植物生理学 第3回講義

生体のエネルギーと代謝

第3回は、呼吸を中心に、生物がエネルギーをどのように得ているのかを中心に主な代謝のメカニズムを紹介しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業で、二日酔いを治す薬が紹介されていました。その成分としては、有機酸とアミノ酸が主で、エタノールを分解することを目的としています。アラニンや、グルタミン酸は普通に食事をすれば摂取できるもので、それを特別にアミノ酸含有食品から摂取する必要はないと思います。仮に、これを飲んだことで気分がすっきりしたとするならば、それは、アミノ基転移でクエン酸回路に入りやすいアミノ酸を、摂取したからというよりは、「これを飲んだから大丈夫だ」という気持ちのほうが影響としては多いのではないかと思います。「病は気から」という言葉もあるように、気持ちに作用するという意味では飲むことに意味はあるのではないでしょうか。最近はいろいろな、健康食品が販売されています。それを買うときに原材料名をみて、販売元が何を意図しているのかを読み取ることができれば消費者として、より賢い買い物ができるのではないかと思いました。

A:まず、講義の中でも言ったと思いますが、紹介したのは「薬」ではありませんので・・・。講義の中でいわれたことを鵜呑みにしない姿勢は好ましいですね。多くの栄養分子は普通に食事をすれば摂取できる、というのは正しいので、栄養食品として売られているものの中にはさほど意味のないものもあることは確かです。ただ、エタノールの飲用は、ある意味で一種の毒物の摂取です。そのような生体にとっては「非日常的な」「緊急時に」、一過的に高濃度のアミノ酸が要求されるような場合には、普通の食物の代謝の結果得られるアミノ酸では足りないということは十分に考えられます。


Q:今回の講義では、発酵の意味のところで「乳酸菌、酵母は解糖系の部分だけで酸素を使わずにエネルギーを得る」と書かれている。webによると酵母は酸素条件下では好気呼吸により生命に必要なエネルギーを得るとなっていた。ここについて興味をもったので述べてみる。
 まず酸素を使わない発酵によって得られるエネルギーは、解糖系によって得られる2ATPのみである。これに対して好気呼吸は、解糖系によって得られる解糖系、クエン酸回路、酸化的リン酸化によって得られる38ATPである。このことからわかるように、1molのグルコースから得られるエネルギーの量は好気呼吸経路の方が断然に多い。このことからわかるようにグルコースを最小限に抑えるためにも酸素条件下では好気呼吸の方が積極的にされ、有限であるグルコースを無駄使いしないためにも嫌気呼吸経路によるエネルギーの獲得を抑制されてしまうと考えられる。また酸素条件下では生命に必要なエネルギーを主に好気呼吸で得て、多くのエネルギーを得ていることより活発に行動できると考えられる。しかし、無酸素状態でも酵母の大きさが小(以下メールでは文字化け)

A:嫌気呼吸と好気呼吸に切り替わりについてはまさにその通りです。一方で、好気呼吸で38 ATPが得られるという数字は、古い教科書などにも載っていますが、最近は、実際にはそのような値にはならないのではないかと言われています。


Q:今回の講義において、植物が光合成をする際の酸化・還元の電位の変化について学習した。酸化・還元の機能を持つものはほとんど電位の大きい方に流れるが、その中でP680やP700は反対に電位の小さい方に逆らって流れる。『P680は暗黒下では、還元された状態にあります(電子を持っている)。P680は、エネルギーを受け取って励起されると、フェオフィチンに電子を渡します。フェオフィチンからは電子はQA、QBと渡ります。P680はクロロフィルaの二量体と考えられています。』この『エネルギーを受け取って励起されると』という箇所に注目したい。以前に有機化学の授業で電子が昇位することで混成軌道が生じるということを学んだ。この電子もエネルギーと逆らっているため、混成軌道が生じるときの電子の動きと光合成でのP680やP700の電子の動きが似ていると考えられる。他にも、動物において神経の興奮により細胞膜の内側と外側で陽イオンと陰イオンの数が通常と異なったときに生じる膜電位の変化とも似ていることから人間もP680やP700の機能と同じようなものを持っていることが予測できる。
参考資料:http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/Hikosaka/Components.html

