植物生理学 第7回講義

植物の低温感受性

第七回は、低温に弱い亜熱帯原産の植物が低温にさらされた時にどのように阻害を受けるのかについて、実際に研究を始める所から、その研究を発展させていく様子を含めて解説しました。


Q:低温処理によって阻害された系Iの反応は非可逆反応であり、活性がなくなった系Iの色素が光エネルギーを吸収することは危険であるために低温処理の後に分解されるということですが、もしも不活性の系Iが分解されず、そのまま光エネルギーを吸収した場合、具体的にどのような危険が生じ得るのでしょうか?異常が生じたために危険になる細胞というと、まず思い浮かぶというのは癌細胞ですが、ここで示唆されている危険とは細胞の機能に関することなので、活性がなくなった系Iが癌細胞のように組織内で異常な振る舞いをする、というような種類の危険ではないようです。ならばこの場合、不活性の系Iが光エネルギーを吸収することによって引き起こされる異常な反応によって、何かしら個体に有害な物質を生成し得る、ということでしょうか?

A:植物は、光のエネルギーを吸収して光合成に使っているわけです。そこで、光の吸収はそのままで、光合成だけが阻害された場合には、吸収されたエネルギーは余ってしまいます。余ったエネルギーが熱になればさほど害にはならないのですが、活性酸素を作るような反応にエネルギーが使われれば、まさに「有害案物質を生成し得る」ということになります。


Q:今回の講義では低音感受性について学んだが、植物は移動能力が無い分動物よりも柔軟に対応していると思った。外的環境を変えることができない分その場で生き抜くための工夫であるはずだ。植物の生き抜く環境が半端なく過酷な物であるのにここまで色々な機構があるというのはすばらしいと思う。ただ疑問なのがSP1とSP2でどうしてここまで光における防御機能や反応が違うのか。閾温度の有無がまず違っているし、光阻害に対する耐久性が違うのが不思議である。また電子伝達反応の律速段階を表すグラフで、全体をあらわすグラフとSP1のグラフが2時間以降においてきっちりと重ならないのは何故か。 光が植物においてとても重要な要因となっているのはこれまでの講義で学んできたが、良い作用だけではなく活性酸素を作り出してしまうというのは大変なマイナス要因である。この影響を抑える為に光に対する防御機構が備わっているのに低温になるとその防御機構が低下してしまうメカニズムが知りたい。なぜこのような事が起こるのだろうか。SP1が働きを失って、自身に悪影響が及ばないように枯らすというのはとても賢い方法だと思う。だから気温が下がりだす秋から冬にかけて葉が散るというのは納得である。

A:光化学系Iと光化学系IIでは、どうもわざと耐久性などを変えている感じです。律速段階のグラフでの微妙なずれは、生物実験における誤差を考えれば無視できます。生物の実験において、ある人がある値を独立の二つ方法で求めて5%程度ずれたとしたら、その人は非常に腕のよい実験家だと思います。あと、落葉樹で秋に葉が散るのは別の意味があります。これは、次回の講義で触れます。


Q:第7回の講義を聴いて最も関心を抱いたのは、研究に関する事柄です。まず、研究を行うにあたって、新しい結果を得ることは最低限であることに驚いた。今まで論文をいくつかは読んだことはあっても、研究に臨んでの実際のアプローチの仕方を聞くことはなかった私には、いい経験になりました。そして、本講義を参考に、私なりに、研究というものにたいする考え方を述べたいと思います。
 まず、研究を始めるにあたってもっとも骨の折れる作業は、過去の論文の調査であるように思えた。特に、ホットなテーマを扱う場合には、膨大な数の過去論文が既に存在し、現在進行形で同じテーマを扱っているチームも多数存在する。そうであればできるだけ多くの情報を集められる能力も必要で、さらには情報を処理し共同研究も視野に入れることにもなるかもしれない。過去および現在の研究に関する情報を収集し、処理することで始めて、新たな発見の余地が見出せても、次には条件の検討を行うのに再び多大なエネルギーを費やすことになる。そうして決まった研究のテーマに沿って、ようやく実験が始まることになるだろう。実験を行っていく過程においては、出てくる結果毎の吟味が必要であり、進路の大幅な変更が必要になることもあるだろう。最終的には現在までの論文と対照し発表できる形にするように動き出さなくてはならない。今まで、私は研究の本質は実験にあるのではないかと漠然と考えてきた。しかし今は、そうではないのだと考えています。研究において、実験はただの手段に過ぎず、最も重要なことは、研究前、実験中、結果が出た後、それぞれの段階での、冷静で幅の広い情報収集と知識の蓄積、考察力であると思います。

