植物生理学 第11回講義

植物と水

今回は、植物と水の関わりについて、気孔の開閉の話、雨の植物に与える影響の話、そして道管の太さが植物の生育にどのような影響を与えるのかという話をしました。今回も若干研究がらみの話が多かったので、難しかったでしょうか。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業で植物の分布はエンボリズムが関係していることに驚いた。針葉樹林の導管径が細いことは冷温帯で生存する上で他にもメリットがあると思う。冷温帯の種は導管径が小さいため光合成速度が低い。すると導管径の大きい広葉樹よりも二酸化炭素の取り込みが少ないので気孔が閉じていることが多く、それが水の蒸散を防ぐことにもなり植物の温度が上昇し導管液の凍結によるエンボリズムを防ぐのに働いているのと考えられる。また、疑問に思ったのは導管径が細い常緑広葉樹があれば冷温帯でも分布するのではないかということである。冷温帯で広葉樹が分布できないのは導管径以外に理由があると思う。実は針葉樹の方が広葉樹より全体の葉の表面積が広いのではないか。また、葉を針状にすることで下部の葉に光が届くようにして、低い光合成効率を上げようとしているのではないか。私はこのことが針葉樹が冷温帯で分布する理由だと思う。

A:やはり葉面積は広葉樹の方が広いでしょう。その場合、いくら気孔を閉じたとしても、広葉樹ではある程度の蒸散があるでしょうから、「導管径が細い常緑広葉樹」というのがあると、かなり水ストレスを受けるように思います。とすると、広葉樹と針葉樹の分布の違いは、やはり導管径で説明できるのではないでしょうか。


Q:第11回目の植物生理学では、植物における気孔の役割や水と植物の関係についての話がメインだったが、特に疑問を持ったのは、表皮細胞には孔辺細胞以外には葉緑体を持っていないという点だった。トレードオフのことを考えれば、得な点と損な点が生じることになる。考えやすい得な点から挙げれば、葉緑体がもし、表皮細胞に存在していれば、光が葉の表面のみで吸収されてしまい、葉の内部の柵状組織に光が供給されず、エネルギーの伝達や生成が表皮のみで行われることになる。表皮細胞では、他にも孔辺細胞の重要な役割をもつ細胞もいるために生きていく点で必要な部分が表皮だけになるこてから、葉の厚さはだんだんと薄くなって行ってしまうと考えられる。薄くなれば、葉はいたみやすくなり、風にも対抗できなくなると考えられる。また、損な点を考えると葉緑体によってエネルギーを生み出せないことから他の細胞よりもサイズが小さかったり、たいした働きもすることができないのではないかと思う。進化の面で考えると葉緑体がないため多様な機能を獲得できずに内部を守るだけのものになったのか、逆に内部を守るために葉緑体が退化したのかについて知りたいと思った。調べたがあまりよさそうな実験方法はなかったので、4年になったら深く考えたいと思った。

A:考えるのまで4年生まで待たなくとも・・・。実際の葉では、表皮細胞を除いても、複数の細胞層があって、葉緑体を持っているわけですから、一層の細胞があれば、その下に細胞がない方がよいというわけではないことがわかります。とすると、やはり、表皮という場所の特殊性が原因であるように思います。


Q:葉がぬれると気孔が閉じるという説明を聞いて、雨にぬれるのは葉の表側で、気孔のある裏側はぬれるわけではないのに、なぜ気孔が閉じるのかという疑問を持った。その理由としては、葉の表がぬれると、何らかのシグナルが葉の表の細胞から出て、孔辺細胞へ伝えられ、気孔が閉じるということが考えられる。このことを実証するためには、シグナル分子の検索を行う必要がある。また、講義で示された実験では湿度をコントロールして、湿度の変化が実験結果に影響を及ぼさないようにしていたが、湿度が気孔の開閉に関与している可能性も考える必要があるのではないだろうか。なぜなら、湿度が増加したときに、気孔が閉じることを植物が必要とし、その手段として、葉がぬれるとシグナルが出て、気孔が閉じるという機構を得たと考えれば、湿度の変化は、気孔が閉じる理由になりうるからである。湿度の増加で気孔が閉じるとすれば、それには降雨と湿度の上昇に伴う大気中の二酸化炭素濃度の減少が関与しているのではないだろうか。降雨や湿度の増加によって、二酸化炭素濃度がどの程度減少するのかというデータは、天気の研究をしている人が持っていると思うので、そのデータと二酸化炭素濃度の変化に伴う気孔の開き方の変化のデータを比較してみれば、湿度の変化と気孔の開き方の変化との間に何らかの関係があるかどうかがわかるだろう。あとは、検索を行って見つけたシグナル分子と湿度の関係を調べれば、葉の表がぬれると、葉の裏にある気孔が閉じるメカニズムが明らかになるだろう。

