植物生理学概論 第6回講義

植物の低温感受性に関する実際の研究例

第6回は、前回紹介ができなかった植物と水に関する環境応答研究などについての話をまず最初に行ない、次いで、植物の低温感受性についての実際の研究例を、最初にどのように文献を調べて、どのような方針で研究を行ない、出た結果をどのように解釈するかという点まで含めて解説しました。寄せられたレポートと、それに対するコメントを以下に紹介します。


Q:今回の講義では、植物の低温ストレスだけでなく、実際の研究の手順、考え方も学ぶことができ非常に有意義であった。低温傷害は光阻害と密接に関わっている。低温になると、もともと光に弱い系I内ではハイドロキシルラジカルが発生し鉄イオウセンターを破壊するため電子が受容されずに植物はその後の反応を進めることができなくなってしまう。その応急措置としてクロロフィルが関係していると考えられている。光を吸収するクロロフィルの分解は光に弱い系Iにとって有利なのであり、これが可視障害として現れてくるのだ。しかし、葉の中で系Iを光から保護し、低温で失活してしまう系Iのサブユニットの存在が明確に分からなかった。最適温度があるというと、酵素がすぐに思い浮かぶ。したがって、系Iを保護するメカニズムは先生が示した活性酵素消去系、ATPase、膜脂質のなかではATPaseではないのかと思ったが、タンパク質は高温では変性、失活するが、低温では反応もしないが失活もしない。しかし、系Iが遅いながらも回復可能なことを考えると、低温によって失活するのではなく反応することができないのではないかと考えた。ATPaseにより系I内でのATP合成を減少させることによって負のフィードバックをして光の吸収を抑えていたとすれば、ATPaseが反応しない(=低温)と光を過分に取り入れ、結果として還元力が過剰になり鉄イオウセンターの破壊に繋がるのではないだろうか。

A:すみません。最後を急いできちんと説明しなかったので、全体像が理解しづらかったかも知れません。ATPaseはプロトンの濃度勾配を利用してATPを合成するわけですが、ある種の失活をすると、プロトンがATP合成なしに素通りしてしまうようになります。そうすると、電子が伝達されてもプロトンの濃度勾配が形成されないので、普通ならある程度まで上がると抑えられる電子伝達の活性が抑えられなくなります。そのあたりが原因ではないかと思っているのですが、まだこれからの研究を待たないとわかりません。


Q:光をあてつつ雨状態を植物に与えるとルビスこの量が減少する致命的な状態を招くとの話を聞いた。この現象について原因を考察する。まず、状況を確認すると、雨状態により気孔は閉じCO2及びO2の取り入れと放出を行うことができない状態で光合成を行なっているということである。カルビンベンソン回路により細胞内のCO2は炭酸固定によって濃度が減少し、逆に光化学系によってO2濃度が増加する(いささか活性はさがっているが)。ここで雨ストレスとよく似た反応(ルビスコの量の減少と活性の減少の違い)を示した6 Pa CO2との状況の比較をしてみると、異なるのはO2の濃度である。つまりO2が何らかの作用を働いたか、それともO2濃度の増加が植物にとって何かのシグナルとなってルビスコの量を減らす原因となったと推測できる。前者についてはO2が活性酸素となりルビスコを分解してしまったと考えられる。何故活性酸素が光化学系にattackしないのかという疑問(前回のプリントの光化学系I, IIの活性の正常性より)については前回の授業であつかった低温では働かない活性酸素を除去する何かが光化学系にあるためと考えられる。分子量も大きく、その数も多量なことからルビスコが活発に活性酸素の餌食となり数量が減少するといった現象をまねいたと推測できる。また一方、ルビスコを分解するという破壊的現象から後者は考えづらく、そのようなシステムがあったとしても何か新しいものであろうと推測できる。前者を確認するにはまず、O2が原因ということを証明するために高酸素濃度下での6 Pa CO2と同様の実験をし、さらに活性酸素の作用を調べるために高酸素濃度下で活性酸素除去剤とともに同様の実験を行いルビスコの量を比較すれば良い。