A:おそらく有能な研究者は、情報収集や考察力にたけているのは当然だと思いますが、一番大きいのは、思いがけないデータが出た時にそれをきちんと解釈する能力ではないかと思います。人間レールに乗って順調に走っている時は、能力の差が出にくいものです。


Q:植物にとって凍結ストレスと低温ストレスの2種類のストレスがあることを知りました。植物は低温ストレスがあると、いくら光があっても活性化せずむしろ光によって機能が抑制されてしまうというところに興味がありました。特に、光合成に必要な系Iと系IIを比較した場合、系Iのほうが温度や光の影響を強く受けているという所が気になりました。このように系Iは影響を受けて阻害されやすいために電子伝達反応を律速してしまっているのだと思いました。また、5回目の講義から考えて、植物はそのおかれている状況に応じて必要としている光の量を決めているのだと改めて思いました。今までは、気温が低くても光に当てておけば植物は育っていくのだと思い込んでいましたが、それは間違いであって、化学反応に関与する温度と物理的反応に関与する光量のアンバランスによって植物にストレスを与えていたとは思いもよりませんでした。

A:同じ光の強さでも、普通の温度の時は快適で、低温の時はストレスになる、ということが難しい所ですね。まあ、人間でも、頭痛がしている時は、聞き慣れた音楽でもいやになる場合があるのと同じかも知れません。


Q:まず、低温障害で植物の葉が黄色くなってしまうことは、植物が自分を守るために積極的にやっていること、というのに驚きました。しかも感覚的には、寒さによって細胞が死んで枯れてしまった、という感じなのに、本当はそうではなく、光によって光化学系の阻害が起きてしまったから、ということを教わって意外でした。
 光化学系Iを光から守る働きが低温では失活してしまうというのは、その働きをしている植物内の酵素の働きが温度の低下によって抑えられてしまうからなのでしょうか?もしそうであったら、例えば、低温に耐性のある品種を作り出したいとき、遺伝子組み換えによってこの酵素が低温でも働けるようにしてやれば(低温条件で生存している生物から低温耐性の遺伝子を持ってきてこの酵素にうまく組めこめる操作をする)、この酵素は低温耐性を持つようになり、また、光化学系Iを保護できるようになって、光阻害耐性を持つことができるようになるのでは…と思いました。
 (葉の部分を食べたり、葉を鑑賞の対象にしている植物の場合、光阻害の影響によって色が黄色になってしまうのは商品価値が下がってしまうと思います。なので、こういう植物に低温耐性の酵素を入れたらいいのではないかと思います。)

A:実は、低温でも枯れない植物を作っても、あまり売れないかも知れません。なぜかというと、低温では、いずれにせよ生育速度が遅くなるので、枯れなくても栽培の効率は大きく低下してしまいます。ただ、秋口に大きく温度が変化して、一時的に低温にさらされたために、その後温度が上がっても収穫できなくなってしまう、というような場合には、枯れないということが利点になると思います。


Q:今回の講義では改めて研究というものの大変さを知った。あるテーマを見つけるまでにも時間を要するし、そのテーマが決まり、研究を進めていくにあたっても、あらゆる角度から実験をしなければならないし、誰もが認める結果を得なければならない。講義で題材になった「植物の低温感受性」に関しても、光化学系IとIIを比較したり、閾温度に目をつけるまでは考察できるが、そこから先の実験は聞いてなるほどと思うものばかりであった。反応が電子の授受によって進んでいることは知っていたが、そこから電子スピンを見たり、タンパク質の変化まで目をもけるとは思わなかった。植物系の研究を進めるにしても、生物学の基礎はもちろん、化学や物理の知識も必要であると実感した。
 今回のテーマで、低温ストレスからイネは花粉形成が阻害されるということがとりあげられていたが、いわゆる「冷害」というものがそれなのであろうか。また、野菜類でも光合成の阻害から寒い年は、収穫率が低くなる恐れがある。光化学系Iは不可逆的であるが、もしこれを可逆的なものへとする技術が見出されたなら、農家も安定した収入が得られるのではないかと思った。

