植物生理学 第6回講義

炭酸固定と光呼吸

第6回は、最初にチラコイド膜における光化学系などの異所性の話をし、そのあとは光合成における二酸化炭素の固定反応について説明しました。最後の方は時間切れになったので、次の回に残りの部分と光合成産物の話をしようと思います。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義で興味を持ったことは、葉緑体の電子伝達成分分布の偏りです。葉緑体内における電子伝達は光化学系2、シトクロムb6/f複合体、光化学系1と進行していきます。そのため、この順に並んで存在しているのだと思っていましたが、実際は離れて存在していました。光化学系2からシトクロムb6/f複合体への反応は細胞膜のプラストキノンを介して行われるため近くに存在しているが、シトクロムb6/f複合体から光化学系1へはルーメン側に存在するプラストシアニンを介して行われるので離れているのだと思います。ATP合成酵素はプロトンを膜外へ放出するため、光化学系1はストロマに存在するNADP+をNADPHに還元するためにストロマチラコイド側に存在すると考えられます。光化学系2からシトクロムb6/f複合体はルーメンに存在する水を利用し、ルーメン側にプロトンを排出するのでグラナスタックに偏って存在するのだと考えられます。すなわち、利用する基質・排出するプロトンの存在する場所によって電子伝達成分の場所に偏りが生じると考えられます。

A:面白い考え方だと思います。ただ、例えばNADP+のようにストロマの物質と反応する時にストロマチラコイドにある、というのはまだ良いのですが、ルーメンという空間自体はグラナスタックだけでなく、ストロマチラコイド膜にもあるわけですよね。そうすると、それがグラナスタックに偏って存在する理由になるかどうか難しいかも知れません。


Q:自分は今回の講義で,「効率の悪い」酵素ルビスコに興味を持った.ルビスコはCO2の反応を触媒するが,O2の反応も触媒してしまい,これはCO2の反応を阻害し植物の生育を阻害してしまう.また,枯草菌にはルビスコと類似したRLPを持ち,ルビスコ触媒部位近傍の,光合成反応必須の19アミノ酸のうち11アミノ酸を保持している.自分はこの発見は植物生産性においてとても重要な発見だと感じた.なぜなら,RLPが本当にルビスコの祖先だとしたら,この残り8アミノ酸を進化の上でどのように獲得していき,現在のルビスコになったのかが明らかになり,いつどの段階でRLPがO2反応及びCO2反応を触媒するようになったかが明らかになれば,ルビスコの欠点ともいえるO2触媒反応を遺伝子操作によって取り除くことができるかもしれないからだ.これによってできた新しいルビスコを植物に応用すれば現在より光合成効率が格段にあがり,食料問題の解決につながるかもしれない.

A:非常に素直な考え方だと思います。しかし、もし、それが可能なのであれば、植物は進化の過程でなぜそのルビスコの欠点を取り除くことをしなかったのか、考えてみましたか?生物を考える時は、人間の観点からその利用法を考えるだけでなく、対称性物の観点からも「なぜ」を考えることが重要です。


Q:今回の講義では植物が二酸化炭素を固定する仕組みについてカルビン回路やC4回路を含めて勉強し、また光合成における一種の副作用とも考えられる光呼吸についても詳しく学びました。その中で最も興味を持ったのがC3植物とC4植物についてです。CO固定について、C3植物が二酸化炭素を最初にPGAにラベルするカルビン・ベンソン回路を使うのに対し、C4植物は葉肉細胞でのC4回路でC4化合物にラベルした後維管束鞘細胞のC3 回路で再びCO2を放出しカルビン回路で固定する方法をとっています。C4植物がエネルギーを使ってまでこのような過程を行う意味は、細胞内のCO2濃度を上昇させCO2を濃縮させることによりO2との反応が起こらず無駄な光呼吸を行わないようにするためだと授業で聞き、とても感心できました。しかし、別にCO2を葉肉細胞でわざわざC4に固定させてから維管束鞘細胞のカルビン回路に運ぶ必要はないのではないか、と思いました。この過程に使っているエネルギーを節約し逆にどんどんC3回路にCO2を取り込んだほうが植物にとって有益なのではないかと考えました。それでもC4植物に進化するということは、エネルギーを消費してまで光呼吸は抑制する価値があるということであり、光呼吸抑制の重要性が感じられました。

