植物生理学 第8回講義

植物と水

第八回は、植物と水をテーマに、気孔の開閉や蒸散、道管の仕組みなどについて説明し、ちょっと変わったところで植物の雨に対する応答と、道管の径と植生の関係に関する研究を紹介しました。


Q:今回の講義で興味を持ったことは、雨が降ると植物はどうなるのかと言う漠然としたものから葉の濡れについて考えた実験でした。晴れチャンバーと雨チャンバーといわれる機械を使い、濡れに対する以外のもの(例えば物理的ショック等を解決するためには霧吹きで雨を再現)は同じ環境下においた。葉の濡れにより気孔がふさがりCO2の放出阻害になる雨チャンバーでは光合成活性が低下してしまった。(この実験では顕微鏡写真の画像に気孔の状態を見るためにシリコンを使っていることに驚いた。)これだけでなく炭酸固定系(4分の1を占めるルビスコ)や電子伝達系においても低下していることがわかった。タンパク量(ルビスコ)が減るということから考えても光合成活性が低下することはわかる。梅雨のときはどうなんだ?と講義で話をしていたがこれも興味深い。では、濡れにより二酸化炭素が吸収されないこの状況から、光合成活性が低下するということを考えたとすると、ある一定の環境において二酸化炭素が全くなく常に晴れた日のような環境中と全く同じ状況で実験したとする。やはりこの実験をするとどんどん気孔から蒸散がおこりルビスコの減少がおこると同時に光合成活性がなくなり植物は枯れてしまうのではないかと考えた。
 質問なのですが…。沖縄に修学旅行で行ったときにマングローブ林と言うものを見たのですが、豪雨などで海や川の水位が上昇したとしたらマングローブ林は塩水に長時間さらされることになります。どうなるんでしょうか??僕的には雨が多い地方でそういったことはよくありそうなこともあるので腐ってしまったり、枯れたりしないとは思うのですが。

A:植物体が短時間水没することはありますし、マングローブのように根の周りが常に水没しているような植物もあります。そのような場合、一番問題となるのは、ラクウショウのところで説明したように酸素不足の問題で、例えば、ラクウショウの場合は気根によってその問題を解決しているわけです。


Q:自分が子供の頃の夏、日中暑いので庭に水撒きをしていたら、親に注意されたことがある。水は朝夕にあげるべきで、日中にあげてはいけない、と。当時からそれがなぜなのか疑問に思っていたが、親は理由など知らず、経験的に知っているというだけだった。それが今回の講義で答え(かもしれない)ことを知ることができ、大変興味深かった。つまり、直射日光の下での濡れ葉処理がルビスコの数と活性を減少させるというものである。確かに、いわゆるお天気雨というような減少はそう頻繁に起こるものではない。しかし水をあげるにしても一瞬のことであるから、一瞬光合成が阻害されたところで問題はないように思える。他に考えられる問題点は、たとえば水が球になりレンズの働きをしてしまい、葉の一部がやけどのようになってしまうとか、葉に水が付いた状態では蒸散がうまくできず、真夏の場合そのせいで温度が上がりすぎてしまう、などということはないだろうか。レンズについて検証するには、ハスのように平らで水を良くはじき球になりやすい葉に水滴をたらしておき、強い光をあてその部分の変化を調べる。温度の影響について調べる場合は逆に水をはじきにくい葉を用意し、それを濡らした上で気温と湿度を上げ、日本の夏を再現したような環境におけば良いのではないだろうか。

A:この他に、土の中の水の問題があるようです。水は土壌に吸着した状態では悪さをしないのですが、水をやった直後は土壌の粒の間にも水が存在し、そのような形の水が日中の日差しで暖められると根に悪影響があるようです。逆にそのような形の水は凍りやすいので、冬場は夕方ではなく朝に水をやった方がよいようです。


Q:今回の講義では、植物に対する水の影響を学んだ。興味深く感じた一つ目のことは、雨が降って植物の光合成速度が低下する時のRubisco量の低下の様子である。Rubisco量の低下は、単に雨が降っていると起こるのではなく、光が当たっていているという二つ目の条件が必要だった。先生の指摘のとおり、雨が降るたびにRubiscoを失ってしまっていたら、植物の生命活動はままならない。植物は、雨という自然現象が、空が雲で覆われ、光量が落ちているときに起こるということを把握し、雨と光という二つのスイッチで光合成の活性機能を守っていた。私は、講義でこのことを知ったとき、とても感心してしまった。
 二つ目は、植物の導管の太さが地域によって異なるということである。植物は、幹の単位面積当たりの通導性とエンボリズムの間で両方の均衡が保てる導管径を見出していた。すると、植物に導管がたどり着くべき最高の導管の形態は、細い導管を束ねるかのようにたくさん持つことなのではないかと思った。言葉で言ってしまえば簡単だが、実際にやるのは難しいことなのだろうと思う。導管や師管の太さをうまく調節するような研究をし、寒冷な地域に常緑広葉樹を繁茂させることができたらすごいことだと思った。

