植物生理学 第9回講義

植物と水

第9回は、植物にとっての水の重要性から、気孔の開閉のメカニズム、葉の濡れの光合成に対する影響、そして導管を水が昇る仕組みとなどについて解説しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:昔、植物に水をやるときは「葉に直接水をかけてはいけない」と言われたことがあるので、このことについて考えてみたいと思う。今回の講義で、雨のRubisco活性に対する影響のところでRubiscoの活性が半減しているが、植物に水をやる時はたった数秒しかからないので、雨の光合成に対する影響のところで言ったように2時間ぐらいの処理では変化がないので、別に葉に直接水やりをしても一瞬だけ気孔が閉じるだけで、そこまで光合成には影響がないと思った。また葉に水やりをしても長時間その水が残っていることはないので、長時間気孔が閉じていることはない。このことから考えてみると葉に直接水をかけることが植物の光合成能力を下げる大きな原因ではないと考えられる。そこで考えられる理由は、日中のように比較的暖かい温度である時に葉に直接水やりをした際に、葉に残った水が温められて、それによって葉が傷ついて光合成能力の低下してしまうということが考えられる。このことによって葉に直接水をかけないことと日中よりも朝に水やりをした方が葉に影響はないと考えられる。

A:「水が温められると葉が傷つく」という点がやや説明不足ですね。葉の上の水がレンズの役割を果たすので良くない、などという人もいますが、実際はよくわかりませんね。


Q:今回の授業の中でおじぎ草が動く仕組みに興味をもった。おじぎ草が動くのは外からの物理的刺激により葉の付け根の細胞の膨圧が低くなることにより細胞が縮まり葉が閉じるという話であった。そして膨圧の変化は細胞内のイオン濃度の変化によるものであった。ここで、物理的刺激はどのような仕組みによってイオン濃度の変化を起こしているのかについて考えてみた。物理的刺激が加わることにより細胞は形が変形、あるいは細胞内圧が高まり細胞内から何らかの物質が出たのだと考えられる。そしてその物質は隣の細胞のレセプターやチャネルに作用し葉の元の細胞に作用する。植物には神経がないので伝達は細胞伝いに行われるはずである。それにより元の細胞は細胞内イオン濃度を変化させ膨圧を変化させるのだと考えた。

A:「物理的刺激が加わることにより細胞は形が変形、あるいは細胞内圧が高まり細胞内から何らかの物質が出た」という部分がおそらく一番重要なポイントだと思います。形の変形をどのように検出するのかという点が面白そうですし、圧力が高まる際にもし選択的になんらかの物質だけを細胞外に放出するのであれば、そのメカニズムも面白そうです。そのあたりの具体的なイメージをどれだけ持てるかが科学者としての素質につながるような気がします。


Q:今回の講義は植物にとっての水の役割を考えるという内容でしたが、最も興味を持ったのは広葉樹と針葉樹の気候帯による分布の違いとそれによる損得勘定についてです。講義では、広葉樹などの温暖帯の種は冬季に起きるエンボリズム(導管内に気泡が生じ導管液が送れなくなる現象)によって導管の水運搬効率が悪くなり水ストレスを受けるため、一年を通して冬季気候である寒冷地には分布しないという事でした。また、針葉樹などの冷温帯の種は道管径が小さいためにエンボリズムが起きないので寒冷地に広く分布するという事でした。広葉樹は常緑と落葉の2種類があり、低温環境などの特定の気候になると葉を落とす落葉広葉樹はこれにより水分の消費を抑え、休眠状態で春を待ちます。つまり落葉 広葉樹は、ある程度寒い地方に適応した構造を有していているので冷温帯にも分布しています。以上を踏まえて考えると、落葉広葉樹は地球環境の変化に対応するために常緑広葉樹から進化(発達)したのだと考えます。また落葉広葉樹はエンボリズムを防ぐために葉を落とすとしても、維管束内の導管径は針葉樹に比べて太いのには変わりはないという考え方もできると思います。つまり、常緑広葉樹を冷温帯で生育しようとした場合、強制的に葉を落とせば、エンボリズムは回避できるのではないでしょうか?しかし、広葉樹の落葉性は乾燥気候など他の特定気候条件にも対応しているため、これだけで全種類の常緑広葉樹を冷温帯で生育する事は不可能であると思います。また、針葉樹は導管が細い分、光合成 速度が比較的遅いですが、もし広葉樹が現在以上に進化して落葉以外の寒冷気候での生育能力を獲得できれば、南極や北極付近の地域で生育する事が可能となると思います。これらの地域では白夜など一日中太陽が沈まないという現象が起きているので、広葉樹の平たく大きな葉と太い導管によって大量に光合成が行えるだろうと思います。

A:面白い考え方です。常緑樹と落葉樹に関してはある程度固定的なようですが、例えば、多年草と一年草などは、環境によって変化します。熱帯では多年草の植物が、日本で一年草として栽培されている例はよく見られます。冬の間をどのように過ごすのか、という点から植物を考えてみるのは面白いと思います。


Q:今回の授業で、植物は二酸化炭素濃度が上昇すると気孔を閉じて水の蒸散を防ぎ、その結果葉の温度は上昇する。二酸化炭素濃度が低下すると気孔を開くため、蒸散が進んで葉の温度は低下するという話があった。二酸化炭素濃度が高いのならば、積極的に気孔を開き二酸化炭素をもっとたくさん取り込んで、光合成をもっとすればいいのではないのかと思うのだが、なぜ、植物は二酸化炭素濃度が上昇すると気孔を閉じるのだろうか。その、理由として考えられることとしては、水は植物にとって大切なものであるから、光合成は必要最低限にして、できるだけ水の蒸散を防ごうということである。もう一つ考えられることとしては、光合成の反応がその植物にとってできる限界の域まで達しているために二酸化炭素がこれ以上あっても、今以上に反応がたくさん進むということはないから、気孔を閉じる方向に進むのではないだろうか。

