植物科学I 第5回講義

光合成と呼吸の関係、シアノバクテリアの強光適応

第5回は、前半は、高校でも習う光光合成曲線を、光合成と呼吸の関連という視点から考え直した実験を紹介しました。陰生殖物と陽生殖物の違いは、光合成だけではなく、呼吸の面にも及んでいます。ここの話は、現在、大阪大学の助手になっている野口君の仕事が主です。後半は、シアノバクテリアの強光適応の実験でした。こちらは、現在、埼玉大学の助手になっている日原さんの仕事が主です。なお、冒頭に、先週の積み残しの活性酸素消去系の話をしました。


Q: 授業後半のシアノバクテリアのところが面白かった。培地の条件をいろいろに変えて成長したときの大きさを比較したり、変異株の遺伝子の変異部位を突き止めたり、最後に変異株と野生株の性質の違いを明らかにするまでのプロセスも知的な刺激に満ちていたが、この研究の一番すごいところはその出発点にあると思う。強行条件下のシアノバクテリアのコロニーの大きさに注目した人はえらい。普通の人なら、二ヶ月間ずっと顕微鏡でバクテリアのコロニーを見ていても、一見ばらばらに見えるコロニーの大きさが実は二種類しかないなんて、なかなか気づくものじゃないと思う。その気付きがなかったら何も始まっていなかったのだから。「転んでもただじゃ起きない人」—大きな発見をする人は必ずしも天才的な頭脳の持ち主である必要はなく、「失敗の中から何かを掴み取ってやるんだ」という気概と執念を持っていることがもっとも大切なんだと感じた。

A:これだけ誉められたら、本人はさぞかしうれしいでしょう。早速、このページのURLを知らせましょう。


Q:光阻害に対しての、植物の対応として強光下ではクロロフィルが減るようですが、機能が停止し、更に葉緑体の数自体も減っているとすると、細胞の中でどのように、減ったり、または逆に増えてたりするのを制御されているのでしょうか?どれぐらいの時間で増減するのでしょうか? 
 シアノバクテリアでの変異株についてですが、一つの塩基が変わっただけで、結果としては、コロニーが大きく形成されたり、光に強くなったりしたわけですが、本来は何に関するタンパク(アミノ酸)の部位だったのですか?つまり、“風が吹けば桶屋が儲かる”的にいうところの風はどういう働きのタンパクだったのですか?
 スイレンの花の発熱かなり感動でした。ただ自然のなすがままのような植物が、自ら熱を出しているだなんて。クロード・モネの睡蓮を思い出しました。冷たい水面に浮かぶ、睡蓮のあの輝き、暖かさをモネは感じて描きとっていたのかもしれませんね。そこで、この発熱は、開花させるシグナルに対応して起るのか、それとも、物理的に花が開くと言う事自体がシグナルになり、反応が起きているのでしょうか?

A:クロロフィルの増減などは、種によっても違いますが、シアノバクテリアなどでは数十分から時間のオーダーで起こります。今回お話しした変異株では、変異部位ではロイシンがフェニルアラニンになっていました。ただ、タンパク質の機能については全くわかっていません。
 発熱のシグナルについては、よく知りませんが、物理的に花が開くことがシグナルになっている可能性はあまりないのではないかと思います。通常、物理的な「位置」をシグナルにするのは非常に難しいものです。


Q:今回の授業で出てきた花の発熱の話は興味深かったです。ザゼンソウについてインターネットで調べてみたところザゼンソウは周りの気温が氷点下になっても花穂は20℃前後に保つことができ、そのことから外気温度センサーと発熱機構を持っていると考えられると書かれていました。つまり「恒温動物」ではなく「恒温植物」と言えるような機能を持っているそうです。しかもザゼンソウの持つ発熱制御のプログラムを見つけ出し、外気の低下に反応して発熱でき、冷害に強い作物を開発するという研究の計画も書かれていました。(http://www.tokyo.brain.go.jp/marumoto/h13kadai/02ito.html)植物の呼吸の過程でATPは作らずに発熱する回路があるという話しは今回初めて聞きました。スイレンやザゼンソウの他にも発熱する植物は見つかっているのですか?
 シアノバクテリアのpmgA変異株について質問なのですが、なぜ変異株はグルコース存在下であまり生育できないのですか?それは短期間の光阻害には強くて長期間の光阻害に弱いという性質と関係するのでしょうか。