A:「細い導管を束ねる」というのは実際にやっているのです。ところが、道管の合計面積が同じ場合に、導管径が細いと(この場合本数は多くなります)、通導抵抗は大きくなってしまいます。これは、物理の法則からくる制約なので、植物の形をいくら変えてもダメでしょうね。


Q:今回の講義の内容の中で自分なりに考えたことは、気孔の役割のところで「蒸散は葉の温度の上昇を防ぐ働きがあるが一概にはそうと言い切れない」という内容を先生がおっしゃっていて、植物は温度より水を失うことを選ぶとありましたがこれは孔辺細胞による気孔の開閉のメカニズムと関係があるのではないかと考えました。自分も今まで気孔はそういった働きをしていると疑いもしなっかたのですが、授業であらためて気孔は孔辺細胞に水が入って膨潤することで開口し、水が抜け収縮すると閉鎖するということをやったとき、植物は温度より水を失うことを選ぶというより温度上昇を防ぎたくて気孔を開けたくても、孔辺細胞の水を失い始めることで気孔を開くことができないために、結果的に温度が上がってでも水を失わない方を選んだように見えているのではないかと考えました。

A:なるほど、孔辺細胞が水を失ったら、気孔を開けませんからね。その意味で、孔辺細胞が膨潤する時(つまり少なくとも植物がしおれていない時)に気孔が開くように出来ているというメカニズム自体、よくできていると言えるかも知れません。


Q:今回の講義で興味を持ったのは、導管径が冷温帯の種と暖温帯の種で違いがあるということだ。冷温帯の種はエンボリズム防止のために導管を細くする。暖温帯の種は径を大きくして夏期の生産性を上げている。私はこのことを知って農業に利用できないかと考えた。
 暖温帯の種に限るが、遺伝子を操作して径を大きくし生産性を上げれば生育が速まり、その分収穫も速く出来るのではないか?また、植物の高さも低くし、水を上に吸い上げる手間を省きその分、生産性を向上させられるのではないか?低くなると光の獲得の競争には不利であるが、その点は人為的に植物同士の間隔を広げてやれば問題はない。
 冷温帯の種に関しても径が小さく生産性が低いのであれば導管の数を増やしてやればそれをカバーできるのではないだろうか?径が小さいままであればエンボリズムも防止出来そうである。

A:「道管の径を増やす」という解答は、通導抵抗を下げるためには常に有効なのですが、一方で、それなりの「コスト」がかかります。葉はつけると光合成の稼ぎが増えますが、幹は太くしても稼ぎが増えません。つまり、植物として、出来るなら幹はあまり太くしたくないのです。そのあたりとバランスをとった結果が、現実の植物といえるでしょう。


Q:今回の講義は水が植物に与える影響についてでした。また、今回の講義 も実験の内容が興味深くて、葉の濡れやすさの測定をする際、葉と水滴の角度で定量的に実験をすると聞いて、なるほどと思いました。私は水滴の高さを測ってもいいのではないかと考えましたが、それではどうでしょうか。また、角度をどのように測定したのかも知りたいです。葉の濡れによるストレスは植物の生育に大変な影響を与えていると感じました。水と光との関係で、先生が天気雨なら光合成は阻害されるだろうとおっしゃられました。私は雪国の出身で、春になると、晴れていても、雪どけ水が葉っぱについていることがあって、これは天気雨の状態と同じではないかと思いました。それで、構造的に葉に水滴がすぐに落ちるように、寒い地方に針葉樹が多いのではないかと考えました。また、針葉樹はクチクラ層が発達しているのも水滴を落としやすくするためなのではないかと考えました。

A:水滴の高さについてですが、同じ体積の水が、だんだん丸くなっていくところを想像してください。最初のうちはだんだん高さが高くなっていきますが、球に近づく最後の方には、葉との接触の様子は少し変わっても高さはあまり変わらなくなります。それに対して、接触角は、最後まで変化し続けます。つまり、葉の高さを測定してしまうと、非常に葉が濡れにくい植物の間ではその差を細かく観察することが出来ないので、接触角を測定するのです。


