植物生理学 第9回講義
ゲノムワイドな遺伝子機能の解析
第九回は、光合成のクロロフィル蛍光をいわば道具として使うことにより、ゲノムワイドに遺伝子機能の解明を行なおう、という研究プロジェクトについて解説しました。
Q:今回の講義で興味を持ったものは、他の講義では教科書の中での存在であったDNAマイクロアレイ法やトランスポゾン、蛍光を使った実験の観点から学んだことでした。教科書中では現実味がなかったのですがとても身近に感じました。勿論実験を行う上で原理となるものも重要となるとは思っいましたが、実験結果から「なんだこれは…」「これは気になる変異だなぁ」といったような観察する力と考察する力が一番重要なんではないかと思った。今回の講義中はシアノバクテリアにもさまざまあり各々のゲノム配列があることも驚いた。トランスポゾンを用いて変異株を作り、1つずつ近傍の配列を調べ何が欠損し、それによる変異株のどこが破壊されているか調べる。このような結果から現在シアノバクテリアの機能も大体わかっているとのことなので、ヒトゲノムが決定した現在、何とか応用して人にHIVや癌などに対し耐性な遺伝子の変異を加えれるのではないかと考えた。でも実際シアノバクテリアに比べ規模が大きすぎることを考えると不可能なのかとも思いました。今後自分が実験をしていく中で簡単に全ゲノム配列が手に入るようになるとすると身近なことからコツコツと実験を行い、人のためになるようなすばらしい結果を残していきたいと思いました。
A:実験手法というのは、その方法だけを学んでも今ひとつぴんと来ませんが、実際に実験から何かを結論する、という経験をすると、非常によく理解できるようになります。百聞は一見にしかず、ですね。
Q:今回の講義で取り扱った内容は、現在ほかの授業でも盛んに取り上げられている内容で自分にとってとてもタイムリーでした。現在ありとあらゆる生物種のゲノム配列の解析が行われていて、インターネットで気軽にデータベースにアクセスして簡単にその配列を知ることができるというのはすごい世の中だなと思います。講義の後半で出てきた蛍光挙動を用いたものをはじめ、これから先より優れた解析法が確立されたり、配列を読み終えた生物種が増えてくることで今までわからなかったことがわかるようになるのではないかと思うと自分自身非常にワクワク感を覚えました。そんな中自分が最近特に気になっているのが少し講義の内容とはそれるかもしれませんが、ヒトのゲノムが読み終えた中で今までがらくたとされていた部分に重要な機能が隠されているということです。このようなニュースを聞くと自分も将来何か新しい遺伝子機能を発見をしてやりたいという気になりました。
A:昔は科学の最新成果というのは、一部の科学者にしか手に入りませんでしたが、現在は、インターネット上から、高校生でも特定の生物の最新ゲノム配列などを手に入れることができます。これからは、そのような情報を得るための検索技術も重要になってくるでしょうね。
Q:今回の講義で興味を持った点は、蛍光挙動の変化を測定することによって、遺伝子の機能をある程度解析することができるということである。これまで、蛍光物質はタンパク質の分布などを調べるときに使うものであり、遺伝子の解析は変異体の表現型の解などによって行うものだと思っていたので、蛍光物質を使って遺伝子機能の解析ができるということは意外だった。この方法では、変異株において蛍光の挙動がどのように変化するのかを調べることによって、その遺伝子がどのような機能を持っているのかを調べている。しかしこの方法は、より複雑な系を持つ高等生物の細胞を解析することができないため、実際には遺伝子機能の解析に利用されていないという。もし蛍光挙動を十分に説明することができれば、蛍光分子で目的のタンパク質が標識されるように遺伝子を組み替えた個体において蛍光挙動を調べる事によって、動物細胞や高等植物細胞でもこの方法で遺伝子解析を行えるようになるのではないだろうか。
A:動物細胞や高等植物細胞への応用は夢なのですが、とりあえずは、シアノバクテリアで説得力のある結果を出すのが先だと思っております。