A:実は講義では紹介しませんでしたが、低温弱光条件で、ルビスコの活性酸素による分解が起こることが報告されています。ですから、雨処理の時にも同様なことが起こっている可能性は十分ありますね。


Q:低温になると、もともと光に弱い光化学系Iを光から保護する機構が失活する。光化学系Iでは活性酸素が発生し、活性がなくなった光化学系Iのクロロフィルが光エネルギーを吸収することは危険なので色素は積極的に分解される。大抵の植物はその生息地域の気候に順化しているので、比較的寒い地域の植物や、季節のある地域に育った植物は低温や凍結に対して少なからず耐性があり、動物と違って移動能力のない植物は外部の環境の変化に伴って細胞内の環境を変化または順化させ生きていくのにもかかわらず、低温時に光化学系Iの活性を低下させる原因となる活性酸素を消去する仕組みを植物は進化の過程で獲得していない。活性酸素を消去する仕組みを得ていないことに加え、クロロフィルの分解は色素の光分解ではなく、積極的な分解であることからも、活性酸素を消去するというプロセスは阻害の根本的な解決にはならないのではないだろうか。活性酸素発生以前に、植物にとってどうしても害になってしまう決定的な変化が内部で起こっているのではないだろうか。人間がこの阻害に対して改良をするなら植物の順化とは違う、動物的なアプローチが有効であると思われるが(以下メールでは文字化け)

A:前回の講義で紹介したように、活性酸素をわざと生成させて過剰な還元力を消去しているのではないか、という考え方もあります。とすると、活性酸素が悪役、というよりは、活性酸素を制御できなくなる様な状態が困る、ということでしょう。人は、病気になると良く熱を出しますが、熱を出すのも体の自然な応答の一つだから解熱剤をむやみに飲むのは良くない、という考え方があります。一方で、病気によって体温の制御が効かなくなっている場合は、解熱剤を飲んだ方が良さそうです。制御できているのか、そうでないのか、というところが一つのポイントかも知れません。


Q:今回の講義で1番興味を持ったのが「雨の光合成に対する影響」です。今までは何となく「雨だと日光は出ないから光合成系に使うエネルギーももったいないから光合成活性は起こらないのだろう」と思っていましたが、葉の濡れが光合成に関与しているという新たな視点が得られました。ここでは葉の物理的性質;濡れやすさ・濡れにくさについて考察したいと思います。講義で、葉の濡れやすさや(防水性)によって光合成の阻害率が変わってくるということを知りましたが、濡れやすいものとそうでないものがあるということは、環境によって適応が変わってくるのだろうと考えました。実際、インゲン(葉が濡れやすい)は、中南米が原産で温暖な気候を好むのに対し、エンドウ(葉が濡れにくい)は、地中海性気候で冬に雨が多い地域が原産であるといった違いがあります。もともと雨によるストレスが低い所では防水性を持つ必要性がないのかもしれません。この防水性の違いはクチクラの厚さであると考えられる。例えば照葉樹林はクチクラ層が厚いが、雨が多い地域にて雨に対する耐性を持つと同時に、雨が少ない地域にて蒸散を防いでもいるようです。しかし、具体的にどのような反応と葉の濡れが関係しているのかはっきり分かりません。考えられるのは葉の表面における代謝です。表面(クチクラ)における物質透過は拡散なので、無機イオンの透過速度も有機化合物のそれも、直接濃度に比例し 温度の上昇や、また物質の親油性の増加によって速やかになる。また特別厚い場合を除き、クチクラの厚さや、ワックスの沈着などは大きな影響を及ぽさないようだ。とすると、クチクラの厚さは葉の濡れやすさとは関係しても代謝には直接関与しないようだ。しかし、葉が濡れることによって光合成速度が減少すると葉面吸収を行うエネルギー確保が困難になる。まだ葉面吸収と光合成についてが頭の中で整理しきれてないので、それと葉の濡れについて続いて考えていきたい。
<参考資料>植物における葉面吸収と葉面散布 http://www.agri.kagoshima-u.ac.jp/kfruit/Resources/FoliarUptake.html

