に起っている現象なんでしょうか?それを修復するような機構がなにかしら働いているから、成長等には影響が無い様に見かけ上は見えているという事なんでしょうか?でも、不可逆的なダメージであるという事は、新しい他の光化学系が働いているということなんでしょうか?それとも前回の活性酸素を除去する系が働いて事前にブロックする事によって防いでいると考えるのが普通なのでしょうか?低温に関すると仮定していた事がin vitroで否定された時点で失敗したとも思われる研究を更に進めて、常識を裏切る形のPS1の阻害にたどりついた事、すばらしく思います。特に科学の世界では過去の研究が全てあたかも真実の様に思いこみやすく、新しい発見がそれまでの事を覆すような事では受け入れられにくいだろうし、自分自身が誤った実験を行ったかと思いがちだと思います。でも、決して科学も万能ではないと言う事を改めて感じさせられたクラスでした。

A:すぐ上の答えに書きましたが、低温感受性はin vivoで働いている保護メカニズムの違いによると考えています。基本的に、キュウリなどは亜熱帯原産の植物なので、その生育地では、そもそも阻害を起こすような低温にならないはずです。逆に言えば、低温感受性が、その植物がどこまで寒い地方で育つかを決めているとも言えます。イネの場合もそうですが、元もと生えていた場所よりも寒い地方で植物を栽培しようと思ったときに、低温傷害が問題になる、ということです。


Q:今回の範囲は内容自体の難しさとプリントが英語だったこともあって理解するのが大変でした。植物の低温感受性は「夏が寒いと米が不作になる」という程度の知識となんとなく「低温は植物に悪影響を与えそう」というぐらいの認識しか持っていませんでした。今回の講義でPSIが低温の影響を受けて弱い光の下で光阻害を受けるという「低温での悪影響」のHowの部分の理由が分かりました。ただ、全体としては難しくてそれぞれの実験結果がまだ自分の頭の中でつながっていないような気がします。PSIの活性をin vitroで調べた時、温度にかかわらず弱い光のもとではPSIの活性が低くなるのかよくわかりませんでした。なぜin vitroでは温度依存性がないのですか?
 今回、先生が実際に実験をしてきたことを講義として聞けたのは興味深かったです。先生のお話を聞いて、生命科学者の中村桂子さんの『生命科学者ノート』という本に「自然に対して常に謙虚であり、自然から学ぶことに楽しみを見出すことに科学の本質があるのだから、実験が思い通りにならなかったら喜びなさい」というようなことが書かれていたのを思い出しました。

A:一番上の回答に書きましたが、in vitroで温度依存性がなくなるというよりは、in vivoでは阻害を起こさなくするような機構が働いていて、その機構が低温感受性である、と考えています。
 実験が「思い通りにならない」場合には、2通りあって、1つは、思いがけない結果が出た場合、もう1つは、毎回結果が違う場合です。前者は面白い発見につながる可能性がありますが、後者の場合は、なかなか難しいですね。


Q:植物は低温により不可逆的な発育阻害を受けるが、その現象がどういう機構によって起こるのかを解明する非常に興味深い授業でした。実験過程を追って説明してくださったので臨場感があって、結果を自分なりに考察するなど楽しめました。しかしコメントを書く時になって、理解していない部分があるため考察の流れがつながらない事に気が付きました。友達に聞いて補った部分を含めて、私が理解した低温障害の機構について書いてみるので、わかっていない部分を説明してくださると嬉しいです。
 ①低温により、PSIからNADP+につながる回路のうちのいずれかの構造のサブユニットが壊れる→②この回路が遮断され、反応中心が光を受けるとPSIに電子がたまる→③PSI内の(?)鉄が電子によりイオン化され、H2O2がハイドロキシラジカルになる反応を触媒する→④ハイドロキシラジカルは植物体に害を及ぼす→⑤①によって、もはやハイドロキシラジカル生産につながる電子の貯蔵庫となってしまったPSIは積極的に破壊される→⑥光合成がPSIの回復まで阻害される(PSIは代謝が遅いので、しばしば不可逆的な影響を受ける)
 この過程を経て植物は生育阻害を受けるので、きっかけは低温によるが、その他にも光量(ごく弱くてもよい)・酸素分子・低温処理後にPSI破壊のための酵素活性に必要な温度があることなどいくつかの条件が「低温阻害」と呼ばれる現象に必要である。
 以上のことをこの授業で理解しました。この授業で急に思い出したことは、ドラマ「北の国から」で霜警報を聞いて、みんなが畑で古タイヤを燃やすという場面でした(うろ覚えですが)。その時はタイヤを燃やしたくらいでは、いくらももたないので焼け石に水だと思ったのですが、数時間でも気温が敷居値を下回るだけで作物が枯れてしまう(逆に日が昇って気温があがるまでの数時間、保温してやれば作物は助かる)のだから、古タイヤを燃やして一時的に暖をとるのは理にかなっているのかと納得しました。