A:発熱する植物は、他にもいくつかあります。シアン耐性経路は動物にはありませんが、アンカップリング・プロテインの方は動物にもあります(というか、動物で見つかっていたものが植物でも見つかったということです)。紹介してもらったホームページの研究をしている伊藤さんのグループの研究を、何年か前のゴードン会議(国際会議の一種です)で聞いて、面白いと思って講義で紹介することにしました。
 グルコースの働きは、よくわかりませんが、呼吸系を介して電子伝達鎖を還元的にする、ということでは、強光と同じ役割を果たすのかも知れません。


Q:シアノバクテリアが、光合成と呼吸の電子伝達経路を一部共有していることに驚きました。一見コンパクトで便利にも思えますが、光合成と呼吸を混同することはないのでしょうか?呼吸基質を介して光合成と呼吸はリンクしていることと併せて、動脈血と静脈血が混合する両生類の心臓の構造を思い出しました。シトクロム(それともプラストキノンでしょうか?)はどのように光合成と呼吸の方向を判断しているのか、またはどちらから電子を受け取っても双方向に反応を進めているのでしょうか?
 シアン耐性回路の比較で、陽生のホウレンソウの方が耐性回路を多く利用するようですが、どちらかというと、成長がゆっくりでエネルギーの消費が陽生ほど激しくない陰生植物の方がこの回路を利用するのではないかという気がします。光の届きにくい環境にいるために放熱で温度環境を保つという点でも陰生植物により需要があるように思えます(ホウレンソウとクワズイモの実験結果がたまたまこのようになったのかもしれませんが)。環境応答において植物は自身を環境に順化させるということでしたが、ザゼンソウの放熱の目的は動物の恒常性を思わせました。逆に、シアノバクテリアの変異株は強光下で生育阻害を回避するためには人工的に光合成活性を押さえられるということですが、変異株自身は何か防御機能を持たないのでしょうか。
 「いろいろな条件下でのコロニー」のところでグルコースを与えた結果の意味がよくわかりませんでした。どうも実験データが表すことを理解するのが苦手です…。

A:基本的にシアノバクテリアは、呼吸系から来る電子と、光合成から来る電子を、区別しません。その意味では、「混同している」と言えるかも知れません。しかし、いずれにせよ、電子が流れればATPができるわけです。
 シアン耐性経路は、基本的に「無駄遣い」の回路ですから、元もと光エネルギーが少ない陰生殖物でどんどん動いていたら、生きていけないでしょう。それに、光環境と温度環境は、別々の要因で決まることの方が多いと思います。
 変異株も、強光に対する防御機構をすべて失ったわけではないはずですが、強光が続くと足りなくなるのでしょうね。光合成生物を培養するときには、3つの方法があります。光独立栄養(光だけをエネルギー源とする培養)、従属栄養(糖などをエネルギー源とする培養)、それに光従属(混合)培養(光と糖などを両方与える培養)です。グルコースを加えたのは、実験の基本的な「お作法」として、いろいろな培養条件を調べてみた、というところです。