Q:今回の講義は、光合成という点から、遺伝子の機能解析をゲノムワイドに行うということで、実際の実験の流れを見ましたが、今回の実験では、蛍光におけるエネルギー保存則から、蛍光を光合成系の動向を示す内部指標として利用しました。ここでのエネルギー保存則として、蛍光のみでなく、熱に関しても利用できるのでは?と思いました。蛍光挙動と合わせて、熱による変化も調べることで、さらに細かいデータが得られ、さまざまなことが分かりそうに感じました。また、強光と弱光での表現型を見ていますが、光において、赤色光や緑色光などのように、光合成色素の吸収スペクトルも考慮すると、それに関する遺伝子の機能解析ができるのでは、と感じました。しかし、今回の方法では、動物、また、高等植物に適用できない点で、どうするべきか悩みました。やはり、タンパクの一次構造、さらに二次、三次、四次構造に注目したり、cDNA等を利用した実験を行う必要があるのかな、と思いました。
A:問題点を把握して、それに対する答えを考えていて、短いながらきちんとしたレポートになっています。最後がちょっと抽象的なのが残念です。
Q:今回おもしろいと思った部分は蛍光による遺伝子の機能推定と、遺伝子破壊によって光合成に関与しないハタラキを持つ遺伝子なのに実は光合成に影響を与えているものがあるということだ。ある意味、このやり方は原始的な生物だからこそなしえた方法ではなかったのかと思う。各遺伝子の機能が未完成で数も少ないため、その生物にとって重要な活動をするには互いの協力が必要だと考えたからだ。だから直接の関与が見られないのに蛍光に差がでたのだと思った。
また原始的なほど行う活動も基本的・根幹的なものであるだろう。とすればその活動に注目し、これをメインに行っているような単純な生物をターゲットにして、得られる効果(形態変化、主要産物、副産物でも)をなんとかプローブに利用し、あとは同様に色々遺伝子を壊してみる。もしかしたら今回講義で習ったような蛍光の差みたいなものが違う形ででるかもしれない。(プローブがちがうから。検出の仕方も考えなくてはいけないが。)蛍光による遺伝子の機能推定で得られる情報はまだまだ少ない。それならば、あえて単純な生物を扱い、光合成とは違うが生命維持に深く影響しているだろう活動から遺伝子のふりわけをしてみてはどうか…ということだ。大きな池のなかに見たこともない魚がいっぱいいるのは知っているが、釣るためのエサが思いつかないという状態にあるなら、地道に色々入れてみるのが今のところは得策なのではないだろうか。
A:なかなかいいですねえ。こうやっていろいろ考えてみることが研究者としての第一歩です。
Q:今回の講義では、ゲノムワイドな遺伝子機能の解析がテーマだった。内容は、定量的な研究結果に基づいた考察が多く、今の私の知識では全てを理解するのは苦しいなというのが正直な感想だった。
そんな中でも一つ疑問に感じたことは、「クロロフィルの蛍光の大きさは光合成速度によって変化する」というコマで、色素が吸収した光のエネルギーは、励起色素が発する蛍光と熱エネルギー、光合成の3つの和に等しく、傾向を光合成の動向を示す内部指標として使うことができるはず、ということについてである。エネルギーが外部に逃げてしまわないような条件でやればこの等式が成り立つことは私にも想像できるが、この関係を実際に研究で利用するためにはどのような実験系で行われるのだろうと思った。定常状態の色素が吸収した光エネルギー量も与える光エネルギーを設定すればいいのかもしれないが、それでは実際に色素が吸収したエネルギーとの誤差を無視しかねない。励起色素から出る熱エネルギーについても、熱の定量化をどうするのかということが自分には思いつけない。熱の定量化といえば熱力学の第一法則が連想されるが、私には今の問題に帰着させる方法がまったくわからない。まだまだ自分には知識が足りないなと思った。
A:このように、きちんと量的関係を考えるのは、これからの生物学にとって非常に重要だと思います。与える光と吸収する光の関係でいうと、色素の光吸収は、いわば物理的な過程で、化学反応のように温度などの環境にあまり依存しません。ですから、たとえ「実際に色素が吸収したエネルギーとの誤差」があっても、かなり一定なので、計算上は無視することができるのです。熱については、確かに難しいのですが、方法としては、光音響法という測定技術があります。これは、光と音を使って熱を調べるという面白い手法です。