A:①だけは実はまだよくわかりません。低温にすると酵素反応である炭酸固定反応は遅くなりますので、②以下につながることは確かです。ただし、敷居値のある温度依存性は、炭酸固定反応の温度依存性では説明できません。実際に、低温を「感知」する機構は未だに不明です。②以下はだいたいあっています。古タイヤを燃やすのは、温度上昇というよりは、明け方の太陽光を遮る意味の方が強いと思います。低温傷害は、光阻害の一種ですから、温度はそのままでも、光を弱くすれば阻害を防ぐことができます。


Q:講義の最後に先生の語った、生物学者としての研究への姿勢や信念におおいに触発されました。今回の講義で触れた実験例も非常に論理的に組み立てられた実験で、温度変化の実験をして次に温度固定で光強度を変えた実験をするという一連の実験に流れがあるのがわかりました。実際、講義中に自分であれば論理的な実験の組み立てが出来るのかと不安感に駆られました。しかし、まとめられた実験結果も2年程に渡る実験のエッセンスであり、その中には多くの失敗があるという当たり前のことですがそこに気づかされました。また、全開のコメントの返事にあったのですが、生物学は実験科学なので実験結果が真実であり、もしかすると現在信じられれいることが間違いかもしれないということをこの実験は当時しるしたわけですし、実際の学生実験で出てきた間違いと思われ結果にもより一層の注意を払おうと思いました。また、なにかおかしい実験結果が出てきた時にそれをおかしいと感じることが出来る感覚を養って行こうと思いました。それには基本的な生物学の勉強のみでなく、広範囲に常に自分の興味を張り巡らせることが重要なのではないかと思いました。
 一つの実験例からgeneralなことに発展した講義でしたが学問する姿勢に関して多くを学ばせてもらいました。

A:低温阻害ばかりをやってきたわけではありませんが、この研究は、ほぼ10年間にわたって続けてきました。もっとも、そのうち、世の中の常識を変えるような部分は最初の2年間で出ましたが。研究の上でのものの考え方を伝えることができたのならうれしいですね。


Q:今回の講義は、実験の過程においての予想→実験→結果から改めて予想・・・と再構築されていくのが印象的でした。特に、2枚目の画面でそれまでの低温感受性の原因と考えられていたことがバラバラで、それに更に選択肢を増やし混乱させるのではなく、それらを含めて解決しなければ意味がないというのも尤もだなと思いました。それにしても、発表したときに「自分の言ってることがわかっているのか?」と言われるほど意外なところから始まっていくこともあるんですね。
 講義の最後に先生が、「頭の中で考えたことが実際に証明されるのがすべてではなくて、意外な結果が出てそこからどうするかだ。」「ダイヤを要領よく見つけるのではなく、見つけた石がダイヤの原石やどうか見定めてチャレンジしていくんだ。」と、いうような感じのことをおっしゃっていたのもなんだか感銘を受けました。行き詰まることが今でさえあるので、励まされました。ありがとうございます。
 講義の内容が進むにつれて(光阻害の内容以降)、今回のPSIが光のストレスに弱いというのも含めて、植物が命がけで光合成をしているんだなあと感心します。あ、今回のレポートはなんだか、内容よりもその他のことでレポートを書いてしまいました。