Q:今回の講義でも、前回と同様、光がありすぎる条件での植物の応答について学んだ。pmgAの働きのように、PS1を減らして電子を詰まらせるという、一見生存に不利に見える働きが、植物が強光条件下でも生育できるための策だというのはおもしろい。自分で動いて周囲の環境を変えることができない植物ならではのしくみだとおもう。研究室内でさえ、しっかり環境に適応していくという柔軟性におどろいた。
 呼吸のところで、陽生植物が、夜間シアン耐性経路を増やして、sugarをむだに使って、ATP合成をとめるという話があったのですが、なぜむだに使うのですか?使わなければいいのでは。。。?(よくわかっていなかったみたいです。)それから、シアン耐性経路のAOXは、上記のようなATP合成阻止以外にも役割があるのでしょうか?
 だんだんいままでの知識では、授業においついていけなくなってきて、毎回新しいことを学ぶので、有意義なのですが、???となることが多くもなってきています。今回のように実験例などを増やして説明してもらえるとわかりやすいです。

A:陽生殖物のシアン耐性経路ですが、その「意味」は厳密にはよくわかっていません。ただ、もしかすると、光が強すぎるときの安全弁なのかも知れません。光が強すぎてATPがたくさんできるとプロトン濃度勾配が大きくなって、電子が流れにくくなります。そうすると、その電子が酸素に流れて活性酸素が作られる危険性が増すわけです。
 後半の講義は、実験例が主になります。


Q:今回の授業ではまず、光ー光合成曲線の話が印象的でした。光補償点の異なる2タイプの植物の代謝調節による光環境への適応システムなど、高校時代に形だけ教わって覚えていた事実の、その背景にある原理や仕組みがわかってくるとうれしいですね。
 続いてのpmgA変異株の解析実験は遺伝子レベルでの植物科学の研究の一つのprocedureを垣間見ることができました。この分野は僕にとってややとっつきにくい部分でしたが、明確にステップが示されていて、大部分理解できました。実は先日、とある日本糖尿病学会でスライド映写のスタッフをやったのですが、さまざまな糖尿病研究の最前線のドクターたちの発表を聞いていましたら、遺伝子レベルからのアプローチが圧倒的多数を占めていました。その中でもとりわけ頻繁に取り上げられていたのがSNPという遺伝子多型の研究などといったシークエンスから遺伝子機能、生命現象の解明へという研究の流れでした。その中から一文を引用しますと、
 「ついにヒトゲノムの全シークエンスが決定された。シークエンスという生命のロゼッタストーンを手にし、ゲノムサイエンスはその解読というセカンドステージに向かおうとしている。いま、生命現象の統合的な原理の理解をめざし、個体と種の多様性と生命の全体像の解明が本格的にスタートする。」というような感じであります。しかし正直なところ発表の内容は次から次へと飛び交うテクニカルタームの嵐でさっぱり理解できないものばかりでした。ただ、そのおおきな流れとして、遺伝子研究の重要性が肌で伝わってきました。長くなってしまうのですがここで質問というか、先生の意見をお聞きしたいのですが、今後の生物の研究というものはゲノムレベルの研究のみになっていくのでしょうか?そしてその行き着く先というか、先生の考える未来の生物学のperspectiveってどんなものでしょうか?遺伝子が生物の持つ情報のもっとも核となる部分であり、今回の授業にもありましたように、それを解明することで直接因果関係がつかめるなど、その研究は非常に明快で科学的であることはわかるんですが、、、。

A:生物のゲノム情報が宝の山であることは間違いないでしょう。特に、応用(医学的、農学的な)を考えた場合、既にあるゲノム情報の利用は、ゴールへの近道を提供する必要不可欠な手段です。一方、単に、ゲノムのシークエンスを読む、もしくは、遺伝子の発現を網羅的に調べる、などといったレベルの仕事は、現在では、大勢のパートタイムの人がやる、一種の力仕事になっています。必要なのは、単純に多くの人手とよい機械です。もし、基礎科学の研究者を、頭脳労働者として考えた場合に、何を今後やるべきか、というのは大きな問題でしょうね。ゲノム情報の利用は、何をやるにせよ、前提条件になるでしょう。ただ、、研究がゲノムレベルのものかどうかは問題ではなく、どれだけ人と違ったアプローチができるかが問題になるのだと思います。もっとも、応用に関しては別です。単純作業であろうが何であろうが、癌が治る薬が見つかるのであれば、みんな大歓迎でしょう。