Q:遺伝子の解析の仕方で、蛍光挙動を使って実験するというのにはこんな方法もあるのかと驚きました。実験の方法をうまく思いついたり考え出したりするのは大事なことなのだな、と改めて思いました。講義では、シアノバクテリアという一種類の生物中の遺伝子の機能ネットワークを蛍光挙動の実験結果から推測していましたが、講義の最初の辺りで「進化の過程を知りたいから解析を行う」というのを聞き、私は以前から進化に興味があったので、一個体中の「蛍光挙動が似ている、似ていない」によるネットワーク推測ではなく、進化上の縦の繋がりを「蛍光挙動が似ている、似ていない」によって解析できないのかな…と思いました。色々な種の間で調べて、似ている順に種を分類していったりして、多くの種と被った蛍光挙動パターンを持ったものが祖先と考えたりできないだろうか、と思いました。
A:確かに、蛍光挙動の違いを使って系統樹が書けたら面白いでしょうね。遺伝子の機能による系統樹という、今までにはない概念によるものができるかも知れません。
Q:今回の授業で遺伝子機能解析の仕方がシアノバクテリアクロロフィルの蛍光を例にとって出ており、大変参考になった。ただ、高等植物や動物に応用するには遺伝子の発現が蛋白質によって制御されているという問題もあって難しいということでどうやったら解決できるかを考えた。思いついたのはDNAを制限酵素で切り、ベクターに連結して大腸菌などの原核生物に導入することだが、それではシアノバクテリアを用いるよりも二度手間以上になってしまうだろうし、はたして目的遺伝子を導入できても、もとの細胞でその遺伝子が関わっていた系が原核生物で表せるだろうか、などが疑問となった。
A:「遺伝子の発現が蛋白質によって制御されているという問題もあって」とは言わなかったように思いますが。高等植物や動物に応用できない理由としては、真核生物はオルガネラがあって代謝間相互作用が弱いこと、遺伝子の機能に冗長性があること、の2点を上げることが出来ます。
遺伝子の機能の解明に経てろな系を用いることの問題点は、まさにその通りだと思います。
Q:今回の講義では、あらゆる生物のゲノム全配列の決定について扱っていたので、これに関して少し考えてみたいと思います。現在ではすでに、ヒトゲノムの全塩基配列の決定がなされています。このゲノムには様々な遺伝子機能が存在するわけで、塩基配列は生物というものを構成しその生物が生命活動を行うことができるようにきちんと決められた配列を保つわけです。しかし今まで自分が疑問に思っていたことは、ヒトを例にした場合、ゲノムは突然変異を起こしたり、配偶子形成時には染色体の組換えなんてものまで起こるのに、なぜヒトという生命体を維持できるのだろうか?ということです。ヒトの染色体は46本であり、この数は生物種により決まっているので、染色体の数が46本だと゛ヒト"というものができあがるのでしょうか。それでも、ある蛋白を作る塩基配列は異生物間においても同じであったりする(しますか?)ということは、やはり染色体数がその生物種を構成する条件であるのか?しかし、この地球上にどれだけの生物種がいることか。生物種の数だけ染色体数の違いがあるのだろうか…?と、やはりヒトは何をもってしてヒトとなるのか。自分の仮説としては、染色体の数に加えて、ゲノムのどこかにヒト決定遺伝子なるものがあるのではないかと思いました。それは何番目の染色体のどこ、と決められているのかもしれないし、ゲノムのどこかに存在さえしていればいいのか、はたまたある決められたいくつかの塩基配列がどこかの染色体のどこかにそれぞれ存在して、それら複数の遺伝情報が存在することによりヒトとなるのか、どうであるにせよ、ある遺伝情報によってヒトというものが決定されているのかもしれない、という推測です。
かなり長くなってしまって、途中で自分でもわけがわからなくなってしまった部分もあるんですが、せっかくの機会だったので今までの自分の疑問を書いてみました。
A:別に染色体の数は関係ないでしょう。また、キリスト教的な世界観では「種」の間、特に人間と動物の間には超えがたい溝がありますが、現代の生物学では、そのような考え方はしないように思います。ヒト決定遺伝子が必要なら、黄色人種決定遺伝子、日本人決定遺伝子、江戸っ子決定遺伝子なども必要になってきませんかね?