植物生理学 第1回講義

植物生理学の内容と光合成の意義

初回は講義の全体像をつかむため、光合成が地球環境、生態系、あるいは人間の文明にどのようなインパクトを持つのか、また過去の光合成研究の歴史と、今後の光合成研究の方向性について概説しました。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業を聞いて,今だに納得いかないのは高等な動物が光合成能力を持たなかっことの推論だ。確かに高等な生物が光合成だけで生きていくのは非常に非効率的だと思うが,光合成能力を残したまま好気呼吸を主体とした高等な生物が居てもおかしくないと思う。その理由としては,酸素に依存する好気呼吸だけでなく,二酸化炭素と太陽光に依存する光合成があれば,日中においては双方の働きによってエネルギー供給は従来よりもわずかながらでも増加し,その結果,動物はより活発に行動することができ,体のサイズも大きくなることができる思う。だからこそ,講義中で扱った推論だけでは光合成能力を持たなくなった理由としては物足りなく感じた。
 そこで,上記に述べた自論を確かめるために,ミトコンドリアと葉緑体を持たない大腸菌を用いて実験をする。まず大腸菌を,ふつうの大腸菌,ミトコンドリアを移植されたもの,葉緑体を移植されたもの,両方移植されたものと4個のグループに分けて培養し,増殖したコロニーの数を比べることによって,どの大腸菌が一番エネルギーを一番獲得できたかが分かるはずである。また別の方法として,マウスの受精卵に葉緑体などの光合成をする物を移植してそのマウスを成育する。この個体を普通の個体と比べることにより,光合成による動物に対しての影響がわかるはずである。

A:まず、断っておきますが、確かに大腸菌は原核生物ですからミトコンドリアは持ちませんが、呼吸はしますので。さて、このような時に考えなくてはいけないのは、生物の進化です。もし、葉緑体を移植したものがあらゆる点で元の大腸菌より優れていたら、生命40億年の進化の過程でそのような生物が生まれ、元の大腸菌は絶滅していたはずではないでしょうか。生命にそもそも多様性があるのは、異なる環境では異なる生物が優位に立つからです。ということは、2つの生物のどちらが「よりよく」増殖するかは環境に依存して決まり、ある1つの条件でだけ比べても意味がないことになります。大腸菌で実験をしていると、何となくその実験条件での生育が全てであるように思うかも知れませんが、実際にはプレートの種類によっても生育は異なるわけです。とすると、どうしたらよいでしょうね?そこまで考えたら、立派なレポートです。


Q:今回の講義で一番関心を持ったことは,海洋に鉄をまくとクロロフィルaの濃度が上がり,藻類が増える。つまり,鉄が藻類増殖の律速になっているということでした。私が最初に思ったことはクロロフィルaに鉄が含まれているのだと思いました。光合成の電子伝達系でクロロフィルaが使われているので鉄が含まれていると思ったのでしょう。しかし,クロロフィルaはポリフェリンの誘導体でマグネシウムが配位したもの[1]で,鉄は含まれていませんでした。
 それでは,光合成過程の別のところにおいて鉄が使われていると考えました。そして,シトクロムは鉄ポリフェリンを含む物質である[2]ことがわかりました。これより,海洋中に鉄をまくとクロロフィルaの濃度が上昇するのは直接クロロフィルaに利用されるのでなく,光合成の過程で使われるシトクロムに使用されるからであると考えられます。
[1] Robert K. Murry,Peter A. Mayes,Daryl K. Granner,Victor W. Rodwell 共著,“ハーパー生化学 原書25版”,丸善株式会社,東京,2006,p.389
[2]八木康一編著,“ライフサイエンス系の無機化学”,三共出版,東京,2007,p.148

A:実際にはシトクロム以外にも植物には鉄イオウセンターというかたちでたくさんの鉄が必要です。この点に関しては、今後の講義で触れる予定です。


Q:講義でサンゴの白化現象について聞き、そのことについて調べてみると、白化とはサンゴが何らかのストレスを受けるとサンゴの体内から褐虫藻が逃げ出し、サンゴが白く脱色したようになる現象だそうです。褐虫藻を失ったサンゴは、光合成が出来なくなって栄養不足になり、白化が長時間に及ぶと死滅してしまうことも多くあるそうです。このことから、なぜサンゴは、褐虫藻がいなければ生きていけないという、リスクの高い生活をするのか不思議に思いました。光合成をし、栄養を自分でつくりだせるような植物と同じ進化をすれば白化現象によって死ぬということは起こらないですんだのではないかと考えました。
 そこで、思ったのは、産業革命以後、人間が自分勝手に自然を破壊したり汚したりさえしなければ、このようにサンゴがストレスをうけ、褐虫藻がサンゴから逃げ出すということがなかったのではないかということです。人間が勝手な振る舞いをしているために、進化の過程では何の問題もなかったことが、こんなにもサンゴの身に危険を及ぼすことになってしまったのではないだろうかと考えました。