Q:今回の講義ではシアノバクテリアのpmgA変異株の解析についてが非常に興味深かった。コロニーの大きさや光や栄養の条件などこの実験を行なった人の着眼点にまず感心してしまったが、たった一つの塩基の違いだけでこれだけ性質に差が見られ、データからだけでは同じ生物とは思えないような反応を見せるシアノバクテリアは非常に興味深い生物だと感じた。研究室での保存に良い条件、という自然ではない条件下ではあったにしても、たった2年間でほとんどが変異株に進化してしまったという点では、いままであまり目で見える形で見たことが無かった突然変異による進化をかなりはっきりした形で認識する事が出来た。しかしなぜ光の条件によってコロニーの大きさが変わるのか、またコロニーが小さくても単に一つ一つの細胞のサイズが小さくなっただけなのか、それとも細胞の絶対数が減っているのか、といった光合成というよりもシアノバクテリアを中心とした視点も含めて考えればより多くの事が分かるのではないかと思った。

A:そうですね。コロニーの大きさが違う原因は、きちんと確かめたわけではありません。ただし、いろいろな生育条件で、コロニーの大きさと、細胞の増殖速度によい相関が見られますから、現時点では、コロニーの大きさは細胞の増え方を見ていると思っています。


Q:光−光合成曲線で陽生植物と陰生植物における呼吸速度と光合成速度の違いを見て、昔、呼吸速度は陰生的で、光合成速度は陽生的な植物がいないのはどうしてだろう、と思っていたのですが、今回の講義でホウレンソウとアロカシアの実験結果から「そもそも無理なんだ」ということが納得できました。実験結果を元にした講義でわかりやすいと思いました。そういえば、ブナは若い木は林床で育ち(陰生植物のようにわずかな光で育ち)、周りの大木が倒れるとぐんぐん育って大木になると聞いたことがあります。確かに大木になってもブナはそんなに葉が厚くないので、ブナ林は林床でもまっくらではないような気がします。ブナは生長段階でうまくやってるんでしょうか。
 後半でのpmgA変異株の解析の講義では、さまざまな研究室で野生型と言われているものが共通でないということも私にとっては盲点で面白かったです。また、いろいろ変異株のほうが得で、なぜそれが進化の過程で野生株としてならなかったのか疑問でしたが、やっぱり長い目でみると野生株のほうが野生株として残っている理由があったのだと納得しました。

A:確かにブナの林というのは明るくていいですね。もう20年近く前に、「伐採をまぬがれ残るぶな林みどりの梢日にかがやかせて」という短歌を歌会始に詠進しました。僕が作った最初期の歌です。ブナの葉が光を通すさまを歌いたかったのですが、今見返すと、どうももう一息ですね。どうも蛇足だけですみません。


Q:シアノバクテリアの研究室内での「進化」がとてもおもしろかったです。コロニーの大きさの違いの原因を探ってゆく過程を聞いて、論理的に実験を組み立ててあることを確かめるとはこういうことなのかと思いました。私は秋休みに大腸菌にプラスミドを導入する実験の授業を取ったので、実験の説明はすんなり理解できました。(その授業ではプラスミドを制限酵素で切断して、得られたフラグメントとプラスミドの遺伝子地図を比べるということまでやりました)。今学期の「遺伝学実習」というクラスでは大腸菌の接合による遺伝子導入を行い、抗生物質感受性・アミノ酸要求などから遺伝子地図を作成するということを行っているようですが、残念ながら私はこのクラスを履修していません。私たちが実験をすると、数々の不手際から生ずる誤差を考察するはめになってしまうのですが、授業で取り上げられていた実験のようにreasonableな結果が得られると考察がもっと面白くなるだろうなぁと思いました。