A:C4がもし、本当にいつでも有利なら、C3植物は地上から駆逐されるはずですよね。実際には、地球上にはC3とC4が共存しているわけです。その理由については次回の講義でお話しする予定です。


Q:私が今回の講義で興味をもったことはルビスコという酵素についてです。ルビスコには酵素として2つの役割があり、その2つの反応がどおゆうものなのかについてと、ルビスコが「効率が悪い」酵素、ということについて興味を持ちました。カルボキシル化によってCO2と結合する反応と酸素化によってO2と結合する2つの反応 が同時に起こっているということは講義でわかったのですがその2つの反応と「効率が悪い」酵素ということはつながるのかを考えてみました。ルビスコはCO2濃度の変化によって2つの反応のどちらかを促進する、と書いてあり光合成はCO2を吸収しO2を放出するのでルビスコの反応によってCO2の環境を調節することができているの で私は「効率の悪い」酵素なのか疑問に思いました。むしろ濃度が高いときにはCO2と結合し、低いときにはO2と結合するので一方の方向にしか進まない光合成を助けているのではないかと考えました。カルボキシル化と酸素化についてだけで「効率の悪い」酵素と決め付けているわけではないと思うのでほかのルビスコのどのよう な性質から「効率の悪い」酵素と呼ばれているのか知りたいです。

A:講義でも話しましたが、効率が悪い、というのは、主にルビスコの回転速度の遅さについて言われます。普通の酵素は、1秒間に触媒する反応を1000回行なうものも珍しくはありませんが、ルビスコの場合はわずか数回なのです。


Q:講義でC4植物に興味を持ちました。C3植物とC4植物の関係と能力について考察します。1つ目は,C4植物はC3植物から分化したと考えられます。C4植物が出現したのはC3植物の後であり,組織構造の類似しているし,C4植物にはC3回路が存在するからです。またC4植物はつくり出す物質によって3タイプに分けられます。だから,先祖は一緒ですが分化し進化していった環境が違ったため、それぞれが周りの環境に適応していったと考えられます。しかし,この考えでは,3タイプだけではなくもっとたくさんのタイプが出現したと考えられますが,そこにさらに噴火などの自然災害や生存競争で種の絶滅が起きてしまい,最終的に3タイプが残ったと考えられます。2つ目は環境の変化にC4植物はC3植物よりも柔軟に対応可能ということです。これは,C4植物はC4回路を持つことで二酸化炭素を濃縮できるので,二酸化炭素が急激に減少したら,蓄えておいた二酸化炭素を使って光合成できるからです。

A:今回の講義では紹介せきませんでしたが、「蓄えておいた二酸化炭素」というのは、CAM植物でまさに使われている仕組みです。これについては次回の講義で説明します。


Q:今回の植物生理学の講義をきいて、私はなぜ植物は効率の悪い酵素であるルビスコを用いているのかに興味を持ちました。ルビスコはRLPの子孫であり、元々は二酸化炭素を固定するためのものではなかったためと授業中に聞きましたが、長い進化の過程ではルビスコよりもより効率良く炭素固定できる酵素にたくさん出会っ ていたと考えられます。そしてそれらの酵素に乗り換え、ルビスコを退化させる道もあったはずなのに、なぜルビスコを残してきたのでしょうか。
 ここで私は光呼吸に注目しました。光呼吸は強すぎる光による悪影響を回避するために必要な、エネルギー損失機構であると考えられています。そしてこの反応の触媒としてルビスコは働いています。このことから、ルビスコは炭素固定だけでなく、光呼吸を行い、その働きにより強すぎる光を受けたときに対処できるという二つ の生存に必要な機能を有し、またこのような機能をどちらも有し、ルビスコより優れている酵素が存在しなかったために、たとえ炭素固定に関して効率が悪くても植物はこの酵素を用いているのではないかと考えられます。

A:これは面白いですね。むしろ光呼吸を使い続けるためにルビスコを存続させたという考え方ですか。この考え方の唯一の欠点は、C4植物の存在です。C4植物では光呼吸がなくなります。光呼吸がなくても良いという点にはそれなりの理由があったとしても、それならば、C4回路を作るより、「ルビスコよりもより効率良く炭素固定できる酵素」に乗り換えた方がよいように思いますが・・・


