植物生理学 第6回講義
炭酸固定、光呼吸
第六回は、実際に二酸化炭素を有機物に固定する部分を解説しました。光呼吸の他に、呼吸の話もする予定だったのですが、プロジェクターのトラブルで時間を取られたため、話せませんでした。
Q:今回の講義で私が注目したのは、地球温暖化と、C4回路である。この2つに関して、全く繋がりはないように思えるが、今後地球上ではC4植物が増えていくのではないかと思う。そう考える理由としては、いくつかある。第一には、C4回路はC3回路よりも二酸化炭素の吸収能力が優れているという点である。地球温暖化が進み、二酸化炭素濃度が増せば、より多くの二酸化炭素を利用できるのに越したことはないと思う。第二には、C4植物の方がC3植物よりも高い温度で最も光合成がさかんに行われる。このような点から、植物の今後の進化の方向性はC3からC4植物へというものに進んでいくのではないかと思う。
また講義でも出てきたが、C3回路とC4回路を行き来する植物や、砂漠地帯などに生育するCAM植物がすでに存在する。今後生き残っていくためには、これらのように悪条件の下でも効率よく光合成を行える仕組みが必要となっていくだろうと思う。
A:C4が有利になる理由として温度を上げるのはよいとして、二酸化炭素の濃度は違うのでは?二酸化炭素の濃度が上がると得をするのは、むしろ二酸化炭素の濃縮機構を持たないC3の方でしょう。
Q:今回の講義ではシンクリミットというものが印象に残った。私は今まで二酸化炭素濃度に比例して光合成産物の量が増加していくものだと思っていた。だが、それは一部を除いて間違いであり、二酸化炭素濃度の増加により、糖の濃度が増加すると、これがシグナルとして働き、光合成関連遺伝子の発現を抑制しているようである。しかし、この原理に従わないものがあり、それは芋のようなシンクが大きいものである。これからの地球環境(温暖化など)のことを考える限り、この原理に従わないものの方が有用であると思われる。現状を改善するには人間のエネルギー消費を抑えるのが一番なのだが、植物生理の観点から考えると、植物のシンクを大きくするように遺伝子操作する方法がある。これの実現には糖の濃度がある程度増加しても光合成関連遺伝子の発現を抑制しないようにする遺伝子を芋など遺伝子から導入することも必要だろう。一番早いのは芋が持つかもしれないシンクを大きくさせる遺伝子の導入である。これがあれば今までの何倍も二酸化炭素を吸収できるようになるだろう。ただ、芋などの二酸化炭素などによりできた産物が地上に残ってしまい、何者かがこれを消化すると、また二酸化炭素が空気中に出てしまうので、結果的には一時的な二酸化炭素の減少となってしまうだろう。
A:いわゆるバイオマスエネルギーと言われるものには、イモのデンプンから作ったアルコールがあります。これは、どうせ二酸化炭素に戻るなら、人間が使おうという考え方ですね。
これは質問の部分だけを。
Q:「でんぷんは昼に合成されて夜に分解される」ということは、商業用の夜でも明かりで照らしている花はどうなっているのですか?根から十分養分を与えているから大丈夫なんでしょうか?
A:多くの植物は、24時間明るい所で育てても問題なく育ちます。ある意味で、昼間貯まりすぎたものがデンプンになるわけで、別に植物はデンプンの分解のエネルギーに依存しているわけではなく、光合成でできたトリオースリン酸をそのまま糖に変える経路があることは講義の中で話したとおりです。
Q:今回の講義ではCAMサイクルに興味を持った。この回路は強光、高温下つまり砂漠で生育する植物が主に持っている。CAM植物は昼に気孔を開けず、夜にのみ開きCO2を取り込む。取り込んだCO2を昼間使って光合成を行なう。ここで考えたことはCAM植物が昼と夜を感知して気孔を開閉しているのかということだった。
気孔の開閉について調べたところ、植物は浸透圧を調節して気孔の開閉をしている。また、水分が欠乏するとアブシシン酸の働きによって急速に気孔を閉じる。浸透圧は孔辺細胞の光合成によって生じる糖によって調節する。浸透圧を低くするときは水に不溶なデンプンの形で存在する。浸透圧が低くなると気孔が閉じる。
ということは、砂漠の植物は昼、光合成で生じた糖をデンプンの形で貯蔵し、浸透圧を下げて気孔を閉じる。夜になり、光合成が出来なくなると蓄えられたデンプンを可溶性の糖に変え使用する。このときに浸透圧が高まり気孔も開く。
つまり、昼夜の区別は光合成の働きにより行なっているのであろう。
A:実は、気孔の開閉にはエネルギーが必要で、そのエネルギーは光合成により供給されます。ですから、その意味でも、気孔の開閉は光合成に依存しています。気孔の開閉については次回の講義で解説します。
