植物生理学概論 第5回講義
光合成の環境応答
第5回は光合成系が、光の強さ(明るさ)や質(色)の変化に対してどのように応答するかについて解説しました。寄せられたレポートと、それに対するコメントを以下に紹介します。
Q:In the previous lecture, leaf movement was discussed as a way some plants obtain sunlight. For example, the swaying of leaves allows light to reach areas that are covered. Leaves on trees are also fanned out in order to avoid overlapping of leaves so all leaves can obtain light to be used in photosynthesis. Flowers and leaves of plants may close or droop when under high intensity of light. This movement is ultimately done to adjust the amount of photosynthesis done as well as controlling the amount of light hitting the leaves. However, this may not apply in the case of mimosa plants, or Mimosa pudica. Mimosa pudica is widely popular and known for its rapid plant movement, in which when touched, the leaves quickly fold inward and droop, before reopening after a few minutes. Seismic movements in the ground may also cause the leaves to close, amongst other factors. Why is the mimosa sensitive to such factors, and how does this happen? Observing the characteristics of the leaves show that they are thin and delicate, growing on thin stalks. Such a structure may have caused the plant to develop such movement in order to prevent further damage to its delicate leaves. It may also be possible that by closing the leaves, the pollinators may focus directly on the bright pink mimosa flowers, which will highly benefit the mimosa plant. Furthermore, this rhythm of closing and opening may be related to the biological clock in a plant, as discussed in class. The mimosa’s biological clock may be controlling hormones in the plant that allows it to open in the day and close at night. Though most plants ‘shrink’ due to rapid loss of turgor pressure in its plant cells, an extra factor may be involved, such as a cytoskeleton protein (actin filament), that enables rapid movement of the cell.
A:確かに、オジギソウの動きというのは面白いですね。レポートの中では、物理的な刺激に対してさらなる損害を防ぐため、という考察がなされていますが、それだけで説明できるのか、僕自身不思議に思っています。
Q:活性酸素は植物が光と酸素の存在下でストレスを受けた際に発生する。ストレスは主に強い光を受けた時に発生し、また温度、乾燥、大気汚染、除草剤などによるほか、光合成によっても活性酸素を生じさせている。その為、植物には活性酸素消去系と呼ばれる機能を有しているが、このような酸素障害に対する防御機構は何時ごろから植物中で形成されることとなったのかを調べた。京都大学教授の浅田浩二氏によると35億年ほど前から嫌気性菌が活性酸素に対する防御機構としてFeを含んでいるFe-SOD持っていた。当時は酸素を発生させるラン藻類が誕生する以前なので大気中に含まれる酸素は水の紫外線分解によってわずかに生じるのみなので、酸素濃度は現在の1万分の1程度しか存在しない。しかしこの時期にFe-SODを保有する必要に迫られたのは何故だろうか。約40億年前に原始海洋が形成されたことを考えると、海洋の形成とともに水が発生し、また酸素がほとんどないためオゾン層は存在しない。この結果水の紫外線分解が進み酸素が発生した。このとき低濃度の酸素であっても、今まで全くと言っていいほど耐性を持っていなかった嫌気性菌には脅威であったと考える。そのため酸素に対する防御機構を持つようになったと思われる。