A:前半で、植物と同じ進化をしなかった理由について不思議に思ったわけなので、後半でその理由を考察するのかな、と思ったのですが、趣旨がずれていってしまいましたね。後半は、いわば感想なので、やはり前半の理由の考察が欲しかったように思います。


Q:私は高等動物が光合成をしないということに興味を引かれました。移動能力を持たない植物にとっては、光合成を行うことは無駄のないエネルギー獲得方法だと思われます。これに対し、動物は移動能力を持ちます。故に、自ら動き栄養の獲得、そこからのエネルギー生産を行うことが可能です。しかし、動くこと自体にエネルギーが必要です。これでは効率が悪いように思われます。どうして植物のように光合成能力を持たなかったのでしょうか。同じく移動能力を持つタコクラゲは、体内に飼っている褐虫藻(共生藻類)が光合成によってエネルギーを獲得することにより、生産される養分を分けてもらっていると講義では述べられていました。同じように移動能力を持つのに何が違うのでしょうか。まずタコクラゲは海の中の生物です。ふわふわと海の中を漂い、特別速い動きを持ちません。故に、他の海の生物と同じように餌を摂ることができません。この為、タコクラゲは摂食による養分、エネルギー獲得をするよりも褐虫藻(共生藻類)と共生する方が効率がいいと踏んだのだと思われます。海の上の方であれば充分な光を浴びることが可能です。また、他の生物に襲われたとしても触手に毒をもつことで身を守っていることより効率良くエネルギー獲得を行っていると思います。これに対し、陸上などで生活する高等動物は、夜に弱くなる光よりも、常に存在している酸素を活用することが効率的だと踏んだのだと思われます。その為に、進化の過程でミトコンドリアと共生するようになったのではないかと思います。ミトコンドリアと共生することで、本来毒となる酸素から運動エネルギーを獲得することが可能となりました。これならば何処にいてもエネルギーを獲得することができ、光合成を行うよりも効率が良いです。よって高等動物は光合成よりも効率の良いエネルギー獲得方法を見つけたから、光合成をしないのだと思いました。

A:よく考えているのですが、「踏んだ」というところがちょっと。たとえ、それぞれの生物が、ある生活様式が効率的であると踏んでも、それが実際に効率的でなかったら進化の過程で生き残れなかったはずです。逆に言えば、陸上の高等動物とタコクラゲでは、さらに言えば共生に依存するタコクラゲと他の生物を食べるクラゲでは、その生育環境自体に差があるはずです。そのような視点からの考察があるとよいですね。


Q:私は生物とは目的を持って行動するものだと思います。なので,生物の関係するすべてのことには理由があると思っています。例えば今回の授業内容でいうと,「もやしの形態」や「高等な動物は光合成をしない」などの事柄にはちゃんとした理由があります。そして,理由があるからには,今のその生物の状態がより効率的であると思うのです。植物が動けないからといって動物より劣っているかというと決してそんなことはなく,植物は植物なりに光という無限のエネルギー源を使うことが出来るし,今の状態に満足していると思うのです。そして,進化という究極の適応能力がある限り,生物に不可能はないのではないかと私は密かに思っています。ただの有機物の塊から光合成という実に効率的な能力を獲得した植物の存在が生物の無限の可能性を感じさせるのです。私は生命の起源や進化などにとても興味があるので,今後の講義でこれらのことについてもっと深く取り上げてもらえると嬉しいです。

A:これは、日本語の文章としてはよいのですが、レポートとしては感想に終わっているところが残念です。日本語としての読みやすさはこのままで、「思うのです」「思っています」「感じさせるのです」というのではなく、論理を積み重ねてレポートをかけるとすばらしいですね。