A:光合成系の酸化と還元については、第5回講義で再び詳しく触れます。電子の昇位の場合に必要なエネルギーは通常化学結合の形成により補われるので、外からのエネルギー供給は必要ありませんよね。その点が、光合成の電荷分離とは異なる点かも知れません。


Q:今回の講義で植物の光合成に2つの光化学系が必要なことに興味を持ちました。これは水の酸化力が強いので、還元するのに大きなエネルギーが必要なためであり、紅色光合成細菌と緑色硫黄細菌の2種類の細菌が祖先となっているためだそうです。これを聞いた時、「共生」を思い出しました。きっとどちらか一方の祖先が、もう一方を共生させ、シアノバクテリアが生まれたのだと思います。しかしシアノバクテリアは2重膜構造で葉緑体も持っていません。これは共生と違うということになります。確かに葉緑体の中に2つの光化学系が膜を隔てて存在しているわけではないので納得ですが、そもそも共生させたとき膜構造を残しているのはそれが光合成を行うために必要だからです。つまり、シアノバクテリアの祖先自体が光化学系を持っていたので共生させた細菌自体の膜構造は必要なく、自身の膜構造のみで足りるので膜構造が退化したと考えらます。これより私は2種類の細菌が共生した結果シアノバクテリアが生まれ、2つの光化学系をもつと考えます。

A:なるほど。おそらく、もっと基本的な点は、2つの光化学系は1つの膜上にのっているからこそ強調して働けるという点です。ですから、逆に言うと、2つの光化学系を働かせるためにはそれぞれ別々であった膜自体を融合させなければならなかったでしょうね。


Q:今回の講義で思ったことは,繊毛虫はミトコンドリアを複数所持しているのに対してクリプト藻類は2回も共生をしているにもかかわらず,1つしかミトコンドリアがないという点がとても不思議に思いました。普通の考えでは,ミトコンドリアを複数持つということは,ATPの合成量の増加につながり,それは,今まで鞭毛などの運動器官などに使っていた必要なATPを全体のATPから引いても,かなりの量のATPが残るので,このATPをほかのことに利用でき生活の幅が広がると思うはずである。しかし,実際は1回目の共生で得たミトコンドリアが消滅している点から,クリプト藻類は必要以上のATPがあると都合が悪いのではないかと考えられる。この,考えを検証するために,クリプト藻類を富栄養化した寒天培地に入れ生育させれば,ミトコンドリアを複数所持した時のように必要以上のATP合成がされるはずである。よって,この実験から過剰なATPの所持がクリプト藻類に与える影響が分かると思う。

A:おそらく、一つ考えなくてはいけないのは、もともと一つの細胞にはミトコンドリアは複数あるのが普通だという点です。つまり、共生をしなくても、やろうと思ったらミトコンドリアの数を増やすことはできます。一方、違う生物のミトコンドリアはお互いに少し異なっていますから、共生の際に両方のミトコンドリアを残したら、二種類のミトコンドリアを使い分けなくてはならないわけです。そうすると、ミトコンドリアの機能を調節しようと思った時などには複雑でやっかいでしょうね。つまり、数の問題ではなく、種類の問題だ、ということでしょう。


Q:呼吸鎖と酸化還元電位の図から、電子は酸化還元電位の低い方から高い方へと移動することが分かりました。この図から、NADHからH2O/O2までの過程で、なぜFMN~シトクロムa3という多くの段階を踏まなければならないのか疑問に思いました。このような酵素が少ないほうが、反応時間が少なくて済み効率的な気がします。しかし、呼吸鎖はエネルギーを産生するという点を考えると、多くの段階があるほどATPを沢山作ることができ、このためFMN~シトクロムa3という経路があるのかなと思いました。