A:「感銘を受ける」などと言われると照れますね。まあ、内容がわかりにくかった代償に、少しでもなれば幸いです。


Q:植物の低温感受性に端を発し、光化学系Iの活性低下の要因を推測、確かめる実験をし、その結果からさらなる実験計画を立てるという研究プロセスが素晴らしいと思いました。また、学生実験しか経験したことのない自分も一度は体験してみたいと思いました(実際に研究を始めたらそのプロセスの果てしなさに発狂しそうですが…)。講義後の、生物学者のセンスをダイヤモンドの原石を見分ける眼力に例えた話も、専攻科目授業ではまず聞くことのできないような新鮮なもので、個人的に、今までの授業で一番興味しろかったです。とても心が満たされた時間でした。
 低温処理を受けた植物のクロロフィルの減少が、室温に戻した後に目で確かめられるのは、クロロフィルの分解が酵素反応によるもので、それも、光化学系IがPsaA/Bの分解の結果、起こると予想されるハイドロキシラジカルの生成を防ぐための積極的な防御機構だということに感嘆したと同時に意外に思いました。緑色が薄れていくのは、外部から受けた直接的な阻害によるものではなく、さらなるダメージを防いで生き延びていく植物の必死の策なんですね。クロロフィルを分解させてどうにか生き延びてもハンドアウトの写真のように葉の半分以上が白くなってしまうともはやこれまで…という植物の哀れな声が聞こえてきそうです。

A:今回、内容よりもプロセスやたとえ話の評判がいいのは、僕が伝えたかったことが伝わっている、という意味では成功ですが、やはり内容自体は難しかったのでしょうね。哀れと言えば、イネなどは、元は暑い地方の植物が寒さの限界に近いところで栽培されているわけですから、それ自体、もしかしたら哀れかも知れません。


Q:今回の授業は低温、弱光のときのPSIの阻害が起こるという発見を行われた実験と考えた過程を通して理解をするということだった。低温障害と過去の論文から始まり、安定だと思われていたPSIに関する新たな事実、PSIが積極的に破壊されているということなどが主な内容だった。そのなかで、“PSI was photoinhibited at chilling temperatures under weak light in cucumber leaves.”というスライドで温度が閾値を超えるとPSIに阻害が起こるということだが、植物はどのようにして閾値の前後の温度の差を感じるのだろうか。動物のように神経があれば微妙な刺激の違いを感じることができるのだが、植物にはそのようなものはないが、何か温度受容体のようなものがあるのでしょうか?しかし植物が温度受容体をもっているという記述がなかなか見当たらないことから、他の要因があるのだろうか。すべての生体反応が化学反応であるということからすると、その反応の進み具合で温度を感じるのではないだろうか。化学反応は基本的には温度があがれば反応が進み、低温になれば反応系が進みにくくなる。そのことから考えると、反応系の進み具合により温度差を感じているのではないのだろうか。

A:実際に温度を感受する部分が何かはよくわかりません。化学反応はもちろん温度依存性を持ちますが、低温感受性植物の阻害のように敷居値を持つことはありません。可能性としては、脂質の相転移などの、物理的なプロセスがあります。


Q:今回の講義は実際に先生がおこなった実験をもとに話されたので、データも豊富で新しい発見の話なども含めその点では一番具体的でかつ面白かったです。ただ、途中であとで見直してすこし混乱したのですが、最初は低温阻害の話だったのから話がPSIの光合成阻害に話の要点がが変化していきましたよね?実験結果からいろいろと新しい発見があり、目的が変化していったことはわかるんですが、結局PSIは低温阻害にどのように関与していたんですか?温度に関係なく、弱光によっても被害をうけるということは、「低温阻害」というのは実際にはどこに実際の阻害が起きているんでしょうか?それから、植物の成長には温度はあまり影響を及ぼさないとおっしゃりましたが、発芽の場合には温度は関係あるのですか?

A:一番上の答えに書きましたが、温度感受性部位は系Iではなく、それを保護する機構にあると考えています。「植物の成長には温度はあまり影響を及ぼさない」と言ったつもりはないのですけど?「低温で枯れない植物を作っても、低温ではもともと成長が非常に遅くなるので、農学的には意味がない」とは言いましたが。成長も発芽も温度によって、大きく影響を受けます。