A:ちょっと、参考資料の内容を消化し切れていない感じがありますね。そういう時は、むしろ論点を1つに絞って、その点だけを自分の論理で考察するようにするとレポートとしてのまとまりが出ます。


Q:During an average year, the temperature will decrease as it becomes closer to winter. Then, the stress on plants from the cooling to freezing temperatures will slowly change the colors of the leaves to orange and red, until the leaves fall off the trees. Once it starts to become warm again, the leaves all come back and are ready for another year. However, recent global warming has been changing the climate, resulting in abnormal temperatures. So what will happen if the weather becomes unseasonably warm for a long period of time, which confuses the trees to think that spring has come? Would the buds of the leaves die in the freezing temperatures? But then will new ones grow back when it actually is spring? I feel that if abnormally warm temperatures occur to confuse the trees, it could have serious consequences on the trees. Once the leaves start to grow, it cannot go back into the branches once it becomes cold again. Therefore, it must survive the freezing temperatures that will eventually return. Since the freezing temperatures can leave physical destruction on leaf cells, the newly made leaves would have lasting destruction. There can also be the unbalance between photochemistry and carbon dioxide fixation, causing more damage to the leaves. Once spring comes, these damage celled leaves will have to be the ones that grow into full leaves to supply the trees with energy. Therefore, I do not think that the damaged leaves will be healthy enough to fully supply the trees with enough energy to support it for the summer and next winter. This could cause many tree deaths, which would cause a domino effect of a downward trend for the environment.

A:一過的な低温によって障害が引き起こされる、という論旨は良いと思うのですが、果たして、それは地球温暖化と結びつくでしょうか。冬の入り口で一度暖かくなることは、温暖化で平均気温が高くなるということがなくとも起こるのではないでしょうか。そのあたりにレポートとして一工夫が必要かも知れません。


Q:光合成の阻害要因に「低温」というストレスがあげられることを初めて知った。もちろん、一瞬で葉が凍結してしまうような気温下ではいくら光があっても植物が正常に生きていられるとは思わないが、0−10℃程度の気温でも光合成の機構に影響を与えて阻害すること、また阻害においてはエネルギー源である光がかえって阻害する要素になるという事に驚いた。光があることで逆に植物にとってストレスになりうることは一見ぴんとこなかったが、ハンドアウトの表から、わずかな光がとくに光化学系Iにおける大幅な阻害につながっていていることがはっきりと分かった。何かが阻害をしているならば、その阻害要因を抑制させればよいのではないか、というのが私の中で率直にあがった疑問であった。しかし、ここで扱う要因が「光」だからこそ単純にいかないことにすぐに気がついた。置かれている条件によってこんなにも違った働きをする「光」だが、今まで学習してきた内容と重ねて、いかに植物が生きていく上で「バランス」というものが重要かということを実感させられる。

A:内容的にはもっともなことを言っていますが、レポートとしてはもう一息。この流れだと、「「光」だからこそ単純にいかない」というところが重要なポイントだと思いますから、そこを具体的に議論すると良いレポートになると思います。