Q:私は、今回の講義で「光阻害」というものを初めて知り、興味を持ちました。ここで光阻害について調べてみました。植物は光合成において光を吸収して、電子とエネルギーを生成する。そのエネルギーを使って、二酸化炭素を連続的に、糖に固定する反応を行う。このとき生成されるエネルギーが、炭酸固定反応に 必要なエネルギーを越えて、エネルギーが過剰供給状態になり、光獲得で生成された電子が溜ってしまう。そして、溜まった電子は、他の反応を誘発し活性酸素を生みだす。この活性酸素が葉緑体内のさまざまな部分を攻撃することで、明反応の効率が低下することを光阻害という。また、光阻害は、光化学系2の酸素発生系に存在 するマンガンが光によって励起されることで遊離し、酸素発生系が機能を失った状態で光化学系2の反応中心が励起されることで、ダメージを引き起こすとも考えられている。前回の講義まで、植物は生きるために、いかにして光を吸収して、獲得した光エネルギーを新たなエネルギーに変換するかを考えてきました。しかし、植物 にとって必要な光も、エネルギーの需要と供給のバランスが崩れると自らの代謝に悪影響を及ぼすことがわかりました。また講義の中で、光阻害は生じるが、植物はその修復機構を持っていることや光呼吸においてルビスコが関連して光阻害の回避をしていることから、葉緑体は進化の過程で、このような解決策を獲得していったの だろうと思いました。最後に、光阻害を勉強して驚いたことは、植物も自身の中で活性酸素を作り出してしまうということです。他の授業でアルツハイマーのメカニズムについて、勉強したときに、脳内で活性酸素が生じることで、神経細胞がやられてしまいアポトーシスを引き起こすというのがありました。今回、このことが思い 出され、植物も活性酸素の発生によって電子伝達を行う細胞に、アポトーシスが誘導される可能性があるのではないかと考えました。

A:どうも先回りをされてしまいましたね。光阻害については、これからの講義にも出てきます。植物は酸素を発生するわけですから、活性酸素については、むしろ植物の方が本家本元と言えるかも知れません。


Q:Rubiscoの進化に関することについて考えてみたい。RubiscoはシアノバクテリアのものからC3,C4植物のものへと進化したと考えられている。最大活性は進化前の方が高く、酸素に対する二酸化炭素の反応性の比は進化後の方が高くなっている。講義では、古代の大気は二酸化炭素の濃度は高く、酸素はほとんど存在しなかったが、今では酸素濃度が高く二酸化炭素濃度が低くなってしまったためであると説明されていた。ではなぜ、現在では酸素濃度の高い環境に不利なシアノバクテリアや緑藻類などが絶滅せずに生き残っているのか。講義ではシアノバクテリアは二酸化炭素を濃縮する仕組みを有しているために酸化炭素濃度が低くても生存可能であると説明していたが、自分は生息している場所にも関係があると考える。高等な植物は主に地上で生活しているのに対して、シアノバクテリアや緑藻類、ユーグレナは水中で生活している。大気組成は酸素が20.95%、二酸化炭素0.04%であるので地上の酸素濃度は二酸化炭素濃度(途中文字化け)倍である。次に水中の濃度を考える。20℃、1atmのとき酸素の溶解度は1.39 (mol/l)、二酸化炭素の溶解度は53.7 (mol/l)であり、酸素の分圧は1×0.2095atm、二酸化炭素の分圧は1×0.0004atmであるため、水中にある酸素の濃度は1.39×0.2095=0.291 (mol/l)で二酸化炭素の濃度は53.7×0.0004=0.0215 (mol/l)である。よって水中の酸素濃度は二酸化炭素の濃度の13.5倍である。これらから水中の酸素濃度に対する二酸化炭素濃度は、大気中のそれと比べるとはるかに高いことがわかる。よって水中に生息する植物は酸素に対する二酸化炭素の反応性の比が低くても、陸上に生息する植物ほど問題とならず、現代まで生き残ってきたのだろう。

A:素晴らしい考察だと思います。もう一点付け加えると、水中の場合は、二酸化炭素の溶解度だけでなく、炭酸イオンや重炭酸イオンとの平衡も考える必要があります。この平衡はpHによって左右されますから、海のpHが変化したりすると、それだけで大気の二酸化炭素濃度にも影響が出ることになります。