Q:地球上でもっとも量の多い酵素はルビスコであるが、そのいっぽう「効率が悪い」とされている。反応速度などを見れば、もっともなことなのであろうが、自分は、ただ単に効率が悪いのではなく、他にもいろいろな役割があるのではないかと考えた。生命は誕生以来激しい生存競争にさらされてきたため、少しでも不利なものを持った生物は淘汰されたはずである。まして、植物にとって不可欠な、しかも大量に必要なものであれば、真っ先にベストな酵素へと進化したはずだ。たとえば、普段は光合成が早すぎると植物にとって良くないから抑えているが、光が足りなくなってくると活性化するといったことはないだろうか。他の酵素との連携に長けているなど、ただ大きいだけではなく、ほかの事をやっているから効率が悪く見えてしまうのではないだろうか。
A:誰しもそう思うのですが、今のところあまり長所は見つかっていないようですね。
Q:ルビスコの酸素も二酸化炭素も結合させるハタラキは不思議だ。糖をできるだけ大量に合成したいから可溶性部分の半分近くを占めているのかと思いきや、効率の悪さが関わるとは。特に酸素をつける光呼吸の意義があまりみいだせてないとあったが、もしルビスコが二酸化炭素のみ結合させる酵素だったらどうなるのだろう?C4とCAM植物はある意味この状態であると思うし、これらの方が無駄なことをしてないように感じる。ただ事実世の中にはC3植物が沢山存在しているし、やはりC3植物ならではの光呼吸にはそれなりの意味が(プリントに示された以外にも)色々あるのでは?例えば外界の空気構成の調整に関わっているなど。なぜなら二酸化炭素もある程度なければ地球に熱を閉じ込めておけなくなると思ったからだ。(しかし最近では人間の活動によって二酸化炭素量の上昇が問題となっているが)
また今回の講義での内容を食料植物へ利用すれば、適切な植物に対して、一粒の糖度の高いものや大きいもの、また生産効率をあげたりできると思った。例えば粒をたくさん付けるようなブドウなどは葉で作られた糖が実へ転流されやすいようSPS活性を高めたり、余分な糖による負のフィードバックがかからないようにこれを感知する遺伝子の働きを抑制したりするなどだ。遺伝子を操作することで望み以外の影響があることも考えられるので、簡単にできる仕事ではないだろうが、様々な付加価値をつけることは十分可能であると感じた。
A:生物の代謝系というのは、たいてい負のフィードバックがかかっていて暴走しないようになっています。そこを操作しようとすると、難しい点がいろいろ出てくるのはしょうがないですね。
Q:今回の講義ではシンクリミットによって生産が制限されてしまうため、一概にもC4植物がいいというわけではないことが興味深かったです。C3植物からC4植物に進化したのは、生体内で二酸化炭素濃度を濃縮してカルビン・ベンソン回路を効率よく回すことにより生産性をあげるためですが、なぜシンクの方も制限されないように進化しなかったかが疑問に思いました。芋のようなシンクの大きい植物では例外的にシンクリミットが起こらないようですが、糖の濃度が増加すれば光合成関連遺伝子が抑制されるため、芋のシンクも限界に達すると生産が減少してしまうのでしょうか。それならば糖が無限に蓄えられるのであればいいですが、それでは一生のうちに使い切れないだろうなと思いました。食べ残しみたいでもったいない気がします。見方を変えると、一つの植物だけが糖を独占し周りの植物が育たなくなるのを防ぐためとも考えられますが、植物が周囲に気を配って進化した例はあるのでしょうか。(例えば共生のような。)いずれにしろ、進化にいつもいらないおまけが付いてくるということが興味深く思いました。
A:まず、最初に、シンクリミットとC4植物は直接結びつくわけではありませんので。
他利的な進化というのはありえないでしょう。光合成産物が充分な時に光合成関連遺伝子を抑えるのは、他にやるべきことがあるからでしょう。花を咲かせるとか。
Q:今回の講義で考えさせられた内容は、まず明反応と暗反応の役割分担でカルビン回路の光制御の部分です。暗反応とはいえ、暗いところでははたらかない酵素が反応経路にはあり、つまり暗所ではカルビン回路の反応が進まないというのを知りました。ですが、その光が必要な酵素(反応)というのは、反応が進むために光エネルギーをもとにしたエネルギーが必要ということなんですか?つまり、カルビン回路の光を必要としない反応というのは、エネルギーを必要とせずに進む反応なんでしょうか?そのあたりをもう少し詳しく知りたいと思いました。