A:クエン酸回路の時に、呼吸と燃焼の比較の話をしましたよね。つまり、反応を細かいステップに分けることにより、エネルギーを熱として放散させずにNADHやATPの形に変換するわけです。電子伝達鎖の場合も似たような事情があります。さらに、第5回の講義で説明しますが、逆に反応が進まないようにするためにも、多くの段階は役立っています。


Q:今回の講義で疑問に思ったのは、ATP合成酵素が回転するのは、シグマ分子がベータ分子と一箇所でしか結合しないので、その不公平さをなくすためという点です。この、理由だけでこのATP合成酵素がこのような構造になったとは思えませんでした。理由は、シグマ分子がそれぞれのベーター分子と常に接するような構造ならば、ATP合成酵素は回転をする必要もなく、回転するためのエネルギーも必要なくなるはずだからです。そして、自分なりにATP合成酵素が回転する理由を別に考えてみたところ、ATPを合成の効率がこの構造の鍵になっているのではないかと思いました。そこで、ATP合成酵素をレボルバータイプの銃とし、また、回転しないでシグマ分子とベータ分子が常に結合していると仮定したATP合成酵素の構造を火縄銃だとします。この両者の弾の発射効率を考えると、次の弾を充填できるレボルバーの方が弾を充填できない火縄銃より効率が良いとわかります。よって、ATP合成効率も同様に考えられ、回転する方が効率が良いということになります。これにより、考えられているATP合成酵素の回?転は無駄なことではなく、むしろ有益な物だということがわかったような気がします。

A:「回転するのは、・・・不公平さをなくすため」というのは誤解です。講義で説明したのは、「不公平さがあるのは不合理なので、そこから回転モデルを考えついた」ということです。ですから、シグマが3分子あったのなら、そもそも回転説は出てこなかったかも知れません。レボルバーの例えは面白いのですが、この場合、レボルバー1丁と火縄銃3丁で比較しないと不公平ではないでしょうか。


Q:ATP合成酵素は回転することでATP合成をしているらしいが、回転しているということはつまり何らかのエネルギーを使っていることになる。エネルギーの源になるATPをエネルギーを使って合成することは効率が悪いのではないか。そのエネルギーがどこから由来しているのかを推測してみる。いちいち別のところで、回転のためにATP合成しているとは考えにくい。それこそ効率が悪いように思われる。このことから考えると、何らかの反応と共役して起こっていると予測できる。しかし、さほど回転に伴うエネルギー消費が少ないのであれば、純粋に回転のために使われるエネルギーがどれくらいかは分からないが、別の方法でエネルギーを得ているのではないか。微量のエネルギーであれば、その環境における熱の出入りだけで得られるのではないかと推測する。わずかな熱の変化がエネルギーの変化と考えると、微妙な温度差でエネルギーが得られるのではないかと考えられる。それがATP合成酵素の回転に使われるエネルギーではないかと思われる。

A:「マックスウェルの悪魔」という仮想実験があります。2つの空間のしきりの間に原子的悪魔がいて、飛び回っている気体分子の内、速度が速い分子が右側から来た時はしきりを閉じ、左側から来た時はしきりをあけ、速度が遅い分子については、その逆をするわけです。そうすると、しばらくすると、「何もしなくても」右側の空間の温度は上がり、左側の空間の温度は下がることになります。これは、実際には実現できませんが、熱運動によるゆらぎを一方向に変換することにより何か仕事をさせるというアイデアはいろいろ考えられているようです。