参考文献:生体と酵素をめぐって:植物にとって酸素とはhttp://www.e-clinician.net/vol36/no383/pdf/living-body_383.pdf
A:きちんとしたレポートですが、基本的に浅田先生のストーリーのままであることがもったいないですね。やはり、自分独自の視点が欲しいところです。
Q:今回の講義で、光受容による葉緑体の移動について学びました。確かに光阻害について考慮すると、こういった運動をするのは納得できます。運動開始は光によって誘起されることは分かりましたが、これは光の照射時間・光の色によってどう変わっていくのでしょうか。また、移動の際に使われるエネルギーはどこからやってくるのでしょうか。まずは、光の色と照射時間について考察する。赤色光の照射は1分に対し、青色光は95分照射している。赤色光の光受容体はフィトクロムで、青色光はフォトトロピンである。青色光照射では、光が当たっている周囲に葉緑体が集まってくるが、照射されている部分には移動してこない。しかし光照射をやめると、照射されていた部位にも葉緑体が移動してくる。この実験では赤色の照射時間が短かったために、赤色光を当て続けると青色光と同じような反応が起こるかわからない。もしも起こるとしたら、また、他の色の光でも同じ現象が起こったら葉緑体の移動は光の強さによって誘発されることが証明される。もし赤色光の照射において、照射部にも葉緑体が移動してきたら光の強さというよりも光の色を感知して移動が開始されるのであろう。(赤色光の方が青色光よりも波長が長いので、刺激が弱く感じたとも考えられる・・・でしょうか?)次にエネルギーの起源について考える。光照射によって光合成を行いそこでATPを合成することもできるであろうが、照射した場所と葉緑体の場所は別の位置にある。実験に使用されたのは暗順応したホウライシダのため光合成を行っていない。そう考えると、葉緑体の移動はATP以外のものが関わっていると考えられる。考えられるのはフォトトロピンのリン酸化だ。青色光を受容したフォトトロンピンは、それによりリン酸化を起こすがそれがエネルギーとなっている可能性がある。または、リン酸化によって別の反応系が活性化してエネルギーが生産されるのであろうかもしれない。
A:いろいろ考えましたね。赤い色の光の方がエネルギーは低いのですが、光化学反応というのは起こるか、起こらないかの二者択一です。ですから、光子の数が少なければ「弱い」ことになりますが、赤い光だからといって刺激が弱く感じることはありません。あと、植物は夜も生きていなければなりませんから、光があたっていないとATPがなくなってしまう、ということはありません。夜には、ミトコンドリアで有機物からATPを作ることになります。あと、最後のリン酸化の話は、リン酸化自体はエネルギー生成とは関係ありません。いわゆる、普通のシグナル伝達におけるリン酸化だと考えてよいと思います。ただ、もちろん、シグナル伝達の結果、エネルギー生産が活性化されるというメカニズムを否定するわけではありません。
Q:A plant being phototropic is when a plant reacts to light by growing either towards it (positive phototropism), or away from it (negative phototropism). In a natural environment, there is usually only one light source, the sun. Therefore, the plant grows towards the sun. However, what happens when there are two light sources facing the plant at the same time? For example, putting two lamps on either sides of the plant, with the rest of the room being completely dark. Which light would the plant grow towards? I feel that in a situation like this, the plant would not bend towards any particular light, like it would when there is only one light source. Instead , there can be two options for the plant. One is the plant would grow horizontally at a grater rate than vertically, reacting to the light. This would happen because there isn’t one particular light it can grow towards. My other theory is that the top of the plant would split into two, so that each tip can lean towards each light. I feel that this one is more far-fetched than the other, but since the plant cannot decide which way it wants to grow, I think these are the most likely possibilities.