Q:葉が濡れることによる光合成の阻害について、葉が雨などでぬれることによって光合成が阻害されるが、では葉が濡れる可能性の高い水生植物について考察した。まず、水生植物の中でも完全に水中で生活する沈水性の植物は気孔を持たず、水中に溶けている二酸化炭素を葉の表面から吸収している。ではスイレンのような葉が水面に浮いている浮葉性の植物はどうなのだろうか。これらの植物は葉の裏側ではなく水に触れていない表側に気孔を持っているが、それでも陸上の植物に比べると水面で生活しているため水に濡れる確率は高いと考えられる。しかし、例えばハスの葉の表面は撥水性があり、葉にかかった水分の接する面積を小さくしている。また、葉表面が濡れるとルビスコ量が減って光合成速度が低下するのは、気孔が閉じて二酸化炭素を取り込むことができないからであると授業で説明されていた。スイレンなど撥水性の葉を持たない浮葉植物は葉表面の気孔からの二酸化炭素の取り込みの他に二酸化炭素を取り込む方法を持っていなければ、光合成速度が他の植物に比べて低下してしまうこと考えられ、気孔からの空気中の二酸化炭素の取り込みと同時に葉の裏側で水中に溶けた二酸化炭素を取り込んでいると予想される。

A:論理としては、確かにそうだと思うのですが、「撥水性の葉を持たない浮葉植物」というのは本当にあるのですかね?何だか生きにくそうですが・・・。


Q:In the previous lecture, the harsh effects of low temperature such as freezing and chilling stress were discussed. In both situations, at low temperatures, plant cells undergo change in order to adapt to the environmental changes. The rate of photosynthesis is greatly affected, and in freezing conditions, the cells undergo physical destruction and dehydrate. In such natural occurring temperatures, the amount of sunlight is very little. With the biological clock in plants, hormones that control the rate of photosynthesis and other processes are activated during the transition from freezing cold to warmer weather. If plants were placed in a combination of two conflicting environments, would the rate of photosynthesis be affected at all? The rate of photosynthesis of a plant relatively resistant to cold placed under a combination of low temperature of 10oC and high light may come to a stop, as high light inhibits Photosystem I while the plant can still photosynthesize at a low temperature. This may cause both processes to cancel out, as PSI is damaged, which is the limiting step in electron transfer. Starch levels in such plants may decrease due to the decline in photosynthesis, and the plant may possibly die. In another example, if a conflicting environment in which the climatic temperature is set at above 20oC with little light, while the rate of photosynthesis would be close to 100%, the lack of sufficient light hinders the process and may stop photosynthesis altogether. Such conflicting factors that may interfere with the smooth process of photosynthesis and carbon fixation may be possible, as there is a limit to how much plant cells can change to adapt to the dynamic environment.

A:低温なのに光が来る、というのは確かにconflictingだと思うのですが、後半の20oCで光が弱い、というのは別に「conflicting」ではないのでは?光が弱いので光合成ができない、というのは温度が高くても低くても同じですよね。自然界でも、夜には多くの場合、そうなるわけですし。そのあたり、もう少し説明が必要かと。


Q:It was very helpful that the powerpoint was made in English and the handout was in Japanese. Though the lecture was done in Japanese, because the powerpoint was in English, it was easier to understand by contrasting Japanese terms and English terms while listening. In contrast to the stress the light causes on plants talked about in the previous lecture, the stress freezing and chilling temperature cause on plants were easier to picture and understand. Under freezing temperature, it was said that physical damage occurs in the cell, which means that the cells are not recoverable even if they are defrosted. So, do freeze dried products go under freezing temperature stress too? The method of freeze drying is often advertised as the best way of ‘saving’freshness of products, but if the cells are destroyed it is not the best way for plants.

A:やはり食品がfreshであるということは、その食品に含まれる細胞が無傷であるということとは別でしょう。人間は1粒1粒の細胞をかみしめて食べるわけではありませんからね。