A:生物学は、生化学、生物物理学、生理学、遺伝学、分子生物学、生態学、というように細分化されていますが、現在は、技術的な点から言う限りにおいては、そのような区別は意味がなくなっています。自分の実験の方向、研究の興味に従って、一番有効な手段を取ると、それが生理学であったり、分子生物学であったりする、という感じでしょう。


Q:今回は低温ストレスに対して系Iの分解が起こることで、かえって阻害を最小限にとどめるとるとあった。低温耐性について実際には系Iを保護する機構が問題となるといっていたが、これは冬に旬を迎える植物を調べれば解明できるものではないのか?冬に旬を迎える野菜は他の季節に比べ、葉の色が薄いものが多い気がする。例えば白菜、大根やかぶも野菜の中でさほど濃い緑色の葉ではない。これらは葉のクロロフィル量がもともと少ないと思われる。しかし同じく今からが旬の小松菜のような濃い緑色の葉を持つものもある。この種はクロロフィル量が多くあるはずだから系Iが寒さで壊されない機構を持つはずだ。同じ(低温という)条件の環境を好んで育つのに、一方は見た目始めから阻害を受けたような状態で、もう一方は本来ならストレスを受けてそれなりの対処を行わなくてはいけないのに、保護機構により見た目を変えずに済ませている。前者は系Iの保護機構があまり必要ではなく、その発現も弱いと思う。そして逆に後者は強いと考えられる。よってこれらを比較することで、共通したつくりなのに発現に差があるものを見つければ、それが保護機構に関わる可能性もあるのではないだろうか?

A:いろいろな植物の共通点から、その本質を考える、というのは非常にすばらしい考え方ですね。ただ、生物の世界では、1つの結果を得るために植物によって別々の戦略を取っている場合があることが難点になるかも知れません。


Q:今回の講義では、植物の低温阻害を題材に実際の研究の進行と思考の進め方について示していただきました。講義でも出てきましたが、研究で大変なことは、その成果を他の研究者に示したときに、納得され、ほかの仮説に対する説明をしっかりと果たせるかどうかにあると思います。疑いの余地を残した研究成果では全会の賛同は得られないと思うからです。今回は、その過程を実際に示していただき、研究の世界を感じられた気がしました。
 今回の講義で疑問として残ったのは、なぜ、光化学系Iは光に弱く、その身の保護をn-propyl gallateに頼っているのかということです。光化学系Iは光合成にかかわる 重要な機構であるから、外的要因に対して強く、保護においても自立していてもおかしくはないはずではないかと思いました。しかし、考えてみれば、生命体とは、何か重要な機構を他の機構が保護しているということは数多く見られます。私はまだまだ学生の身で、これまでの研究者の方々が解明されてきた現象そののものにまで「なぜそうなるんだろう」と幼稚な疑問を持ってしまいがちです。一方で、判明した事実にさらに疑問点を見出すことができれば、現象の解明はさらに進んで行くのではないかとも思います。今はその境界線の区別がつかない私ですが、いつか自分が研究者になったら、そういった疑問にもう一度向き合ってみたいと思います。

A:n-propyl gallateというのは、人工的な活性酸素消去剤として加えたもので、別に、植物体の中でもn-propyl gallateが働いているかどうかはわかりません。現在でも、何が保護機構として実際に働いているのかは不明のままです。


Q:今回は植物の低温感受性ということでしたが、In vivoとIn vitroでの比較がとても面白い結果だと思いました。In vivoの状態での阻害をIn vitro再現したといことですが、阻害を起こし、しかもIn vivoでは分からなかった阻害の条件が、In vitroで実験してみて初めて葉の中には系Iを光から保護するという機構があることがわかるように、明確に分かったことが表をみて分かりました。
 また、系Iの回復時間を葉面積あたりとクロロフィルあたりで比較してあるのはなるほどと思いました。両者の割合的回復速度の違いが何故生まれるのか、それは系Iの構造によるものなのかクロロフィルの配置によるものなのか、詳しく知りたいと思いました。