A:面白い目の付け所だと思います。ただ、講義の中で触れたと思いますが、植物の動きは茎や花弁の不均等な細胞伸長・細胞分裂によって引き起こされます。そのメカニズムを考えあわせると、両側から光を当てた時は不均等になりませんから、おそらくまっすぐ伸びることが予想されます。
Q:青色光受容体フォトトロピンにはphot1とphot2の2種類あり、phot1は葉緑体集合運動にかかわり、phot2は葉緑体集合運動と逃避運動の両方にかかわることが分かっている。phot1がかかわっている光屈性・葉緑体集合運動・気孔開閉には同じくphot2もかかわっており、それに加えて葉緑逃避運動にも関与している。なぜこの2つの役割はオーバーラップしているのだろうか。考えられるポイントとして、phot1が常に先に活動し、phot1で対応出来るある一定のリミットを越えたらphot2が活性化される、ということである。phot1がカバーしていないphot2の役割は葉緑体逃避運動なので、phot2が不活性の間はphot1が集合と逃避の両方の役割を「集合」のみで行っているのではないだろうか。例えばある場所から葉緑体を逃避させたければその他の場所に葉緑体を集合させるシグナルをphot1が出す。それでも間に合わない、働きが充分でないという場合はphot2が働いて逃避させながらその他の場所にphot1とphot2の両方で集合させるのではないだろうか。そうすれば葉緑体移動速度と量も調節することが可能なのではないだろうか。
A:これも、面白いところに目をつけました。ただ、いわゆる遺伝子の重複というのは、photo1, photo2だけでなく、極めて多くの遺伝子においてみられます。そのような一般論としての意義と、photo1, photo2についてだけの意義という2つの面からそれぞれ議論するとさらに考察が深まると思います。
Q:今回の講義で光防御反応の一つにマクロな防御系として葉の向きを変えるという手段があることを知った。時間や理由は違えども、葉の向きを変えるという仕組みはネムノキなどのマメ科のそれを連想させるものである。おそらく類似するシステムを持っているだろうとの仮定から、光防御反応の葉の向きを変える仕組みを推測する。まず、ネムノキのシステムを見てみる。ネムノキは就眠運動として葉を閉じる。その働きは葉の付け根にある運動細胞が昼にはカリウムイオンと共に水が入ることによって膨張し、夜には同様にカリウムイオンが水とともに出て行く。これには覚醒物質と就眠物質の濃度が関わり、就眠物質の濃度の増加によって細胞の収縮が引き起こされる。さらに重要なのはそれらの濃度調整が生物時計によって引き起こされているということである。外部の状況に拘らずネムノキは就眠運動を行うことができる。次に光防御反応の場合を想定すると、根本的なシステム、つまり運動細胞とカリウムイオンと水の出入り、さらにそれを誘発する物質の存在の可能性は十分あり得ると考えることができる。しかし、光防御反応は外部の変化によって急激に行わなければならない反応なので生物時計に依存しているとは思えない。多量の光によって引き起こされる運動なので光化学系での(おそらく光阻害によって)発生した物質(またはその濃度)や青色光受容体からの物質などがアロステリック効果のeffecterとしての役割を持っているのではないかと考えられる。個々の物質はわからないが、だいたいのシステムは以上のように推測することができる。しかし、あくまで推測であり、種もマメ科とは異なるものなので(マイヅルテンナンショウ(サトイモ科)などが葉の光防御する)実際に実験してみなければ何も言えない。
参考文献:柴岡孝雄 動く植物 東京大学出版会 1981年3月25日、長谷川宏司 山村庄亮 動く植物—その謎解き— 大学教育出版 2002年9月30日
A:そうですね。きちんと考えていると思います。最後の「実験してみなければ」というところですが、どのような実験をすれば一番簡単に推測が本当かどうかがわかるでしょうか。そこそ少しでも考えつくと素晴らしかったと思います。
