植物生理学 第10回講義

光合成の環境応答

第10回は、光合成生物の光環境応答について、主にシアノバクテリアを材料とした研究を題材に紹介しました。第8回の続いて、今回も実際の研究例を題材に取ったので、やや難しかったかも知れません。今回の講義に寄せられた意見の中からいくつかを選び、必要に応じてそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の講義では環境応答について学んだが、変異株の方が光合成速度が高い場合もあるということに驚いた。また、変異株は光阻害に強いが連続強光で生育阻害受ける。つまり光合成速度が速いだけで生存には有利ではないというのがわかった。しかし、野生株よりも光阻害に強いなど変異株のほうがいいところもある。野生株にも変異株にもそれぞれに合った環境があるということが分かった。でも、野生株がここまで生存してきたのはやはり環境にあわせて進化してきたのだろうなと思う。人間も植物のように環境に合わせて進化してきたからここまで文明の発達などができたんだろうなと思う。もし、環境にあわすことができなければ人間もここまで進化できなかったのだろうなと思う。

A:人間の場合は、自分で環境を変えることができた、という点が他の生物とは異なります。棍棒を持つようになったら、腕を棍棒のように進化させる必要はなくなりますよね。そのような視点からの考察もあると良かったですね。


Q:今回の講義は変異株と野生株についてでしたが、私が一番興味を持ったのは先生が最後に言った言葉です。『十数年前に比べて、イネなどの農作物の収穫量が増えたのは光合成の量を増やすような変異ではなく、農業環境に適するような変異を生み出したからである』のような言葉でした。私は食用植物について興味があったので、この言葉はかなり衝撃的でした。例えばイネの『高さ』に注目すると本来野生環境では、雑草などの他の植物に生存競争で勝つために、なるべく日光に当たろうと背が高くなり、バランスを保つため籾の量を抑えています。しかし、農業環境では雑草を除いているので、生存競争する相手がいないので無理やり高さを上げる必要はなく、低重心で多くの籾をつけてもバランスを保てるようになるとのことでした。なるほど、つまり本来野生環境での生存競争に使うエネルギーをなるべく種子(果実)を増やす方にベクトルを持っていくことが食用植物の重要研究であるように思えました。さて、私も考えてみたのですが、野生環境から少しずつ変異してきたイネも、過去に天敵(例えばコオロギ)に対応するため自己で防御反応をしている場合、それらの遺伝子をノックアウトしたりすると無駄な発現が抑制されて、より種子の発現に力を入れようとする・・・なんてことはないですかね?植物の研究は研究しやすい(倫理的な問題とかコストとか)けど分からないことがたくさんあって面白そうですね。

A:おそらく、野菜のアクなどは食害を避けるための一種の防御反応かも知れません。しかし、人間が栽培する時には、害虫を防除してやって、その代わりアクもなくして食べやすい野菜にしているわけです。おそらく、いろいろな例を考えることができると思います。


Q:なぜ、植物はステート遷移で2つの光化学系へのエネルギー分配を行うのだろうか。どちらかの系が励起されているとき、その系を最大限に動かしてエネルギーを吸収したほうが、エネルギーを2つの系に分配するよりも、光合成産物を効率よく多量に得るということだけを考えれば、適切なエネルギー吸収の方法なのではないだろうか。しかし、実際の光合成システムは、あえてエネルギー分配を行うシステムになっている。このようなシステムを植物がとる理由として、一方の系だけが励起され続けて、その系だけが消耗していくということを防ぎたいということがあるのではないかと考えた。光合成のシステムは光化学系1と光化学系2の共役反応で成り立っているため、どちらかの系が消耗して、その機能に異常が生じるような事態は致命的である。この致命的なシステムエラーを防ぐために、光合成産物の生成量を多少減らしてでも、エネルギーを2つの系に分配し、1つの系にかかる負担を抑えることが可能なシステムを構築したのだろう。

A:光合成では、2つの光化学系を独立に使って光合成産物を使っているのではないのです。下のレポートを読んでもらうと良いかと思います。


Q:今回の講義では、弱光下でもステート遷移が起こっている点がよくわからなかったので、自分なりに考察する。強光下では、光阻害を防ぐため、psaK2などの分子によってステート遷移がなされるが、弱光下でもステート遷移を行うのは何故だろうか。弱光をアンテナでPSIIに集めて励起させても、PSIで光を集めて励起できなければ、反応は速度の遅いPSIに律速されてしまう。だからPSIIとPSIに同じぐらいのエネルギーが与えられるよう、エネルギーを振り分けていると考えられる。しかし、それならば最初からPSIIとPSIに同じアンテナを用いれば、お互いに同じくらいのエネルギーを得ることができ、バランスがとれるはずである。この理由は、PSIIとPSIのチラコイド膜での配置に関係あるのではないだろうか。PSIIはチラコイド膜とチラコイド膜が重なる部分に存在する。重なった部分に存在するのは光を得るのには不利であるため、それを補うのにアンテナを用いていると推察される。