A:実際の研究上の実験でも、「数々の不手際から生ずる誤差」はつきものです。ただ、研究が実習と違うのは、きちんとした結果を出すまで、繰り返さなくてはならない点です。講義での紹介では、最終的に得られたきれいな結果を話すことになりますが、実際には、その裏には何倍もの実験が隠れていることが多いのですよ。


Q:今回の講義から実際の実験例についての講義を行うとのことでした。現在の科学は多方面でリンクしているので、植物の研究だからといって植物屋だけの仕事にはならないというのが僕の認識です(一つの現象を解明するのに化学であったり、物理であったり他の観点からのアプローチが必要不可欠)。だから、その実際の実験例でどのようなバックグラウンドを持った人が研究に携わったのか、またそれは生物学の研究者を中心に行われたことなのかと言う点を軽く話していただきたいと感じました。実際の実験ではあることを解明しようとして失敗した結果、違う重要な結果が得られたりすることが多々あるようですが、その点についてもお話していただけたらなあと思います。
 実際の研究例を見ていて毎回考えることなのですが、どのようにして結果に至る方法を組み立てるのでしょうか?文献を見てしまうと結果のグラフが書いてあり、上手いこと比較したなぁと感心するわけですが、実際はその方法で正当な結果が出るかどうかというのは賭けであるわけですよね?そのような不確定なことに信念を持って挑戦していける研究者達には実例を見るたびに驚かされます。

A:僕が話す予定の実験例は、ほとんどが生物学者の行った実験です。僕自身も、物理や化学のバックグラウンドが0ではないとはいえ、物理学者でもなければ、化学者でもありません。基本的に生物学からの視点になります(とはいえ、複数の視点を常に意識したいとは思っていますが)。
 基本的に、数学と違って、生物学は実験科学です。出た結果が全てであって、研究者が結果を出す前にどのようなことを考えていたとしても、それは無意味です。その意味では、全ての結果が「正当な」結果であって、正当でないの可能性があるのは、研究者が考えていた「信念」の方ですよ。


Q:今回は、活性酸素の処理方法と呼吸速度、それからシアノバクテリアの突然変異株と野生株の光阻害の具合いについて教わった。このなかで最も印象深かったのがシアノバクテリアである。短期的な強光には野生型は弱く、長期的な強光においては突然変異株は死んでしまうという結果だった。講義の途中で野生株の性質について考え、自然淘汰された結果であるにも関わらず、何故突然変異株の方が光阻害をうけないのか、と疑問に思ったが、結果、長期的な要因というのが実験にはぬけていた、ということがわかったのだった。最後のお話であったように、生物の標本が必ずしも野生型と同じであるとは限らない、ということが触れられ、新鮮な驚きを覚えたが、常に結果に対し批判的な目で見る必要があるのだと実例を通して学び、そういった意味でも、考えさせられる講義であった。

A:まさに、批判的な精神というのは、研究者になくてはならない素質です。ということは、もし、研究者を目指すなら、僕の講義に納得しているだけではだめだということですね。どんどん批判してください。


Q:授業で、陰生植物と陽生植物を組み合わせたような「いいとこ取り」の植物が出てこないのは何故か、という話が授業でありましたが、漠然とレポートに何を書こうかなと思いながら陽生・陰生植物や光合成についてのウェブサイトをいくつか読んでいたら、ガーデニングのサイトで、陽生植物・陰生植物と並んで「陰陽生植物---耐陰性があると同時に、強光下でもよく育つ植物のことで、クチナシ、アジサイなどです。」という記述を見つけました。私は今まで陰陽生植物ってものがあることすら知らなかったのですが、これがその「いいとこ取り」の植物ということになるのでしょうか。もしそうなら、C3、C4、CAM植物のときと同じように、「いいとこ取りであると同時に、別の面でそれなりのコストを払っている故に、この種の植物だけが台頭するという状況にはならない」という考え方ができると思うのですが、この場合の陰陽性植物の払うコストというのはどのようなものだと考えられるでしょうか?