Q:自然界では光の量は激しく変動するため、短期応答の1つとしてステート遷移というものがある。LHCIIがPSIとPSIIの光量の違いにより移動し、アンテナとして光のエネルギーをPSIとPSIIに分配するものだ。まず、PSIとPSIIで光量が変わるのはどのような場面だろうか。PSIとPSIIは、葉の中に多数存在していて、その間に大きな距離はないはずである。実験において細い光を当てることは可能だろうが、自然界においてそういう光が入ってくる状況はあまりないだろう。ただし、PSIIで作られた電子がPSIに移る前に、時間の差によって光が全体的に弱まった場合は、ステート遷移は有効かもしれない。しかし、電子伝達に長時間かかるとは思えないし、電子をそのままためておき(光が全体的に弱まったのであれば、PSIIから電子が流れすぎることはないだろう)、光が入ったときにPSIでNADPHを作るほうが効果的に思える。それに、LHCIIをPSIに移動させるには、キナーゼによってリン酸化が起こるので、ATPが使われる。別の短期応答、サイクリック電子伝達は、NADPHは作らずにプロトン濃度勾配によってATPだけを作る。これは、NADPHよりATPのほうが消費が激しいので、その調節だという説があるが、それならばステート遷移で、NADPHを作るためにATPを消費するより(ATPは脱リン酸化で取り戻せるであろうが)、ATPをエネルギーとして消費していったほうが、NADPHとATPを効率よく使えるのではないか。また、膜の中に埋め込まれているLHCIIが、どのように短時間で移動するのだろうか。
A:よく気が付きました。講義で説明不足だった点をきちんと追求できるというのは素晴らしいことです。ステート遷移は、LHCIIの代わりにフィコビリソームを持つシアノバクテリアでも見られるのですが、その場合は、反応中心のクロロフィルとフィコビリソームでは吸収する光が異なるので、環境の光の色の変化によって「PSIとPSIIで光量が変わる」という状況が実現します。しかし、LHCIIの場合は反応中心と同じで色素はクロロフィルですから、光の色の影響はそれほど無いはずです。とすると、やはりATPとNADPHの比が一つの理由でしょう。また、強すぎる光への防御機構としての意味もありそうです。「ATPをエネルギーとして消費する」ということですが、実際には、エネルギーを無害に消去するのは案外難しいようです。
Q:今回は光捕集における調節の話が主であった。シアノバクテリアの補色順化の話があったが、フィコビリソームの役割に興味を持った。フィコビリソームは光化学系IIに結合して捕集したエネルギーを渡し、さらに条件によっては光化学系Iに渡すこともできる。フィコビリソーム中のフィコシアニンの吸光度は、波長600
nm付近で最も高い。これは650 nm付近で最適値を示すクロロフィルaとはわずかに異なっている。つまり、両方とも赤色の光の波長ではあるが、実際の最適値は異なっている。自然界ではあり得ないことだが、もしクロロフィルaに最適な波長の赤色光のみを照射した場合は光化学系Iの反応がより活発になると考えられる。逆にフィコシアニンに最適な赤色光を区別して照射した場合は光化学系IIの反応が活発になるだろう。さらに、この場合は必要であればフィコビリソームのステート遷移により光化学系Iにエネルギーが渡されて、光合成は効率よくおこなわれると予測できる。また、フィコビリソームは場合によっては集光色素の種類を変えてほかの波長の光の吸収も行えるから、高等植物で使用されているLHCよりも性能が良いのではないかと考える。
参考文献:光合成の科学 東京大学出版会
A:600 nmと650 nmの光の差がわずか、となっていますが、少なくとも目で見ると案外違いますよ。実際に、水中の場合自然環境でもクロロフィル、もしくはフィコビリソームがある程度選択的に光を吸収することはあり得るようです。フィコビリソームを使っていた方が、吸収する光の波長の選択幅が広くなると言うのはその通りだと思いますが、特定の波長に固定した時のエネルギーの捕集効率はまた別の問題ですね。
Q:葉緑体は細胞内で移動することができ、また光の強さによりその移動を調節できる。移動の調節は、光の当たった部分にそれを教えるシグナルがあるとしか考えられないと授業であったが、やはりそのシグナルを受け取れるしくみになっている葉緑体は植物にとって大変便利な小器官である。逆に言えば、植物は葉緑体なしには光合成できない上に、エネルギー源かつストレス源の光を上手く活用できない。なぜこのように優れた葉緑体が出現し、植物と共生するようになったのであろうか。葉緑体の出現は約16億年前で真核生物が出現してきた頃である。ラン藻類が細胞膜に取り込まれるようにして細胞内共生して生じたと考えられている。これにより地球が還元型から酸化型に変化した。このように全ては進化の過程として発生した事実だと言えてしまうが、どうして葉緑体が生じ、光エネルギーを利用する器官であるにもかかわらず光防御反応ができるしくみも同時に備えているのだろう。環境に適応したという以外の理由もあるはずである。
参考文献:石田政弘 「葉緑体の分子生物学」
A:これは、最後の疑問点からどう論じるか、というところがレポートの大事な部分だと思うので、これだけだと、やっぱり中途半端な印象を受けますね。「以外の理由」というのをやはり自分で考えて欲しいところです。
Q:今回の講義では、光の色に対する応答について興味を持った。陸生植物は、光の強さに対する応答を最優先するのに対し、光の届きにくい水中植物にとっては色が重要である。シアノバクテリアはフィコビリソームを使って補色順化を行う。フィコビリソームは受ける光の波長によって色素タンパク質を変化させるが、変化の仕組みがよく理解できなかった。フィコシアニンはフィコシアノビリンという青色色素にタンパク質が結合した色素タンパク質である。アンテナタンパク質は波長によって変化しないため、不適な波長になった場合に色素タンパク質はどのように付け替えられているのか。また、完全に赤色色素を吸収できるようになるまでに枯れてしまう場合もあるのではないかと思った。