A:実際の実験条件では、物理的な刺激を避けるため、雨を細かい霧状にしていますから、葉の裏も濡れます。また、気孔の分布は植物種により、全ての植物で気孔が葉の裏だけにあるわけではありません。ここで考察されていることも、可能性がないわけではありませんが、葉の濡れから気孔の開閉までの時間はかなり短いので、気孔が濡れることの直接的な影響が効いている可能性が強いのではないかと思います。


Q:今回の授業は植物が利用する水が時として、成長阻害になることが分かり興味深かったです。特に講義の後半で話されたエンボリズムと広葉樹の関係は、小学生の頃に疑問に思った広葉樹林の分布を論理的に解決できて納得できました。寒さや暑さに強い樹木を作るためには導管のサイズを考えて研究しなければいけませんね。例えば砂漠化を防ぐために植林を行うとして、日本のマツやスギなど建築に適した針葉樹植物を用いるとなれば、導管径を大きくするよう遺伝的に変異を起こしたものを利用すれば効果的に砂漠化を防げるかもしれません。(現地の人が花粉症に悩まされるかもしれませんが)とはいえ、砂漠は夜の気温が急激に低くなり、エンボリズムの発生が起こってしまったり、樹木の遺伝子変異には多くの年月がかかってしまいそうですが、世界の環境問題の解決策に植物の多大な可能性を感じた講義でした。

A:砂漠に導管径の太いものを植えても、水がなくては気孔を開くことができませから、結局、道管を通る水の量は少なくなってしまい、導管の太さのメリットを生かせない、ということはありませんか?


Q:今回興味を持ったことは、植物の濡れ阻害についてです。葉が濡れると、阻害が起きることは、納得できました。なので、水をはじけば阻害が起きにくいことも解ります。しかし、なぜ水をはじきやすい植物と、はじきにくい植物があるのでしょうか。水をはじく機構を作るコストがあるにしても、狐の嫁入りがくる可能性や、雨は降っているけど明るいときがあることを考えると、水がはじけるようにしてあったほうが、有利なのではないかと思ったのです。そこで、葉の濡れやすさと光合成についてさらに色々な植物について調べ、その植物が生育する地域の気候などと照らし合わせれば、何か関連性が見えるかもしれません。これを書いていてふと思いついたのですが、雨チャンバーで使っていた水が水道水なら、水道水に入っている成分が原因でルビスコが半減したとも考えられないでしょうか。

A:本当に実験をしようと思った場合は、できれば「何か関連性が見えるかも」だけでなくて、何か作業仮説があるとよりよい実験をデザインすることができます。まずやってみる、というのもよいのですが、その場合、どうしても無駄の多い実験になることが多いものです。なお、実験では、水道水を簡単な脱イオン装置に通してから使いましたので、加えてある塩素などは除けていると思います。


Q:雨と植物の話を聞いていて、葉の表面が水をはじくのはなぜだろうと思い調べてみました。植物は酸素を必要とします。しかし、魚のように水から空気を得ることはできません。そこで、葉の表面などから取りいれています。そのために弾くようにしていないと呼吸できません。ある植物の葉の表面には数十μmの細かい毛(じゅう毛)が、張りめぐらされており、水を押し上げる働きで空気がたまり葉面が濡れず、水自身が丸くなる表面張力とがあい絡まって水や汚れをはじき飛ばすようになっています。また高い撥水性を示す植物は油脂など疎水性の被膜を有するほか,微細な突起や毛などで覆われているという特徴をほぼ共通して持っています。つまり撥水性を高める構造の条件は,微小な凹凸による表面積増加率が大きいこと、空気をトラップする空隙の面積割合が大きいことのようです。

A:その通りですね。せっかく調べたのですから、そこから何か講義のなようと結びつけて自分なりの議論ができるとレポートとしてはすばらしいものになります。


Q:今回の講義を聞いて導管径の大きさによる有利、不利に興味が引かれた。ある点で有利な特徴が、ある点では不利な特徴となっている。前回の講義の変異株も野生株と比べ有利な特徴とそれに伴う不利な特徴を持っていた。以上のことは植物だが動物でもマラリアに強いが運搬能力が弱い鎌状赤血球というものがある。生物の特徴、機能は何かを犠牲にして何かに強くなっているように思える。環境に適応するということは別の環境に合わなくなるということであり、有利なだけの特徴、機能というものは存在しないのではないだろうか。生物とはそのような特徴、機能のバランスの上に成り立っており、そのバランスを調節することによって環境に適応しているものと思われる。そして、そのバランスが環境に合わなくなった生物は消えていくのだろう。