Q:今回は植物の低温阻害についての研究例ということでしたが、実験を見ているようでおもしろかったです。はじめに、低温感受性植物を低温にさらす時間を決定する際に、実際それが畑でどのくらいの低温状態にさらされる(朝方の冷え込みなど)とき、被害が起こるのかを考えていたところが興味深かったです。これは、低温阻害を見る実験だけれども、最終的には低温感受性植物が完全に低温耐性になることを望むのではなく、いかに効率よく実をつけ生産できるかに重点を置いているという意見に納得です。生物の研究は、特に知的好奇心を刺激するものが多いけれど、最終的に、農業や医療などで役に立つことを目的とすることは大切だと思います。
 実際の研究内容は、ほぅ。と納得するばかりで、とても自分では考えつかないなとおもうことばかりでした。特に、PSIの活性がphotochemicalとchemicalとで違うのは、p-700が壊れているからではなく、電子伝達系に問題があるのではないかという発想の転換や、低温で起こるはずのPSIの光阻害が、in vitroで低温でない状況でも起こってしまったときに、それを失敗だと考えず、チラコイド以外の部分での反応が関与しているという方向につなげていくところなどはわくわくしました!
 学生実験では、「実験→文献に書かれている決まった結果」であり、結果から何かを考え出すということをあまりしません。むしろ予想外の結果は、失敗として排除されます。(あたりまえですが。)しかし、自分で研究していく段階では、予想外の結果こそが新たな発見の第一歩だと知りました。でもそのためにはまず、自分の実験結果を信じられるくらい、実験の技術を磨かなければならないですね…。

A:学生実験と研究の違いはまさにその通りですね。ただ、学生実験で予想外の結果が出た場合も、単に失敗したと投げ出すのではなくて、その理由を考えてみることは役立つと思います。


Q:今回の内容はまず低温感受性の存在についてさえ知らないような状態だったので全体的に理解に時間がかかったが、実験から新しい事を導き出す過程は興味深く、また実験のアプローチも様々な手法を用いていておもしろいと感じた。特に生体内での反応からチラコイド膜を取り出し試験管内での反応を見る実験に切り替えたあたりが、実験室での実験から環境中のものの観察へとすすむ微生物での実験などとは逆の順序で、実験の方法の違いを強く感じた。また”ぶっかけ実験”などは自分で計画を立てて考えを導き出すような方法で、授業で行なうような実験ではとる事の出来ないという点で新しく感じた。ただ、話の中心がいつのまにか低温による光合成阻害からその原因のPSIに移っており、低温という条件の影響がどれだけあったのかがよく見えなくなってしまい、それが理解不足の原因になっていたように思った。また生体内での実験と試験管内の実験の条件の違いによる影響は無いのか、例えばチラコイド膜のみを取り出したことで別の影響を受けていないか疑問に思った。

A:低温の影響、つまり生体内での実験と試験管内の実験の違いは、一番上の答えで触れているとおりです。やはりどうも、説明不足だったようですね。低温感受性は試験管内の実験では失われているので、まさにチラコイド膜を取り出した影響があることになります。ただ、何が失われたのかについては、つまり、低温感受性の原因が何であるのか、については未だにわかっていません。


Q:今回の授業では植物の低温感受性についての研究を学んだわけですが、そこでうちのベランダのベンジャミン(だったかな?)というお茶の葉っぱのような葉をした観葉植物が、外の低温ですっかり落葉してしまった時のことを思い出しました。育て方の注意のところに「日照不足、低温、乾燥の3つが重なりますと落葉してしまうことがあります。」と書いてありました。買ってきたときは鬱蒼と茂っていて生命力が溢れていたのですが、今考えるとそれを育てていた環境は室内で暗く、その割に気温が低くて、その上みずやりを忘れがちであったという3要素がぴったり一致してしまっており、なるほど!と変な感心をしてしまったのでした。そのときはどうしてそのようなことが起こるのか、など疑問さえ持たずに鉢を移したのですが、今思うとこの現象は今回の研究内容によく似ていることに気が付きました。あの時、次第に緑が薄くなっていったその葉っぱの中で、過酸化水素、酸素ラジカルによるPS1の破壊による光合成の阻害、そしてクロロフィルの分解が起こっていたとは驚きですね!しかしじっくり考えてみると過酸化水素によるPSIへの影響というのは、光がある条件下で現れるんでしたよね。となるとこの三つの要素というのはどのような意味を持ち、植物体にはいかなる影響が及ぼされているのだろうか?と疑問に思いました。一般的に我が家の観葉植物たちは熱帯原産のものが多いせいか低温に弱いようです。でも結局PSIの光合成阻害に低温の依存性は見られなかったんですよね?そもそも熱帯の日差しや温度とかけ離れた環境下に置かれてる彼らにさりげなくごめんといってみました。最後に、ダイアモンドの原石のたとえ話は非常に印象的でした。卒論では初めての研究ということになるわけですが、そのような発見の糸口に対して感受性豊かでありたいものです。そして一番最後に次回へのお願いなんですが、今回の研究内容はすごく興味深くて、意義のある脱線が面白かったのですが、時折それについていけず方向性を見失ってしまったときがあったので、次回は最後に改めてまとめをお願いします。