A:最後の2文の意味がわからなかったのですが・・・。フィコシアニンとフィコエリスリンの変化はタンパク質の分解を伴っていると考えてよいように思います。また、一つ頭に置いておいた方がよいと思うことは、補色順化するシアノバクテリアは単細胞の生物で、世代時間が場合によっては10時間以下である、ということです。つまり、一日たった細胞は、もう元の細胞ではなく、その光環境で生まれた細胞になっている、ということです。このあたりの時間感覚は陸上植物の葉の場合とはだいぶ異なります。
Q:植物などによる光合成が、エネルギーを供給するという点で、地球上の生物の生命の源となっていることは広く知れ渡っている事実である。光の強さをどんどん上げていくとある点を越えたところから光合成速度が延びなくなることは高校の生物の授業で習った事柄である。しかし過剰な光が植物にとって逆に大きなストレスとなっているという事実は捉えにくく感じた。エネルギー源である光が最大のストレス源になること、また地球上の多くの植物がおもにこの光によるストレスによって高効率が確保できていないということを知り驚いた。光ストレスから解放されるために、葉の向きや葉緑体の位置を移動させるマクロな防御系をはじめ、キサントフィルサイクルの利用やステート遷移などの防御系があるが、これらに共通していえるのは、どれも光の量を「調節」することで組織を防御する点であり、すべてのエネルギーを「活用」させてはいない点である。吸収する光の量を減らしたり、光を弱くしたりするのではなく、入ってきたエネルギーの貯蔵を可能にすることはできるのだろうか。少し話が理想的すぎるかもしれないが、もしそのように光の長期貯蔵が可能な機構があれば、光のない夜も光合成が行われることになり、効率は上がるのではないかと思う。
A:これも、「可能にすることはできるのだろうか」で終わるのではなく、どんなに空想的なアイデアでもよいので、何か具体的なアイデアを議論することができれば、非常によいレポートになります。せっかく、方向性は面白いのですから。
Q:植物は環境からストレスを受けるが、そのときに、あるストレスの要素単独からではなく、光に当たっているという条件のもとで影響を受けることが多い。例えば、植物は低温という条件だけの下では何も影響を受けないが、そこに光という条件が加わると、生育状況が悪くなる。それは何故だろうか。一つの考え方としては、植物は光が当たると反射的に光合成をしようとするが、低温と言う条件が障害となり光合成の反応が最後まで進まず、結果処理し切れなかった光のエネルギーが植物に障害を引き起
こすということが考えられる。ここで、低温と言う条件は光合成の何において障害となっているかを考えると、光合成に関わる酵素の酵素活性に影響していると考えられる。つまり、低温環境下では酵素の活性が充分に得られず、反応が進まなくなっているということである。ここで問題になってくるのがどの酵素が影響を受けているのかということであるが、ATP合成酵素は夜などの低温化でもATPを分解してエネルギーを取り出す必要があるため、あまり温度の影響は受けないと考えられる。したがって、ルビスコなどの酵素の活性が低温により低下すると推測される。しかし、逆に、なぜ低温下において影響を受けるままであり、進化しなかったと考えると、低温化では光合成を行う必要がなかったと考えることができる。つまり、低温化においては全ての化学反応が進みづらくなっているため、呼吸など以外にはそれほどエネルギーを必要としていないと考えることができる。
参考:『光合成とは何か』 園池公毅 2008年 講談社
A:最後の「低温化においては全ての化学反応が進みづらくなっているため」というのは面白い発想ですね。動物の冬眠と同じ発想でしょう。ATP合成酵素について一言だけ。実は、ATP合成酵素は葉緑体にも、ミトコンドリアにも、液胞膜にもありますが、それらは少しずつ違う酵素なのです。ですから、酵素としての性質も葉緑体のATP合成酵素とミトコンドリアのATP合成酵素では、少し違うので、一概に「ATP合成酵素は夜などの低温化でもATPを分解してエネルギーを取り出す必要があるため、あまり温度の影響は受けない」と結論するのは危険です。
Q:海水中の植物プランクトンの光合成によってオゾン層が形成されて、植物の陸上進出 が可能となったと言われているが、飽和食塩水よりも80%の湿度の環境下のほうが細 胞にとって厳しい環境であると授業で言われていたように、陸上環境が植物にとって有益であったのだろうか。その他にも、水面で漂っているだけだった藻類が陸上に進出するためには、体を支持する骨格を持ち、水を輸送するシステムを備えなければな らない。そのような厳しい環境に適応する必要があったにもかかわらず、植物が陸上 で繁栄した理由について、光捕集の視点から考えた。まず、陸上と海水中の大きな違 いは、届く光の量である。陸上のほうが届く光の量は多く、得られる光エネルギーも 大きい。さらに、海水中のように深さによって届く光のスペクトルが変化することも ないため、種の交代や補色順化をする必要がないからであるとも考えられる。また、 補色順化を行うフィコビリソームのような巨大分子アンテナを形成する必要もなくな り、光合成が効率的になったからであるとも考えられる。
A:確かに光の獲得という面では、陸上の方が圧倒的に有利でしょうね。あと、もう一点、他の生物と競争がないということは非常に大きな要因なので、最初に陸上に上がった生物にとっては、なによりも競争相手がいないというだけでチャレンジする価値があったのではないでしょうか。