A:一種類の植物でバランスを調節する、というよりは、実際は、様々な環境の有利不利をそれぞれのやり方により利用して、複数の生物が地球上に反映していることになります。つまり、トレードオフこそが生命の多様性の原因ということになります。


Q:気孔の開閉の仕組みについて考察する。植物の水分が十分にあるときは、どの細胞も豊富に水分を持つことができる。それは孔辺細胞も同様である。水分を豊富にもった孔辺細胞はふくらみ、膨圧によって気孔が開く。逆に水分が少ないときはどの細胞も水分が足りず、縮む。孔辺細胞も同様に水分を失い、膨圧が低下して気孔が閉じる。しかし、それだけの仕組みで気孔の開閉が可能ならば、表皮細胞と同じで葉緑体がなくてもよいはずである。つまり、葉緑体も気孔の開閉に大きく関わっていると推察される。デンプンを作り出すことで浸透圧をつくり、膨圧を生じさせている可能性もあるが、それだと強光によって温度が上昇した際に気孔を閉じる仕組みを説明できないため、他の仕組みで利用されていると考えられる。逆に、表皮細胞に葉緑体がないことに意味があることも考えられる。一部のシダ植物や水生植物は表皮細胞にも葉緑体を持っているものもいるらしい。これらは水の豊富なところに生息する植物なので、表皮細胞が葉緑体を持っていないのは、水を貯蔵するために働いているのではないだろうか。葉緑体がなければ光合成によって水が消費されることもなく、細胞内で貯蔵できる。葉緑体を持つ他の細胞と比べて表皮細胞に水分が多ければ、貯蔵している可能性も考えられる。

A:着想は非常によいと思います。おそらく、表皮細胞の一番の役割は、植物が水を失わないようにすることでしょう。とすると、「一部のシダ植物や水生植物は表皮細胞にも葉緑体を持っている」ということの原因も、別の解釈が考えられませんか?


Q:今回の講義で、表皮には葉緑体は無いが例外的に孔辺細胞にはあるということについて興味を持った。このことについて私は、表皮一面に葉緑体があるよりもむしろ表皮では光合成をおこなわず、表皮を光が通過するようにしたほうが、植物にとってよりよい光合成の方法ではないかと考えた。その理由として、第4回の講義にあった表面積が大きくなると光は散乱されるということを用いた葉の構造があるからだ。この構造では光は表皮を通過し、葉の内部で反射をし、光合成の効率をあげることができた。つまり表皮で光合成を行う以上の効率のよさが、葉の内部で反射するこの構造にはあるのではないかということだ。さらに孔辺細胞にだけは葉緑体がある点だが、その理由として気孔の開閉のためのエネルギーの供給源と考えられる、という講義中にあげられた説に同感である。植物における気孔の役割は大きく、そのエネルギーを孔辺細胞の葉緑体の光合成によってまかなっていると考えるのが自然である。

A:柵状組織の場合は、一部の光を葉緑体で吸収しながら光を葉の中に誘導したので、光吸収の効率を上げることが出来たわけですが、葉緑体を持たない表皮細胞の場合は、葉の中に光を誘導するといってもそれだけでは得にならない気がしますが・・・。


Q:今回の講義を通して、私が考えたことは、気孔の役割についての内容で、蒸散は葉の温度の上昇を防ぐ働きがあるが一概にはそうとは言い切れず、植物は温度より水を失うことを選ぶ、とありましたが、これは孔辺細胞による気孔の開閉のメカニズムと関係があるのではないかということです。私は、今まで気孔はそういった働きをしているとは思わなかったのですが、講義で改めて、気孔は孔辺細胞に水が入って膨潤することで開口し、水が抜け収縮すると閉鎖するということを学んだとき、植物は温度より水を失うことを選ぶというより温度上昇を防ぎたくて気孔を開けたくても、孔辺細胞の水を失い始めることで気孔を開くことができないために、結果的に温度が上がってでも水を失わない方を選んだように見えているのではないかと考えました。

A:この考え方を発展させると、特別な気孔の開閉調節は必要ない、ということになりませんかね。水不足になれば、自然と細胞内の水が減って気孔が閉じ、根から水が供給されると、自然と気孔が開くことになりますから。ただ、実際は、水ストレスの場合も、ジベレリンなどによる気孔の開閉が行なわれているわけですから、細胞から水が失われて気孔が開いていられなくなる、という状況は植物にとって好ましくないのではないでしょうか。