それから、光が多量にある条件ではC4植物の方がC3植物よりも有利である、ということを聞き、これはイネのC4化だけでなく、他のあらゆる植物(食用となる植物)にも応用していけることだと思うので、人の手による組み換え技術も、C4化を行い、また、そのC4化した植物に適した環境も作っていければいいと思いました。
A:それが、最初の方に述べた重要なポイントで、カルビン回路のエネルギーはATPの形で光化学系から供給されるわけです。
Q:イネのC4植物化によって光合成の能力が上がることを、農業に利用しという研究がなされているのを今回の講義で知った。もしこの研究が成功して、生産力の高い組み換えイネが完成したとしても、今の日本では受け入れられないだろう。この、組み換え食品を排斥する日本の動きは、なんとかしなければならないと思う。ただでさえ欧米に負けている遺伝子産業なのに、さらに差が開いてしまう。これからは遺伝子の時代、とまでは言わないが、少なくとも今後の科学の大きなウェイトを占めていると思うので、ここは政府の期間や研究者が組み換え製品の安全性について広く世間に伝えていかなければならないと思う。そのためにまず、世間に認知してもらうために農業の政府組織のひとつとして、組み換え植物を推進する組織を作ってはどうか。TVCMとかで安全性を訴えたり、安全であるという保障のしるしを作ったりする機関を作る。急にではないが、おそらく世間の組み換え食品を危険視する思想は減るのではないだろうか。
A:僕自身は、遺伝子組換え生物が危険であるとは思いませんが、実際に導入された時に生物多様性を脅かす、という議論に対して有効に反論することは難しいように思います。ただ、多様性を持ち出すなら、野原を切り開いて単一の作物を植える、という農業自体が生物多様性を無視した行為ですから、人間の存在自体が問題である、という議論になりかねませんが。
Q:今回の講義では、ルビスコと枯草菌のRLPとの関連性について興味を持った。枯草菌のRLPは、その触媒活性部位の19アミノ酸中11アミノ酸がルビスコと共通であることを学んだ。しかし、これは8アミノ酸も違っているという見方もできる。これらのタンパクの触媒部位を除いた大まかな構造はほぼ似ているので、この部分でのアミノ酸配列の大きな違いが二者の触媒機構を決定しているのだと考えられる。
しかし、ここで1つの疑問が残った。それは、RLPを破壊した枯草菌は生育できなくなるが、そこにルビスコの遺伝子を導入してやると、生育能力が復活するという点である。前述した私の仮説がもし正しいのだとすると、これは異例となる。そこで、それを解決する新しい考え方のひとつとして、次のように考察した。ルビスコと枯草菌RLPの触媒部位は、実は反応のきっかけを作るもので、そのリガンドは異なっても、双方は同じように生態に必要なあるシグナルを発する鍵となる。一方、2者のほぼ共通の構造の部分では、その触媒部位でのリガンドの結合をうけて、シグナルを伝達する。ルビスコと枯草菌RLPの実際の働きが生物間で違うのは、これらのタンパクのシグナルを「うけて」、「はたらく」機構が生物種間で違っているからだと考えられる。
A:面白い考え方です。講義の中では詳しく説明しませんでしたが、基質と反応のタイプが、二つの反応の間でよく似ているということはあります。そもそも二酸化炭素と酸素の両方を基質とする所からも含めて、いろいろ考えさせられる酵素です。
Q:シンクとソースについて。植物のシンクとソースのような機構は、動物にもある。グルコースをグリコーゲンとして筋肉にとどめておき生体エネルギーが減ると貯蔵していたものが使われる。ただ成長することで役目を変えなければいけない点で植物の機構は劣っているかもしれない。針葉植物のように葉が枯れないのであればソース専門の葉、シーク専門の葉と別れていたら光合成も効率的なのかもしれない。
シンクリミットを含めたCO2増加の議論について。確かに定量的には人間の活動により二酸化炭素の濃度は一気に上がっていて、それはそれまでの濃度増加率とは比にならない。しかし生物は外界の環境にたいして自然沙汰による適応性をもつ。最近では鳥インフルエンザのそれが知られるところだ。CO2が増加することが生物の適応のファクターになることは確かで、この主張は楽観的かもしれないが個人的には逆転の発想であるところが目から鱗で面白い。
過去に生物にとってO2が有毒であった。しかしO2を無毒化する機構をもつペルオキシソームや、呼吸によって代謝するミトコンドリアの獲得によって生物は適応していった。非常に長い時間があれば、同じように微生物が適応していくだろう。
A:おそらく、地球温暖化がどんどん進んでも、微生物は生き残るでしょう。ただ、人間は無理のような気がします・・・