Q:今回の講義内容とは少し外れてしまいますが、どうして生体内のエネルギー源の多くがATPによって賄われているのかについて書きたいと思います。ATP(C5H5N5)は核酸を構成する過程に用いられる化合物でこのほかに同じプリンのGTP(C5H5N5O)、ピリミジンのCTP(C4H5N3O)、TTP(C5H6N2O2)の全4種類があります。このように似たようなものが沢山ある中なぜATPだけが多様に利用されているのでしょうか。この中でATPのようにエネルギー源として知られているのがGTPです。この2つに共通することはプリン体であることです。プリンとピリミジンを比較するとプリンの方は五員環と六員環、ピリミジンは六員環のみからなっています。また、二重結合の数を数えると全て環内に3つずつとなっています。このことからプリンのほうがより電子が非局在化していると考えられ、アデニンとグアニンのほうがより安定であると考えられます。古細菌の一部を除くと一般的な生物のDNAではA、Tの割合がC,Gよりも多い。どんな生物でもATPをエネルギー源としていることからそのような物質は多量に存在し、かつ安定なものがよいのではないかと考えられます。これより、アデニンから成るATPが広く使われるようになったと考えられるのではないでしょうか。
参考文献:化学大辞典 東京化学同人著 1989、ヴォート生化学(上) 第3版 東京化学同人著 2005

A:面白いですね。ただ、安定性からだけで議論するのはやや危険かと。DNAのA, Tの割合について述べられていますが、それにしてもDNAという遺伝の根幹に関わる物質にC, Gを使っているわけですからねえ。やはり、他の物質との反応性、そしてリン酸基の解離エネルギーに関する議論が必要なように思いました。


Q:同じピルビン酸を処理するのに複数の経路と生成物が存在するのかに興味を持った。今回はアルコール発酵も乳酸発酵の2つの発酵について考察する。どちらもピルビン酸からNAD+、2ATPを生産するのは同一だが、生成物が違う。乳酸発酵ではピルビン酸を直接乳酸に還元するが、アルコール発酵では二酸化炭素を放出し、アセトアルデヒドを経てエタノールに還元される。なぜアルコール発酵で中間体を生成し、二酸化炭素を放出するのだろうか?直接乳酸にしてしまえば簡単である。これは進化的に必要だったからなのか?乳酸は酸性だが、エタノールは弱い酸性である。わざわざ中間体を経てまでエタノールを産生するのはこのためだと思われる。乳酸を産生することによりpHが低下する。低pHに弱い生物ならばこの環境に耐えられない。これよりアルコール発酵を行う酵母は低pHに弱い生物で、逆に乳酸発酵を行う乳酸菌は低pHに強い生物だと考えられる。これより生成物の違いが及ぼす環境変化により、どの発酵が行われるかが変わると考えられる。

A:確かに、細胞の耐酸性が無ければ乳酸発酵は成り立ちませんよね。逆に、耐酸性があれば、乳酸発酵をして環境を低pHにすることによって、競争相手を減らすことができる、という見方もできるかも知れません。


Q:今回は講義では省略されてしまった部分だが,光合成と呼吸の関係について考察する。そもそも,光合成とは光エネルギーを用いて無機物から有機物を作るというもので,最終的には有機物を得ることが目的であると考えられる。有機物が必要なのは呼吸の基質となるからで,呼吸をするのは生命活動のエネルギー源を得るため。そう考えると光合成は呼吸のためなのだから,呼吸が先であると思われる。呼吸の電子伝達鎖の方が光合成のものより起源的に古いのは,光合成から好気性呼吸に移る進化の途中で,好気性呼吸の発達によって得られた電子伝達鎖という機構がその時まだ未発達であった光合成に組み込まれたと考えられる。つまり,進化全体としては光合成→好気性呼吸の順ではあるが,独立して電子伝達鎖だけは呼吸の方が先に発達させ,後で光合成の方でも発達したのではないかと思われる。また,別の可能性として嫌気性呼吸においても電子伝達鎖の先駆けとなるような機構が存在しており,それが光合成にも使われるようになったのではないかとも考えられる。しかしこれは,嫌気性呼吸から好気性呼吸における劇的なATP合成量の変化が電子伝達鎖の発達によるものと考えられるため,前者の方がより有力であると思われる。

A:実際には、講義で触れた化学合成細菌には、電子伝達の受容体として酸素を使わずに硝酸や、二酸化炭素を使うことのできるものがいます。ただ、酸素を使う場合と比べると、ATPの合成量は低くなることは確かです。