植物生理学 第7回講義

光合成産物

第7回は、前回積み残した光合成における二酸化炭素の固定反応のうち、C4やCAM植物を中心に説明しました。残った時間でデンプンやショ糖といった光合成産物の合成と篩管の輸送の話をしました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では光合成産物とその移動経路について興味を持った。まず、光合成産物はソースから出ると浸透圧により水と一緒にシンクへ向かう。そしてそこで利用されたり蓄えられたりする。ここで、植物は幹から様々に枝分かれし葉となる構造をとっているが、浸透圧の変化のみで目的の場所まで正確に物質を運べるのか疑問に思った。しかし、植物は浸透圧を使った輸送だからこそ必要なものを足りていない場所に自動に送ることができるのだと思った。物質が足りないところは浸透圧が下がり、十分なところは上がり多いところから少ないところへ行くという非常に効率のよい輸送の仕組みだと思った。また、デンプンは昼に合成されて夜に分解されるということより、サツマイモは日が暮れて1時間くらいしてから収穫すると一番甘い芋が採れるとおもった。

A:「・・・疑問に思った。しかし、・・・」というところ、思ったところをきちんと掘り下げて考えないといけませんね。「何となくボーっとわかった気になる」というのが科学を学ぶ上では一番よくないことです。この場合、「浸透圧により」というのがどこの浸透圧なのかを考える必要があります。具体的には講義で紹介したように、ソースの部分とシンクの部分でそれぞれ浸透圧が働いているわけです。そうであれば、「シンクとして光合成産物を必要とする」こと自体が、「目的の場所」を決めていることがわかりますよね。


Q:私が今日の授業で関心をもったのは,”C4植物はCO2の濃縮機構をもつので,昼間に気孔を開かなくてもよい”という点です。私はこれを聞いた時,ひとつの疑問が浮かびました。昼間はCO2を取り込んでいなくとも,光合成によりO2は放出されているはず。では,その酸素はどこから排出されているのでしょうか。私はこの疑問について,3つの考察をしました。ひとつは,気孔以外の部位からO2を排出しているのではないか。もうひとつは,呼吸(もしくはその他の酸化)でO2を使い循環しているではないか。そして最後は,二酸化炭素同様,酸素をどこかに貯めているのではないか,ということです。個人的には,C4植物がCO2の濃縮機構を持っていることから,同様に植物がO2の濃縮機構を持っていてもおかしくはないのでは,ということで,最後の案が有力なのではないかと考えます。しかし同時に,酸素を貯蓄するということは,過酸化物が多くできて,生物には不利なのではないかとも思います。

A:この点に関する考察は、2年に一度は寄せられます。これを考えるにあたって一つ重要な点は、酸素と二酸化炭素の元の濃度です。酸素は21%、二酸化炭素は0.04%ですよね。とすると、ある空気の全ての二酸化炭素を光合成により固定すると、結果として酸素濃度は21.04%、二酸化炭素濃度は0%になります。二酸化炭素濃度の変化は0になるわけですから大きな意味を持ちますが、酸素濃度の21%から21.04%への変化は、ほとんど誤差範囲ですよね。このような要因をも考察する必要があります。


Q:今回の授業で、C3とC4を行き来する植物に興味を持った。よく目にする水草がこんな機能を持っていたのかということにも驚いたが、確かに乾燥していて光が多いところで有利なC4植物が空気中の部分に該当し、湿っているところで有利なC3植物が水中にある部分に該当しているというのは、光合成をよりよく行うための的確な工夫だと思う。さらにこの工夫は、陽葉と陰葉の関係にも近いと思った。1本の木でも、太陽が当たりやすい木の上の方は陽葉はあり、下の方や中のほうに位置する葉は陰葉である。これら陽葉と陰葉も形態的な違いであり、より効率よく光合成を行うためのくふうである。従って、C3とC4植物が混生している地域では、時期によって占める割合が変わるのではないかと推測できる。しかし、授業中に、C3とC4を行き来する植物がかなりたくさんあると聞いたが、例えばプリントにあるような水草のことを考えると本当に水中と空気中にある部分でC3とC4のように形態的に変えてしまって有利になるのだろうかと思った。水中に入っている部分と水から出ている部分の境目なんて、自然環境によって容易に変わるだろうし空気中に触れている部分をわざわざC4植物に変える必要があるのかと思った。一見、水陸両用でちょうどよく工夫されているように見えるが、陸に出ている部分といっても水に近い位置にあるしその他の普通の陸上植物がC3植物なのだから、光の量も特に多いわけではないのではないか。そこで考えたのが、水面からの反射である。陸上植物は空から降り注いでくる光だけだが、水草の場合、水から出ている部分は降り注いでくる光と、水面に反射してくる光があり、通常C3植物が生育する地域でも、反射の光が二酸化炭素を濃縮するだけの光エネルギーを得ることができているのかもしれない。