Q:光合成による空気の循環とバランスについて考えてみる。植物が1日に行う光合成量と一人の人間が1日にする呼吸の量を考えると、それぞれ0.6 mol/m2/day、20 mol/dayである。よって人一人の呼吸を担うのに必要な植物の面積は約30 m2以上となるようだ。また、世界の人口は約66憶人であり、地球の陸地面積は1488.9×1011 m2であるので地球上の人間が呼吸をするのに必要な森林面積は1.98×1011 m2となりこれは全陸地面積の約0.001%に相当する。森林面積は全陸地面積の約30%を占めている。これは森林面積であるので、光合成をしている植物ははこれ以上に存在している。そう考えると人間の他にも生物はいるものの、呼吸を補う分の光合成は十分になされていること思える。しかし今森林は年に730万haの勢いで減少し、人間の経済活動により二酸化炭素も大量に排出され、光合成による循環のバランスが崩れてきている。森林伐採や経済活動は人間の呼吸に比べてかなりの影響を地球に与えていると考えられ。また、人間が呼吸をするのに必要な森林面積の割合から、例え森林伐採で環境に変化が生じたとしても、人間が窒息死するような事態には当分ならないと考えられる。

A:このような定量的なものの考え方は非常に重要です。と同時に、このような地球規模での計算は、非常に大きな誤差を含む可能性があることに注意することが必要です。ただ、ここでは0.001%という極めて小さい数字がもとになっているので、誤差が非常に大きくても結論には変化がないだろう、と考えているのだと思いますから、このレポートにおいては充分だと思います。


Q:高等な動物が光合成を行わない理由について考察します。仮に光合成ができる動物が存在したとすると、よりエネルギーを効率よく得る為にはより光の当たりやすい場所で、より長く生活する必要があるとかんがえられます。しかし食物連鎖の中で常に命の危険があり、隠れ続けることが必要とされる動物にとって、ずっと陽の下にいることは生存していく為には非効率的であり、仮にそのような動物がいれば、すぐに天敵に襲われて、淘汰されていくと思います。
 こうして考えると、動物が光合成を行うとすれば、その動物の周囲に天敵が存在しないことが条件になります。もし自分より強い動物が存在しないのであれば、そもそも光合成よりも効率のいいエネルギーの獲得方法をもっているはずです。よって光合成をする動物がいるとすれば、周りに他の生物が少なく、他にエネルギーを獲得する手段がないような厳しい気候の中で生活していると考えられます。しかし光を吸収する時、光を遮る毛は邪魔なものとして失われているはずです。そのような動物は厳しい気候の中で生存することは難しいでしょう。以上が私の考えた動物が光合成をしない理由です。

A:このレポートは、きちんと考えるという姿勢が見られるます。論理としても、なかなかよいと思うのですが、「光を遮る毛は」というところから判断すると「厳しい気候」=「低温」というイメージのように思われます。しかし、例えば、砂漠も厳しい気候ではないでしょうか?砂漠なら、光も充分にあるでしょうから、この論理からすると、光合成をする動物がいてもよいような気が・・・。


Q:動物が光合成をしないというのはエネルギーを受けるに十分な面積と、動くという行為を両立できないから。しかし何もすべてのエネルギー供給源を太陽光とせず人工的に人体に葉緑体を埋め込みエネルギーの供給を手伝わせるという行為は有益なのではないかと考える。なにも埋め込む必要はない。葉緑体をゲルのようなものの中に圧縮し、葉緑体が安定に存在できるようになりそこで作られたエネルギーを体内にスムーズに送り込めるようになれば面積という問題もそれほど克服が困難な壁ではなくなるだろう。光合成は人類が進化の過程で切り捨てたものだが同時に最も完成されたシステムでもある。細胞内に存在するオルガネラはいずれも高度な能力を備えている。葉緑体や液胞といったエネルギーを作りそれを貯蓄する。これらのオルガネラを細胞外で安定して培養し圧縮などの加工を施すことができれば食糧不足などの問題への貢献も期待できると考える。

A:このレポートの場合、論理がよくわかりませんでした。葉緑体を機能を保ったままで、「圧縮」することも可能かも知れませんが、そうしたら、どうやって葉緑体に光を当てるのでしょうか。「体内にスムーズに送り込む」のはよいとしても、30 m2の面積を持つゲル(?)を引きずって歩くのはかなり骨だと思いますが・・・