Q:今回の授業は葉の濡れによるストレスの影響の研究についてでしたが、研究は難しいんだなと強く感じました。これから難しく思ったことをあげていきます。
 一つ目に研究にはアイデアが重要なのだと改めて実感しました。今回の授業での二つのチャンバーの創作やシリコンゴムで気孔の型を取ることはこの研究にはなくてはならない技術だと思いましたが、それは学ぶものではなく必要から生まれるアイデアだと思います。アイデアなしでは研究できないのだと知って研究のほんとの難しさがわかった気がしました。
 二つ目に今回の授業ではルビスコが半減していたことから何を考えるかが重要だったように、実験結果から次の実験へと進むことは難しいと感じました。それはアイデアと知識、十分な考察がなければ進めないもので、結果をどう活かして次の実験へ進むかが研究全体を見た重要な一点なのだと思いました。
 三つ目にテーマをどうするかも重要なのだと思いました。テーマは、未知の結果を求めるものであると同時に曖昧ではいけない、の条件を満たす必要があるためテーマと研究計画は簡単に決められるものではないのだと知りました。

A:三つ目に関して一つだけ。論文を書く時、結果を書いて、ディスカッションを書いて、最後にイントロダクションを書くことが多いものです。つまり、逆説的ですが、なぜ実験をしたかは、実験をしたあとに決まるのです。あるテーマに沿って実験をしても、得られた結果から何が言えるかを考えて、もう一度白紙から、「この実験のテーマは何か」を考えることが重要なのです。


Q:今回の講義では、道管径を広葉樹は大きくして通導性を上げることにより生産性を上げ、針葉樹は小さくしてエンポリオズムを回避していることを学んだ。グラフでも寒い地方ほど針葉樹が多く、環境に適した進化であることが分かる。しかし、グラフをよく見ると、熱帯や亜熱帯では針葉樹は全く生息していないが、逆に寒温帯方では、広葉樹にとってメリットが無いにも関わらずわずかであるが生息しているのである。寒いところで広葉樹が生息する条件として日照時間が長く、寒い時期が短いことを考えたが、短くても凍ってしまえばエンポリオリズムによって植物は枯れてしまうだろう。寒いところでも生息できる別のシステムでもあるのだろうか。広葉樹でも葉が比較的小さく道管が狭いなどのような、針葉樹の特徴を持つ広葉樹があれば、考えられなくもないと思う。自分はこのグラフを見てあくまでも直感的に広葉樹が進化して針葉樹となり、生息地を北に広げたのではないかと思ったが、これも寒冷地に広葉樹が生息している理由と関係があるのだろうか。

A:確かに、植物によっては広葉樹と針葉樹の中間のような植物もありますね。神社のご神木になっている「ナギ」などは、ぱっと見には、どちらかわかりませんよね。


Q:今回、エンボリズム回避のために寒冷地では細い道管系を持っているという話で仮道管をもつ植物のことを考えました。仮道管はシダ植物や裸子植物が持つ構造で、普通の道管と違って道管内での細胞同士の境目がまだ残っているという構造です。シダ植物や裸子植物が持っているということで普通の被子植物が持つ道管より劣っていると考えがちですが、寒冷地帯においては仮道管は植物体が凍らないために役立っているのではと考えました。なぜなら仮道管は講義で言っていた小さい道管系というのに合致すると考えるからです。よってシダ植物や裸子植物は道通径において被子植物におとりますが、そのぶん寒さに強いのではないかと考えました。

A:仮道管の方がエンボリズムが起こりにくい、というのが本当かどうかは僕は知りませんが、径だけから言えばそうかも知れませんね。ただ、寒い地方と暖かい地方を比べると、シダや裸子植物は暖かい地方に目立ちます。おそらく別の選択圧が働いているのでしょう。


Q:今回の授業は、植物と水ということで、前回のように実験の流れを追いましたが、その中で興味深かったのは、エンボリズムと導管径との関係です。温暖帯の植物では、導管径を大きくすることで、夏季の生産性を上げていますが、冬季のエンボリズムによる水ストレスを受けています。また、冷温帯の植物では、導管径が小さいため、光合成速度は低いが、冬季のエンボリズムは起こりません。ここで気になったのが、セイタカダイオウについてです。この植物は、第6回の講義で時間の関係上聞くことができなかったのですが、以前、東京大学のオープンキャンパスに行かせて頂いた時、拝見し、不思議な植物だと思っており、今回の導管径について、この植物では、やはり、導管径は小さいということになるのでしょうか?自分としては、導管径は大きいままで、生産性を上げ、エンボリズムに対しては、セイタカダイオウの特異な構造による、内部温度の影響で、回避しているのでは、と考えました。また、逆に、セイタカダイオウは、導管径を小さくするという選択をせず、あの構造をとる方を選択し、進化したのでは、と思いました。

A:なるほど、温度を制御出来るのならば、心おきなく道管を太くできるはずですね。面白い考え方です。僕は考えても見ませんでした。ただ、セイタカダイオウの場合は木ではないので、凍結する冬場には地上部を無くしてしまう、という方法で対処出来ます。