A:なるほど。水面からの反射とは面白いところに目をつけましたね。もし、下からの反射光が大きな意味を持っている場合には、葉の表裏といった形態的な面にも影響を与える可能性がありますから、そのあたりの観察から仮説を検証することができるかも知れません。


Q:稲科の植物は糖質をスクロースの形で貯蔵し、これが水に可溶性であるため、浸透圧的には、不溶性であるデンプンの形で貯蔵する方が適していると話していました。これはつまりショ糖の形では水分を多量に吸収してしまうからということでしたが、稲は田んぼで常に水分にさらされています。これは稲科植物はより多くの水分を必要とする為にあえて糖質をショ糖の形で保存していると考えていいのでしょうか。もしそうだとすると、例えば、稲科植物の根の細胞は、水と有機化合物の共輸送を行うトランスポータータンパクが他科の植物よりたくさん発現しているのではないかという予想ができます。やはり必要性あってのショ糖貯蔵なのでしょうか。

A:これも面白いところに目をつけました。ただし、現在人間が栽培しているイネがイネ科の植物の典型的な例であるか、ということになると実ははなはだ疑問です。また、イネ科にショ糖の形で光合成産物を貯めるものが多いのは確かですが、イネ自体はデンプンを貯めますので、どうもこの仮説のストーリーは難しそうです。


Q:今回の講義では,SPSについて興味を持った.講義では,SPSの活性によって,スクロース転流が決まっているとの事であった.では,このSPSの活性を決めているのは何であろうか?まず1つは,フィードバックによる活性調節であると思う.今回の講義では省略されたが,デンプンが昼に合成され夜に分解される図を参考にすると,昼間は光合成により最初スクロースを合成するが,一定の濃度に達することによって負のフィードバックが働きSPSが不活性化し,デンプンが貯蔵される.夜間では,光合成ができないのでスクロース濃度がある一定値まで低下し,負のフィードバックが解除され,SPS活性が上昇,デンプンが分解されスクロース合成が促進される.こう考えると,シンクの大きい植物では負のフィードバックのスイッチがONになるようなスクロース濃度になるまでに余裕があると思われるので,その分光合成産物が多くでき生産性があがるのにも納得がいく.あともう1つの要素として,温度を挙げてみる.SPSは酵素であるので,その最適温度があるだろう.自分はこの温度こそが植物の多様な光合成機構を持つに当たった要因のひとつであると思う.温度は,環境によって大きく異なるので,その分,SPS活性,つまり生産性は地域によって異なる.そのため,この差異によって,その地域ごとで生産性の効率が最もいいような光合成機構(C4,CAM)が生まれたのではないか.

A:SPSの活性調節で全てを説明しようというのはなかなか野心的でいいですね。ただ、同じ酵素でも、生物種によって(というよりはその生物の温度環境によって)活性の最適温度は異なるので、最後の部分はその点も考える必要があります。