Q:太陽光電池の問題点は光エネルギーは膨大であるが薄いということ。つまり太陽光電池を人間が多いに利用するためには大きな面積が必要であるということだ。太陽光電池を最大限に利用するために私が提案するのは、植物が光合成で吸収しない波長の光を利用して発電を行うということです。植物が光合成をする時に光合成色素が主に吸収する光の波長は短波長で強いエネルギーをもつ400~500nm、600~700nm付近の波長の光である。500~600nm付近の波長の光は光合成色素にはあまり吸収されない。そこで私が考えるのは、500~600nm付近のあまりエネルギーをもたない波長の光を利用して発電ができる太陽光電池の発明ができればその太陽光電池を植物の下方に、小さいものでも多く配置すれば面積を多くとらなくてもある程度の発電量が期待できるというものだ。しかし500~600nmの波長の光のもつエネルギーは少ないのでその光を利用した太陽光電池の発明はとても難しいと思う。500~600nmの波長の光に反応しそのエネルギーを増大させることが可能な物質を開発することができれば私の考える太陽光電池の実現は可能かもしれない。

A:色素と光の吸収については、今後の講義の中で詳しく解説しますので、しばらくお待ち下さい。


Q:なぜ動物は光合成をしないのか?今回の講義で最も興味を持ったことである。この講義では,光の密度が低いためエネルギーを利用するには広い面積を必要とし,そのため動物は移動するのに効率的ではないから光合成をしないという推論が立てられている。生物が生きていくうえで非常に有益な光合成という機能を動物がもたないことには今講義での推論以外にもいくつか考えられると思う。そこで,私も動物が光合成をもたない理由を考えてみた。太陽光には紫外線が含まれているが,その紫外線はDNAの損傷をまねく。光合成を行い独立して生きるには,この紫外線を長時間浴びていなければならない。ゆえに,光合成をもつ細胞は紫外線によるDNA損傷の修復機能が優れている必要がある。これより,優れたDNAの修復機能を獲得できた細胞は光合成をし,一方でDNAの修復機能が劣る細胞は,光合成をせず他を捕食するための移動能を獲得したと考えた。つまり,動物細胞のDNA修復機能は植物より劣っているため,光合成をしないと推論した。今回,私が考えたもの以外にも様々な角度から推論することができると思う。他はどのような推論が上げられるのか,気になった。ひとつの疑問を様々な角度から考えてみることは非常に面白いと思った。

A:なるほど。DNAの修復機構と絡めて考えるというアイデアは面白いですね。その場合に、どのようなことが起こるかを予想してみるのもよいかと思います。例えばオゾン層が薄くなると、可視光に対して紫外線の割合が多くなりますから、より動物の生き方が有利になる、といった考え方もできるかも知れません。


Q:本講義は主に光合成の意義に関してそのメカニズムや重要性を多様な研究結果を根拠にして論じられていましたが,特に関心を持ったのはシステムとしての地球生命を支えている光合成に使われる光エネルギーについてです。太陽光として太陽から放出された光は、地球軌道付近で約1.37 kW/m2(太陽定数)のエネルギーを持っています。この内,半分以上が地上で熱エネルギーとして変換され,植物の光合成に使われる光エネルギーは全体の約0.02%程度です。一見すると光合成は非常に少ないエネルギーで行われているように見えますが,もしこの光エネルギーが全くなかったとしたら地球上の植物は消滅し,動物が呼吸を行えなくなります。しかもこれは我々の人体への直接的な影響であって,人類が化石燃料を消費して排出している約1.6×109トンもの炭酸ガスを固定,吸収出来なくなります。これによって大気中の温室効果ガスが増大し,地球表面温度の上昇をもたらすといった二次的な影響も考えられる事から,植物の光合成が地球に与える恵みは非常に大きく,必要不可欠であると思います。同時に私達は枯渇する心配のない光(太陽光)エネルギーを人工的光合成や都市緑化などの有効な活用をこれまで以上に行うべきであり,地球から求められていると感じます。
※《参照》
・太陽地球人(http://sunbase.nict.go.jp/solar/sun-earth-human/solar_energy.html

・技術評価委員会第1回議事録(www.nedo.go.jp/iinkai/hyouka/bunkakai/13h/22/1/gijiroku.pdf

・Wikipedia<太陽光>(http://ja.wikipedia.org/wiki/太陽光線)

A:これは、文章としてはよいのですが、僕が求めるレポートとして考えた場合、自分の頭で論理的に考えた部分というのが正面に出ていない気がします。きちんと調べて、それに基づいて文章を書けることは非常に重要ですが、それに加えて自分独自の論理を展開できると完璧でしょう。