Q:寒い地方の植物に針葉樹が多いのはなぜかということを考えてみたいと思います。植物は葉が濡れることにより光合成に阻害を受けます。ということは、もちろん植物の葉は濡れないほうがいいということです。まず、晴れの場合の熱帯と寒帯を比べてみます。植物も動物と同じように呼吸をしています。熱帯などの温かい地方では、外気が暖かので呼吸によって葉の気孔から出された水蒸気はそのまま蒸発していきます。ですから、葉の表面積が広くても問題は無いと思われます。むしろ、昼間にたくさんの光を吸収して光合成を行えたほうがいいのですから、広葉樹になると思います。しかし、寒帯などの寒い地方では、外気の温度がとても低いため、呼吸によって発生した水は放出され外気によって冷やされ、液体になり葉の表面についてしまいます。それでは雨ストレスで阻害が起きてしまいます。そのため、葉の表面を減らすことで水がつかないようにしいるのではないかと思います。また、針葉樹の葉のような形のほうが、水がついても水滴を落としやすいのではないでしょうか。大きな葉を維持するにはエネルギーが必要ですから、植物にとって葉の表面積が減って光合成量が減ってしまうことよりも、水ストレスによって阻害されることのほうが悪い事のではないかと思います。また、雨が降ったときでも、熱帯などの暖かい地域ならば、外気によって葉についた水分を蒸発させることができます。だから、暖かい地方では広葉樹が多く、寒い地方では針葉樹が多いのではないでしょうか。

A:「呼吸」ではなく「蒸散」ですね。植物の場合は、呼吸で出来た水が水蒸気になるわけではありません。特に昼間などは、光合成が行なわれていて、実質的に呼吸は観察出来ないわけですから。そのあとの考え方はユニークでいいですね。ただ実際には、気孔から出たとたん凍り付くような温度では、細胞間隙の段階で凍ってしまいますけど・・・


Q:今回の講義では、改めて生物に備わるものが合理的に出来ているのだなと再認識した。エンボリズムなど知ることが出来ておもしろかった。実験は前回の講義の実験よりはわかったと思う。今回の実験をみても、やはり長い月日を生き残ってきたものの生き方は一番合理的なのだなと感じた。
 一つ疑問に感じた(単に今までの認識が誤っていただけかもしれないが)ことがある。それは気孔の開閉には葉緑体から供給されているエネルギーが関係しているということだ。気孔の開閉は、気孔に面する側の孔辺細胞の細胞壁が厚く、吸水して膨圧が高まると気孔と反対側の薄い部分が伸びて細胞が変形して気孔は開き、逆に水を失うと膨圧が小さくなって気孔は閉じると認識していた。ここでの出し入れする水は雨や湿気だと思っていた。だから漠然と天気が悪かったり土中に水分が多ければ気孔は開くもんなのかなと思っていた。しかし講義では孔辺細胞は葉緑体を持ち(蛍光顕微鏡写真)、青色光受容体がプロトンポンプを操作しているとのことだった。一般的に光があれば気孔は開き、なければ閉じる。やはり葉緑体が関係しているようだ。自分の認識していた考えを否定する実験には、葉緑体をこわすか、プロトンポンプを阻害する物質を導入するなどして水分を豊富に与えて気孔の開閉を観察してみればいいのではないかと思った。

A:プロトンポンプの阻害実験などは実際に行なわれているようですね。


Q:今回の授業では、水分子の凝集力を利用し、水を上まで持ち上げるという話が印象に残りました。冬季に起きるエンボリズムは導管の太さ他にその植物の背の高さにも依存するのではないかと考えます。エンボリズムの起こりうる場所が広がれば広がるほど、そのどこかでエンボリズムが起こる確率は上がると考えるからです。すると、冷温帯の種には必然的に身長制限がかかってくるのではないかと思います。
 また、「植物に音楽を聞かせると育ちが早くなる」、という話を聞いた事があります。植物に音を感じ取る器官は無いのに何故なのだろうと疑問に思っていました。しかし、導管で水を上へ運ぶ事を考えるとこれは音ではなく振動そのものに原因があるのではないかと思えました。例えば、ペットボトルや牛乳瓶を水で満たし、逆さにして水を吐き出させると、逆さにして静止させるよりも容器を揺すったほうが水は早く出て行きます。植物に音楽を聞かせるという事はこの現象を上下逆に起こしているのではないかと考えます。つまり、例の重力に当たる力が水が植物内を登る力、容器を揺する事が音楽を聞かせて導管を振動させる事と考えると、音によって導管を振動させて導管内の通導性が上がり、光合成による生産性を高める事で、育ちが良くなるのではないかと考えました。

A:どちらも新説ですね。このように自由な発想でいろいろ考えてみることは非常に大切です。これが出来るようになったら、今度は、それを証明するための実験系を考えてみましょう。