Q:光合成にはさまざまな限定要因があると習ったが、その1つに低二酸化炭素濃度があげられる。前提として生体内にCO2が取り込まれると還元力が必要になる。電子伝達系を流れる電子はNADPの還元に用いられ、これがCO2の固定に提供される。しかし低CO2濃度下では余分な還元力がスーパーオキシドラジカルの増加を助ける。すると、これがSODの消去能以上に蓄積することになる(浅田、光・酸素障害防止案)。この点において低二酸化炭素の阻害と低温阻害は似ているが矛盾しているとも考えられる。なぜなら低温であっても十分にCO2が供給されている場合は、生成するスーパーオキシドラジカルはH2O2になりカタラーゼで分解できる程度であるため、鉄イオンセンターが破壊されないはずである。それにもかかわらず系Iも破壊されてしまうのは酵素自体の最適温度と異なるからだと考えられる。低温下ではカタラーゼの働きが鈍くなる。これによりH2O2を処理しきれずハイドロキシラジカルが生じ、系Ⅰが破壊されるのである。低温感受性の違いはもしかしたらH2O2を分解する酵素が植物によって異なっているからかもしれない。
参考文献 西田晃二郎 光合成の暗反応

A:そうかもしれません。あと、酵素の最適温度が異なる可能性があるのは、二酸化炭素固定系の酵素も同じです。ルビスコなどは、酵素活性の温度依存性が高いことが知られています。


Q:植物の感じる多くの阻害が光阻害と同時にひきおこされるものである。講義はその中のひとつ、光合成の低温阻害chillingについての研究の紹介であった。実際の実験の紹介で、今までと違う種類の講義だったが、とても面白かった。講義とは少し逸れた話になるが、そもそも何故、植物には低温感受性があって低温による阻害を受けるのだろうか。また、低温耐性の植物はどのようにして低温下で阻害を避けられるのか疑問に思った。このふたつの疑問を一気に解明するのは難しいが、これらは植物の温度調節機構に影響を受けるのではないか。私は、たとえまわりが低温でも植物の葉の温度がそれより高ければ光合成に支障はでないだろうから、低温耐性の植物は低温下で高い温度を保っていると考える。植物はふだん蒸散量の調節によって温度を調節しているのだから、低温阻害を受けやすい植物と、低温耐性の気孔の開閉の頻度や植物の蒸散量、葉の温度やその他の変化を比べてみれば、何らかの違いが見られ、低温耐性の違いのしくみにつながるのではないかと考える。

A:「低温耐性の植物は低温下で高い温度を保っている」というのは、前回の講義で説明した、まさに「動物的な」環境応答です。ホメオスタシスですね。これは、戦略としては当然あり得ますし、一部の植物はそのような方法をとる場合もありますが、やはり多くの植物では、温度が変わったら、それを前提に変化した温度でも生きていけるように自分を変えるという戦略を取っています。


Q:低温感受性植物に起こる低温ストレスによる光合成の阻害に必要な条件は、低温・光・酸素の3つである。植物は温度に対する恒常性がなく、酸素は空気中に含まれており、かつ呼吸に必要なので、低温ストレスから逃れる簡単な方法とは、光を受けないことだろう。しかし、移動能力がないので、変温動物のように日陰に逃げ込んだりするのは難しい。自然界で低温阻害が起きるのは、特に明け方に冷え込むときだけが問題で、せいぜい数時間の話である。光に弱いのは光化学系Iで、低温によりそれを保護する機構が壊れるのならば、光化学系Iが存在する場所のみ光を受けなければいい。単純に、葉を閉じることで低温阻害から逃れることができるのではないか。実際に調べてみると、ネムノキなどの植物は、夜になると葉を閉じる就眠運動というものを行う。「ネムノキ属は主として熱帯に150種ほどが分布するが、その中でネムノキは飛び抜けて耐寒性が強く高緯度まで分布する(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8D%E3%83%A0)」のは、明け方光が差し込む時間に、葉を光に当てないようにすることで、低温状態での光化学系Iの光阻害を避けていることが考えられる。ただし、ネムノキの就眠運動は光に対する応答だと考えられている。その場合、光を感知するシステムが必要であるが、温度により状態や体積が変わる化学物質を、植物が葉の根元などに含むことができたら、運動に使うエネルギーを能動的に消費する必要もなくなる。季節による温度変化が激しい場所で育つ植物ならば、温度に対する応答による就眠運動のほうが効率的だと思う。