A:in vitro の実験というのは、いろいろな操作がしやすいので、よく用いられるのですが、確かに今回の実験では、in vivoの実験との比較から、非常の面白い結果が得られました。幸運だった、と言えるでしょうね。葉面積あたりとクロロフィルあたりの差は、単純に葉面積あたりのクロロフィル量が減少していることに由来するのです。


Q:今回の講義は正直良くわからなかったが、研究を行なうに当たっての方法が少しわかった気がする。過去に発表された論文を調べたり、in vivoとin vitroを比較したり。in vitroではさまざまな試薬を加えることができ、in vivoではわからなかったことがわかったりする。しかし、in vitroで起こった反応が必ずしもin vivoで起こるとは限らず、両方の検討が必要であることを知った。
 低温(凍結)ストレスの話があったが、凍結を防ぐには水に他の物質が含まれていればよく、つまり、植物細胞ではグルコース等が細胞水分中に大量に溶け込んでいればある程度は防げる。しかし、低温条件下ではグルコースを得ようにも光合成活性が低くこの方法では凍結を防ぎかねる。実際この方法が可能ならば、現存する植物が行なっているであろう。そこで、私が考えたのは細胞壁の熱伝導率を限りなく0に近づければ凍結しなくなるのではということだった。熱が伝わなければ温度が下がる事も無くなる。人工の物質では発泡スチロールがそれに近いかもしれない。もちろん発泡スチロールを組み込むことは無理であるし、発泡スチロールの製法を考えれば植物に作らせるのも無理である。が、その断熱効果のシステム(構造)を、細胞壁が真似出来れば低温に耐えられるのではないかと考えた。

A:植物と動物の環境応答の比較の話を最初にしましたが、細胞壁の熱伝導率を0にする、というのは、いわば動物的な発想ですね。おそらく、植物には取り入れられていない発想でしょうから、人間が操作して植物を改変する場合には、案外ヒントになるかも知れません。


Q:今回の講義では、植物の低温ストレスによる光合成阻害を例に研究の流れを学びました。膨大なデータを集めて、一個一個考察していくのは根気と分析力が必要だということが理解し、同時にこれから自分が研究する際にもこういう姿勢が必要なのだと強く感じました。低温ストレスを植物は受けるという話を聞き、ようやく何故野菜は冷蔵庫に入れないほうが持つということを理解したように思います。実家では何でも冷蔵庫に入れてしまうため、冷やせばなんでも長持ちという印象を僕は持っていたので、一人暮らしをはじめて友人に常温保存の方がいいことを教えられた時は驚きました。冷害について考えれば答えが出てきそうなものですが、子供のころからの先入観はなかなか取れませんでした。おそらく研究の分野でも先入観によるミスが生まれる恐れがあると思うので、注意して研究をしていかないと無意味なデータを取ることになってしまいそうだと思いました。

A:冷蔵庫に入れて、一番差が出るのはバナナでしょうか。食べる部分はそう悪くなりませんが、低温保存にすると皮は真っ黒になりますよね。バナナも典型的な低温感受性植物です。


Q:今回の講義では、低温ストレスによる影から次々に考えを広げていく研究の流れが興味深かったです。講義中に光化学系Iのどこが阻害されているかグラフを見て、化学反応ではあまり変化が無く、光化学反応(光を当て電子を飛ばす反応)で阻害が起きていることから電子受容体がおかしいという疑問を持ち、受容体を調べるとやはり壊れているため、受容体が原因であるという一連の導き方はさすがでした。研究者には館と観察力が必要だと思いました。それから、in vivoで光阻害に必要な条件を調べて推測しin vitroで確めることによって正確な実験結果が得られると学びましたが、植物は常に環境の影響を受けながら育つのだから、それらの条件を実験をする意味があることはすごく納得できます。化学で言う対照実験のようなものなのでしょう。ふと気になったのですが、ネットがない昔は、どうやって論文を調べたのでしょう。他の人とかぶった論文も発表されたことはなかったのでしょうか。

A:確かに昔は、「他の人とかぶった論文」もあったでしょうね。有名なのは、メンデルの実験結果が発表されて、何年もたってから、他の人によって「再発見」された例です。この時は、それらの人がきちんと昔の論文を調べ直して、メンデルの結果を見つけたので、今では、最初に見つけたのはメンデルだということになっていますが、そうでなければ、メンデルも忘れ去られていたかも知れません。