Q:今回の講義で圧流説に興味を持ちました。師菅の中の流れは,ショ糖濃度によって生じる浸透圧によります。光合成を盛んにする細胞から師菅にショ糖を送り込むと水が細胞から移動してきます。光合成産物を使う細胞へショ糖を取り込むと水も移動してきます。このことから,ショ糖と一緒に移動してくる水の量は,ショ糖濃度の大きさに比例しているのではないかと考えました。多くの,甘い果物は野菜に比べみずみずしく,水分を多く含んでいるのでこのように考えられると思います。さらに,移動する水の量がショ糖濃度に比例するという性質を利用すれば,水分量から糖度が分かるので,糖度計は水分量を測ることで糖度を求めていると考えました。調べみると,一般的に使われている屈折式糖度計は屈折率を利用していました。この仕組みは,純粋な水は屈折率が低く、電気もほとんど通しません。これに何らかの成分が溶ける事により屈折率が高くなったり、電気を通しやすくなります。そして、それらはその成分の溶けている量に概ね比例して高まるというものです。考えとは違っていました。しかし,農業でこの考えが用いられていました。農業では,糖度=養分濃度であると仮定して、養分濃度診断と呼ばれることもあり,水分量から作物が正常に生育しているかを判断しています。水分量は判断材料として使われるという点では正しい考えだったようです。

A:「移動する水の量」というのと「水分量」というのは異なりますよね。導管を移動する水の量を測定するのは、最後の蒸散の部分を見れば良さそうですが、篩管を移動する水の量を測定するのは難しそうです。


Q:今回の授業で、コラーゲンに含まれる窒素の同位体比を調べることで、縄文人の食生活がわかるという話があった。含有窒素量が動植物によって違うということを利用したもので、縄文人のコラーゲンの含有窒素と照らし合わせることで、生きていたときに何を中心に食べていたのかわかるのだという。この話を聞いて、もし完全に異なる同位体元素で構成された二種類の人間ができたとしたら、構成される元素数がまったく同じだったとしても、体重には差が出てくるのではないだろうかと思った。地球上には13Cは1%しか存在しないため起こりえないことだろうが、考えてみた。人体の炭素原子の重量比は約18%である。仮に体重50kgだとすると、9kgが炭素原子ということになる。全て12Cの炭素だとすると、12C は12g/molだから9kgでは750molの炭素原子が存在しているということがわかる。ここで、同じ炭素原子750molで構成されている人が13Cで全て構成されていたらどうなるだろうか。計算をしてみると9.75kgとなり、750gの差がでてきた。もしも、全ての原子において同位体元素の重いほうと軽いほうそれぞれ使用していけば、同じ元素数の人間でもっと大きな体重差が出てくるのだろう。

A:これは、生物の講義のレポートとしてはどうかとは思いましたが、面白いので載せておきましょう。


Q:CAM植物は夜は二酸化炭素を取り込みリンゴ酸を合成し液胞にため、昼は液胞中のリンゴ酸から二酸化炭素を得ることによって光合成をする。そのため、夜に気孔を開き、昼の暑い時間帯に気孔を開かなくてよいため乾燥に強い。では、CAM植物はどのようにして、昼と夜を見分けているのか。まず考えられるのは昼にあって夜にない光だ。もし光が気孔を閉じ光合成反応を制御するために働いているならば、光を受けてそれらを制御するメカニズムが存在するか、明反応中で発生するものがシグナルとして働いていると考えられる。しかし、自分がもっとも可能性がありそうだと考えているのはイオン濃度変化である。気孔から水蒸気として水が出て細胞中の水が減少すると細胞中のイオン濃度が上昇する。このイオン濃度の上昇が気孔の開閉に関係があるのではないかと考える。これは、水分の減少が直接気孔が閉じることにつながるため、細胞内の水の量によって気孔の開閉が制御され蒸散抑制のシステムとしては能率がよいからだ。そして気孔の開閉によってできる二酸化炭素の供給の有無が昼と夜の光(途中文字化け)これらの仮説の正誤を証明するためには、コントロールした環境を作り光や乾燥度を変化させそれらによって気孔がどのような動きをするのか観察し、どんな生成物ができるか調べることによって、何が関係あるのかを確かめる必要があるだろう。

A:夜と昼を感知するために、光を使うのか、水を使うのか、というのは面白い問題設定ですね。ここで述べられているように、第一感では光が思い浮かびますが、CAM植物が乾燥に対する適応であるということを考えると、水の環境(湿度など)をモニターした方が良いだろう、ということに気が付くと思います。