A:観葉植物は、やはり常緑でなくては困りますから、どうしても暖かい地方の植物が多いですよね。冬枯れした観葉植物というのは意味がありませんから。ただ、系Iの阻害がどの程度一般的なのかはわかりません。今までに、キュウリ、トマト、インゲン、カボチャ、オオムギ、ライムギで報告がありますが、観葉植物ではどうでしょうね。それでは、なるべくまとめをするようにします。


Q:光化学系Iは、過酸化水素があっても暗い所ならば破壊されず、光が当たっている所だと破壊される。そして、クロロフィルの量は光の強さではなく温度に影響を受けている。ここで、素朴な疑問が浮かんだのですが、植物が光を受ける時は光子が来るので、植物は光を受けてることも光の量も分かりますよね。では、温度はどのように感じているのですか?温度の高低はどうして分かるのですか?今回の講義は難しかったです。特に光化学系が破壊される仕組みがややこしかったです。

A:「クロロフィルの量は...」のところは、あくまで、系Iの阻害からの回復時には、と言う前提条件付きです。温度については、化学反応の進み具合で見る場合がありますが、低温感受性の時に何が関与しているかは不明です。上にも書きましたが、脂質の相転移によってシャープな温度依存性が出ている可能性はあります。


Q:常識を覆すために有効な手段はやはり実験であると感じた。比較するもの以外は全部同じにして、比較するもののみを変える、という単純な実験の積み重ねと考察から新しい発見が生まれるものだと感じた。植物の低温感受性について調べるはずであったのに、光化学系Iによる光阻害が実は強いということを発見できたのは、フェアーな目での条件設定と、冷静なデータの解析があったからだと思う。
 前々回、批判精神が大切ならば、その批判精神へをも批判精神をもて、とコメントを頂き、肝に銘じ、今回の授業では、自分なりに結論ではなく、データを見つめることができたと思う。
 自分はマニア気質で、調べものを始めると本当に止まらなくなってしまい、最近では生物の本や辞典をそろえてマニアぶりを発揮して宿題を始めたにも関わらず別のことを調べ始めた、なんてことばかりで楽しくすごしている(?)が、その辞典さえも間違えがあるかもしれない、と思うと、やはり大切なのは結論ではなくプロセスだと考えさせられる。
 あと、実験の解説による授業の時、それがどのくらいの期間をかけて行ったものなのか、興味があるので、知りたいです。

A:講義で聞いたことなどというものは、ちょっとすれば忘れてしまうものですが、自分で調べたことは覚えているものですから、自分で調べるということは大切ですね。低温感受性の話は、全体では10年ほど続けている研究です。ただ、今回お話しした骨格の部分は、ほぼ2年ほどの間に出したデータです。


Q:今回の授業では、植物の低温感受性についての実際の研究例についての授業でしたが、具体的なデータや内容よりもそれらのデータからどう結論を導き出していくか、ということや、PSIがストレスに強く光阻害に影響されたりしないと思われていた10年前の常識をくつがえしたときに周りの研究者がした反応や、授業の最後に先生がおっしゃっていた、生物学者として大切なことはなにか、という話のほうが印象に強く残っています。植物に関する実験の授業はとったことがないので今回のテーマに関係する実験の具体的な手法というのは少し想像しにくかったですが、それはある意味どうしようもないので、大筋で理解できればいいかなと思っています。ひとつだけちょっと疑問に思ったのは、OHラジカルの話のところです。授業でも講義のページでもヒドロキシルラジカルに関しては「拡散律速」で、「ぶつかったものを何でも壊す」ということが強調されてきたと思うのですが、PSIの光阻害においてOH radicalは(1)destroys iron sulfur centers and(2)degrades reaction center subunit of PS1という2つの悪いことしかしないのですか?限りなく単純に、膜にぶつかって膜を壊しちゃうというような、わき道にそれたような邪魔をするということは起こらないのでしょうか。

A:OHラジカル(ハイドロキシラジカル)が拡散律速であるということは、逆に言うと、それができたすぐそばの物質しか破壊できない、ということです。系Iの光阻害の場合、鉄イオウセンター上の還元型の鉄と過酸化水素の反応でハイドロキシルラジカルが生成します。そうすると、おそらく、鉄イオウセンターとそれを結合している反応中心サブユニットは破壊できますが、離れたものは破壊できないのだと思います。