A:二つの可能性を考えたところまではなかなか良いと思います。ただ、できれば、その二つの可能性をどのようにすれば区別できるのか、という点まで考えられると完璧なレポートになります。


Q:今回の授業で興味を持ったのは、水の吸い上げについてだ。これは、以前から疑問に思っていたことだった。私は、根からの吸収力と、葉からの蒸散による力の相互作用によって導管内で水の移動が起こっているのだと思っていた。しかし、調べてみると、樹木の水の吸い上げには根は直接関係せず、水の凝集力であることが分かった。水は丸い水滴になる。これは水の凝集力、または表面張力によるためだ。しかし、量の多い水は丸い水滴にならない。これは凝集力よりも水の自重が勝るかららしい。植物の水の吸い上げは極めて細い道管内の話なので、その程度の細さならば、理論的には凝集力で2000mほどの細い水の糸が切れないで動くことが予測されているそうだ。だから植物の吸水は葉で蒸散が起こるとこの細い水の糸が大気中に引っ張られる。すると、ずるずる水の糸が引っ張られて根から水があがる、ということらしい。

A:なかなか独特の表現ですが、内容は正しいように思います。一点注意しなくてはならないのは、この水の凝集力というのは、毛細管現象とはまた別の話だ、ということです。毛細管現象の場合は、管の上が空いていても水が上がりますが、導管を凝集力によって水が上がる場合は、水が途切れた場合は、もう水は上がりません。


Q:今回の講義によって雨が降るとルビスコの活性が低下することがわかった。ルビスコとは光合成の暗反応において働く酵素である。酵素であるということはルビスコは最適温度で、活性化される。しかし熱して高温になると熱変性を起こして失活するし逆に冷却してしまうと失活とまではいかないが反応性は希薄になってしま うと思われる。またルビスコは『光によるRubisCO活性化と深く関わっているのは弱アルカリによる活性化である』(♯1)ということから、雨が降るとルビスコの活性が下がる理由として私は雨のpHに原因があるのではないかと予想する。『気象庁では、人為的な影響が比較的少ない地点と考えられる、岩手県大船渡市綾里と東京都 小笠原村南鳥島で、降水のpH(水素イオン濃度)を測定しています。2006年の降水の年平均のpHは、綾里でpH4.8、南鳥島でpH5.5で、いずれも前年より大きく(酸性度が弱く)なりました。南鳥島の酸性度が綾里より弱いのは、人為的な影響がより少ないためです。』(♯2)以上より雨は酸性であることがわかった。だからこれの ために雨が降るとルビスコの活性が半減してしまう理由であると考えられる。だから、日中に植物に水をやるときには、水道水よりもアルカリイオン水のような塩基性のミネラルウォーターの方が光合成を活性化すると思われる。
参考資料♯1http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%B5%E7%B4%A0
♯2http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/acidhp/acid_rain.htm

A:なかなかユニークな考えです。ただ、講義の中で紹介した研究に限って言えば、「雨」として使っている水には、pHの影響などが出ないように脱イオン水を使っていますので、今回紹介した現象にはpHは関わっていないと思います。


Q:今回の講義でエンボリズムについて少し疑問に思った。エンボリズムとは導管液の凍結や大きな陰圧がかかることで導管内に気泡ができる現象で導管が細い方が太い方よりなりにくいと聞いた。しかし、凍りやすいのは細い方ではないかという疑問がわいた。例えば、ツバキの導管は直径40μmでシラカシの導管は200μmであるがこれを大きくした模型を考えてみる。直径4mmと20mmの水道管を-10度の環境に置く、そうすれば4mmの水道管の方が早く凍ることが予想できる。

A:講義を無批判に聴いているのではなく疑る心は科学には重要ですね。この場合、講義で紹介した図をもう一度見てもらうと、導管の太さとエンボリズムに関係があるというデータはありますが、実は、導管の太さと道管液が凍結するかどうかに関係があるというデータはないことに気づきます。このあたりは、いまだに完全に解明されたとは言えないと思いますが、道管液の凍結状態とエンボリズムの間の関係が、導管径の太さによって異なる可能性など、いろいろ考えてみる必要があるかと思います。


Q:今回の講義では植物と水の関わりについて、気孔の開閉、雨の植物に与える影響、道管の太さが植物の生育にどのような影響を与えるのか、などを研究の紹介も通して詳しく学びました。その中で最も興味を持ったのは雨により葉が濡れると、気孔が閉鎖して光合成速度が低下し、ルビスコの活性・量が低下することです。雨は植物にとって水を得るという生きていくのに最も重要なものの一つだと思っていたので、それが逆にストレスになることもあると知りとても驚きました。また、雨が降るたびにルビスコを失っていたら植物の生命活動はままならないため、ルビスコの低下は単に雨が降っているだけでは起こらず光が当たっていているという二つ目の条件も必要だという話を聞きとても感心しました。これらの話から、雨が止み快晴になって濡れた葉に光がたくさん当たるとルビスコ量は低下するはずですが、その後のルビスコ量はどのようになるのか疑問を持ちました。雨は自然現象なので、このような状況は植物が生きていく過程で無数といっていい程起こるはずです。そのため、ルビスコは失われ続ければいつかは消滅してしまいます。よって、ルビスコは失われたらすぐに合成されるのではないかと考えました。ルビスコの合成が、失われてからどの程度で行われるのか実際に実験してみたいと思いました。

A:ルビスコの代謝回転にまで目をつけたところが偉いですね。きちんと科学的な思考を積み重ねていることが読み取れます。