A:確かに、ある点で、「いいとこを取っていれば」、きっと別の面ではコストを支払っているはずです。植物のコストにはさまざまなものがあります。例えば、多くの栽培作物は、栄養がたくさんないと生えられない、というコストを払っていますが、人間に栽培してもらっているうちは、そのコストはデメリットにならないわけです。「人間が栽培している」という事実も、環境に含めれば、このような場合も、植物の環境に対する応答として解釈できますね。


Q:今回の授業の前半で活性酸素とその消去系についての講義があったのですが、呼吸で酸素を取り込んでいるせいか、酸素が有害な物質であるということに抵抗を感じてしまいます。酸素は地殻中の化学物質の中では最も多く存在し、空気中の20%が酸素であるというところからも、とても身近な化学物質のような気がします。しかし、よくよく考えてみると酸素がもたらす酸化は生物にとってとても有害なものである。「一般に、広く電子を奪われる変化またはそれに伴う化学反応をいう」とあるように酸素は電子を奪うということもある。そして無色透明な気体の酸素に対し、青い液体の酸素を見ると、有害なのもうなずける気がします。そんな有害な酸素が生物にとってはなくてはならないものだというのはなんか複雑な感じです。そして、そんな有害なものも、うまい具合に消去してしまう生物の代謝系には驚かされるばかりです。ただ、“活性酸素消化系”のところで自分で作った活性酸素を自分で消去するというのがとても不可解です。なぜわざわざ有害なものを作りだすのか。どうせ消去するのなら最初から作らなければ良いのにと、どうしても思わずにはいられません。余分な電子を消去するだけならもっとよいシステムがあると思うのですが。

A:「余分な電子を消去するだけなら」といいますが、考えようと思うとなかなか大変ですよ。本当は、還元力を作らないのが一番ですが、生物はそれでエネルギーを得ているわけですからねえ。もし、良い考えを思いついたら知らせてくださいな。今後の講義で使いますので。


Q:ザゼンソウが受粉の助けをする虫たちを呼び寄せるために、穂の部分の温度をあげるという話を聞いていてふと思い出したのですが、snow drop(和名はユキノハナだったと思いますが)やふきのとうなどまだ雪の残っているような季節に咲く花などは早く雪の下から顔を出すために温度をあげるのだという話を以前に聞いたことがあります。これは先生のおっしゃったことと同じことですよね?余談ですが、理学館のILC側入り口にタンポポに似た黄色い花が咲いてます(ただタンポポと違って一つの茎から花が5,6個咲いているので種は違うと思うのですが)。日中そこを通る時には満開に咲いているのに、実験が終わって帰る夜にはつぼみを閉じていることに気が付きました。これも温度感受性の一種なのでしょうか。オジギソウや鉄砲花(と呼んでいましたが正式名は覚えてません)など触るとリアクションを返す植物など機構はわからなくてもおもしろくて今でも大好きです。あとは木なのに朝顔などのつる草みたいに隣の木に巻きついて育つのがありますよね?あういうのがどうしてそういう風にうまく巻きつけるのかすごく不思議です。植物はマクロでもミクロでもまだまだ謎があってすごく興味深いです。

A:ザゼンソウの花の咲く時期はまだかなり寒く、あまり虫はいないので、発熱の目的は虫を呼び寄せるためではなさそうです。タンポポに似た花は何でしょうね。ハルノノゲシかな。日中花が開くのは、温度による場合がよく調べられていて、このように刺激(この場合は温度)の方向と無関係に植物が運動することを「傾性」といいます。花弁の表側と裏側の成長速度の差によって開閉運動をする場合が、よく高校の教科書にも載っていますが、このような場合は、二三日経つと、成長によって花が大きくなるのでわかります。蔓の場合は、何かものに触れると、蔓の触れた側とは反対側が成長することによって、「自然と」巻き付く場合がよく知られています。