A:確かに同じアンテナを用いれば、アンバランスはそもそも生じないはずですね。面白い着眼点です。ただ、説明不足だったのですが、実は、チラコイド膜の重なり(スタック)があるのは高等植物で、シアノバクテリアではこれが見られません。それでもステート遷移はするので、難しいところですね。何か別の理由があるとは思うのですが、ぱっとは思いつきません。


Q:今回の講義で野生株が変異株よりも環境応答に強いということについて興味を持った。私たちの身近なもので考えてみると「野菜」がある。元は野生株であったものを多くの時間と労力をかけて品種改良をした結果のものを食べている。つまり今私たちが食べている野菜は変異株であるわけだが、それは人間の必要なエネルギーや栄養の面からみてどうなのか、と考えた。野生株で育った植物は環境応答にも強いので毒となる物質が植物内に入ったときに、植物の表面に形となって出なくとも中に入ったら排除する能力があるだろう。一方で、変異株は人間の手の中で育っているのでいまだ未知の物質が入った場合、その物質を排除する能力がなく植物内に蓄積してしまう可能性もある。そうかんがえると変異株は危険な因子が多くあるので、それを食べる人間体内には良くないといえるのではないだろうかと考えた。

A:上の方の回答で、野菜のアクについて触れましたが、動物にとって毒になる物質を貯めることは、むしろ立派な環境適応かも知れません。ワラビのアクなどはかなり強い発癌性を持っていることが知られています。


Q:今回の講義の内容は難しく、しっかりと理解できなかったように思う。今回の講義で、野生株と変異株についての話があった。PmgA変異株は光阻害に強いが、連続強光で生育阻害を受ける。PmgA変異株の生育阻害はDCMUにより光合成活性を抑制すると解消する。DCMUはプラスキノンの代わりに光化学系IIに結合することにより光合成の電子伝達反応を阻害する。DCMUは光合成を直接阻害する除草剤である。身の回りに生えている野生の草が、野菜の成長に影響を及ぼすことがある。これを防ぐため、除草剤をまいて、草の光合成を阻害して草を枯らす。もし野生の草が変異を起こして、PmgAのようにDCMUが有利な方向に働くようになったら、野菜の収穫に大きな影響を与えると思う。野生の草も、除草剤に抵抗するために変異することは今まで可能だったと思う。それなのに除草剤が現在も効いているのは、除草剤が改良されているか、草が変異しなくても子孫を残していける理由があったからだと思われる。植物はたくさんの種子を飛ばすことができる。変異して自身の能力を上げなくても、たくさんの種子があれば厳しい環境に生き残れる可能性は高くなる。だから、草は目に見えるほどの変異を起こしていないのだと思う。

A:今回のような講義は、実際に実験をしたことがないと難しいかも知れませんね。除草剤の改良などは確かに行われていますし、同じ種類の除草剤をずっと使い続けずに、種類を変えて使うといった配慮をしている場合もあるようです。最近などに比べれば変異の速度はもちろん遅いですが、それでも、耐性植物などは出てくる可能性があります。


Q:今回の講義を聞いて、ステート遷移について興味をもちました。強光培養条件では、psaK2が発現し複合体に組み込まれ、アンテナから系1へのエネルギー伝達が起こる。また、弱光培養条件ではpsaK2とは別の経路でステート遷移が起こり、rpaCは弱光条件でのみ発現し働いているといわれている。私は、psaK1は弱光培養条件でのみステート遷移が起こり、psaK2は強光培養条件でのみステート遷移が起こると思っていました。しかしじっくりプリントを眺めてみると、psaK1は強光、弱光培養条件で共に働いているのではないかと思いました。そして、弱光培養条件ではpsaK1の量が少ないから、これを補うためにrpaCが発現すると思いました。

A:プリントを見ると、強光培養したpsaK2欠損株では、ステート遷移が起こっていないことがわかると思います。とすると、強光培養条件ではpsaK1の出番はあまりないように思いますが・・・。