A:ほう。ネムノキの就眠運動を耐寒性に結びつけて考えるというのは、斬新なアイデアですね。すばらしい。「温度により状態や体積が変わる化学物質」というのも、例えば10oCぐらいで気化するような物質を使えば、実際に実現可能なように思います。


Q:今回の講義中に低温耐性の植物であるホウレンソウもin vitroの実験によると光化学系Iが阻害されるということであり、このことからストレス応答に関して、低温耐性の植物とその他の植物とで光化学系I自体の差異は無いと思われる。では、どのような方法または構造がホウレンソウなどの植物に低温耐性をもたらしているのだろうか。低温ストレスは主に光によって複合ストレスを生じさせるが、単独では生体膜の物性変化によって阻害を生じさせており、また生体膜中の不飽和脂肪酸の変化とストレス耐性に相関関係があることが判明している。基本的に不飽和脂肪酸は膜の流動性に関与しており、不飽和度が高いほど流動性は高くなる。また、生体膜中の脂質二重膜の疎水性部分の配列が温度が低温下では不規則な配列から規則正しい配列に変わることで流動性が低下する。そして流動性の低下は膜内のタンパク質の活性を低下させ、それによって光化学系の機能に阻害が生する。これらの事柄から、低温耐性を持つ植物は生体膜中の不飽和脂肪酸の含有量を通常より高くすることによって低温状態でも高い流動性を持ち、低温阻害を防いでいると考えられる。
参考文献
植物の環境ストレス応答:https://www.photosynthesis.jp/PlantResponse.html
生体膜:http://kusuri-jouhou.com/creature1/biomembrane.html

A:論旨はきちんとしていて、ちゃんとレポートの形になっていますが、あとは意外性というか、レポートを書いた人に独特の視点というものが盛り込めると完璧ですね。


Q:なぜ寒い地方に針葉樹が多いかを考える。そこでまず針葉樹と広葉樹の葉の違いを考えてみると、針葉樹の葉は針のように細くなっているのに対し、広葉樹は平べったくなっている。それはつまり、葉の表面積に対する葉の体積の比が、針葉樹の方が広葉樹よりも小さいと考えることができる。それにより、針葉樹は広葉樹よりも細胞が外気に接触する面積が小さくなり、低温の影響を受けにくくなる。したがって、光合成の阻害や凍結によるエンボリズムを起きにくくしていると考えることができる。また、同時に寒冷地では雪が降るので、針葉樹のように葉が細ければ葉に雪が積もりにくくなり、雪による物理的ストレスや光を遮られてしまうことを防いでいると考えられる。
 質問:なぜ導管径が大きいと凍結しやすくなるのでしょうか。ハーゲン・ポアズイユの法則では樹液流の速度は導管径の2乗、流量は4乗に比例するとありますが、流れの速い川の方が遅い川よりも凍りにくいイメージがあるのと同じように、速度が早いほうが分子の運動が大きく凍りにくいようなイメージがあります。
参考:果樹の樹体内水分動態特性 − 果実生産に適した樹体内水分環境を維持管理するために枝の役割を考える−http://www.naro.affrc.go.jp/ET/h19/13/13-01.pdf

A:なるほど。針葉樹と広葉樹の違いを葉の物理的な形状から考えるというのは面白いアイデアですね。確かに、「外気に接触する面積」には差が出るはずです。一方、この面積の差が影響するポイントを温度に絞っていますが、実際には蒸散についても大きな影響を与えるはずです。そのあたりを考察してみても面白かったのではないでしょうか。
 質問についてですが、講義で説明したのは、導管径が太いと凍結しやすい、ということではなく、導管径が太いと凍結した際に水の柱が切れやすい、ということです。なぜ水の柱が切れづらいかという点に関しては、水の入った細い管から水を出そうとした時のことを考えると直感的に理解しやすいかと思いますが、実際に理論的に説明しようとすると、案が難しくてわかりません・・・